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シムニードの日誌七日目:悪意の神

名前:シムニード

職業:魔法使い

流儀:正天秤三角呪法

技量:八

体力:一七/七

運勢:一三/一二

装備:背負い袋、金貨三一枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、にかわ、鼻栓、玉石四つ、水晶クリスタルの滝の通行証、剣、金縁の鏡、羊皮紙の巻物、緑色の鬘、投げ矢二本

祝福:使用済み

 天幕を出て、街の中心部へと向かう。小屋や住居が密集し、様々な生き物がごったがえす此処ここは、汚濁の坩堝るつぼだ。このまま行けば波止場の方へ行く事になる。

 呪文は何処どこだ…! 私はいささかか焦りを覚えながら、更に町中を探索するべく左折した。

 右への分かれ道に当たる。

 複雑に曲がりくねった街路では、特に指針になる様なものがない。私は右の通りへ行ってみた。

 やがて、小さな礼拝堂に行き当たった。中で何か催されている様だ。

 ようやく手掛かりらしきものが見付かったか。さて、何があるか…。

 礼拝堂に足を踏み入れると、子連れの女と擦れ違う。

「あの人は、本当に神様の使いなんだね、母ちゃん」

 子供が興奮して話している。

「ネラスの足の悪い方の兄ちゃんが昨日、司祭様の謎々に答えたら、足が治ったんだ! 生まれて初めて走れたんだよ!」

 集会用の広場には老若男女が床に座り、高段の白衣を着た胡麻塩頭の男の話に耳を傾けている。

「他に、悪意の神のお試しを受けたい者はおらぬか? 私の出す問いに答える事ができれば、悪意の神は如何なる願いも叶えてくださるだろう。答えられぬ場合は、信ずる神を捨て、悪意の神の信者とならねばならぬが」

「ほう…」

 古き、無秩序の神の信奉者が、こんな所に巣くっていたとはな。

 女神が、上気した笑顔を浮かべながら、フンスフンスと鼻息を立てて、私の腰の剣をチラチラと見ている。女神よ、気持ちは解るが、少し落ち着かれたい。アナ国人たる者、敵を前にしても気品エレガントであるべきだ。それに、此奴こやつは街の有力者と繋がっている可能性がある。

 私は手を挙げ、挑戦を受ける意志を示す。その時、女神がそっと私に耳打ちした。

「…ころせあまぞん、こんどるじゃんぷ」

 何の意味もなかった。

「して、貴男あなたの神はどのお方かな、旅人よ」

 私は女神に囁いた。

「…そうじゃあない、女神よ。挑戦をする時というのは、こういう風に言うのだ。

「我が名は正義と真実の女神の使徒、シムニード。我が女神の正義と真実の為に! 我が女神の名誉の為に! このシムニードが貴様の挑戦を打ち破ってやるッ!」

「きゃ~っ♪ 素敵ですよシムニードっ。鯛焼きの尻尾のところをあげましょう☆」

「結構です」

「正義と真実の女神とな? さて、聞き覚えがないな。悪意の神の方が遥かに力ある神でおわす事は明白だ。我が問いに答えられれば、訊きたい事を何なりと訊くが良い。だが、答えられなんだ時は、正義と真実の女神を捨て、悪意の神の信者とならねばならぬ。良いかな?」

「むきーっ。誰がイナカマイナー女神ですかこのダラズ! 行きなさい我が使徒シムニードっ、奴の家庭を滅茶苦茶にしてやるのですっ!」

「何それ怖い」

 というか、貴女あなたが安い挑発に乗ってどうしますか女神よ。これは、他の聴衆に対するアピールであろう。

「良かろう。だが、という事は、私が正解した場合、貴男あなたにも我が女神の信者になってもらうのが筋だが…」

「!」

「こんなんいらへん」

「…我が女神は、貴男あなたの様な者はお好みではない様だ」

「フフ、面白い男だな、君は」

「質問を」

「良いかな? 長老の大足は、南に三ハロン歩いて烏麦を蒔き、次に東に二ハロン歩いて玉蜀黍とうもろこしを蒔き、北に更に五ハロン歩いて小麦を蒔き、最後に南東に四ハロン歩いて青草を蒔いた。そこまでは解ったか? 問いを聞く用意は良いか?」

 司祭は私を見た。私は先を促す。

「問題は……」

 司祭は一旦言葉を切ると、続けた。

「問題は……長老の最も好きな色は?」

「茶色ですっ。だっておっさんだもの!」

 どうやら悪意の神に改宗する事になりそうな正義と真実の女神は置いておいて、私は抗議した。

「その様な問題は不当だ! 設問と答えに、一切関わりがないではないか!」

 すると、聴衆は待ってましたとばかりに大爆笑した。司祭は、悪戯っぽく私の目を覗き込んでくる。…やられた。どうやら、司祭の定番の冗談に付き合わされたらしい。私は、苦虫を噛み潰した様な顔をする。

「良かろう、アナ国の人よ」

 何!? 私は、自分がアナ国人だとは名乗っていない。さては、正義と真実の女神を知らぬというのも嘘か。流石悪意の神の司祭、なかなかの喰わせ者の様だ。

「大足の家には息子が六人いる。老い先短い大足は、財を六人の息子に厳密に分けたいと思っている。そこで、下から二番目の息子には金貨五枚を与え、長男には一三枚、下から四番目の息子には九枚与える。残りの息子達が何枚ずつ貰い、大足が持っていた金貨の合計枚数が何枚だったか解るか?」

「これはですね…」

「悪意の神の信者は黙っていていただけますか」

「うえ~ん」

 今度の問題は公平な様だ。冷静に整理せねばならぬ。…言い方は変えてあるが、要するに貰った枚数が判明しているのは、長男と三男、五男という事だ。枚数は、それぞれ一三,九,五枚。年功序列で正しい割合で分けたというなら、一つ飛ばしで四枚ずつの差という事は、つまるところ二枚ずつの差で分け与えたという事だ。つまり、長男一三枚、次男一一枚、三男九枚、四男七枚、五男五枚、六男三枚。その合計は…

「四八枚だ」

「何と…!」

 司祭は目に見えて落胆している。この程度の算術、アナ国人が解らぬと思ったか。貴様が相手にしている、無学な“城砦都市”の民とは違うのだ。

「悪意の神は、約束は違えぬ。願いを言うが良い、アナ国人」

 うむ、悪魔とはそうしたものだ。

「では訊こう。北門を開ける為の呪文を」

「呪文の総ては教えられぬ。四節総てを知っているのは、“城砦都市”の第一貴人のみだからだ。だが一節だけなら教えてやれる。『かけて命じる、いざ開門』というのだ」

 どうやら呪文の、締めの部分の様だな。順番についても考慮せねばならぬな。

「何てえ賢者だ」

「賢者様に幸運を!」

 無知な民衆は、たちまち信ずる対象を変えた様だ。

「女神の光の前に、明かせぬ真実はない。さらばだ」

 きゃつは殺すまでもあるまい。悪意の神の信仰を挫いてやれた。

「え、えへへ☆」

 何故か物凄いドヤ顔をしている、悪意の神の信者様については、何も言うまい…。


※運勢:一二→一三


名前:シムニード

職業:魔法使い

流儀:正天秤三角呪法

技量:八

体力:一七/七

運勢:一三

装備:背負い袋、金貨三一枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、にかわ、鼻栓、玉石四つ、水晶クリスタルの滝の通行証、剣、金縁の鏡、羊皮紙の巻物、緑色の鬘、投げ矢二本

祝福:使用済み

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