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ただ降り注ぐは災厄の核

かどさんから頂いたお題「戦記物」で書きました。

ただ一つ言わせてください、



…………戦記物にならなかった“〇| ̄|_



それでもいいって方は読んで見てくださいm(_ _)m






 ブルーメン大陸では、人類種と獣人種の2種族のみが知を有していた。其のせいもあってか両者は互いを忌み嫌い、己の土地の拡大、そして異種族という家畜奴隷を得るべくして、数十年にも渡って戦争を繰り広げてきた。異常なまでに卓越した肉体能力を持つ獣人種に対して、人類種は圧倒的に不利なように思われていた、しかしそうはならなかった。人類種はそれを打破すべしと様々な軍事兵器を開発、これによって屈強な肉体も役に立たないような状況を生み出したのだ。

 そして現在、麗華暦67年。人類種は大量虐殺兵器に加え新たに『魔法』という技術も編み出し、これによって人類種が領地を広げつつあった。元々国が一つしかなかった人類種は得た土地を使い、新たな国を建国し、さらにまた領土を広げる。この結果、計6つもの国が誕生し、人類種の領土拡大はますます拍車がかかる事となった。

 そんな中で唯一、衰退する国が現れた。名は「オルマンド帝国」。最も古い帝国ある。

他の地に国が建国すれば元の国がどうなるかなど、想像に容易いだろう。新しい土地を求め国民の殆どが国外に出てしまい、国として維持するために皇帝は国土の何割かを切り捨てた。そんな逆境の中、前皇帝が急病で逝去、引き継げる身内がいなかったため早急にして新たな皇帝を立てる必要があったのだが、ここでとある者が名乗りを上げた。彼の者の名はエリウス・グリンド。



 今からここに記すのは後に『悪魔卿』として語られる彼の初戦闘の記録、そしてたった数時間で全獣人種の3~4割を消滅させた(・・・・・)歴史上で最も残酷な戦争の記録である。























─────────────────────


















コンコンッと、ドアをノックする音が室内に響く。

…………が、返事は無い。




「失礼します」



しかし、それを無視して一つの影が入室する。




「…………部屋に居る者の了承も得ずに入るとは、随分なご挨拶だな」




部屋の中ほどから低く唸るような声で、さも入室者に非があるかのような口ぶりで、エリウスは嘆いた。




「だったら返事してくれたらどうなんですか、陛下?」




それに対する返答は、明らかな嫌味(・・)だった。

皇帝である彼にそんな口を利くなど、誰がどう考えても万死に値する行為だが、彼女はそれを意に介さない様子でエリウスに近寄っていく。

歩く毎に揺れる白黒のフレアスカートから視線を上げて全体像を見る、と視界に入ってくるのは黒を基調としたエプロンドレスであるため、なるほど彼女はメイドなのだろうとここで分かる。




「…………………お前だけはそう呼ばないでくれって何度も言ってるだろ、ルネ」


「まだ仕事中ですよ、陛下。

ですから私の事も『ルーナ』とお呼びください」




机上に散りばめられた書類を片手で器用に整理し、空いた空間にもう一方の手で持っていたトレンチからカップを置く。慣れた手つきでそこに紅茶が注がれるのを眺めながら、エリウスは溜息を零す。




「…………ここは俺専用の書斎だぞ?

所有者の俺がいいと言っているのだ、これならさすがのお前でも文句も言えまい」


「…………仕方ありません、ね。

分かりましたよ、エリウス(・・・・)。これでいいですか?」



名前を呼び捨てられたエリウスは、満足げに頷きカップに手を伸ばす。


エリウスとルーナ・カラモンは彼が皇帝になる前からの知り合いだった。

元々寂れたこの帝国のスラム街出身の2人は家族同然の様に過ごしてきたため、皇帝に選ばれた時、エリウスは何よりも先に彼女に『秘書兼メイド長』という役職を与え、彼女に裕福な生活を約束した。

これを受けたルーナは喜んでエリウスの付き人となりそして現在に至る訳であり、故に先程までの発言は彼にとって別段叱責すべき事ではないのだ。




「ったく、お前は昔っから頭の固い奴だ。

最初から素直にいう事を聞いていればいいものを……………」


「だったら先に私の言う事も聞いてくれたらどうですか?

人の話を無視して自分の話ばかりするなど、独裁者の極みですよ?」


「そうやってすぐに俺の上げ足を取る。

そういう自分だって────」


「はいはい、もうお終いっと」


「なっ!?」




無理矢理話を断ち切り、空になったカップに紅茶を注ぐルーナ。

少しの間沈黙が続いたが、いつの間にかどちらからともなく上げ始めた笑い声が室内を満たしていた。



だがそんな優しい時間も、そう長くは続かなかった。




──────────ドンッ!!!!!



「…………始まったか」


「みたいですね」


「………………」


「どうしました?」




外の音が激しくなる一方で、エリウスの顔がどんどん渋くなっていくのがルーナの目に映った。

ルーナは知っていた、こういう表情をする時の彼は必ず自虐に走ってしまう事を。




「いや、な。

……………これが初めての戦争、か」


「そうですね、エリウスが皇帝になって初めての戦争ですね」


「スラムの時にあれだけ憎んでいたものを、今度はする側に回るとは、とんだ皮肉だと思わないか?」


「……………そうですね」




戦争で両親を失いスラム暮らしになった二人にとって、やはり戦争というものはどうしても許しがたい事だった。唯一幸運だったのは同じ境遇の者が多かったため、スラム自体はそこまで居心地の悪い場所では無かったぐらいだろう。




「………いや、スラムの時とあまり変わっては無いか」


「え?」


「閉塞した環境で暮らす事とか、行動が制限されている事とか」


「……………………」


「それに、お前がいる事とか、な」


「…………ふっ」


「わ、笑ったな!?

何でこんな恥ずかしいことを言ってしまったんだ…………」




口元を抑え笑いを必死に堪えているルーナに、エリウスは頭に手を当て唸ってしまう。




「まぁ、エリウスのそういう所嫌いじゃないですけどね」


「そうやってまた俺をからかうんだろ…………」




大きなため息を吐くと、徐に席を立つ。

それが不思議だったようで、ルーナの表情から笑顔が消え去ってしまう。




「どちらへ?」


「……………なぁルネ」




扉を開けようとする手を止め、エリウスは未だに戸惑いを隠せていないルーナに視線を移し────





「俺は今から、史上最悪の男になってくる」






それだけを言い残し、出て行ってしまう。

部屋にただ一人残された彼女は、発言の真意が分からずその扉を見つめる事しか出来なかった。
























──────────────────────










「報告申し上げます!!

たった今、第一防衛ライン突破されました!!」


「どこの防衛ラインだ?」


「北西門です!!」


「そこなら大丈夫だ、バルモンドが指揮しているからな。

他に報告は?」




 オルマンド帝国は城塞都市である。

建物5~6階に相当する分厚い外壁に囲われ、その外壁周辺には砲台、投擲台、発射装置等の防衛設備が所狭しと備え付けられている。いくら最古の国だといえども、軍事に関して言えばそれなりの力は有していた。




「はっ。北西門以外の門では未だ第一防衛ラインで交戦中、各自防衛施設を使い被害を最小限に留めています」


「分かった、報告御苦労。

持ち場に戻っていいぞ」


「はっ」




 その太い声の主に返事をした鎧姿の青年は、駆け足でもと来た道を駆けて行った。

それと入れ替わる様にして新たな声が彼の耳に響く。




「……………忙しそうだな、ガンド」


「へ、陛下!?」





 あまりにも唐突で、かつ予想外の人物の登場にガンドと呼ばれた男はつい後ずさりしてしまう。

しかし次には己の行動が無礼な態度だとすぐに思い、腰を下ろし片膝を付け、付けた膝と同じ側の拳を地面に立て、頭を垂れていた。


 実際、彼が驚くのも無理はない。

エリウスは基本的に書斎に籠って書類整理等の雑務をこなし、それが終わっても部屋から出ようとしない為、ルーナを除く従者とは殆ど顔を合わせないし会話もしない。そのせいでルーナが居ないと他の者との会話があまり円滑に進まないのだが、自業自得とはまさにこの事だろう。

それでも真面目なエリウスは努力の甲斐あって、従者全員の名前と顔の把握は出来ていたのだ。





「良い、頭を上げろ。

それより、だ。戦況は?」


「はっ」




 素早く顔をエリウスに向け、ガンドは先程得た情報をありのまま伝える。

と言ってもまだ戦争が始まってから大して時間は経過していないため、全てを話し終えるのはあっという間だった。




「…………そうか、そんなに変わっていないか」


「はい、このまま長期戦に持ち込んで、いつもの様に勝利を収めようか─────」




全てを言い切る前に、手がそれを制止した。




「それでは駄目だ、今回は短期決戦でなければならない」


「…………理由を、お聞かせ願っても宜しいですか?」




 そう尋ねる男の目は、無意識の内に細められていた。

だがエリウスにとってその視線は余りにも不可解であったのだ。


 今までの皇帝、更に言ってしまえば他国の皇帝・国王でさえも、初戦は防衛で長期戦に持ち込み、相手の戦力切れを狙うのが定石だった。

これは各国間では最早暗黙の了解だとされていたが、そんな事はスラム育ちの彼には知る由もない。

お互いがお互いの『定石』を主張し合っただけ、それがエリウスには引っかかった。




「…………お前を信頼して話してやるが、この話は他の者にするなよ?」


「承知致しました」


「俺が他の貴族達に何て呼ばれているか知ってるか?

『玉の輿皇帝』だとか『下賤皇帝』だぞ?」


「………………」


「そんな俺が定石通りに事を進めてみろ。

『ほらやっぱり玉の輿皇帝だ』と言われかねないだろ」


「で、ですが…………」


「だから、俺は定石通りにはやらない。

そのために、お前達にアレ(・・)の準備を頼んだのだからな」


「アレ、ですか……………」ドン!!!!!




 話の途中で外の爆音がさらに酷くなり、2人は同時に外に目を向けてしまう。

外では小雨が降りしきっているが、一切お構いなく逆上している黒煙の存在がより一層際立ってしまっていた。2人がいるのが外壁の上という事もあって、雨量ははっきりと見て取れていた。



誰が見ても分かるだろう、戦争は激化していた。

どちらの兵のものかは分からないが、聞こえて来る悲痛な声、そして嫌に鼻につく火薬の臭い…………





「…………いい加減慣れたと思ってたんだがな」


「陛下?」


「いや……………何でもない。

ガンド、前線に出ている兵を全て退却させ門を閉め、すぐに『恵み』を発動するように指示しろ」


「………………宜しいのですね?」


「ああ、これでいい。元よりこうするために用意したんだ」


「……………承知いたしました」





ガンドは立ち上がり、早歩きでその場を去っていく。

その姿が見えなくなるのと同時にエリウスは深いため息を一つ落としてしまう。





「なぁガンド。

俺は重臣の中ではお前は信頼してる、だからこんな話をしたんだ。

……………この国は腐ってる」


「昔ながらの圧政、貧民に対する無保護、ギリギリ生活できるレベルでの搾取、閉国状態による物資不足、それによる国民の減少……………

こんな状況で戦争なんてしてみろ、どうやっても自国は損しかしないだろ」


「だから、だからこそ、俺が皇帝でいる間は絶対にそんな事にはさせない。

誰に疑われても、孤独になってしまうかもしれなくても、悪魔だ、狂人だと罵られてしまっても、それでも……………」























────────────────────────








オルマンド帝国南西門では、2種族による激戦が繰り広げられていた。




ウオォォォォォ────!!!!!

ススメ─────!!!!!




様々な声が戦場を飛ぶ。

ただ、勿論の事ながら飛んでいたのはそれだけではない。

弓矢や投擲槍、術師による魔法、兵士の手に持っていた剣、その腕、誰のものか分からない血飛沫、更には頭さえ。

例外的に術士が敵兵の意識も飛ばしていたが、これは防護魔法をかけるという対策をすぐに打たれてしまっていた。




両者一進一退の攻防が続き、門前で硬直状態。

この状況に敵国・バルクザーク王国の将軍アラモスは困窮していた。

─────帝国の動きが余りにも緩慢過ぎる、と。



(前将軍や書物によれば、帝国は序盤から大火力を用いてこちらの戦力を削りに来るとか。

皇帝は何を考えている?若しくは、単なる我儘なガキを皇帝に据えたのか?

……………いや、侮るのは良くない事だ、最大限に警戒し、確実に門を破壊する事に専念するべきだろう)




「アラモス将軍、ご報告があります」


「どうした」




 物思いに耽っていた所で通達部隊の者の1人が傍に寄ってくる。

その戦時中に似合わない嬉々とした雰囲気からすぐに朗報だと分かってしまう。が、それほど嬉しい事なら仕方がないとアラモスは割り切り、その旨を尋ねる。




「はっ。北西門の第一防衛ラインを無事突破出来たようです。

ガナード中将がそのまま一気に敵地へ乗り込むので援軍が欲しいとの事です」


「うむ、了解した。直ちに援軍を送るとしよう。

野営テントに残っている者に声を掛け、出陣させよ。それと奥に繋いでいるトロールも数体連れて行くように指示を頼む」


「承知致しました」




 軽装を纏った獣人の小男は、その身軽な体を生かし人ではまず不可能な速度でその場から立ち去る。

バシャバシャという音があっという間に遠のく事からも、アラモスはその行動力の高さに感心してしまう。




「そうか、北西門がそんな簡単に……………」




 ガンッ!!と近くの壁を毛深い、ハンドボールの様に分厚い拳で力任せに殴りつける。

何度も、そう何度も殴りつけ、殴りつけた部分に亀裂が入り始めた辺りでその手は動きを止めた。

そしてアラモスは苦悩に満ちた表情でぼそりと呟く。




「一体何がしたいんだ、相手はっ!!

何故そうも簡単に侵入を許す!!何故そうも俺達獣人種を踏み躙ろうとする!!

何故そうも────」


「アラモス将軍、落ち着いてください」




荒ぶるアラモスの居たテント奥にあるカーテンの先から、女性の声が聞こえて来る。




「……………レイル参謀」


「落ち着きましたか?

貴方が取り乱しても何も良い事はありませんよ」




 その声はとても凛としていて、先程まで気が立っていたアラモスを宥めてしまう。

しかし、その声の主はカーテンの先から姿を現そうとしない。




「すまないな、とんだ痴態を晒してしまって」


「いえ、お気になさらず」


「そう言ってもらえると助かる。

………………なぁ、レイル参謀───」


「アラモス将軍!!

すぐにお伝えしたい事が!!」




アラモスが少しまごつきながらレイルに話しかけようとする丁度そのタイミングで、建物の外からさっきとは違う連絡部隊の男が駆け込んでくる。




「落ち着け。

落ち着いて、そして明瞭に物を申せ」


「はっ、申し訳ありません。

……………敵の地上部隊が撤収しました」


「…………俺の聞き違いか?

今、敵が引き上げたと言ったか?」


「はい、左様です。

弓兵や術士は退却させず、前線に出ている歩兵のみを、です」


「……………………」


「アラモス将軍?」


「…………全軍出せ」


「は……………?」




目を伏せ、ただ静かにそう告げるアラモスに、男は間抜けな声を出してしまう。

奥からも声が途絶えた中、アラモスの目はゆっくりと見開かれ、




「今すぐこの地に居る全ての兵を帝国に向かわせろ、と言ったんだ。

…………舐めやがって人類種風情が、二度とふざけた真似が出来ぬほどの屈辱を味わわせてやるっ!!!」


「は、はいっ!!」




アラモスの怒声に男は腰を抜かしそうになるのを堪えながら、必死に駆けて行った。

そしてその強靭な体から放たれた拳が──本人は無自覚だが───壁にもう一度突き刺さる。

その渾身の一撃に壁は音を立てて崩れ去ってしまっていた。























────────────────────────








「陛下、『恵み』の準備が整いました」


「そうか、ご苦労」




ガンドの声に返事をしたエリウスは、止む事を知らない小雨を眺めつつ口を開く。




「この小雨は術士に作らせたものでは無いんだよな。

俺は神に愛されているのか、それとも見放されているのか…………」


「陛下?」


「ああ、悪いボーっとしてた。

…………では『恵み』を発動させろ」


「承知致しました。

………『術士各員に伝える、恵みを発動せよ』」




ガンドが何かしらの連絡魔法を用いて、一斉に指示を飛ばす。

その直後、外壁のその向こうからそれ(・・)がやって来た。




オオオオッ!!!!!

ゴアァァァァッ!!!!!

ブモォォォォォッ!!!!

グルゥァァァァッ!!!!!



「あれは…………オークか。

それだけじゃない、ギガントボアにアンドラゴン、ブラックライノまで……………

まるでモンスターの見本市だな」




 エリウスが目にしたのは、暗緑色の肌が特徴的な豚鼻の怪物、通常の猪の数倍の図体を持ち、黒化した牙が嫌に目立つ大猪、その種にしては異常なまでに発達した体を持つ緋色の蜥蜴、そして鉱石の様に肌が鈍く黒光りする犀。それらが入り乱れて、なだれ込むようにして南西門へと向かって来る。

それだけではない、そのさらに背後から完全武装を決め込んでいる獣人種が第一襲目の時に送り込んで来た時の数の倍近く、もしくはそれ以上の数で攻めてきたのだ。


状況だけ見れば人類種が圧倒的に不利、最早絶望までしかねないその状況だが、エリウスは不敵な笑みを零していた。





「これは好都合だな、一気に敵戦力を削れる」


「…………………」




 ガンドは、何も言わずただ目を伏せていた。

怯えていたのか、はたまた悲しんでいたのかは分からない、だがこの後起こる惨劇に目を伏せていたのは確かであった。


敵が接近する中、彼らは果たして気付けていたのだろうか。

自らの頭上の雲がどんどん黒く染まりつつあるのを────────




「……………そろそろだな」




ふと、エリウスは空を仰いだ。

もちろんそこにあるのは天井なのだが、彼が目を休めるのには十分な光景だった。


段々大きくなる咆哮や声で、敵軍がすぐ傍までやって来ている事を感じ取るエリウスだが彼にはそんな事はどうでもよかった。

彼が考える事はただ一つだけ、この後の処理についてだ。





「陛下、いつでもいけます」


「よし、『恵み』を降らせろ」


「承知致しました。

『各員に次ぐ、恵みを降らせろ』」





ガンドがそう告げた瞬間、雲から降る小雨の量が一気に増えた。

───いや、増えたのではない、別の何かが(・・・・・)混ざっていた(・・・・・・)


その異常事態に、多くの怪物を従えて進撃していた獣人種の足が徐々に遅くなり、遂には外に出ていた全ての生物の足が完全に止まってしまった。





「何だこの雨………黒い?」

「それに少し酸っぱい気が………」

「お前ら足を止めるな!!雨なんてかんけ─────」





立ち止まった獣人達がその謎の黒雨に気を取られていると、誰も予期していなかったであろう最悪(・・)が彼らを襲い始めた。




─────シュウウゥゥッ


「………ん?何の音だ?」

「さぁな?そんな事より早───

───グゥワァァッァァァッァッァ!!!!!!」

「お、おいどうし─────ガァァァァァァッ!!!!!!」



突如として、彼らは悶え苦しみ始めたのだ。

ある者は喉を掻き毟る仕草をしたままその場に転がり倒れ込み、またある者は自分の顔を血だらけになるまで掻き毟り……………




「っ………………!?ぼ、防具が溶けてる!?」

「それだけじゃない!!武器まで溶けてやがる!!

─────お、おいあれ!!」

「んなっ!?化け物共まで苦しんでやがる!?

────誰か!!呪術を使える者はいないのか!?」



獣人はおろか、強固な鱗や皮膚で覆われている怪物達までもがその場で蹲ったり、奇声を上げて転げ回ったりしていた。発狂し、全身を雨でぬかるんだ地面に叩きつけ、何度も何度も叩きつけ…………………全身が血と泥で塗れたまま動きを止めた。……………死んだ。





「な、何がどうなって…………………ガァッ!!?」

「こ、この雨のせいだ!!この雨に触れるとマズいぞ!?」





誰かがそんな事を言ったが、もう時は既に遅かった。

止まる事無く降り注ぐ黒雨は獣人を、彼らが纏っている防具を、武器を、そして怪物たちまでもを蹂躙し始めていた。





「グガァァァァッ!?目、目が焼かれるっ!?」

「ギャアアァァアァァ!?!?

肌が焼ける、焼けガァァァ!!?」

「い゛だい゛っ!!

あ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ッ!!!!!!!!!」

「焼けるっ!!皮膚がと゛け゛る゛ぅぅぅっ!!?!?」






シュウウゥゥシュウウゥゥシュゥゥゥゥゥゥゥシュウシュウシュウ───────

シュウシュウゥゥゥゥシュウウシュゥゥゥシュウシュウシュウ────────

シュウゥゥゥシュウシュウシュウゥゥゥゥゥ───────

シュウシュゥゥゥゥシュウシュウシュゥゥx──────

シュウシュゥゥシュゥゥゥシュゥゥゥウ──────

シュウシュウゥゥゥゥ─────












黒雨による残酷な大合唱は、もう二度と、声を上げる事は無かった……………………























────────────────────────









こうして、たった数時間によるエリウスの初戦争は幕を閉じた。

この時の犠牲者数、帝国側が約百人に対し獣人国側なんと数十万人に及んだ。

しかも、その全ての遺体が回収されることは無く、他国は「単なる偶然」だとして処理せざるを得なかったらしい。


この最早天災に見間違えてもおかしくない様な戦況は人類種、獣人種共に一気に広まり、オルマンド帝国は「死をもたらす国」として名を広める事になった。

そして彼、エリウスが息を引き取るまでの六十年間、帝国で二度目の戦争が起こることが無かったという。




これが、エリウスの初戦争の記録、彼が『悪魔卿』と語られるようになった所以の戦争の記録である。





著:ルーナ・モルドル 『悪魔卿となった日』

誤字脱字、感想等何でもお待ちしております(*^^*)


また、お題はまだまだ受け付けていますのでコメントお待ちしておりますm(_ _)m

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