表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

道しるべ



走り始めてから五分くらいたった頃だろうか。次第に竹刀がぶつかり合う音と掛け声が聞こえてきた。大きな門の前にくると、その音は一段と大きくなった。そして藤堂はそこで止まった。

「ここだよ! ここが俺たちの通っている試衛館!」

笑うと見える白い歯が可愛らしい。

「どうぞ入って!」

うん、という柚季の返事を聞くと藤堂はその門をくぐった。柚季も藤堂に続き、よろしくお願いしますと一礼をして門をくぐった。

門をくぐった途端一段と大きくなる打ち込みの音。門から向かって右側に大きな道場があったのだ。

「見学していきなよ!」

藤堂がそう言った。

「もう稽古始まってるみたいだけど、今見学しても大丈夫なの?」

柚季が見学することによって稽古をしている人たちの集中がきれないか心配になった。

「みんな命がかかってて、すごく集中してるから大丈夫だよ。」

心の中を読まれた。よく考えてみたらそうだ。柚季がいた時代は、別に剣道ができなくても命にかかわらないし、わざわざ剣道をする必要もない。そのため全員が全員、集中をして稽古に励んでいるとは限らない。それに比べて、この時代の人達は刀が使えなければ、命の危険に関わる。自分を守るためには集中をして稽古をしなければならないのだ。柚季は自分がいかに緩い環境にいたのかを思い知らされた。

「柚季、どうしたの? いこう」

再び藤堂に手を引かれ、道場に向かった。道場に入ると、ここに座って、と指さされたところに正座をした。そのとなりにすとん、と藤堂も正座をする。

「この道場、天然理心流の道場なんだ。」

天然理心流……。柚季はピンときた。今までの社会の授業を思い出したのだ。天然理心流の道場、試衛館といったら、近藤勇をはじめとする新選組の幹部たちが居候していたところだということを。となると隣にいる、藤堂平助は、北辰一刀流の使い手で、後の新選組八番組組長なのだ。

「ここは、俺みたいな他の流派のやつも居候させてくれるんだ。俺は北辰一刀流だけど、他にも神道無念流の人もいるんだぜ!」

いい道場だと、感じた。

天然理心流を生で見てみて、気がついたことがある。それは、"剣術"であって、平成で必死に稽古をした"剣道"とは全く違うものだということ。細かい足さばきや打突部位......。そんなことを思っていると、ありがとうございました、という大きな声が聞こえ、稽古が終わったということに気がついた。それにしても息があっている挨拶だと感心している柚季の前に一人の大きな男の人が現れた。

「この子は、藤堂くんが連れてきたのかい?」

大きな体つきとは真逆の優しい声と表情で隣にいる藤堂に話しかけた。そんな彼を尊敬しているのだろう。藤堂は笑顔ではい、と答えた。

「俺は、この道場の跡取りの近藤勇だ。君の名前を教えてもらえるかな?」

「東堂柚季です。」

名前を言うと、近藤は少し笑った。

「藤堂くんと、同じ名字なんだな。」

言われてみればと思い、隣の藤堂をみると、目が合った。

「俺ら、自己紹介してたのに全く気がつかなかったな」

笑いながら藤堂が言う。

「そうだね。名前が一緒ってことにも気がつかなかったなんて私どんだけ剣術したかったんだろ」

二人一緒に大爆笑。改めて藤堂と打ち解けることができたと思った瞬間だった。

「仲良くなったようだし、詳しいことを話そうか。藤堂くん、彼女を客間まで案内してくれ」

近藤にそう言われ、はい、と答えた藤堂のしまった声が黄昏の道場に響いた。これからもうかなわないと思っていた剣士としての生活が再び始まるのだと思うと、とても嬉しく感じた。初めて竹刀を握った時のように胸が躍るこの感覚、ずっと忘れずに覚えていよう。きっとそれがいつか道しるべになってくれるはずだから。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ