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またこの日がやってくる

「小説家の集い」で挙げられたテーマ「餅」を使った短編小説です。

まだまだ応募は受け付けます、どしどし応募してくださいませm(_ _)m






俺は餅が嫌いだ。

アイツは俺から大切なものを一つ、一つと奪っていく。

そのくせ毎年毎年どこの家でも出て来る出て来る、この国は餅に支配でもされているのか?


とまぁこんな愚痴をこぼしてはいるが、俺も当り前の様に餅を食べている一人であるからこれ以上の大口は叩けない。




そしてその時期が今年も、いや来年も(・・・)やって来た。




「ユウくーん、そろそろカウントダウン始まっちゃうよ?」


「ああ分かってる、すぐ行くよ。

蕎麦は準備出来てる?」


「もっちろん!!

って言っても、インスタントだけどね~」




隣の部屋からアハハ~って声が聞こえて来る。

全く能天気なヤツだ。それがいい所なんだけどな。

なぁ、母さんもそう思うだろ?




────チーン。




俺は母さんの前で手を合わせ、今年の出来事を報告する。

しかし今年は本当に色々とあったな、自分の事も身の回りの事も。

ヒアリが日本に来たとか騒いでた時期もあったっけ?

…………一度も見た事無いけど。

それとまぁ、俺にも秋になってようやく春が訪れたって事かな。

いやはや、経緯とかは聞かないでくれよ恥ずかしいし。




「ユウくーん!!

もうカウントダウン三十秒前だよっ!!」




おっとそろそろ本当に時間がヤバそうだな。

あまり長い事話してると七海が怒りそうだし、仕方ないか。

また詳しい報告は来年になってからな、母さん。


俺はそこから重たい腰を上げて、七海の所に向かった。








隣の部屋では七海が毎年恒例のカウントダウン番組を見ながら、カップ蕎麦を二つ乗せた炬燵の中で丸まっていた。




「あ、ほら早く早くっ

あと十秒だよっ」


「わかったって………

よし、ほら数えるぞ?」


「「5」」

「「4」」

「「3」」

「「2」」

「「1」」



「あけましておめでとう」

「あっけましておめでと~っ!!!!!」




俺の前で七海が万歳して喜んでいる。

そんなに喜ぶことかは分からなかったけど、一足先に手を付けたカップ蕎麦の異常(・・)にはすぐに分かった。




「……………おい七海」


「ん~何?

あっ、先にそば食べようとしてる~」


「いやそこじゃねぇよ。

……………うどんじゃねぇか」




そう、俺のカップ麺の中に入ってた麺の色は明らかに白かった。

どっからどう見ても蕎麦の三倍ほどの太さがあるそれを啜った俺は確信した。

──────どん兵衛だ、と。




「あっれ?おかしいなぁ~。

私、そば選んだつもりなんだけどなぁ」


「どんなドジしたらうどんと蕎麦間違えるんだよ…………

まぁいいよ、のびる前にさっさと食べちゃおうぜ」


「うんうん、うどんは美味しいからね~!!」




こいつ、わざとうどんと蕎麦間違えたんじゃねぇか?

いや、まぁどうでもいいけどな、どん兵衛美味いから。


目の前でうどんに夢中になってる七海からふと目を逸らし、テレビを見ているといつもの様に若者が好きそうな歌手が新曲なりアップテンポな歌なりを歌い上げていた。

深夜なのに本当に元気な奴らだ。




「ユウくん、箸止まってるよ?

…………もしかして、うどん嫌いだった?」


「うおっ………っていきなり顔近づけて来るなって。

別に嫌いじゃねえしむしろどん兵衛は好きだ。

……………ああ、そんな事よりさ」




俺は自ら嫌いなアイツの名前を口に出す。




「餅はあるのか?」


「何何、早速おしるこ食べようって話ですかぁ?

全くユウくんは食いしん坊だねぇ」




そういう事は鏡見てから言えよ。

危うく涎垂れかけてるぞ。




「何でもいいから、どうなんだよ?」


「むぅ~っ、つれないなぁ。

もっちろん準備してあるよ、もう食べる?」


「ああ、これももう食べ終わるからそれ食べてさっさと寝たい」


「そうだね、今日の朝は頑張って運転してもらわないといけないからねっ

よし、すぐ作るから待っててね~」




そう言って七海は寒い事なんて忘れて炬燵から飛び出して行ってしまった。

七海は餅が大好きらしくて、餅の話になるとキラキラ目を輝かせる。

本当に冗談抜きで、近所の子供といい勝負するぐらい輝いてる、正直俺もたまにドン引きするぐらいだ。


今だって鼻歌と煮込む音が混じって台所から流れてきている。

そんなに餅が好きなら、さぞこの時期は最高に感じるんだろうな、俺には絶対分からない感覚だ。


……………そう思うと、俺は案外彼女の事を知らないのかもしれない。


そんなしょうもない事ばかり考えていると七海がお盆にお椀を二つ乗せて運んでくる。

そして俺の前に置かれたお椀、その上にきちっと揃えられた箸。




「さっ、ユウくんお待たせ!!

冷めないうちに食べよっ、いただきま」「待て」



俺が声を発するのがかなり意外だったのか、七海は普段から大きく開いているその目をさらに大きくして仰天していた。

まぁ、いきなり「待て」なんて言われたら驚くだろう、その気持ちは分かるがそれよりももっと驚く事があるだろ。




「…………何で、おしるこに『白あん』使ってるんだよっ」


「何でって…………何が?」




oh…………

俺は何か間違った質問をしたのか?

いや、どう考えても間違っているのはこいつだ、何でおしるこに『白あん』なんだよ。

こんな事されたらアイツの姿が見えなくなってしまうだろっ




「………俺が冷蔵庫に買って置いてあった粒あん缶はどうした?」


「あー、使う気にならなかった」




アハハ~って、笑い事じゃない気がするぞ………?


でもまぁ、今日は一年の始まりの日だし、ちょっとぐらい冒険してみるのもアリか?

アイツが見えないのは少々厄介だが、まぁ問題ない、味さえ悪くなければ。




「ったく仕方ないなぁ。

ほら、さっさと食べるぞ、冷めたら勿体無いだろ?」


「ははっ、何だかんだ言ってユウくんも白あんで食べたかったんでしょ?

照れなくてもいいのに~」




このこの~って言いながら突っついてくる七海を全力で無視して、俺は白あんおしるこという未知との勝負を始めた。






………………いただきます。




























────────────────────────






私は餅が大好き。

あの伸びる感触とか、白さとか全部大好き。


私は白いものが全部大好き。

何だか持ってるだけで、近くにあるだけで自分の心が真っ白でいられる気がするから。




「あ~あ、またこの日がやって来たなぁ」




チーン、と目の前のおばさんに軽く挨拶をする。

私は凄く元気ですよ、今年も色々ありましたねって。

去年のアメリカ騒動とか、ヒアリ、だったかな。

そんなのがすごく懐かしくなってくる。だってもうすぐ二年前の話になるからね。




「っといけない、もうカウントダウン始まってるじゃんっ」




持つ物を持った私は急いでテレビの前に座り、カウントダウンスタートだ。



「5」

「4」

「3」

「2」

「1」





「あっけましておめでとう~!!!!」




そう、今年も私はこうやって新年を迎えるのだ。

私の為に白くなってくれた大好きなユウくんと一緒に。











………………さてと、今年もうどん食べないとね。


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