道中にて3
出発して3日が経った、
「この調子じゃと昼過ぎに村に着くのう、
本来は5日ほどかかるのじゃが早いのう、」
マクスウェルがホッホッホッと笑う、
「学園長、
村に着くのはいいんですが、
シウル殿はどうしますか?」
アレクはシウルを見る、
「この場合はシウル殿には悪いが外で待ってもらうしかないのだが、」
「シウルを中に入れるのは難しいですか?」
シルフィードがマクスウェルに聞く、
「魔物が村に入るだけで街の人達は恐怖で逃げ惑うじゃろう、
例え会話ができても聞く耳を持たないじゃろう、」
「そうですか、」
「シルフィード、
我のことは気にしなくてもよい、
お前の家族になれただけで我は幸せなのだ、」
「それでも、
家族が外で寝るのは嫌、」
シルフィードがシウルの側に近寄り背中に乗る、
「その気持ちだけでよい、」
シウルは一言そう言う、
その尻尾は嬉しさで激しく動いている、
「シウル殿、
すまないのう、」
「我は大丈夫だ、
食事は自分で確保する、
明日の出発時間を教えてくれればよい、
シルフィード、
我から降りるんだ、」
シウルがシルフィードに言うとシルフィードは残念そうに降りる、
マクスウェルは明日の出発時間を伝えた、
そして村が見えてきそうな頃にシウルが離れた、
シルフィード一行は村に入る、
アレクは先に宿を取りマクスウェルを宿に(無理やり)入ってもらう、
シルフィードはアレクに頼まれて食材の調達をしている、
買い出し中のシルフィードだが今はシウルの事を考えていている、
その途中何かを思い出したかのように周りを見渡す、
「あれ?
師匠?」
幽霊さんがいないことに、
シウルは村が見えないくらいの森で狩りをしていた、
獲物はイノシシ型の魔物ボア、
Dランクの魔物、
突進をして自身の長い牙で敵を突き倒す魔物、
草食のため近隣の村にある畑の野菜を食い荒らすことがある、
そのためボアの討伐依頼がよくギルドに貼ってある
シウルはボアの後ろにソッと回る、
ボアは餌の匂いを嗅いでいる、
シウルは息を潜めて身を低くしてその時を待つ、
ボアがシウルとは真逆の方向に歩いた瞬間、
シウルは走った、
その速さはウインドウルフを超えている、
ボアはシウルに気付いて振り返ろうとした時にはもう遅かった、
シウルはボアの側面に体当たりを食らわせる
ボアの大きさはシウルより小さい、
ボアは倒れた、
シウルはその隙にボアの喉に喰らいつく、
ボアは痛みのあまりに暴れ出す、
シウルは一気に噛む力を強めてボアの喉を噛みちぎる、
ボアは喉を噛みちぎられて痙攣して絶命した、
シウルは噛みちぎった部分を捨ててボアを食べ始めた、
毛皮の部分を爪でうまく切り肉を食べる、
骨は歯でうまく切り離して捨てる、
口周りはボアの血で汚れていく、
数分でボアは内臓と骨と頭だけになった、
しかしシウルは満足しなかった、
「たった3日で人の食事に慣れてしまったか、」
シウルは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟く、
この3日間、
シウルはシルフィードの作る肉料理を毎食食べていた、
シウルにとって初めての人の食事、
1回目はただ焼いただけだったが次からは下ごしらえから味付けまで人に出す料理を作った、
しかし初めて人の食事を食べたため美味いかどうかわからなかった、
そのためあのようなことを言った、
「美味いの一言が言えぬとは、」
シウルは次の獲物を求めて歩き出した、
夜
シウルは目を閉じて体を休めていると、
(シウル、)
どこからか声が聞こえた、
誰が声をかけたかわかっている、
この3日間、
なんども視界に入ってきた、
シウルはゆっくりと目を開ける、
シウルの目の前に黒髪で半透明の人がいた、
「・・・幻ではなかったのか、」
(やはり見えていたか、
たまに俺の方を向いていたからな、)
「何者だ、」
シウルは口だけ動かす、
(俺はシルフィの師匠をしている、
名前は幽霊とでも呼んでくれ、)
幽霊さんはシウルの隣に腰掛けた、
「師匠、
ではあのお方を見届けたのもお前か?」
(あぁ、
あいつは俺に頼み事をした、
元の世界に戻ったら家族に自分のことを言って欲しいと、)
「元の世界?」
シウルは顔を上げて幽霊さんを見た、
(これはシルフィにしか話していないが俺はこの世界じゃない世界からきた、)
「この世界ではない世界、
聞いたことがある、
召喚により別の世界から人を呼ぶこと、」
(やはりこの世界にもあったか、
異世界召喚、
俺はその魔法陣の事故っぽいものに巻き込まれたらしく、
気が付けばこの体だった、
その後すぐに産まれたばかりのシルフィに出会った、)
「まさか異世界の者に会えるとは、
長生きをするものだ、
しかし、
あの者も異世界の者だったとは、」
(俺も驚いた、
だから俺はあいつのためにも元の世界に戻らないといけない、)
「わかった、
しかしなぜ我にその事を話す、」
幽霊さんはシウルを見る、
(シウルがシルフィの家族だからだ、)
シウルは呆気にとられた、
「そんな理由でか?」
(そうだ、
シルフィの家族だからだこの話をしたんだ、)
「フッ、
面白い奴だ、」
シウルは再び目を閉じて頭をさげる、
幽霊さんはしばらくの間シウルの側で空を見上げた、
そして誰にも聞こえないように小さな声で、
(絶対に約束を果たすからな、
葵、)
そう呟くのだった、




