現実。
病院で渡された湿布をきちんと貼って稽古をしたにも関わらず、日に日にましてゆく痛み。必死にマッサージをして、中総体の日を迎えた。その頃には既に歩くことも辛くなっていた。
痛い足をなんとカバーしながらも、決勝戦まで勝ち上がることが出来た。前の年に全国大会で優勝をしている手前、簡単に負けることはできない。そんな切羽詰まった考えがいけなかったのだろうか。その時の柚季にも、いや今の柚季にもわからない。
「はじめ!」という主審の力強い掛け声で柚季は立ち上がった。正しくは、立ち上がろうとした。その時、「肉離れ」と診断された左足腿の裏側は電気が走るかのような痛みに襲われた。
なかなか立ち上がらない柚季を不思議に思った審判に事情を聞かれ、柚季は正直に答えた。足が痛くて立ち上がれません、と。
そしてその後、相手に不戦勝が言い渡され、柚季は棄権扱いとなった。柚季は会場の視線を受けながら、コーチの肩を借りて体育館から出て、コーチの車で病院へ向かった。そこで宣告されたのは、「肉離れ」ではなくハムストリング総腱抜け落ち断裂という、怪我であった。ハムストリングという筋肉の両端は骨と繋がっているのだが、柚季のハムストリングが骨から抜け落ちていたのだった。
もちろんそれは重症で、
「もう、剣道は諦めた方がいいでしょう」
医師にはそう告げられてしまった。柚季の未来は真っ暗になってしまった。