シムニードの日誌六日目:鬼神の洞窟
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/八
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣
祝福:正義と真実の女神の加護
休息により、いくらか体力も回復した。
※体力:八→一〇
マンティコアを相手取るには、未だ不安なコンディションではあるが…。
明け方、私は目を覚ました。
日の出から一時間程経った頃、外で物音がして、五人の人オークが入ってきた。その後から、極彩色のマントを羽織った、白髪交じりの老人が続く。彼が口を開いた。
「儂は、このトールの酋長じゃ。手荒な真似をして済まなんだ、旅の人」
そして連れてきた召使いの一人に頷くと、パンとミルクが運び込まれた。
「遠慮なさらず、召し上がってくだされい」
「然らば」
腹を決めている私は、躊躇わず手を付けた。今は、少しでも体力を回復しておくのだ。併せて、アモフの実もデザートとする。
※食料消費:アモフ(体力回復二倍)
※体力:一〇→一四
酋長の語る事情は、概ねこちらの把握している通りだった。
「儂等も、手を拱いておった訳ではない。部族の者が数人、我が娘を救うべく洞窟に挑んだが、帰った者はおらなんだ。貴方を力ずくでもお引き留めしたのは、それだけ儂等も必死だからじゃ。貴方こそ、我々の闘士たるべきお方、我が跡継ぎを救い出してくださるお方に違いないとお見受けした。成功の暁には、褒美は貴方の望みのままじゃ」
「なるほど。事情は大いに同情に値するが、私に選択の余地を与える気はないな?」
「…何とぞ、儂等をお救いくだされい」
「なるほど、よろしい。要請の手段に納得はいかぬが、諸君等には勇気があり、あと足りぬのは知略のみと得心した。アナ国の知恵をお貸ししよう」
人の良さそうな面構えだが、なかなか喰えぬ老人だ。
私は村から連れ出され、村に隣り合った丘を、曲がりくねった道伝いに登っていく事になった。丘の天辺には縦穴があり、恐らくここが悪鬼の洞窟なのであろう。人オーク達は、私を下ろす為の駕籠の準備を始めている。
脱出するなら最後のチャンスだが、今更逃げ出すのも、誇りあるアナ国人として恥ずべき事だ。体力も万全とは言えぬが、必要な分は回復している。人オークの貧しい村では大した報酬は期待できぬが、せめてその褒美とやらを楽しみに、危険に挑むとしよう。
真っ暗な縦穴を、駕籠で下へと下ろされていく。
ふと、ジャンがいればまた煩く喚き立てていた事だろう、と思う。魔法使いにとって致命的な豆人だが、私は奴の軽口が嫌いではなかったのかもしれぬ。
「…とうとう、名前では呼んでやらなかったな」
こんな事を考えている場合ではない。私は気を引き締めて、眼下の暗闇を睨んだ。底まで着くと、人オーク達が、火口と松明を投げて寄越した。火を灯して辺りを窺うと、相当広い洞窟の様だ。二本の通路が先に続いている。
ここは慎重に、探険の鉄則、左手の法則に従って進もう。私は左手を壁に付け、歩き出した。
道は降り坂で、間もなく二股に分かれた。
当然左だ。
回廊の様な横穴を進んでいると、啜り泣きが聞こえてきた。弱々しい人影に灯りを近付けると、暗闇に隠れて人オークの娘が蹲っていた。
「しっかりせよ。お前の父上、トールの酋長に頼まれ、助けに来たのだ」
私は人オークの娘を立ち上がらせると、娘は必死にしがみついてきた。人間からすれば、人オークの娘はお世辞にも可愛らしいとは言えぬが、幼き者に慈悲を垂れるのはアナ国人として当然の事。…ジャン? あれは小さいのであって、幼いのではない。そして私はロリコンではない。
「道理で私への風当たりが強いと思いました、シムニード」
「どうして正義の女神なのに、こういう話題のみに喰い付いてくるのですか」
「私が貴男の旅を助けられるのは、シャム丘陵地帯、“城砦都市”、“無限荒野”、“魔砦”それぞれの四度のみ。それ故、助けにならない範囲で、出番を増やしているのですよ、シムニード」
「ぶっちゃけトーク、痛み出でます」
「イエス・ロリータ☆ノー・タッチ♪」
腹の立つテヘ☆ペロのヴィジョンを残して、女神は消えた。取り敢えず、ここから出なければ。
その時、背後から轟音が轟いた。見ると、回廊の壁が崩れ落ちている。退路を断たれる形になった。仕方なしに、人オークの娘を連れて先へ進む。前方に明かりが見えてきた。出口が他にもあるらしい。だが、このまま無事に出られるとは思えない。
回廊から洞窟に出ると、耳を聾する咆哮が辺りを劈いた。私は後退し、娘が恐慌を来す前に、眼前の光景から娘を庇った。
人面獣身、有翼有毒の巨獣が、私の前に立ちはだかっていた。洞窟の鬼神、マンティコアだ。私を見ると、翼を羽ばたかせ、獲物に狙いを定める様に後退る。
無論、私の剣で敵う相手ではない。だが、私にはアナ国の叡智がある。今“機”にある呪文は、加速呪文と力場呪文。加速呪文を使うには、触媒が足りぬ。となれば…。
力場が我々の前に展開されるのと、マンティコアが後ろを向くのは同時だった。
※体力:一四→一〇
「下がっていろ!」
娘に鋭く叫び、私はマンティコアの毒針を魔法の力場で弾き返す。流石に鬼神と恐れられる怪物、呪文一つで片が付く相手ではないか…!
まだ、呪文を使う体力は残っている。私は意念を凝らした。
マンティコアが向きを変え、私と再び対峙する。
運命が展開し、“機”が移ろう。召喚呪文は、触媒を持っていない。だが、こういう強大な敵相手にこそ、絶大な威力を誇る基本呪文が役に立つ。
「燃え尽きろ…!」
※体力:一〇→六
私の掌の中に発生した灼熱の火球が、マンティコアの脇腹に吸い込まれる。洞窟に、マンティコアの苦鳴が響き渡った。
「…何!?」
マンティコアは脇腹から煙を上げながらも、未だ倒れていない。並の相手ならば、今ので決まっていた筈だが、恐るべき化け物だ。
次で決める。さもなければ、私に勝ち目はない。再び“機”が移ろい、今私に選べる呪文は一つだけだ。力場呪文と並ぶ防御の呪文…。鉱山の鬼を退けた、障壁呪文だ。
※体力:六→二
通路の反対側で体勢を整えていたマンティコアが、咆哮を上げて跳び掛かってきた。
そして、私の作り出した見えない障壁にぶつかり、唸りを上げる。喰い破る事はできず、回り込もうとするが、変幻自在に壁を動かし、マンティコアを囲い込む。
「来い! 今の内に洞窟を出るぞ!」
額に脂汗を滲ませて集中しながら、私は人オークの娘を抱き寄せ、マンティコアを封じ込めつつ出口へ急いだ。
呪文の効果が切れる頃には、私達は洞窟を抜け、丘の斜面へと出ていた。
「ふうう…!」
基本呪文を三連続で使用して、封じ込めるのがやっととは…洞窟の鬼神の名は伊達ではなかったな。
私は娘を連れ、トールへと引き返した。娘を取り戻した酋長の喜びは大変なもので、村を挙げて呪いが解けた祝いを執り行う事になった。
晴れて自由の身となった私は、疲れ果てた体を村の祈祷師に癒してもらい、今日一日休息を取る事にした。
※体力:二→一七
ぐっすりと一晩眠った私は、翌朝トールを発つ事にした。旅立ちの前に、酋長が顔を見せる。
「貴方は、本にようやってくださった。村人一同、感謝の言葉もない」
「何、何が何でも私を逃さなかった、貴男の判断によるものだろう」
「トールの知略、という訳か喃?」
笑い合うと、酋長は私に金貨一〇枚の入った袋と、大きな鍵を手渡した。
「貴方が“城砦都市”を目指す途中だという事は知っておるが、あそこは邪悪な街でな、常に用心しておらねばならぬ。二年前“城砦都市”からやって来た旅人がここを通った時、未来永劫あの街には戻らぬと言い残してこの鍵を儂にくれた。これは街の門の鍵でな、これさえあれば、誰にも悟られずに街へ入っていける筈じゃ」
※金貨:一〇→二〇枚
※装備追加:門の鍵
「これは忝ない。何よりの贈り物だ」
“魔砦”を目指して“無限荒野”に侵入するには、“城砦都市”を抜けて邪波河を渡るしかない。魔の罠の都に安全に侵入できるというのなら、これはまたとない宝と言える。村人達も三々五々集まり、旅立つ私を見送ってくれた。その中には酋長の娘もおり、小さな手を振ってくれている。
「諸君等の友情に感謝する! 然らば、女神の加護あらん事を!」
※運勢上限上昇:一二→一三
村人に別れを告げ、シャム丘陵地帯を下り、稲穂の間を抜け、私は城壁に囲まれた“城砦都市”を眼下に見下ろした。あそこが、私の次の冒険の舞台となるのだ…。
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七
運勢:一三/一二
装備:背負い袋、金貨二〇枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣、門の鍵
祝福:正義と真実の女神の加護