最強(の魔物)VS最強(の弟子) 1
シルフィードはやつと対峙した、
見上げても天辺が見えない、
奴から見たらシルフィードはそこらへんの石か蟻なのだろう、
ゆっくりと、
そして大きく足が動いている、
(シルフィ、
籠手を装着するんだ、)
(はい、)
シルフィードは氷龍と虎炎を装着する、
その途端シルフィードに恐怖が襲いかかる、
腕から訳のわからないものが腕の中から、
血管を通って全身に流れていく、
自分が自分ではないような感覚になる、
その感覚は幽霊さんが憑依したのとは違う、
自分の中にある黒い何かが今の自分を塗り替える感覚、
「怖いです、」
シルフィードは無意識にそう呟いた、
(その感覚であっている、
俺はこの2人を装着した時もそんな感じだった、
2人は身体能力を限界まで引き上げるがそれと同時に自分の奥底にある思いや欲望も出て来る、
怖いと思って当たり前だ、
だが今は何も考えずにこいつを倒すことを考えるんだ、
変な雑念を入れるな、)
シルフィードは頷いた、
そして動き出す、
シルフィードはまずどれほどの力か確認するために足を殴りつけるが、
走った時の速さに驚き戸惑う、
全力で走っていないはずなのにその速さは全力を軽く上回っていた、
感覚が狂う、
シルフィードは速さをそのまま通り過ぎるように足を殴る、
これも実力の半分以下で殴りつけたが威力は全力の一回り以上も上であった、
それでも相手はビクともしない、
興味すら抱かれていない、
シルフィードは更に速く走り再び足を殴りつける、
今度は全力で、
殴られた足は大きくへこむ、
それと同時にシルフィードの腕が痺れた、
戦いに支障はない、
さすがの奴もシルフィードに気づく、
奴がシルフィードを見る、
シルフィードは何度も同じところを全力で殴る、
奴はうっとおしそうに足を上げて踏みつぶそうとする、
シルフィードは足が上がったと同時に動いてその場から離れる、
奴が足を下ろした、
足を下ろした場所が大きく陥没する、
周り大地が揺れる、
シルフィードは再び同じ足の同じ部分を殴りつける、
少しづつへこんでいく、
だが奴にダメージがない、
奴は再び足を上げてシルフィードを押し潰そうとした、
シルフィードは素早く動いた、
奴の足は再び地面にめり込む、
そのせいで奴の体が少し傾く、
シルフィードは奴の背中に背負っている山の一部の木に向かって鎖を投げ伸ばす、
木に鎖をくくりつけたシルフィードは一気に鎖を短くする、
背中に乗ったシルフィードは一気に顔まで走る、
顔の上まで走ったシルフィードは下の顔に向かって殴りつける、
強い衝撃を頭に与える、
奴はうっとおしそうに首を左右に激しく振る、
シルフィードは後ろの近くにあった木に鎖を括り付けて落下防止をする
そのまま首にしがみつく、
しかし鎖をくくりつけた木が振動で落ちた、
引っ張られるシルフィード、
シルフィードは木と一緒に地面に落ちる、
シルフィードは空中で鎖を外して体制を立て直す、
地面に着地したシルフィード、
奴は口を大きく開ける、
シルフィードは齧り付いてくると思いその場から急いで離れる、
だが奴は違った、
口の中が光る、
いや、
燃えている、
何をしようとしているかわかったシルフィードは氷龍の力で奴を大きく囲むように氷壁を作る、
完全に囲みきったと同時に奴は口から炎を吐いた、
シルフィードは急いで自分を氷龍の氷で身を包む、
炎が周りの木々を焼き尽くす、
大地を黒く染め上げる、
空が黒煙に包まれる、
バークリート方面に吐かれた炎は氷壁に当たり被害が最小に抑えられる、
だが炎に焼かれた氷壁内の魔物は全て灰に変わり焼けた大地の一部となった、
シルフィードは氷の中からその光景を見て身震いをした、
シルフィードに襲いかかるもの、
恐怖、
目の前で全てを焼き払われた、
圧倒的な光景にこれまでにない恐怖を感じた、
少しでも遅れたらバークリートが燃えていた、
自分も灰になっていた、
そう考えてしまう、
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・)
心の奥底から出てくる恐怖、
シルフィードはそれに襲われる、
このまま氷の中にいたら助かる、
そこまで考えてしまった、
だが、
そこまで考えてから思考を止めた、
なんでここにいるのか、
なんでここに来たのか、
シルフィードは氷を消した、
そして走り出す、
シルフィードは奴の腹の下に来て氷龍の力で氷の足場を作り一気に奴の腹まで上がる、
腹までたどり着いたシルフィードは上を向いて腹を殴りつける、
何度も高速で殴りつける、
しかしこれまでよりキレがない、
今のシルフィードは恐怖心が勝っておりそれにより逃げ出したいと思う気持ちがある、
そのためそれが雑念となり氷龍と虎炎を身につけていても本来の力を発揮できていない、
シルフィードは何度も殴りつける、
奴はシルフィードが自分の下にいるとわかり自分の手足頭を甲羅の中に引っ込めた、
その体型に似合わず速く引っ込められる、
シルフィードは殴ることに気を取られてその行為に気づくのが遅れた、
シルフィードは急いで足場から降りてその場から離れる、
氷の足場は奴の押しつぶしでも砕けることがなかったがそのまま地面に埋め込まれる、
しかし足場が奴の押しつぶしの速度を微々たるものだが遅くしてくれたおかげでシルフィードは押しつぶされる前に脱出した、
しかし奴が落ちて来たことにより風圧と地響きが辺りに響きシルフィードは吹き飛ばされる、
氷壁まで吹き飛ばされたシルフィード、
立ち上がり再び奴に向かう、
シルフィードは後ろ足に向かって走り出した、
後ろ足に着いたシルフィードは殴る、
何度も殴る、
がむしゃらに殴る、
奴は尻尾を横に振る、
シルフィードはすぐにその場から離れる、
しかし、
「あっ!?」
シルフィードは地面の溝に足を引っ掛けてしまいバランスを崩す、
そこに奴の尻尾がシルフィードに襲いかかる、
急いで腕をクロスして衝撃に備える、
尻尾がシルフィードに当たる、
シルフィードの肺から空気がなくなる、
腕の骨も折れる音がした、
体のどこかの骨が折れる音がした、
シルフィードは勢いよく吹き飛ばされる、
そして氷壁にぶつかり地面に落ちる、
受け身を取れずに地面に叩きつけられる、
痛みに耐えるシルフィード、
涙を流して悶えるシルフィード、
治癒魔法をして骨折も傷も治すが心は治せない、
ついに心が折れた、
今までの培って来た力が、
技術が全く効かない、
今までの修行が無意味に思えるかのように、
奴からしたらおもちゃで遊ぶかのように、
そして飽きたようにバークリート方面に向かって歩き出した、
幸い氷壁が邪魔をして簡単には先に進めないが氷壁は地面に少ししか埋まっていない、
そのため奴が無理やり押すと少しずつだが氷壁が動いていく、
シルフィードは奴を見ている、
見ていることしかできない、
(もう終わりか?)
幽霊さんがシルフィードに声をかける、
(もうだめです、
私はあれには絶対に勝てません、)
(そうか・・・)
幽霊さんはそう呟いた、
そして、
(見損なったな、)
シルフィードの耳に届くようにはっきりと幽霊さんは言う、
シルフィードはその言葉に驚きの顔をする、
いつもはアドバイスをしたり励ます幽霊さんがそんなことを言うからだ、
(甘えるな、
お前は行ったよな、
倒してくるって、
だったらこんなところで弱音なんて吐いてる暇はないだろ、
まだたったの20分ほどしか時間は経ってないぞ、)
その言葉は重く、
冷たく、
シルフィードに届く、
(でも・・・)
シルフィードの言葉を幽霊さんは続けさせない、
(でも、
でもなんだ?
言い訳を言うのか?
あいつは私より強いから勝てませんでした、
死んでも恨まないでくださいって帰って言うのか?
そんな我儘は通用しない、
自分で倒してくると言ったよな、
アスカやスズリナ、
バーボルトに、)
シルフィードはしかめっ面をする、
(あいつらはお前があれを倒して帰ってくると信じて街に残ったんだ、
バーボルトなんかそれまで街の防衛戦をしている、
だがお前はどうだ?
こんなところでうずくまって弱音を吐いて諦めて、
それであいつらが死んだらあいつらの墓の前で、
そして家族の前でなんて言うんだ?
私のわがままで死んでしまいました、
ごめんなさいか?
はっきり言って最低だ、)
シルフィードはきつく目をつむって涙を流す、
(お前がここでグズグズしているとあいつを倒せない、
街のみんなの命はお前が握っている、)
シルフィードはきつく閉じた目の力を抜く、
(バーボルトさん、)
シルフィード、、
(スズリナさん、)
シルフィお嬢様、
(サーシェさん、)
シルフィードちゃん、
(ユウナさん、)
お嬢様、
(シーコさん、)
シルフィードお嬢様、
(ミーシャさん、)
シルフィお嬢様、
(カシオさん、)
シルフィお嬢様、
(おじいちゃん、)
シルフィード殿、
(おばあちゃん、)
シルフィードちゃん、
(ユーリちゃん、)
シルフィ、
(リーナちゃん、)
シルフィードさん、
瞼の裏にシルフィードを信じて待っている者、
シルフィードが守りたい者、
みんなが浮かんだ、
そして、
(アスカちゃん、)
シルフィ、
一番大切な人がシルフィードを呼びかける、
シルフィードはゆっくりと目を開けて、
立ち上がる、
(ゲーム的な復活の仕方だな、
だがそれもありか、)
幽霊さんが呆れたように、
そして嬉しそうにそう言う、
(師匠、
ごめんなさい、
弱音を吐いて、)
(それは終わってから言うもんだ、
それより、
速く奴を倒すんだ、
何か閃いたんだろ?)
(はい!
私の持てる全てをぶつけます!
正直それで倒せると思っていません、
それでも痛手を負わせることが出来るはずです!)
(なら行ってこい!
俺はずっと見守っていてやる、
たとえ成功しようが失敗しようが最後まで見守ってやる!
それが師である俺の出来ることだ!)
(はい!)
残り35分、
シルフィードは奴を睨みつける、
奴は氷壁を押している、
「第2ラウンドの始まりだよ!
目にもの見せてやるんだから!」
シルフィードは走り出した、




