心の中
日常生活に支障がなくなるように、手術をした。剣道ができない日常など、あってもなくても変わらないのだが。
手術は成功したらしい。医師曰く、体育の授業で走ることはできるくらいに回復をするだろう、とのこと。
入院期間は二ヶ月。今はちょうど一ヶ月たったくらい。左足には大きなギプスがついている。毎日が暇。友達が来てくれる日は楽しいが、それ以外は全く楽しくない。何もすることがないと、剣道の事ばかり考えてしまう。どんな世界に行ってもいいから剣道をしたい、それが今の柚季の心の中だった。
そんなある日のこと。柚季は早く寝た。特に理由はないが。
「あなたの願いを叶えてあげる」
あたり一面白い世界。夢なのだろうか。綺麗な女性の声がした。
「あなたの願いは何ですか?」
柚季の願いはただ一つ。
「剣道をもう一度、したい。」
そう答えると、目の前に美しい白いワンピースを着た女性が現れた。女性の口もとには微かに笑が浮かんでいる。
「何かを失ってでも、その願いを叶えたいと思いますか?」
その女性は、先程から柚季に質問をしていた綺麗な声の主だった。剣道ができるのなら、何を失ったとしても構わない。柚季はしっかりとはい、と返事をした。すると、女性は歯を見せて笑った。
「あなたのその願い、私が確かに叶えましょうーーーーー。」
そこで、柚季の記憶は途切れた。