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試衛館

「近藤先生、入るぜ」

藤堂が声をかけて麩をあけた。部屋の中には近藤を合わせて二人の男の人が座っていた。一人は近藤だが、もう一人は結構年のいってそうなおじいさんだった。よくみると、おじいさんは近藤よりも上座に座っている。偉いのだろう。

「こんにちは。私は、近藤周助といいます。この道場の館長をさせていただいてて、この近藤勇の養父です。」

にこにこと笑って自己紹介をしたその老人は、優しそうにみえたが、貫禄がすごくあった。

「私は、東堂柚季と申します。 年は数えで十六です。こちらの道場を藤堂さんに紹介をしていただきました。入門させていただけないでしょうか?」

有名な女子大の附属中に通っていたにも関わらず、中学に入ってから剣道しかしてこなかったため、敬語に関する自信がない。それでも、精一杯の丁寧な言葉を使ったつもりだ。

「ああ。もちろんだ。生まれはどこだね。」

ああ、優しい。まるで、平成にいる祖父と話しているようだ。それはさておき、寮に入る前に住んでた神奈川県の茅ヶ崎は確か……。

「西大平藩ですかね……。」

西大平藩というと、再びにこっと周助先生は笑った。

「西大平藩は広いからねぇ。西大平藩のどこらへんだい?」

「相模国です。」

なぜこんなにも周助先生は優しい表情をしているのだろうか。

「いくつも質問をしてしまってすまないね。私は君の故郷のあたりで採れるしらすがすごく好きでね。」

まさか幕末で地元の特産品の話を聞くなんて思いもしていなかった。遠くにいる家族や友人、先輩たちのことを思い出して鼻の奥が少しだけ、ツンとした。

「失礼します。」

高い女性の声がして麩が開いた。

「お茶をお持ちしました。」

お盆にお茶を乗せて部屋に入ってきた女性は、色白でとても綺麗な人だった。

「こちらは、ここの塾頭の沖田惣次郎のお姉さんのミツさんだ。

ミツさん、こちらは新しい門下生の東堂柚季くんだ。」

近藤勇による紹介を聞いて、ミツさんは綺麗ににこっと笑った……、と思ったら叫びだした。

「柚季ちゃんって言うのね! 私、沖田惣次郎の姉、ミツです! よろしくね!」

綺麗な見た目と声からまさかのこのハイテンション。ギャップに少しだけ萌えてしまった……。

「ミツさん、東堂くんが困ってるじゃないか。」

柚季はすぐに否定をした。

「いえいえ! 困ってるなんて滅相もございません!」

「ほらね! 勇さん。困ってないでしょ?」

ミツが平成でいうドヤ顔をして近藤をみる。勇は、はいはい、と言葉を濁した。

「生まれが相模なんだろう。住む場所がもしなかったら家に食客として住まないかい?」

周助がいう。

「それはいい考えですね、父上!」

勇の言葉を聞くと、「でも……」とミツが話し始めた。

「柚季ちゃんは女の子じゃない? 部屋はどうするの? 食客部屋にいるのって全員盛の男じゃない。危ないわ」

すると、近藤親子がお互い見つめあった。

「まさか、男だと思ってたの?」

沈黙。

「柚季、どう見ても女子(おなご)じゃん。」

藤堂の言葉に返事をする者はない。

「で、どうするんですか?」

ミツがそう聞いても、なにも返ってこない。そこまで男と思われてたとは、柚季は少しだけショックだった。

「私と同じ部屋なら大丈夫だけど。」

ミツがそう言うと、近藤親子の表情は一気に明るくなった。血は繋がっていないとはいえ、やはり親子。その様子はとても似ていた。柚季の唇には少しだけ笑顔が浮かんだ。

「東堂くん、ミツさんと同じ部屋でいいか?」

「もちろんです!」

柚季は、近藤親子に笑顔を向けて返事をした。


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