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リクエスト作品

最強神話

作者: 風白狼

 むかしむかし、おおむかし。ある日、山の真ん中に隕石が降ってきました。大きな隕石は大きな衝撃を起こし、辺りの山をぜんぶ吹き飛ばしてしまいました。

 隕石が落ちた場所から少し離れたところに、小さな村がありました。村の人達は若者を何人か集めて隕石を調べに行きました。そこはとても大きな、丸い谷ができていました。くぼんだその大地は歩くのも一苦労です。

 やっとの事で村の若者達は谷の中心にたどり着きました。そこには黒く光る石があるだけでした。他に何もないのですから、この石が山を吹き飛ばしたのです。きっとすごい力を秘めているに違いありません。

 その石は腕の長さと同じくらいの大きさでした。硬い石でした。棒で叩くと、とても良い音がしました。また、こするとぴかぴかと輝きました。若者達は素晴らしい石だと思いました。神様が宿っているのではとも考えました。大地の形を変えてしまったのですから、とても強い神様なのでしょう。このまま雨ざらしにしておいたら、祟りで村が吹き飛ばされてしまうかもしれません。

 若者達はその隕石を村まで運んでいきました。事情を説明し終わると、村人は早速お社を作りました。力仕事ができない女性や子供、老人は神様を祭る宴の準備をしました。何日かで立派なお社ができあがりました。村人はそのお社に隕石を置き、穀物や肉、果物を供えました。


 ところで、この村では祭りのとき、神様に踊りを捧げることになっていました。娘達に綺麗な服を着せて神様の前で踊り、その周りを囲むのです。

 村には踊りがとても上手な娘がいました。その娘は村一番の美人でもありました。娘は踊り子として衣装を着ました。衣装は冬ごもりする小さな虫から取った糸で作られた、上質な物でした。丈は短く作られ、足は膝の上が見えていました。胸元のあわせはゆるく、腕のところを薄いベールで止めてあるだけでした。だから、踊りが激しいと隠された肌が寸の間露わになることもありました。娘の秘められた宝宮が垣間見えると、男達は手を叩いて喜びました。

 踊り子は衣装のことも特別変だとは思いませんでした。むしろ、神様に対する正しい衣装なのだと思っていました。だから見せてしまって男達が喜んでも、嫌だとは思いませんでした。


 踊りの奉納が終わると、石はお社に安置されました。そのひとかけらを使って、人々は盾を作りました。それは丸く湾曲しただけの盾で、飾り気はありませんでした。でも神様が宿った石の一部を使った盾ですから、素晴らしい盾に間違いありません。その隕鉄を使った盾は誰が持つべきなのか、村中で話し合いが行われました。結局、盾は踊り子が持つことになりました。この村で踊り子は神様に一番近いところにいる存在だったからです。

 隕鉄の盾をもらった踊り子は、狩りに出かけることもありました。踊り子は戦士でもありました。華麗な踊りで猛獣の攻撃を躱し、リズム良く攻撃することができました。盾は獣の角や爪を弾きました。踊り子が盾を使っている様子を見ると、人々はやはり素晴らしい盾だと褒めました。

 悪党が村を襲ったとき、踊り子は戦いました。盾はもちろん活躍しました。固い隕鉄でできた盾は、悪党の剣を弾いてしまうのです。悪党が逃げてしまうと、人々はやはり素晴らしい盾だと言って褒めました。



 ある日、踊り子は村の男達と一緒に狩りから帰ってきました。大きな獲物を捕ることができたので、村の人に分け与えました。ふと隕鉄の盾を見ると、キズが付いていました。踊り子は急いで家の奥に持って行きました。そして盾を削ったり熱したりして、キズを隠しました。もともと模様のない盾でしたから、直すのは簡単でした。踊り子はキズがないことを確認して、台座に飾りました。人々はキズのない盾を見て、素晴らしい盾だと思いました。

 別の日、踊り子は村に攻めてきた盗賊を追い払いました。盾はやはり盗賊の剣を弾きました。けれど盾にはキズが付いていました。踊り子はまた盾を磨いてキズを隠しました。

 人々は隕鉄の盾はどんな武器でも傷が付かない最強の盾だと信じていました。けれど、踊り子はそうではないことを知っていました。戦えばキズができてしまう物だとわかっていました。でも、それを打ち明ける勇気はありませんでした。人々をがっかりさせたくなかったのです。だから、踊り子はキズを隠し続けました。キズが付く度に、表面を削って磨き、熱して形を整えました。

 やがて隕鉄の盾は薄くなっていきました。徐々に徐々に薄くなったので、村人は気付きませんでした。それでも、踊り子はこれ以上ごまかすのは無理だと感じていました。薄くなったことに誰かが気付くかもしれません。もしかしたら、薄くなったせいで盾が壊れてしまうかもしれません。壊れてしまったら、最強の盾ではなくなってしまいます。

 踊り子は考えました。考えた結果、盾は持っているだけで使わないことに決めました。盾で攻撃を受けることがなければ、傷が付くこともありません。もともと踊り子は避けるのが得意でしたから、盾を使わずに攻撃するのは簡単なことでした。

 村人は気付きませんでした。盾も傷つくことがありませんでした。踊り子は獲物や悪党をなんども倒しました。盾はやはり最強だと褒め称えられました。



 そうして何日か過ぎた日のこと。村に大軍が攻めてきました。村の男達は戦いました。踊り子も戦いました。踊り子は大勢の兵士相手に一歩も引きませんでした。しかし、敵の数が多すぎました。とうとう村人は全員殺されてしまいました。

 盾は残りました。踊り子が最後まで使わなかったからです。隕鉄の盾は一番奮戦した踊り子の持ち物でした。盾は割れもせずキズも付かず、綺麗なものでした。戦利品として持ち帰るのにちょうど良い品です。そのため、踊り子にとどめを刺した兵士が盾を持ち帰りました。

 兵士は盾を自慢しました。飾りはないものの、戦いの中でキズが付かなかった盾でした。村の戦士の中で一番強い者が持っていた盾でした。隕鉄の盾の噂はすぐに広まりました。

 盾はいつまでも残りました。噂を聞いた人々が皆で守ったからです。盾はもう戦場に出ることはありませんでした。使う人も現れませんでした。それでも隕鉄の盾は、いつまでも残りました。

 黒藤紫音さんと嘘泣ぴえろさんから『踊り子』『隕鉄の盾』『道化師』というキーワードを頂いて書き上げました。


 隕鉄、すなわち鉄隕石は製錬技術が無かった時代と地域で特に重宝されたそうです。また天から降ってきた物として、宗教的な意味合いもあるのだとか。……こんな美味しいネタを前にして、書かずにはいられませんでした。

 しかし読めばタイトルの意味もわかるでしょうが、なろうに上げるに不向きなタイトルだったかもしれません。

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