シムニードの日誌四日目:ビル
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/一三
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、食料一食分、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、グランディガンの斧(戦闘使用時、技量マイナス一)、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ
祝福:正義と真実の女神の加護
やや疲れは残っているが、体調は悪くない。だが、今のところ定期的に食事を取れているが、“無限荒野”に入っていけば、食糧の確保も難しくなってくるだろう。“城砦都市”以降、旅路の厳しさはこんなものでは済まぬだろうな…。
坂は急斜面に変わり、幾度も小休止を摂らねばならなくなる。漸く辿り着いた天辺から見渡すと、道は掘っ立て小屋の並んだ小さな村に通じている様だ。私は道を降り、村へと入る。
私に気付いた村人は、まるで脅えているかの様に小屋へと引っ込んでしまう。ずんぐりむっくりした体躯に鞣し革の様な皮膚をした種族だが、手足の無い者や、両腕で這って進むしかない様な者までいる。
これは、どういう事だ? 何故不具者が多い? 可能性として考えられる事は、何か外敵に脅かされているか…疫病か、だ。外敵に脅かされているなら、家屋に被害がありそうなものだ。それが見当たらないという事は…。私は村人を無視して、足早に立ち去る事にした。いざという時にはブリム苺の絞り汁もあるし、治癒呪文を使う事もできるが、所詮村人全員に行き渡る量ではないし、私にしか使えないなら、敢えて危険を冒す事もない。
丘を少し降った所で一休みする。大きな丸石に腰掛け、先を見晴るかす。ここから道は、谷間の方へ降っている。その先に、三つの丘に囲まれる様に大きな村がある。地図によれば、あれがビル村だろう。日が急速に陰ってきている。早くあの村まで辿り着かねばなるまい。
突然、道に張り出した枝が顔をかすめ、陽気で甲高い声がした。私の肩の辺りに、親指くらいの生き物が飛び交っている。子供の様な姿だが、肌は緑色で痩せ痩けており、透き通った羽を動かして飛び回っている。やがてその生き物は、私の肩に馴れ馴れしく停まってきた。
さて、こいつは何だ? 妖精の類に見えるが、どこかの可愛らしいおてんば恋娘ではなく、どう贔屓目に見ても妖怪羽根付き小僧だ。つきまとわれても残念な気分になるばかりだが、知性があれば何か情報を得られるかもしれぬ。知性がなくても、前者の方が良かったが。口が利ける生物なのか、試してみよう。
「羽虫にしては手足が一対少ないが、私に何か用か?」
「酷いな。おいらは豆人のジャンさ! この先まで行くのかい?」
「一応そのつもりだが」
「あそこに見えるのが、シャム丘陵地帯で一番大きな村、ビル村さ!」
「知っている」
「あ、そう? じゃあ、こいつは知ってる? ビルの村人は他の所と違って親切で、旅人はみんな一晩は泊まっていくよ。でもその分、宿代は高めだけどね!」
「お前のテンションも高めだな。で、結局私に何の用なのだ?」
「おいらが旅の道案内をしてあげるよ! だからさ、おいらも一緒に連れて行っておくれよ!」
「…」
単に妖精の気紛れかもしれぬが、信用できる訳でもない。少し情報を訊くだけならば吝かでもないが、ずっとつきまとわれるのは任務に支障を来すかもしれぬ。丁重に断るべきか。
「可愛いアホの子の氷精ならばともかく、痩せさらばえた緑羽虫と面付き合わせて旅する趣味はない。何処へなりと消え失せろ」
「何で会ったばっかのおいらにそんな風当たり強いの!? つうか、全然丁重じゃないから! しかもどっかであったなこういうの!」
「宙を漂う埃の様な、貧相で浅学な羽虫に教えてやろう。繰り返しは冗談の基本なり」
「慇懃に口悪いね、あんた! ふん、どうせおいらが邪魔なんだろう? お生憎様、嫌だっつっても、ついてくモンね!」
「…」
ぴしゃ。
「うおおうっ!? 無言で叩き潰そうとすんなよ!?」
「女神よ、この羽虫はどうにかならぬのか」
「シムニードよ、私への願いをこんな事で使ってしまうべきではありませんよ? それに、私としてはぶちゃいくやんちゃ系との掛け算はギリギリアリだと思うのですが、サイズ差萌えというのはここまで極端だと成立するのかどうか、ただ今姉妹間で協議を…」
「貴女に訊いた私が愚かであった」
どうにもならぬ様だし、今のところ極めてウザい以外は実害もないので、諦めて村へと向かう事にした。
「…妖精が出て来て、オスでガリで緑色って、どういう罰ゲームなのだ…」
「妖精に、えらい浪漫持ってたのね…。この“無秩序地帯”で無駄な事を」
一頻りこの羽虫を潰せぬものか試した後、やはり諦めて村への道を辿った。
村では祭りの最中だった様で、皆陽気に浮かれ騒いでいる。
「子供のお祭りなのさ。年に一度だけ子供達に許される村の無礼講で、悪戯をしては大いに楽しむ日なんだ」
「なるほど。この惨状は、そういう訳か」
先の方の大通りでは、少年達が腰を下ろしてエールを呷っている。大いに酩酊の様子だ。その向こうでは、一人の少年が老婆を膝の上に乗せ、尻を叩いて折檻している。≪グランディガン酒場≫の看板が出ている小屋の前では、一塊の少年達が喧嘩をしている。≪水晶の滝≫の標識の前で、少女達が通り掛かる大人に脚を引っ掛けて転ばせては、顔を見合わせて嘲笑している。
「全く、酷いものだ。秩序も何もあったものではない」
「そう言いなさんなよ、シムニードの旦那。一年に一度の事なんだからさ」
「構わんが、私はビルの住人ではなく、誇り高きアナ国人だ。こんな馬鹿騒ぎに関わる気はない」
喧噪を避けて宿に入るか、すぐにでも村を出たいところだったが…。
「グランディガン…」
酒場の看板を確かめ、戸口へ向かう。
「おっ? やっぱり、祭りを楽しむ気になったのかい?」
「あんさんはだぁーっとれい」(part2)
居酒屋に入り、主を呼ばわる。
「グランディガン殿はおらぬか?」
「はいはい、ただ今。ビル村はグランディガンの酒場へようこそ、旅の人。儂がグランディガンだ。旅人はいつでも大歓迎さ! 何か外の楽しい話を聞かせてくれるかい? エールが呑みたいなら、金貨二枚で旨い奴を出すよ」
「いや、この斧に見覚えはないかね?」
私が斧を取り出すと、グランディガンと名乗った老人は目を輝かせた。
「一体それを何処で手に入れなすった?」
「カントで、盗人が取引していたよ。盗んだ本人かは判らぬがね」
そう言って、元の持ち主に斧を返す。
「あんた…! よくぞこいつを取り戻してくれなすった! さあ、呑んでくれ呑んでくれ! まずは感謝の一献を受けてくれ!」
グランディガンは全身で感謝の気持ちを表しながら、エールのジョッキを差し出してきた。有り難く頂く。
※装備譲渡:グランディガンの斧を渡す。
※体力:一三→一五
「さあ友よ。儂はこの辺ではちょっとした顔でな、あんたの役に立ちそうな事を何でも教えてやるぞ。そうじゃな、まず初めに、水晶の滝へ行くがいい。あの滝は如何なる病や苦痛も癒す、凄い力を持っておる。これが通行証だ。番人にこれを見せればすんなり通してくれる筈じゃ」
グランディガンはそう言うと、通行証を手渡してくれた。
※装備追加
水晶の滝の通行証
「あんたはこれからどっちへ?」
「まずは“城砦都市”を目指す事になるな」
「“城砦都市”か! あの悪徳の街に何の用かは知らんが、それは訊くまい。ビルから“城砦都市”に行くにはトール村を通る事になる。トールには人オークが住んでおるが、その酋長が娘を捜してくれと頼んでくるのは間違いない」
「娘?」
「左様。娘というのが、略奪者に攫われてな、恐ろしいマンティコアが守りおる暗い洞窟に生け贄として置き去りにされたのじゃよ」
「マンティコアか…! 厄介だな」
「だが、トールから“城砦都市”までは僅か一日足らずで辿り着ける筈じゃ。実を申せば“城砦都市”には心強い身内がおる。何か困った事が起きたら、すぐにヴァイクを呼びなされ。儂の友人での、力もあるし顔も利く」
「これは、色々と世話になった。私の方こそ礼を言わせてもらう」
グランディガンと握手を交わし、別れを告げる。
「おっと、あんた、儂に斧を渡してしまったら、得物に困るだろう? こいつを使ってくれ。在り来たりの物だが、作りはしっかりしている筈じゃ」
グランディガンは、代わりの剣まで用意してくれた。
※装備追加
剣
「何から何まで、忝ない」
「幸運をな。また呑もう」
グランディガンと握手を交わし、酒場を出る。
「いい人みたいだったけど、ちょっとくどかったね」
「良いか虫。お前の環状神経網では解らぬかもしれぬが、これが人の友愛というものなのだ。良く覚えておく事だ節足動物」
「悪かったよ。つうか、おいらがちょっと言ったら三倍くらいで返してくるよね?」
「いつでもいなくなって良いのだぞ?(微笑)」
「ううん、何だかちょっと快感になってきた」
「何それマゾい」
「では、通行証もある事だし、早速その水晶の滝とやらに行ってみようよ!」
「良いか虫、水辺だからといって、滅多矢鱈に産卵してはならぬぞ。片っ端から踏み潰す故な」
「つうか、何処までおいらを虫扱いすんのさ! いい加減ジャンって呼んでおくれよ!」
「はははこやつめ、どうして私が緑の羽根付きオスガキにデレねばならぬのやら」
そんな事を言い合いながら、なだらかな上り坂を行く。滝までもう少しという所で、ただ一つの道を遮る様に、脇の小屋から破落戸らしい奴等が湧いて出た。
「おっとォ、滝へ行きたいんなら、通行料は金貨三枚だ」
「大人しく出した方がいいぜェ、あんちゃん」
破落戸共は不愉快だが、目の前の景観は素晴らしいものだ。上から下まで岩のあちこちから鍾乳石が垂れ下がり、幻想的な様相を呈している。
「黙らっしゃい。これが目に入らぬか」
「げっ、そりゃあ、グランディガンの旦那の…」
「ど、どうぞお通りくだせえ…あと、こいつをどうぞ」
一喝して通行証を見せると、破落戸共は途端に態度を変えて謙り、脇へ退いた。そして、タオル代わりの布を一枚寄越してくる。私の他には、村人が二人、虫が一匹だ。
「言うと思ったよ!」
服を脱ぎ、滝の水を浴びる。疲労が癒されるだけでなく、活力が湧いてくる感じだ。
※体力:一五→一七
※病に罹患していれば回復
すっかり元気を取り戻した私は、一先ず村の方へと引き返した。
宿屋で確認したところ、ジャンの言う通り、宿代は決して安くはなかった。宿泊が金貨五枚、食事が金貨四枚だ。
「…」
「何してんの? 早いとこ部屋を取ろうよ。満室になっちまうぜ?」
確かに、これが物見遊山の旅なら、一も二もなく泊まるところだ。休息が必要な程疲れ果てている場合も同様。しかし、これは使命の旅、路銀も食料も限られている。
「行くぞ、羽虫」
「ちょ、ちょっと、何処行くのさ?」
「野宿だ」
「うええ!? 言ったじゃないか、誰でもここでは一泊してくぐらい、いい所だって。何でわざわざ野宿なんか…」
「…」
羽虫を無視して、村を出る。
ジャンはガタガタと喧しかったが、村の喧噪を離れ、落ち着ける場所に塒を定める。やがて、騒ぎ疲れたジャンは、私の傍で丸くなって眠りに就いた。食事も摂るのは控え、私も眠りに就いた。村の喧噪のただ一つ有り難かった点は、野生生物が寄ってこない事だ。
思わぬ旅の道連れができてしまった。正直、女神だけで手一杯だが…。しかしこいつ、何か勘違いしておるのだろうな。私と旅したところで、危険なだけで何も得などないものを…。
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、食料一食分、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣
祝福:正義と真実の女神の加護