シムニードの日誌三日目:ダン
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/一三
運勢:一二
装備:剣一振り、背負い袋、金貨三枚、食料一食分、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、グランディガンの斧(戦闘使用時、技量マイナス一)、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)
祝福:正義と真実の女神の加護
昨日は旨いシチューも頂いたし、体調は万全だ。
クリスタ丘陵から先、道は二つに分かれている。
道標が立っている。
<←125 226→>
「…」
はあ!?
「ちょっ、女神よ!?」
「何ですか、ほいほい女神を呼ばわってはいけませんよシムニード。私、そんな軽い女じゃないんだから」
「そういう小芝居いいですから。つうか、この道標は酷くありませぬか? 剥き出しというか…歯に衣着せぬにも程がある。折角色々濁してやっているのに、台無しではないか」
「そういう文句は、スティーブに言ってください」
「またメメタァな」
「いいえ、スティーブとは創造神の真のお名前。実はスティーブとイアンの二柱の事なのです。みんなには内緒よ♪」
「さらっと結局メタなカミングアウトされても」
「いいですかシムニード。こういう時こそ、貴方の英雄としての真の資質が試されるのです。敢えて手掛かりのない選択に挑戦し、神に愛されし英雄たる事を証すのです」
「貴女が愛してくれれば済む話ではないですか?」
「…テヘ(ペロ)」
「あっ、あのアマ、適当に誤魔化して消えやがった」
愛さないなら、何故造った。それはともかく、手掛かりがない以上、適当に選ぶ他ない。居酒屋で聞いた話だと、どちらかがアリアドネとかいう人物の所へ、どちらかが“大いなるものの領分”へ通じている筈だが…。
「125にするか…」
くねくねと曲がる、森の中の道を歩いていく。瘤だらけの木が生い茂る森の中を、午前中一杯歩き通して、漸く東からの分かれ道と合流する拓けた場所に来た。分かれ道には標識があり、真っ直ぐ行けばダン峡谷、西へ向かえばアリアドネへ通じているとの事だ。
…老人は、アリアドネがいたら頭を使わなければならないと言っていたな。という事は、アリアドネとは地名ではなく人名という事だ。標識にまで書かれているという事は、余程の要注意人物という事か。戦士であれば無視しても良いかもしれぬが、私は魔法使い。頭を使えと言われて、引き下がるのも興冷めというものだろう。それに、ただ危険なだけなら、老人は近付くなと警告してくれた筈だ。立ち寄る価値はあるのだろう。私は、西へ向かう事にした。
道を少し降っていくと、まるで絵の様な背景の中に小屋が建っていた。木々の葉の陰りのある緑が、小屋をくっきりと浮き立たせている。花々が外壁を彩り、扉には華やかな模様が描かれている。名前の印象通り、女性の様だな。近付いて扉を叩いてみたが、返事がない。
このまま帰ったら、何をしに来たのか解らない。中の様子を覗いてみよう。上手くすれば、ラッキースケベにありつけるかもしれぬ。
「この“無秩序地帯”で、そんな事あり得ると思います~?」
「ないですな」
ホイホイ出て来る安い女神を受け流して、戸を潜った。
小屋の中はきちんと片付けられており、一瞬ここが既に“無秩序地帯”である事を忘れそうな佇まいだ。その神経質な清潔さは、住人の気難しさを思わせる。テーブルと一組の椅子、一隅にはマットレス、広い台所は料理好きな趣味も伺える。大きな食器戸棚の影で、泣き声がする。覗いてみると、若く美しい女が、大きな檻に閉じ込められている。
「旅の人、此処から私を出してください! 魔妖精達に、もう二日もここに閉じ込められたままなのです! お願いです!」
「笑顔怖っ!」
「若く美しいって書いてあるでしょう!? 筋書き通りにやれやコラ」
「何でお前等そうメタなの?」
また魔妖精か…。厄介事の総てが、奴等の所為にされている気がするな。さて、頭を使えと言われたがどうするか。こいつがアリアドネだとしたら、噂の要注意人物だ。エルヴィンなんぞに、誑かされたりするだろうか…? 狂言の可能性もある。もしそうだったら、小屋を漁るのは危険だ。また、ただ助けるのも、頭の良い者がする事ではない。短絡的だ。
「例えば、私がその檻の鍵を外したとして、私は貴女にどんな見返りを期待して良いのでしょうかね?」
「貴男の旅のお役に立つ様、お力添えをいたします。貴男は魔法をお使いになるの?、それとも剣?」
無論、魔法だ。アリアドネが魔女だとしたら、触媒を分けて貰えるだけで有り難い。
「こう見えて、魔法を嗜む者でね。触媒を幾許かでも分けて貰えれば有り難いが」
「私にも、いささか魔法の心得がございます。助けていただけるなら、魔法の触媒を三つ、確かに差し上げます」
アナ国人は強盗ではない。野蛮人や無秩序の軍勢相手ならともかく、正当な取引には応じるものだ。
「宜しい、取引成立だ。待っていたまえ」
檻の扉には、頑丈そうな錠前が仕掛けられている。生憎と、鍵の持ち合わせはない。
今使える“機”にある魔法は…解錠呪文一択だな。加速呪文を使うには触媒が足りないし、この状況では使っても意味はない。鋭刃呪文の触媒、蜜蝋は持っているが、使っても剣で鍵を壊す程度の使い道だ。蜜蝋が勿体ない。
「オリ! カギ! ゴマ! オ・カ・マ! オカマ、オ・カ・マ!」(串田Aキラの声で)
「そう、ネタ振り回収ですよシムニード!」
「あんさんはだぁーっとれい」(塩○翼の声で)
「ああん、女神の扱いが雑に♪」
ホイホイ出て来て、有り難みゼロだからな。
※体力:一三→一一
錠前が唸り始めると、やがてバラバラに分解した。
「どうも、ありがとうございます、旅の魔法使い。是非、私の感謝の気持ちを、お受け取り下さいませ」
「では、魔法の触媒を分けて頂けるかな?」
「では、これをどうぞ」
女が渡してきた小箱には、膠の入った小瓶、二股に分かれた奇妙な鼻栓、玉石が四つ入っていた。…私とて、アナ国の魔法の総てを知っている訳ではないが、これらの触媒を使う魔法には心当たりがある。なかなかの収穫だ。
※装備追加:膠、鼻栓、玉石四つ
「そして、これもどうぞ」
更に、金貨が七枚も入った袋もくれた。さて、この大盤振る舞い、早速雲行きが怪しくなってきたぞ。
※金貨:三→一〇枚
「では、私はこれで失礼する。戸締まりの仕方にはご注意あれ。御機嫌よう」
すると、女は私の肩に手を置いて、にっこり微笑んだ。
「家を出るまでが、アリアドネのおもてなしですわ!」
振り返ると、女は椅子に向かって何かの呪文を唱えていた。椅子はキイキイと蠢き、木のゴーレムへと姿を変えた。
「そうきたか」
木のゴーレム:技量八,体力六
さて、恐らく技量としては互角。速度で私、力でゴーレムが上だろう。無駄な消耗は避けたい。できれば格闘戦は避けたいところだ。呪文で有効そうな候補は二つ。舞踊呪文か火球呪文だ。火球呪文は確実だが基本呪文故消耗が激しい。果たしてゴーレムにも効くかどうかは賭になるが、ここは再び舞踊呪文でいってみよう。…良し、余計な茶々も入らん様だな。
※体力:一一→一〇
「えっ、ネタは、ネタはどうしたのです、シムニード?」
「そう毎回ネタで呪文を唱えられますか」
竹笛を取り出し、呪文を唱えて吹き鳴らす。ゴーレムは動きを止め、不思議そうに私を見ると、身震いした後、ぎこちなく爪先立ちになって前後に跳び跳ね始めた。その隙に、戸口の方へ後退る。
「お見事ですわ、旅の方。どうか旅のご無事を」
アリアドネはゴーレムを踊るに任せ、立ち去る私にハンカチを振った。やれやれ、そういつもいつも女に振り回されるのは勘弁だ。
急いで家を出ると、分かれ道まで引き返し、今度はダンという標識が出ている北の方へ向かった。
午後一杯を歩き続け、丘の天辺に辿り着く。降り坂の先に、川沿いの小さな村が見える。あれがダンか…? 私はそこを目指し、歩き始めた。
漸く、村の標識のある入り口にまでやって来た。<ダン村>…間違いない様だ。
結構疲れは溜まっているが、村人から何かこの先の情報を聴けるかもしれぬ。
私は村の真ん中を通る道を行き、村人が数人座り込んで何か食べている小屋の前まで来た。何事か、話し込んでいる。
これは上手くすれば、情報ついでに食事にもありつけるかもしれぬ。
彼等は話をやめて、こちらを見る。そして手招きしてくるが、私の腰の剣を見て、ぎょっとした様だ。
ふむ、怪しくない訳ではないが、剣を奪ったところで、私を武装解除した事にはならない。私は一旦武器を置くと、彼等の方へ近付いた。
「どうも皆様、私は旅の者、シムニードと申す」
「我々は、この村の村議の衆じゃ。ダンによう来なすった、旅の人」
村のお偉方か。近付きになれたのはツイているな。
「良かったら一緒に火に当たって、食事をしていかんかね?」
「それでは、お言葉に甘えて」
食事は粗末な物だったが、充分に有り難い。
※体力:一〇→一一
話している内に打ち解けてきて、冗談も飛ぶ様になってきた。どれ、私も一発飛ばしてみるか。
「…ところで、クリスタには頭のおかしい奴がおりましてな、自分の村の名前も憶えられない。
『おい、お前の村の名前、何だっけ?』
『え~っと、クリス?』
『惜しい。タが足りない』
『クリタス?』
『場所が違う』
『ダン?』
『その場所じゃねえよ! 元に戻せ!』
『クリス』
『お前とはやっとれんわ!』
…とまあこんな具合で…」
…しまった、外したか? シーンとしたのでそう思ったが、お歴々の視線は、ある一人に向けられている。彼は顔を真っ赤にして、打ち震えている。
「…お前、クリスタでも同じ事言えんの?」
「はあ」
「俺の故郷を侮辱しやがって…このアナル国野郎が!」
「貴方の方が酷くないか!?」
遺憾、どうも彼の故郷がクリスタだったらしい。彼はかんかんに怒って、私に挑み掛かってきた。とはいえ、ここは彼の縄張り。受けて立つのは賢明ではないだろう。
「失礼しました!」
そう言うなり、私は跳び掛かってくるそのお偉方から逃げ出した。彼はしつこく追い縋ってきたが、村の外れまで逃げると、漸く追うのを諦めた様だ。
「やれやれ…」
一息吐くが、剣を置いてきたままだった事を思い出した。今からダンへ戻る訳にも遺憾。
「参ったな…」
飛んだ軽口で酷い目にあったものだ。口は災いの元とはこの事だな。幸いグランディガンの斧があるので、当面はこれで凌ぐしかないか…。
※装備紛失:剣
素手の場合、技量マイナス四。グランディガンの斧があるので、技量マイナス一で済む。
気を取り直し、旅を続ける。再び坂道となり、森の中へ入っていく。そろそろ日も暮れてきたが、道からそう遠くない所に、雨露を凌げそうな所があった。
体力も万全とは言い難い。今日は大人しく休むとしよう。
木陰の、気持ちの良さそうな所に腰を下ろす。食事はダンで頂いたので、あれで我慢するとしよう。
私は、横になって眠りに就いた。
幸い、野生動物に眠りを妨げられる事はなかった。
翌朝、野宿にしては快適に目覚める。
※体力:一一→一三
私は、同じ様な傾斜を続ける丘を登り始めた。
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/一三
運勢:一二
装備:背負い袋、金貨一〇枚、食料一食分、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、グランディガンの斧(戦闘使用時、技量マイナス一)、魔法の呪文の書一頁、蜜蝋、蜂蜜、宝石、アモフの実(食事の体力回復二倍)、膠、鼻栓、玉石四つ
祝福:正義と真実の女神の加護