番外編 ある酒場の出来事
ガルドside
シルフィードが旅立って数日後、
俺の目の前に女がうつむきながら手紙を差し出している、
客やアリサ、
ターニャがいる目の前で、
アリサがダリアンを抱えながら俺の方を向いて怖い顔をする、
はっきり言うがこの女とは初対面だ、
なぜこうなったかはほんの数分前に遡る、
数分前、
俺は料理を作っていると、
「お父さん、
お父さんにお客さんだよ、」
タチアナが厨房にいた俺を呼んできた、
俺は手を拭きながら行くとカウンターに待っていたのは女だった、
女は辺りを見渡しているが俺を見ると恐る恐る声をかけてくる、
「ガルド様ですか?」
どうやら俺のことを知っているようだ、
「そうだ、」
俺が短い返事をすると女はいきなり手紙を差し出した、
「読んでください!」
そして冒頭に戻る、
俺は手紙を受け取る、
アリサからの視線がますます痛くなる、
だがそれを気にしていたら進まないので痛い視線を感じながら俺は手紙を読んだ、
簡単に読んだらわかった、
「アリサ、
ちょっと来てくれ、
あんたもこっちに来てくれ、」
アリサは笑顔だが目が笑っていない顔になっている、
2人を奥の部屋に連れてきた、
「アリサ、
この手紙を読んでみろ、」
俺はアリサに手紙を渡した、
アリサが手紙を読んでいると納得したような顔になる、
「シルフィードちゃんの奴隷なのね、」
「あぁ、
なんで奴隷を買ったかもこの手紙に書いてあった、」
俺はアリサから手紙を返してもらう、
「さて、
ルルイエだったか?」
「は、はい、」
「シルフィードの奴隷だが一度聞いておく、
何をして奴隷になった?」
ルルイエは顔を強張らせながら言う、
「私は盗賊でした、
数日前にお嬢様の乗った馬車を襲おうとしたら返り討ちに遭い奴隷になりました、
その時にお嬢様に買われてここに行くよう言われました、」
アリサは驚いている、
俺は予想していたから驚くことはなかった、
「シルフィードが全滅させたのか?」
「あなた!
何言ってるの!?」
アリサがとがめる、
シルフィードが盗賊を相手にしたと思いたく無いのだろう、
「はい、
一瞬にして私以外全滅でした、」
やはり、
あの師匠のことだ、
おそらく殺しの練習として盗賊を全滅させたのだろう、
「まさかシルフィードちゃんが盗賊を・・・」
アリサはショックを受けている、
無理も無い、
俺もあいつの師匠の存在を知らなかったらこうショックを受けているだろう、
しかしこのままじゃアリサがシルフィードに対して悪い印象を与えたままになってしまう、
「アリサ、
シルフィードは楽しんで人を殺したと思うか?」
アリサは俺の言葉を聞いて少し時間をおいて首を横に振る、
「そうだ、
あいつは自分の身を守るために殺したんだ、
俺も自分の身を守るために何人も殺してきた、
それはアリサも知っておるはずだ、」
アリサは頷く、
「あいつは冒険者になる、
そのためには遅かれ早かれ殺しを体験する、」
「わかってる、
でも早すぎると思うの、」
「自分の価値観を基準するな、
あいつの師匠はシルフィードが生き残るために殺しを教えた、
昔シルフィードが殺しについて俺に聞いてきた、
はじめは驚いた、
だがあいつなら絶対に殺しを楽しまないとわかっている、」
アリサは不満そうな顔をする、
すまないシルフィード、
俺はシルフィードに対して心の中で謝罪をした、
「あなた、
本当は分かっているわ、
あの子はたとえ殺しをしても絶対に間違わないことを、
でも本音は人を殺さないで欲しいの、」
アリサは納得してたのか、
だが今ひとつ納得していない感じだ、
「アリサ、
この話はここまでだ、
また後で話せばいい、
今はルルイエのことだ、」
そう言うとルルイエは緊張したかのように背筋を伸ばす、
「手紙で書いてあった通りここで住み込みで働かせる、
しかし奴隷の立場上給金はあまり出せない、
シルフィードは半分の給金でお願いと書いてあるがもしかしたら減るかもしれない、
そこを了承してくれ、」
「大丈夫です、
奴隷の身であるため給金がなくても大丈夫です、」
ルルイエはそうなことを言うが給金を払わないとシルフィードに怒られる、
「ちゃんと払う、
払わないとシルフィードに怒られてしまう、」
俺がそう言うとなぜかアリサに笑われた、
「あなたはシルフィードに少し弱いですからね、」
確かに、
料理に関しても戦いに関しても、
あいつに絶対に勝てない、
「そうだな、
ここが繁盛しているのはあいつのおかげだ、
あいつに足を向けて眠れない、」
アリサは更に笑う、
おかしいことを言ったつもりはないんだが、
話を戻そう、
「ルルイエ、
今日からこの酒場の従業員だ、
はじめは見学をしてどうすればいいか学べ、
いいな?」
ルルイエは嬉しそうな顔をして頷く、
「よろしくお願いします!」
こうして従業員が増えた、
それから数日後、
再びシルフィードから手紙がきた、
ルルイエは今は配膳を行っている、
物覚えはいいほうだ、
俺はシルフィードの手紙を読んで目を見開いた、
まさかシルフィードがCランク冒険者になるとは思わなかった、
しかもあのバーボルトか、
まさか今あいつがギルマスしていると思わなかった、
出会った頃は無鉄砲の男だったからな、
今ではギルマスか、
変わるものだな、
バーボルトと出会った時はあいつは単騎でオーガの群れに突っ込み返り討ちになった男だ、
それから何度もその無鉄砲さでパーティーや仲間を危険にあわせたため俺が教育した、
その男がシルフィードと戦って負けた、
ギルマスになって有頂天になってたんだろう、
いい薬になったな、
俺はほくそ笑みながら手紙を読んでいた、
余談だが、
ほくそ笑んだ顔を娘たちに見られてかなり驚かれた、
更に数週間後、
シルフィードから手紙がきた、
俺は店を閉めた後手紙を読んだ、
内容はBランクになったこととレイクリードに行くことになったこと、
俺は驚くことはなかったあいつならきっと更に上に行くだろう、
しかしレイクリードか、
遠いところに行くんだな、
俺も旅の道中寄ったことがあるがもうかなり昔のことだ、
そういえばあそこのギルマスは女性だったな、
あの時は結構美人だったと記憶しているが今はもう歳か?
そう考えていると足元にダリアンが近づいてきた、
今ではハイハイできる、
アリサは寝ている、
疲れているんだろう、
俺はダリアンを抱き上げた、
「ダリアン、
お前を助けた少女から手紙がきたぞ、」
ダリアンは手紙を見て首をかしげる、
「読んでやる、
拝啓・・・」
ダリアンは俺の腕の中で物珍しそうに手紙を見ている、
そういえばターニャあてに一通きていたな、
あのアレクという騎士の青年からだ、
ターニャに好意を抱いていてターニャも好意を抱いている、
俺はあの2人が付き合うことには反対しないが駆け落ちは許さん、
あの騎士はそんなことをしないだろうがな、
さすがに娘宛の手紙を勝手に読まない、
手紙をもらったターニャは赤い顔になっていたな、
俺はそう考えながらダリアンに手紙を読んでやった、
更に数ヶ月後の夏の時期、
シルフィードから手紙がきた、
酒場のカウンターで俺は手紙を読みながら水を飲んでいると手紙の内容に俺は水を引き出した、
盛大に吹き出したため咳き込みカウンターに座っていた客が珍しそうな顔で俺を見た、
俺は数回咳き込んでいるとターニャが駆け寄ってきた、
「お父さん大丈夫?」
優しく俺の背中をさするターニャ、
俺は数回むせ込んだ後、
「大丈夫だ、
すまないターニャ、」
そう言った、
「珍しいね、
お父さんが動揺するなんて、
シルフィちゃんの手紙になって書いてあったの?」
俺は手紙をターニャに渡した、
ターニャは手紙を受け取り読む、
読んでいるうちに顔色が変わっていく、
「おと・・・」
ターニャは俺を呼ぼうとしたが俺はターニャの口を塞いだ、
「この話は後でだ、
ここでする話ではない、」
ターニャは首を縦に振る、
俺は手をどけると、
「うん、
ここで話せないね、
この内容は、」
ターニャは手紙を返してきた、
そのまま仕事に戻る、
内容はレイクリードの王女、
アスカレイヤ・ライトニング・レイクリードと友達になったこと、
ワイバーンの群れと魔族を倒したこと、
レイクリードを救ったこと、
はっきり言ってこれを手紙に書いてよかったのか?
庶民の俺には重すぎる、
しかしシルフィード、
お前は英雄になるつもりか?
魔族は素手で倒すなんて、
しかも、
アスカレイヤ姫をここに連れてくる計画を練っている、
正直やめてほしい、
もし何かあったら外交問題でこの酒場が終わってしまう、
俺は大きなため息を吐いてしまった、
アリサたちにはなんて言えばいい、
シルフィードが今度レイクリードの姫をここに遊びに連れてくるなんて言えるわけない、
しかし言わなければいけない、
俺は再びため息を吐いた、
次はギルドのあの人、




