シムニードの日誌五日目:トール
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、食料一食分、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣
祝福:正義と真実の女神の加護
夜明け前には起きて支度をし、夜明けを待って出発する。
「おはよう、変人シムニードの旦那! あんないい宿この先無いかもしれないのに、おかしな旦那だよ、全く!」
「朝から煩いぞ、羽虫」
ジャンは、相変わらず喧しく私の頭上を飛び回っている。
流石に空きっ腹が鳴っている。昨日はグランディガンの所でエールを一杯馳走になったきり、何も口にしていないからな。
※昨日一度も食事していない場合、体力マイナス三。
※体力:一七→一四
ここからは、道が二本出ている。
地図を確認する。東は、黒いロータスの花畑に通じている。危険だ。西は、魔女の家を経てトールに続いている。こちらを選ぶ他ないだろう。
谷に沿って一時間程降り、再び上り坂に。さほど傾斜のきつくない丘を昼近くまで登ると、再び丘は下りになった。ここらで、一休みして食事にする。
※食料:一→〇食分
※体力:一四→一六
「おいらにも分けてよ、旦那!」
「自分で蠅でも捕ってくるがいい」
「だからそんなん喰わないって! ちょっとでいいからさぁ!」
「ちょっとか。では、固パン二欠けか?」
「あうあうあうッ!」
「固パン三欠け…いやしんぼめ!」
ジャンは、私が空中に放り投げた固パンの欠片を、器用にキャッチして飲み込んだ。
そんな具合で、絶えず何かと喧しかったジャンが、いきなり高い声を上げた。
「止まれ、旦那!」
「どうした?」
「あんた、見張られてるよ。ここは森の中だから、用心して進まないと」
すると、突然茂みを分けて、黒い影が踏み出してきた。黒装束に身を固めた、背の高い男だ。
さて、十中八九盗賊の類と思うが、何か言い分があるなら、聞いてやっても良いだろう。それが文明人というものだ。
「私に何の用だ?」
しかし、男は私の言葉に耳を貸す様子もなく、鋭い半月刀を握り締めた。…やはり、盗賊の類であったか。
やむなく、背の高い刺客に対して身構える。
刺客:技量八,体力六
触媒を持っていて憶えている呪文は、銭盾呪文と稲妻呪文だ。稲妻呪文は基本呪文の一つで、問答無用必殺の稲妻の術だ。銭盾呪文は、金貨を使った盾の呪文で、戦いを有利にしてくれる。刺客と私の技量はほぼ互角、ここは稲妻で瞬殺というのも下品なので、銭盾呪文といこう。
金貨を左腕に乗せ、呪文を唱える。
※体力:一六→一五
「…」
何も起きない。呪文失敗!? 馬鹿な、呪文は正しいし、触媒も間違いない筈だ。
改めて、稲妻呪文を試すか? いや、これで不発だった場合、体力の消耗が激し過ぎて、肉弾戦に支障が出る。理由は解らないが、今は呪文が使えないと判断し、剣で片を付けた方が良い。
「来るよ、旦那!」
「くっ!」
黒ずくめの刺客はなかなかの手練れで、容易に隙を見出せない。幾つもの浅い傷を身に受けながら、相手が油断し隙を晒すのを待つ。
※体力:一五→七
「女神よ!」
※運試し→幸運
※運勢:一二→一一
祈りの言葉と共に、僅かに見付けた敵の隙に、全力の一撃を叩き込む。それで吹き飛ばされた敵に向かって恫喝する。
「これ以上続けるなら、正義と真実の女神の裁きがお前に下るぞ! それでもまだ続けるか!?」
内心立ち上がるなと願いながら、切っ先を相手に突き付ける。実際のところ、これ以上続けて確実に私が勝つとは言えないが、スタミナに勝り有利なのは確かだ。だが、呪文が使えない謎の現象もある上に、これ以上体力を消耗するのは避けたい。
相手は暫く互いの剣を見比べていたが、やがてゆっくりと頷いた。私が切っ先を引くと、彼も半月刀を収め、大仰に半身を折る。
「前半は俺が優勢だったが、あの後続ければ、勝っていたのはあんただろう。あんたの慈悲深さに感謝する!」
傷の手当てをしながら、彼は自分の事を話した。
「俺はフレイケルという。刺客で、盗賊だ。暫くここを縄張りにして、旅人相手に格闘の練習をしていたんだが、まさかあんたがこんなに強いとは。負ける筈はないと思ったんだがな」
「それは眼鏡違いだったな」
「全くだ。だが、このフレイケルは、命の恩人に対する礼儀は心得ている。これからは、あんたの味方になろう。俺の目的地は“城砦都市”だが、あんたは?」
「目的地ではないが、通る事になる」
「そうか。“城砦都市”までの供はしないが、あの街で再会したら、必ずあんたの力になろう。では、彼の地で!」
そう言うと、フレイケルは茂みの中に姿を消した。
※運勢:一一→一二
「何だいあいつ。命の恩人とか言っておいて、さっさと行っちまいやがんの」
「頼みもしないのに、つきまとう奴もいるがな」
そこで、はっとする。以前と以後で、違う点は何か。私は、豆人がついてきて以降、今まで呪文を試したか? 私の呪文行使の過程は、今思い返しても間違いはなかった。間違っていれば、体力の消耗はあんなものでは済まなかった筈だ。疑念を抱きつつ、再び旅路に戻った。
道沿いに進み、丘の斜面を廻る。煩く話し掛けてくるジャンに、些か苛ついてくる。先程の疑念にも影響されている。呪文の失敗は、この豆人が関わっているのではないか…? やがて、ぽつんと一軒建っている小屋に差し掛かった。戸口の階段に、老女が一人腰掛けている。私を見掛けると、声を掛けてきた。
「旅の人、良かったら、一休みしないかい? 寄っていきなされ」
地図によれば、この辺りに魔女の家がある筈だ。彼女が魔女なら、呪文を使えぬかもしれぬ今、接触するのは危険かもしれぬ。しかし、呪文が使えぬままこのまま旅を続けるのも、危険極まりない。危険だが、魔女ならこの現象の解決の糸口を知っているかもしれぬ。
「何か御用か、御婦人」
「何、森の中の一人暮らしは寂しいものでな。話相手が欲しいんだよ。遠慮せずに、お上がり」
「然らば、お邪魔する」
老女は、私達を家に招き入れた。
「まあ、お座りなさい。長旅で疲れただろう、飲み物でも如何かな?」
老女は足を引き摺りながら台所へ行き、大きな紅茶茶碗二つと小さいのを一つ持ってきた。
「ちょっと怪しいな」
ジャンが呟くと、老女は豆人を睨み付けた。
「豆人共は大嫌いだよ! …ああ、ポットを忘れてたね」
老女は、ポットを取りに、再び台所へ戻った。
「旦那、あの婆ぁ、お茶に何入れてるか判ったもんじゃないよ。そのまま飲むのかい?」
「…」
確かに、何が入っているか判ったものではない。だが、今席を立った老女の行動が気に掛かった。狡猾な魔女が、茶碗を入れ替える隙を与えるものだろうか? もしこれが態となら、彼女が飲ませたいのは、どちらの茶碗か…? 私は、騒ぐ豆人を無視して、老女が戻ってくるのを待った。
「さあ、頂きましょう」
紅茶は実に美味しく、元気が出てくる様な味だった。
※体力:七→八
それに引き替え、老女の動きはだんだんと鈍ってきていた。
「…こ、この、馬鹿正直の、田舎者が…それとも、勘付いてたのか、畜生め…!」
賭けは、私の勝ちの様だ。老女は聞くに堪えない罵り声を上げながら、やっとの事で台所に行き、別の飲み物を飲み干した。漸く人心地着いた様子でテーブルに戻ってくると、何事もなかったかの様ににこやかに話し掛けてきた。
「やあやあ、みっともないところを見せちまったね? あんた、旅は長いのかい? 何処から来なすった?」
「アナ国から」
「何だ、この婆ぁ、一服盛っときながらしゃあしゃあと」
「黙らっしゃい、この豆ちびが! あんたと話してないよ! …そりゃまあ、結構な長旅だねえ? それだけ旅してれば、色んな人に会ったろう? 例えば…やけに若々しい喋り方をする爺ぃとか…?」
「老人には幾人か会ったが…貴女が仰る様な老人となると、魔妖精に襲われて文無しになったという…」
「ふん、下手な言い訳だね。それで、そいつから何か、そう、呪文の書の頁みたいな物をぶん盗ったりはしてないかい…?」
「これかな?」
ある種の期待を以て、私は背負い袋からその一頁を取り出した。
「あはははは! そうそう、それだよ、儂が探してたのは!」
老女はケタケタと笑いながら、私から呪文の書をひったくった。
※装備譲渡:魔法の呪文の書一頁
「さて、どういう事情かぐらいは話していただけるかな…?」
「ああ、四日前の事じゃ。あんたの様な旅人がこの小屋へ来た。その破落戸めが、儂の目を盗んで魔法の呪文の書をぱらぱらと捲っておっての。儂はその場を取り押さえたんじゃが、魔法を掛けようとしたら、この頁を持って凄い勢いで逃げ出しおった。逃げ足の速さから見て、屹度何かの力を備えた魔法使いに違いあるまい。取り敢えず≪老いの呪文≫を掛けはしたが、効き目はなかった様じゃ」
「いや、充分に効いていた様だが」
「本当に効いてたんなら、あんたに会った時には寿命を迎えてもらわんと嘘じゃ! それにしても、よく盗人からこれを取り戻してくれなさった。礼を言うよ、アナ国人」
何だか、盗品を返して礼を言われる事が多いな。
「どれ、こいつがどれだけ役に立つ呪文か、見せてやろうかの。お誂え向きに、害虫もそこにおるでな」
「えっ」
にやりと笑って、老女は豆人を見る。
「あんたも魔法使いの端くれなら、こいつにつきまとわれて、往生しとるだろう?」
「という事は、やはり…?」
「左様、豆人の傍では、奴らの纏う霊気の所為で、魔法は一切使えん。魔法使いにとって、これ程の害虫はいやしないよ」
「なるほど、やはりそうだったか…」
「えっ、ちょっ、待ってよ。おいら、悪い害虫じゃないよ?」
「羽虫よ、悪いから害虫というのだ」
「安心しな、命までは奪りゃしないよ。残念ながら、この呪文じゃ追い払うだけで、豆人を殺す事はできん。忌々しい事に」
「殺す気満々じゃん! 旦那、旦那も何か言ってよ!」
「アリーヴェデルチ(さよなライオン)」
「殺生なー!」
「ぶっ飛ばす程シュートッ! 散滅すべしッ、害虫ッ!」
「みぎゃー!」
老女の呪文?と共に、けたたましい悲鳴を上げて、豆人は消え去った。
「いや、助かりました、御婦人。あの羽虫には、些か悩まされていたもので」
「役に立ったんなら良かったよ。引き留めて悪かったね。もうお行き」
私は、再び道沿いに歩き出した。…多少、肩が寂しい気もするが、気の所為だろう。何より優先すべきは、使命の遂行だ。
「シムニードよ、姉妹会議の決が出ました! アリです!」
「遅うございましたな、女神よ」
「えーっ!?」
空気の読めない女神を微笑んで無視すると、私は旅路を急いだ。
午後も遅くに、張り出した丘を越え、眼下にトールを臨む所まで来た。道はそこまで続いている。行く他あるまい。
グランディガンが言っていた様に、トールに住むのは人オーク、人間と邪鬼の混血種族だ。しかし、村全体が沈んだ空気に覆われ、村人達は私を気にも留めない。私は、村の真ん中の切り株に腰を下ろし、暫し彼等を観察した。
グランディガンが言った通りだとすれば、生け贄にされた娘について、何らかの接触がある筈だ。待つ事もない、こちらから切り込んでいってみよう。
私は、熱心に話し合っている人オークの一団に近付き、彼等に混じって腰を下ろした。彼等が話しているのは、前夜刺客の手によって殺された仲間の事であった。話を聞いている内に、大まかな事情が解ってきた。
村の酋長の娘を攫ったのは略奪者の集団で、やはり洞窟の鬼神への生け贄として、捧げられたらしい。マンティコアを鬼神と崇めて生け贄とはな…。原始的な邪教の崇拝者共か。古代の預言者によれば、酋長の家系が途絶えようものなら、恐ろしい天罰が村を襲うのだという。そして、攫われた娘が、酋長の唯一人の跡継ぎだとの事だった。
迷信が迷信を呼んで、訳の解らぬ事になっているな。まずは、彼等の迷妄を払ってやるか。
「待たれよ、皆の衆。私は旅の者だが、洞窟の鬼神とは人面獣身の怪物ではないか?」
「余所者が、何故知っている?」
「噂に聞いたからだ。その怪物はマンティコアといって、強大な怪物ではあっても、決して神などではない。故に諸君等の村に天罰を与える力などないし、殺せば殺せる生き物に過ぎぬ。よって諸君等が案ずるべきは、起こりもせぬ天罰ではなく、純粋な脅威としてのマンティコアの排除と、愛すべき酋長の跡取りの安否であろう。良いか、勇気と知略を以てすれば、如何な怪物と雖も恐るるには足らぬ」
無知蒙昧な未開の種族に、滔々とアナ国の叡智を説く私であったが、彼等のざわめきを感じ入った為と解釈したのは拙かった。いや、或る意味感じ入った故ではあったのだが…。
「すると、あんたなら儂等の苦しみをどうにかしてくれるんだな?」
「いや、それは正確ではない。私の言う事を理解し、諸君等の目が開かれれば…」
言い終わる前に、聴衆の一人が私に躍り掛かっていた。同時に別の一人が村の中へと駆け出し、揉み合っている内に取り囲まれ、村外れの小屋へと引っ張って行かれた。
やれやれ、こんな強引な手に及ぶとは…。所詮蛮族には、私の話は高尚過ぎたか。戸には鍵を掛けられ、他に出られそうな所もない。空腹ではあるが、残る食料は蜂蜜とアモフの実のみ。温存しておこう。解錠呪文で脱出する事も考えたが、グランディガンの話を思い返せば、彼等は私に助けを請いたいのであって、危害を加えるつもりではない。その助けの内容が危険なのは確かだが、彼等に啓蒙を説いた以上、証明してやるとしよう。
そうと決まれば、少しでも体力を回復しておこう。私は横になり、眠る事にした。
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/八
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣
祝福:正義と真実の女神の加護