みんなのために
シルフィードは家に帰るとスズリナが出迎えて来た、
「おかえりなさいませお嬢様、」
「スズリナさん、
お出迎えありがとう、」
シルフィードはスズリナに抱きついた、
「呼び出されたようですが何かあったのですか?」
「そのことでお話があるの、
みんなを起こして来て欲しいの、
私はアスカちゃんを起こしてくるね、」
スズリナが頷いて動いた、
シルフィードはアスカレイヤを起こしに向かった、
「さっきギルドで緊急招集があったの、
この街に魔物の群れが来ていて更に災害級の魔物も来るって、
街の人は護衛で他の街に向かうって、
冒険者は護衛と討伐のどちらかに分かれるって、」
リビングに集まったシルフィード達はギルドで伝えられたことを皆に伝える、
「シルフィはどっちにつくんですか?」
アスカレイヤはシルフィードに聞いた、
アスカレイヤ個人では護衛について皆で遠くに行きたいといった願望はある、
しかし、
「私は討伐に行くよ、」
アスカレイヤの願望は叶わなかった、
「お嬢様、
訳を聞いてもよろしいでしょうか?」
スズリナがシルフィードにそう聞く、
「戦力的には私が行けば大きな戦力になるの、
そうすればみんなが逃げる時間を長くできるの、」
「みんなって、
もしかして、」
シルフィードはアスカレイヤに向かって小さく頷く、
「うん、
アスカちゃん達は逃げて欲しいの、」
シルフィードは5枚の紙を机に置く、
「スズリナさん、
これはみんなの奴隷契約解除の紙だよ、
そしてアスカちゃんにはごめんだけどスズリナさん達をお城で働かせてあげて欲しいの、」
ここに来る間にシルフィードは奴隷商に行ってもらって来た、
スズリナは険しい顔をする、
他の皆も顔をしかめる、
「この戦いで私は死んじゃうかもしれない、
そうなるとみんなは他の人に権利が移っちゃうの、
そうなる前に契約解除をして信頼しているアスカちゃんのところに行って欲しいの、」
「私達の気持ちも聞かないでですか?」
珍しくスズリナが食ってかかる、
シルフィードは頭を下げる、
「ごめんなさい、
本当はみんなの意見を聞いておきたかったけど時間がないの、
少しでも遠くに行って欲しいの、」
頭を下げたままそう言うシルフィードをスズリナは黙って見つめる、
「シルフィ、
私の依頼はどうなるのですか?
放棄されるのですか?」
アスカレイヤはシルフィードにそう聞く、
「うん、
王様にはごめんなさいって伝えて置いて欲しいの、」
シルフィードの言葉にアスカレイヤは更に顔をしかめる、
シルフィードは顔をあげて、
「私は外の様子を見て来るね、
荷物はそこまでないから荷造りは簡単だよ、」
シルフィードはそう言って家を出た、
様子を見て来ると言ったもののいたたまれない空気に逃げただけであった、
外に出たシルフィードは街中を歩いた、
真夜中にもかかわらず住人が走っているところを見かける、
冒険者の妻が話を聞いて荷造りをして外に出たりしてその物音で近所の人が起きて外を見て事情を聞きそれでまた荷造りを行う、
シルフィードはそれを見ながら南の門に向かって行く、
南の門に着いたシルフィードは門の上に壁走で登った、
そして門の上で座る、
見つめるは南の方角、
シルフィードはその方角を睨みつけている、
シルフィードは感じていた、
南の方から伝わるありえないほど大きな振動がシルフィードの体に伝わることを、
(すごく大きい振動です、
大きな魔物がいるんですね、)
(そうだな、
実際に見たときには驚いた、
こんな奴もいるんだなと、)
幽霊さんはシルフィードの横に現れる、
夜風がシルフィードの体を撫でるように吹く、
束ねた髪がなびく、
(シルフィ、
お前はあいつを倒しに行くんだろ?)
シルフィードは幽霊さんを見た、
(正直に言うぞ、
シルフィ、
今のお前が挑んでも負ける、)
シルフィードの見つめる目が険しくなる、
(敗因は力不足、
俺なら倒せるがシルフィードは速さを求めた戦い方だ、
今から力をつけようとしても普通はつかない、
もし行っても足止めすらできない、)
シルフィードは手を握りしめる、
(私は無力ですか?)
(そうだな、
魔法が効くかわからない奴だ、
シルフィがいても周りの魔物を倒してあとは逃げるだけだ、)
(師匠は倒せるんですよね?)
(倒せる、
だが俺を頼るな、
シルフィが考えたんだ、
シルフィがやるんだ、)
(うん、
でも勝てないんだよね、)
(今のシルフィなら勝てない、)
シルフィードは泣きそうな顔になる、
(さっきも言ったが今から力をつけようとしても普通はつかない、)
幽霊さんは一呼吸を置く、
(だが普通じゃないやり方なら一時的だがシルフィでも勝てるかもしれない、)
その言葉を聞いてシルフィードは驚いた顔をする、
幽霊さんはシルフィードを見て、
(シルフィ、
お前に氷龍と虎炎の装着許可を与える、)
シルフィードはキョトンとする、
(この2人は装着者の身体能力を最大まで引き上げてくれる、
だがそれはあまりに危険なことなんだ、
突然の力に破壊衝動を抑えられないで人を殺したり建物を破壊するかもしれない、
シルフィがもっと力をつけて力に溺れないようになったら装着する権利を与えたんだが今回は緊急事態だ、
装着したら足りなかった力を補える、
だがシルフィが装着するには早いんだ、
力に耐えきれずに腕が永久に使えなくなるかもしれない、
だから約1時間、
それが装着できる時間だ、
それが終わるとシルフィの負けだ、)
シルフィードは唾を飲み込む、
(シルフィ、
やるか?)
幽霊さんの問いにシルフィードは迷わずに、
(やります!)
そう伝える、
幽霊さんはニヤリとする、
(お前ならそう言うと思った、
それなら明日の朝一に出るぞ、
周りに人がいると邪魔になるからな、)
(うん!
これで街のみんなを助けることができる!)
(ん?
街のみんな?
アスカやスズリナ達だけじゃないのか?)
幽霊さんは聞いた、
(うん、
私はこの街が好きなの、
もちろん故郷も好きだよ、
それと同じくらいこの街も好きなの、
この街の人達も好きなの、
学園のみんなも好き、
ギルドの人達も好き、
だからみんなのために自分のできることをしたいの、
だから、
魔物が倒せるようになったんだってわかると嬉しいの!)
シルフィードの心の内、
バークリートの人達が好き、
それは本心から言っている、
純粋な気持ち、
(シルフィはこのまま純粋に育って欲しいな、
なら好きな街のために自分のできることをするんだ、)
(はい!)
シルフィードは返事をした、
そのあとしばらく夜風に当たるシルフィード、
満足して門から降りて帰宅した、
「ただいま、」
「おかえりなさいませ、
お嬢様、」
デジャブか、
スズリナが出迎えて来た、
シルフィードは不思議に思った、
「あれ?
荷物準備は?」
シルフィードはスズリナにそう聞くと、
「まずはリビングまで来てください、」
スズリナがそう言うとリビングまで歩いて行った、
シルフィードはますます不思議になりながらも後についていくかのようにリビングに向かった、
リビングにはスズリナの他のユウナやシーコ、
カシオにミーシャ、
更にアスカレイヤもいた、
しかしみんなはまったりとしている、
アスカレイヤに至ってはケーキを食べている、
「あれ?
なんで!?
なんでみんな荷造りをしてないの!?」
シルフィードは慌てる、
しかしアスカレイヤは、
「その必要はないからです、」
ケーキを口にしながらそう言う、
その言葉の続きはスズリナが引き継いだ、
「私達はこの家からどこにも行きません、」
衝撃的なことを口にした、
「なんで?
すごい量の魔物が来るんだよ!?
明日の朝には街を出ないと危ないんだよ!」
シルフィードは説得するが、
「お嬢様、
私達を甘く見ています、」
スズリナがキリッと言う、
「お嬢様、
お嬢様は私たちのことを家族と言ってくれました、
それはすごく嬉しいです、」
スズリナの周りにユウナ、
シーコ、
カシオ、
ミーシャが集まる、
「ですが先ほどのお嬢様の言葉はすごく傷つきました、
捨てられたと思いました、
私達はお嬢様のそばにいたいんです、
お嬢様以外の方、
たとえ王族であっても絶対には行きたくありません、」
皆が頷く、
「命令違反と言われても構いません、
私達はここでお嬢様の帰りを待たせていただきます、
それが私たちの決断です、」
シルフィードは皆を見る、
皆が真剣な目をしている、
「私もスズリナさんと同じ意見です、
シルフィ、」
アスカレイヤがそう言う、
「私はシルフィと一緒にいたいです、
初めてのお友達のシルフィと、
私も絶対にこの街を離れません、」
決意したアスカレイヤの目、
シルフィードは皆を見て思わず笑顔になる、
「うん、
私は頑張らないといけないね、
みんなの家を、
私の帰る場所を守るために、
みんな、
ありがとう!」
その言葉を聞いてみんなは微笑む、
シルフィードは絶対に戻って来ることを誓った、




