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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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受付嬢と情報屋

 請負三士であるフィッテは請負五士のノアハと組み、ブレストの町の西方から中央エリアを歩いている。

 セレナと一緒であれば、手は繋いでいたかもしれないがデートとかではなくピエレアからのお願いなのでどの道普通にしていたかもしれない。


「あの、ノアハさん」

「何?」

「ザヅさんはどんな感じの人ですか?」


 何故かやや機嫌がよろしくなさそうなノアハは、彼女の質問に対して気だるげに答える。


「とにかく優しい、私達より強い、笑顔が素敵、請負七士とかですけど?」

「ふむふむ……とすると、ますますノアハさん達を放ってどこかに行くような人には見えませんね……」


 さも自分が解決しなきゃいけない、という風に考え込むフィッテの姿にノアハはため息を吐く。


「フィッテ、これは『フォーガード』内の問題ですよ? セレナお姉様の恋人で解決したい気持ちは分かりますけど……」

「ノアハさん、例えそうだとしても私はセレナちゃん達の助けをしたいんです。……かつて私が助けてもらったように、自分に出来ることをしたいんです」

「……っ、分かりましたから。近すぎです、フィッテ」

「! ご、ごめんなさい! ……それにしても、聞き込みをしていますが一向に見つかりませんね……」


 フィッテは慌てて離れ、やや俯いたノアハはしばらくすると顔を上げて周りを見渡した。

 現在地である西方は住宅区になっていて、色々な人が毎日を生きている。

 その中でたった一人の人物を捜すには相当骨が折れる行為である。


 まず彼の特徴となる金の短髪に銀色の瞳は、容姿が整っていることから異性の目を嫌でも惹きつける程である。

 だが彼が背負っているらしい銀色の盾は、円形の周囲が棘で包まれていて他人が声を掛けてくるのを拒絶しているようにも見えるという。

 皮製の軽装鎧に胸当てで覆っている姿は、剣等の武器を持っていないのでやや浮いた服装になるらしい。


「ザヅさんは守りに特化しつつ、速く動きたい人らしいので盾だけ構えて創造魔法で敵を倒すスタイルです。……そのお陰で私達は助かっている面もありますよ」

「とある人に盾を加えたイメージが浮かびます……。フォーガードの為にも早く見つけなきゃですね」


(ザヅさんは、敢えて武器を持たない人? ……とすると、セレナちゃんやレルヴェさんみたいに魔法の武器を持って戦うとか? どちらにしろ、見つかりそうな人だけど……)


「一応捕捉ですけど、ザヅさんは武器を持てないのではなくて『持たない』人ですので。フィッテが考えそうな事を先読みしてみました」

「!? ……私なりの結論ですと、創造魔法の経験ですか?」

「ん、正解です。危ない時とかは普通に武器使いますけどね。……話を戻しますと、ザヅさんは色々な魔法を扱えるようになりたいのが昔っからの夢らしいです。……この辺りは誰かの影響とかを受けてるのでしょう」


 フィッテが創造魔法を作製する時、ブレストの町でも話に上がった経験値。

 フィッテは最初から意識をしていたからこそ、複数の属性を多少扱えるぐらいには成長している。

 ザヅという人物は、請負七士だけあり多岐にわたる創造魔法を使うに違いない。

 その人物がふらっと姿を消すのは最大の謎だが。

 

「さて、中央の商業区まで入ってしまったわけですが」

「特徴だけを聞くと、目立ちそうな人なんですけど……。一度セレナちゃん側と合流しますか?」

「そうですね。流石に日が落ちてきたし……宿屋集合にしてあるのでそちらまで向かいましょう」


 ピエレアと会ったのが夕方、そして今までの捜索で夜が迎えにきている街中を捜しても見つかるとは思えない。

 捜索隊も出しているらしいので、彼女達は諦めて宿屋へ向かった。





 

「ピエレア、ありがとね。……結局夕暮れまで捜させちゃって」

「いいんです! 私や『フォーガード』の為でもあるんですから。……ザヅさん居ないってことは、やっぱり外に……?」


 宿屋の一室にて、ピエレア、セレナ組は先に到着していて二人を待っていた。

 切り上げた理由は、フィッテ達と同じだ。

 これ以上は彼女達に影響を及ぼす可能性があるのと、一度集まる約束をしている。

 


「ザヅさんが、か。もしかしたらだけど、何かあったのかも……。そうなると私達が助けに行く状況が出てくる」

「……否定したいです。でも、ここまでの時間で連絡が無いと嫌な予感がします……」


 同意見を示す頷きをしたセレナの中で、共に行動しているうちに彼女の仮説が膨れ上がってきていたのだろう。

 普段は明るい顔を彼女に見せるピエレアだが、今回は違う。

 リーダー不在で唯一の接点があるのは自分だけ、昨日まで行動を共にしていたのもあり彼女の顔は真剣だ。


「『危険地域』、とかには行ってないよね? そういう話はした?」

「いえ、特には……ザヅさんはセレナちゃん達が戻って来たらまたどっか行こうとか、他愛のない話とかです……」


 もしも、の可能性で聞いてはみたが掠りともしなかったので、いよいよ居場所が分からなくなりセレナは頭を抱えそうになる。

 と、その時。部屋のドアから控えめなノックが響いてきた。

 真っ先に考えられるのはフィッテ組の帰宅であろう、有り得ないことと言えばザヅが帰ってくることぐらいだ。

 他では客が間違えて入りそうになったり、宿屋の主人が伝言でも伝えに来たぐらいか。


「セレナお姉様、ピエレア。浮かない顔していますね。私達も同じ感じですけど」

「ノアハ、フィッテ!」

「おまたせ、セレナちゃん、ピエレアさん!」

「うぅ~、ごめんなさい。こちらは収穫なしです……」


 声の主に振り返った二人は、喜んで彼女達を招き入れた。

 もう一人は、といえば辛そうな表情をしていたが。

 ノアハは諦めが付いたようで、けれども未だにザヅがこの町のどこかに居ると信じていそうにも見える。

 一緒に捜したフィッテならば少しは気付いたようで、宿屋に着いてからも掛ける言葉が見つからずにいて視線すらも合わせ辛かった。

 大事な人を失うのを見たくないフィッテとしては、出来る限り力になりたかったが……。


「さて、セレナお姉様。残りの案は捜索隊です。夜はあの人達に任せた方がよいかと。見つける確立は絶望的でしょうけど……」

「うん……。悔しいけど、情報がほとんどないしやれることはやったし。行くとしたら『あそこ』ぐらいかな、と」

「セレナさん、私は大丈夫ですが、フィッテさんは……」


 一人、会話に付いていけていないフィッテが、突如話題に上がったので顔に疑問を浮かべた。


「あぁ、ごめんフィッテ。ブレストの町の依頼所に居る受付嬢の一人、ヴィー=アルタージュ。表の顔は受付嬢、裏の顔は情報屋なの」




 






 ヴィー=アルタージュ。

 ブレストの町の魔法屋にある、裏手の緑地で創造魔法の作製をしていた。

 後姿は普段の受付嬢の格好ではなく、これから依頼を受けに行くかのように見える。

 縦に切り込みが入ったオレンジ色のマントを羽織り、紺色をベースにした赤、青、黄の丸模様が入り混じったブラウスを着用しており、紫に染まったズボンを綺麗に着こなしていてどことなくレルヴェ=ハレンを想像させた。

 きっと戦闘スタイルは近接を好みそうだ。

 

 物陰からフィッテ達は彼女の様子見をしている中、フィッテだけが特に説明をされていないままセレナ達と隠れている。

 

(……何だろう、嫌な予感がするのは私だけ……?)


「さて、ヴィーさんの近くまで来ましたが」

「だね。ぴ、ピエレア行く?」

「い、い、いいえ! 私は遠慮しておきますっ! ノアハお姉様は……いえ」


 やや睨み気味のノアハに気圧されたピエレアはしゃがみ込み、ため息を吐いた。

 

「あのセレナちゃん、何か良く分からないけど私が行った方がいいなら行こうかな……って」

「!?」


 三人が一斉に振り向いたので驚いたが、彼女たちが不自然なぐらいに笑顔に変わったので尚更良くない予感がしたフィッテであった。








「あの、ヴィー=アルタージュさん、で合ってますか?」


 三人が陰で見守る中、フィッテは作製を終えたヴィーに恐る恐る近づく。

 

「ん~? そうだけど、って……『アルマレスト襲撃事件』で戦闘に参加したフィッテ=イールディちゃん! 後、請負三士になったのも知ってるぞ~」


 くるり、と振り向いた彼女の顔の変わりようが印象に残る。

 最初は興味無さそうに口をへの字に曲げていたが、フィッテを見るや否やぱぁぁっと花が咲いたように、にこにこと笑顔を絶やさなかった。

 やや細身の小麦色の肌に、ショートカットの銀髪と整った顔立ちは、町内での人気があってもおかしくなさそうだ。

 レルヴェやセレナとは違い、育つ部分は育っていて約一名が嫉妬に燃えそうな箇所も見受けられた。

 それでいてワローネに似た活発さと明るさを兼ね備えた性格は、暗い気分が一気に吹き飛ぶだろう。


「あ、ありがとうございます! もしかしてヴィーさんもあの時戦闘に……?」

「そうだぞ~! 奴等をこう、魔法でバッサバッサと倒してる所見て欲しかったかな~?」


 ヴィーの腕を振り下ろす動作からして、創造魔法で敵を倒したシーンを再現しているのだろう。


(今のところ、ヴィーさんに対する脅威は感じられない……。戦闘とは違った脅威だろうけど)


 あの三人がやけにヴィーへの気遣いというか、どこか避けている風にも取れるリアクションがフィッテの中で気になっていた。

 単純に強さに恐れているのなら、レルヴェ以上にもなるだろうしある意味カナメと良い勝負をするのだろう。

 それ以外では思い当たる要素がないので、本題を切り出そうとするフィッテであった。


「確かにヴィーさんの戦闘姿は見てみたいかも、しれません……。ですが、今日は別の事で聞きたくてヴィーさんを訪ねました」

「ん、お? 今の私は情報屋でもあるけど、いいのかなあ~?」

「そ、その事でも聞きたくて……情報を得る時に何を支払うのですか?」


 ふぅむ、と笑顔からやや複雑そうに眉を寄せて悩みだした。

 数秒経過してから、ヴィーは指同士を密着させながら恥ずかしそうに顔を俯かせた。

 

「物とかで支払うパターンと、私が要求するパターンかな。……フィッテちゃんはハグしても大丈夫な人?」

「私は……まあ、大丈夫、ですよ。ヴィーさんは?」

「したい! していいの!?」

「え、えぇ……」


 肯定の言葉を待ってから、ヴィーは優しく歩み寄り抱き付いた。

 お互いの体の感触が伝わってきて、ヴィーの手の温もりや体温が直に感じられる。


(か、変わった人だけど……これぐらいは普通、なのかな? それとも私が変わっちゃった……?)


「あぁ~~、フィッテちゃん可愛い! ねね、普段誰かとぎゅ~ってしてたりするの?」

「してないですよ? ぅ、してる、かも……」

 

 抱きしめられている最中でも、彼女に撫でられているフィッテであったが特に嫌な気分ではないので、彼女の質問に答えていく。


「いいな~、やっぱそうなると好きな人、居るんだ?」

「は、はい。居ます。大切な人です」

「はぁ~、お姉さんは羨ましいぞ~。こんな可愛い子と抱き付ける子はどんな子だろうな~」


 それには答えなかったが、彼女は満足したのかハグから解放する。


「あ、ごめんねフィッテちゃん! ……あまりにも可愛かったからつい……私の悪い癖だ~……」

「い、いえ。私は大丈夫ですけど……他の人にも?」

「う、そうなるね。お詫びと言っては何だけど、私の知ってる情報なら何でも答えるよ~!」


 今ので情報が聞きだせるなら、本人の条件次第ではあるが頼りになる存在なのは間違いないだろう。

 

「とある人の情報が欲しいです。名前はザヅ。チーム所属『フォーガード』です。彼は今どこに居ますか?」

「お? 知ってるぞ~? ザヅ=イクジスター。……今は『危険地域』に行ったらしい、けど周囲から聞いたから確実ではないしまずフィッテちゃんが行くとしたら危ないよ?」

「……それは、そうですけど……」


 どうしても譲れない思いを感じ取ったか、ヴィーは再び悩んでからとびきりの笑顔を振り撒いて頷く。


「仮にど~しても行くとしたら、私も連れて行って。お姉さんが守ってあげる!」

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