シムニードの日誌七日目:彷徨
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/七
運勢:一三
装備:背負い袋、金貨三三枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣、金縁の鏡、羊皮紙の巻物、緑色の鬘
祝福:使用済み
それから少し進むと、焼き物師や織師、絵師等が小屋の前に作品を列ねる職人区画へとやってきた。
職人か…。有力者がいるとは思えぬが、ガトラー師の忠告によれば、人外の者の方が情報を持っている事が多いという。此処も当たってみるか。
職人達の中で、二人が特に目を惹いた。肖像画の連作を展示している絵師。しかし、彼には両腕が無い。もう一人は、様々な色合いの炎を出して見せる炎師だ。
炎の方が、もし種があるのなら役に立つ物かもしれぬ。
「見事な炎だな」
炎師に声を掛けると、彼は笑顔を見せた。
「私の炎に興味を持ってくれたら良いんだが!」
そして、白や緑や青や黒の、様々な美しい炎を作り出してみせる。じっと観察し、その種を類推する。恐らく、炎の中にあるそれぞれの色をした石が、色とりどりの炎を作り出しているのだろう。見事な見せ物だが、私の使命の役には立たなさそうだ。
「特別製の炎の方がお気に召すかもしれませんね。中をご覧下さい」
今一つ反応の薄い私に、炎師はそう言って小屋へと誘った。
どうする? 炎で客を釣って、小屋の中の罠に掛けるつもりかもしれぬ。だが、虎穴に入らずんば虎児を得ず。情報が欲しければ、当たってみるしかない。
「拝見しよう」
小屋の中では、開放煙突で火が盛んに焚かれている。見た目の割に、さしたる熱さは感じぬ。炎の中を覗き込んでみると、燃えさしの中に木箱が見える。だが、木箱には焦げ目一つ無い。
まず、間違いなく、これは罠だ。木箱の中身に釣られた者が、炎が熱く感じぬのを良い事に、踏み込ませる意図だろう。そこで、何らかの罠に掛けるつもりに相違あるまい。罠を破ろうにも、手持ちの触媒で使える呪文がない。
「いや、堪能した。これで失礼する」
私は小屋を出る事にした。
分かれ道を北へと進む。
数本の道の交差する分かれ道に出た。
手に入れた呪文はまだ一節のみ。このまま北へ向かうより、もっと町中を探索すべきであろう。私は道を右へ曲がった。
今度は十字路に出た。そろそろ、自分がどの辺りにいるか、よく判らなくなってきた。
左に曲がると、北方面か…? 道が曲がりくねっているので、確信は持てぬ。空は曇り、方角も定かではない。ひとまず、真っ直ぐ行ってみよう。
またも分かれ道。左の方に、人が大勢集まっている声が聞こえる。もし先の祭なら、少なくとも方向が判る。そちらへ行く事にした。
案の定、先程の祭会場であった。其処で私は、先程は気付かなかった顔を見出す。
彼も私に気付いた様で、笑いながら近付いてきた。
「おお! 我が盟友にして好敵手の、シムニードではないか!」
フレイケルは、相変わらずの黒尽くめだった。
「お主も、祭を楽しみに来たか! 最後に会ってから、どんな旅をしてきた? いや、最後に仕合ってから、と言うべきか!」
「そちらも、随分と調子が良い様だな」
「ああ、最高に『ハイ!』って奴だ!」
シャムで会った時と、大分様子が違う。それ程祭が好きなのか、元々こういう性格なのか。私は彼と別れてからの事と“城砦都市”での事、そして北門を開ける為の呪文を探している事を話した。
「ふうむ。力になれるかもしれぬ。友人の長老ガトラーが、此処から遠くない所に住んでいる。賢者の一人だから、必要な呪文とやらについて何か知っているかも」
「残念ながら、彼にはもう会ってきた」
「うむ、そうか。済まんな、力になれず」
「いや」
また何かあったら頼ってくれというフレイケルと別れ、祭に戻る。前回見なかった所に、何かヒントがあるかもしれぬ。
「踊る熊に、何か秘密があるのかもしれぬ」
「熊った時の熊頼みですねシムニード」(ドヤァ)
「ええ、熊った時の熊頼みです女神よ」
「ま、真顔で繰り返さないでくださいっ。はっ、さては罠!? 私の食い付き易いネタを態と仕込むなんてっ、すっかり“城砦都市”の色に染まってしまったのですねシムニードっ」
「こんな罠に掛かる者は他に知りませんが」
女神を弄っていても仕方がない。見るだけ見てみるか。
岩侏儒と熊の周りに人垣が出来ている。熊の鼻輪に紐を結わえ、それを岩侏儒が引っ張って、熊に無様なダンスを踊らせている。周りの者は爆笑しているが、滑稽なだけでさして面白くもない見せ物だ。特にこれといった発見もなく、溜息を吐いて離れようとした時、見物人から叫び声が上がった。
「俺の金が無い! 掏摸だ! 掏摸がいるぞ!」
他の見物人同様、声の方を振り向くと、小さな影が人垣から走り出て道を降り、天幕の一つに消えるのが見えた。もう大分遠い。捕まえる望みはほぼないだろう。目線を戻すと、岩侏儒と熊がまさに消えようとしていた。目眩ましか! この芸自体、掏摸の為に仕組まれた幻術だったという訳だ。気付かれたのが今というだけで、何人被害に遭っているか判らぬ。私も、金入れが無事か確かめた。
※運試し→幸運
※運勢:一三→一二
私の路銀は無事だった。ほっと胸を撫で下ろす。周囲では、金をすられた者が近くの者に責任を擦り付けて、諍いが起き始めている。早く離れるに越した事はないだろう。
もうこの祭で見るべきものはない。行くとしよう。
祭から離れようと道を急いでいると、ふと通り過ぎた看板に目を惹かれた。
<幸運の箱―何が当たるか―はずれなし―たったの金貨二枚>
実に胡散臭い。だが、胡散臭いといえば、この街のものは総て胡散臭いのだ。罠を覚悟で、その中から何が拾えるかを賭けていく事になる。試せるものは、試してみるべきだろう。
天幕にはいると、顎髭を生やした薄汚い男に迎えられた。
「いらせられませ、いらせられませ、お大尽!」
鬱陶しい程、いや、鬱陶しい愛想の良さだ。
「此度の幸運は如何なるものか、是非お試しあれ。正直アンナフの幸運の箱にはずれなし!」
己で正直と宣うか。胡散臭さを人型に凝縮したら、この男の様な形になるであろう。男は私を、大きな硝子の箱の所へ連れて行く。中には、種々雑多な物が入っている。装飾品、書物、金貨、袋、食物。小さな翅人まで閉じ込められている。
「たったの金貨二枚、お大尽。この可愛い奴が、幸運を運んできますぞ!」
「可愛い奴、ね」
人物骨柄出し物総て、これ以上ない程胡散臭い。だが、これは逆に正直と言える。騙すぞと言って騙す様なものだ。金貨二枚程度なら、さして懐も痛まぬ。問題は、それ以上毟る隙を与えぬ事だ。無論関わらぬのが一番だが、探索者はそうはいかぬ。
「金貨二枚だな」
私は正直アンナフに金貨を手渡した。
金貨:三三→三一枚
「毎度あり! さあ、何が出るかな、何が出るかな」
男が箱の横のポッチを押すと、翅人が一声鳴いて、停まり木から飛び立って中の物を取りに行った。
「ガチャガチャポンポン♪ びっくらポン♪ くれ~んくれ~ん♪」
女神が謎の歌を唄っている。何の事やら、全く以て意味不明だ。
翅人が持ってきたのは、小さな袋だった。中には、小振りな投げ矢が二本入っていた。
「おおっと、お客様、燻銀な物を引き当てなすったね! そいつは魔法の投げ矢、破裂の術が掛かっていて、敵に当たれば大爆発! 護身にはぴったりの代物ですぞ!」
※装備追加:投げ矢二本
…以外とまともな当て物屋であった。胡散臭いもの程まとも、これも“城砦都市”流か。
名前:シムニード
職業:魔法使い
流儀:正天秤三角呪法
技量:八
体力:一七/七
運勢:一三/一二
装備:背負い袋、金貨三一枚、ブリム苺の絞り汁(戦闘中以外に飲むと、体力三回復)、竹笛、蜜蝋、蜂蜜、宝石、膠、鼻栓、玉石四つ、水晶の滝の通行証、剣、金縁の鏡、羊皮紙の巻物、緑色の鬘、投げ矢二本
祝福:使用済み