表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/330

骸骨は入国する


「ハぁ、はぁ、グっ」


ワイトは辛そうに肩で息をしていた。

肺もないのに呼吸してるのもおかしい話だが、その様子はとても辛そうに見える


「大丈夫、ですか?」


ハルカはワイトを気にかけ、声をかける。

ワイトはそれに手を振ることで応え、歩き続ける。途中で立ち止まり、口を開いた


「はぁ、ハァ。ハルカ、私は、ココまでのよウだ。ココから先へは、ハルカ1人で、行っテくれ」


「はい。ここまでありがとうございます。ワイトさん」


「あ、あァ。私ハ少し戻っタ所で休むとすルヨ。ここから先、アンデッドのモンスターはいナイかもしれなイが、注意はしてオイてくれ」


「はい。わかりました」


「それでハ、また」


「はい。行ってきます」


ハルカはワイトへ背を向け、森の中を進んでいく。

ハルカには、ムルトとワイトの苦しみがわからなかったが、理由はなんとなくわかっていた。聖天魔法を使えるハルカは、ここがどういうところなのかを理解していた


(恐ろしいほどまでの聖結界……命のない者には厳しいところなのでしょう……)


ハルカは蓮華に手をかけながら森の中を歩き続ける。ワイトの言っていたように、アンデッドは見かけなかった。逆に、屍人の森では全く見かけなかった鳥やリスといった小動物を見た


「ここにはモンスターがいないから」


この辺りにはアンデッドモンスターが生息しておらず、空気も澄んでる。空を飛んできた小鳥や、元々この森に住んでいたリス達が育っていたのだ


ワイトと別れたところより少し歩くと、それはあった


「わぁ……」


そこは、一面の花畑だった。

外を木々が囲んでいる中に、1つの大きな大輪が咲いている。

外側から、赤、青、中心はそれらが入り混じって紫色に見える。それらは全て全て花で、それを遠目から見ると、大きな大きな一輪の花に見えるのだ。


「すごい……」


ハルカは外側の赤い花に近づき、匂いを嗅ぐ

香しい匂いが鼻の奥を突っついた。

甘く、美味しそうな匂いだ。

青い花は安らぐような、落ち着いた匂い

ハルカは花畑の中を進み、中心部まで近づいた。中心の紫に見えた小さな花畑は、甘みと安らぐ匂いが混ざって、ここで眠りたくなるほどの匂いだった


「ムルト様と、来たかったな」


そんなことを考えつつ、大輪の中心にあるものを見つけた。

暮石のような岩が1つ。

それは真っ白だった


「お墓……?」


ハルカはその墓に書いてある文字を読む。


「これは……!」


ハルカは驚愕した。真っ白な暮石に彫られている字は、ハルカの見慣れた字だったからだ。きっと、ハルカ以外にも読める者はいるだろう。だが、それは限られた人間、それも、勇者と呼ばれる異世界人だけだろう。

なぜなら、そこに書かれていたのは


「なんで日本語で……」





「ワイトさん!」


ハルカは急いで来た道を戻っていた。

走っている中、見慣れた紫色のローブを被っている大男が見えた


「ハルカか、随分と早イな」


「は、はい。この感動をムルト様に伝えたくて」


「ソウか、では、イクとしよう」


ハルカとワイトも、来た道を戻り始めた。

ワイトの息遣いは段々と元のものへと戻っていき、苦しそうな様子はなくなった。

ワイトがハルカを待っていた場所は、まだ彼には辛い場所だった。

だが、Sランクモンスターの彼が立ち入れた場所だ。必ずしもそうではないが、もしも他のSランクモンスターがいれば、ハルカが遭遇してしまうかもしれない。

そのことを考え、ワイトは少しだけ戻ったところでハルカを待っていた


「この辺リだろウか」


ワイトが言った。ワイトにとっては平然と行動のできる場所だが、ムルトには少しだけ違和感のある場所だろう。待つのならばこの辺りだと、ワイトは当たりをつけていた


「もう少し先でしょうか」


「あァ、かもしレナい」


辺りを見回したが、ムルトの姿は見えない。もっと先へ戻ったのかと思い、2人は歩きだす。すると、草の陰から一体のスケルトンが姿を現わす。

そのスケルトンの手には、短剣があった


「その短剣は、ムルト様の……」


ハルカには見覚えがあった。ムルトが人狼族の里でもらったと話してくれた短剣だ。それを、今、目の前のスケルトンが持っているのだ。


そのスケルトンは、敵意を見せず、その短剣をハルカに手渡し、指をさす


「あっチは、聖国のホうだ」


「このスケルトンは、ムルト様が召喚したもの……?」


スケルトンは顎をカタカタと揺らし、消えてしまった


「ムルトが、ハルカを頼ム、とメッセージを持たセテいたようだ」


「ムルト様は今どこに?」


「恐らク聖国に向かッテイるのだろウ。なぜ聖国に向カッテいるノかはワカラないが」


「どうすれば……」


「ー不死創造(アンデッドクリエイト)ー」


ワイトは、ドロドロに溶けた鳥を召喚した


「アンデッドバードだ。こいツに聖国の様子オ見てもらオウ」


ワイトがアンデッドバードの頭をコツコツと撫でると、低く濁った声で一鳴きし、空へと飛び立っていった


「ひとマズ、ココを離れよウ」


ワイトはハルカを連れ、自分が根城にしている洞窟へと案内した


ハルカは空を見上げ、ムルトの無事を祈ることしかできなかった




「はっはっ、もう少しです!!」


ムルトは謎の修道女に手を引かれ、森の中を走っていた。後ろからは何人かの走る音が聞こえる。先ほどムルトが殺した者たちの仲間だろう。

その音がすぐ後ろに聞こえる頃、森の切れ目が見えた。


「んっ、はぁはぁ、ここからは、歩きます」


森を抜けると、真っ白な城門のようなものが姿を現した。

白に金の装飾が施された、見事な門だった


「あれは?」


「聖国、ノースブランです。ご存知ありませんか?」


ムルトは知っていたが、確認をした。人族至上主義の国、絶対に立ち寄らないと思っていた国だ


ムルトと修道女は、城門に真っ直ぐに歩いている。その後ろには、顔の見えないほどに真っ黒なローブを着込んだ男と思われる者が3人、歩いてムルト達の後ろを歩いている


「聖国が目の前なので……人間を殺すのは聖国では禁止されているんです。抜け道はいくらでもあるのですが……」


「お前は何者だ?」


「私は、月の神殿の巫女です。あなたもそのペンダント、月の神殿の方なのでは?」


その修道女は、胸元から月のペンダントをチラリと見せ、胸の中へとしまった


「いや、私は」


そう言いかけたムルトだったが、すでに城門の目の前だった。門兵が寄ってきて、話をする


「名前と信仰している宗教を」


「む?」


「ササと言います。月の神殿に所属している巫女です」


ササと名乗った修道女は、月のペンダントを門兵に見せた。

ムルトもそれにならい、首にかけている月のペンダントを見せる


「ムルト、という。アルテミス様を信仰している」


「お二人とも月の神殿ですね……なぜあなたは血まみれなのですか?」


門兵はムルトが身に纏っているローブを見てそう言った。先ほど殺した男達の血が、ムルトのローブにこびりついていたのだ


「こ、これは」


「はい。私たちは魔獣の園から屍人の森を渡って帰ってきましたので」


「ふむ。月の神殿はモンスターを殺さないと聞いていたが……ご苦労だったな。通っていいぞ」


ムルトとササは門兵の脇を通って中へと入っていく


「ここは、入市税などはないのか?」


「はい。ありませんよ。皆様方、自分の所属している宗教のために尽力していらっしゃるので」


名前の確認と月のペンダントを見せるだけですんなりと街の中へ入れてしまうのは、防犯上どうなのだろう、とムルトは考えていた


「それに、国の城門には」


ササがそう言いかけた瞬間、警報のようなものが響き渡った。

ビービーとうるさいその警報を聞きつけ、小屋の中で待機していたと思われる兵士達に囲まれてしまう


「モンスターが侵入した!恐らくこの男女だ!」


ササが言いかけた言葉とは、「それに、国の城門にはモンスターと魔族を感知する魔法がかけられていますから」だった。

ムルトが一歩門の中に足を踏み入れた瞬間、その魔法が作動した


(まずい)


自分を取り囲む兵士達と、横に並ぶ女性を見て、ムルトは思った

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ