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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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リーダー捜索

「……! フィッテ!!」

「っと、ワローネさん。すみません、フィッテではなくて……。レイレルです、どうですか体調は?」


 自分の部屋で目を覚ましたワローネは、勢い良く起きて目の前の落ち着いた様子の男性を視認すると、再び布団をかぶってしまった。

 居たのがフィッテでなかったのと、彼の顔が近かったのが原因で恥ずかしくなって直視出来なくなっている。

 このままその場で左右に転がりたかったが、彼の返事がまだなのでちょこっとだけ顔を出す。


「す、すみません、大丈夫です……! 今って何時頃か分かりますか?」

「……14時過ぎですね。ワローネさん、念の為明日も受付を休んで明後日以降に……」

「いえ! いけます! 今すぐにでも!」

「……流石に今日はお休みしてください。受付はヴィーさんとユイが担当してますので、もし行くのであれば明日です。……明日の体調がちょっとでも悪ければここでお休みして頂きますが」

「……レイレルさんの意地悪」



 これも仕事の内です、と呟いてから看病時に使用したタオルなどを入れ替えに行ったのか部屋から退出した。


「昨日、確かセレナとフィッテ来てくれた……嬉しいけど、風邪うつってないかな。大丈夫だよね……?」


 普段の明るさで話すと、廊下にまで聞こえそうなので布団に潜りながら、不安な心を落ち着かせる意味でも声を絞りながら言い聞かせる。

 自分のせいでフィッテ達が風邪を引いてしまったら、と謝っても謝りきれないと自己嫌悪に陥って思わず転げまわる。


「セレナ、もそうだけどフィッテにちゃんとした時に会いたいなー……。フィッテ……フィッテ……」


 僅かの間会っていないだけなのに寂しくて涙を流しそうになるが、受付をしてもらっているヴィーとユイの姿を思い浮かべてどうにか耐えようとする。




 小麦色の肌にショートカットの銀髪を揺らしながら、小柄な金色の髪を気の済むまで撫でてる姿が想像出来る。

 彼女、ヴィーはユイのことがお気に入りのようで、暇さえあればユイに話しかけたりしているようである。

 ……ユイ自体は撫でられるのがあまり好きではないらしいが、拒否してないことから満更でもないみたいだ。


『ほれほれ、ユイ~可愛いね~』

『う~、撫ですぎダメ』

『いいじゃないかよ~こっちが寂しかったんだから~』


「っ! って、これじゃいつものヴィーさんの光景が浮かぶだけだよ……! ……あ、レイレルさん」

「ふふ、お元気そうで何よりです。念の為にタオルの替えとかを持ってきましたが……問題なさそうですね」

「ご迷惑お掛けしました! いつもの私、復活です!」

「……それでも、今日はダメですからね? 頬を膨らませてもダメなものはダメです。少しの間、フィッテさんやセレナさんのお話をしましょうか?」


 落ち込み気味の彼女の顔が、すぐに誰しも幸せにしそうな笑みを見せたのはそう時間が掛からなかった。











 チーム名『ハッピープレース』

 リーダー:イコイ(請負六士)

 サブリーダー:フィッテ(請負三士)

 現在人数:2人


 募集条件:特になし(出来れば女の子。イコイより)

 活動区域:ブレストの町~ディーシーの町周辺

 活動内容:リーダー含めてメンバーが少ないです。

 初めて作るチームなので、未熟な点もあると思います。

 リーダーが頑張ってチームを発展させますので、入ろうか考えてる方はディーシーの町の依頼所まで。

 

 




「……出来ました、フィッテさん!」

「うぅ……サブリーダーだなんて聞いてないですよ……?」

「大丈夫ですよ! やってもらうことといえばブレストの依頼所にチーム募集の紙を貼ってもらって、希望者が居ればこちらまで声を掛けてもらうだけです!」


 全員が飲食を終え、それぞれ解散しようかという時にノアハからチームメンバーを増やすのであれば募集をすればいい、という提案の元イコイは募集文を完成させる。

 フィッテはサブリーダーという役割に驚くが、それほど負担ではないのとイコイの為ならば……と拒否することなく承諾した。

 実際、一人で依頼を受けてる人は何人か目にしている。

 全員が一人で行動したい、という訳ではないかもしれないが、もしかしたら何かの機会で入りたいという人も居る可能性がある。

 結局は自分たちで希望者を増やすしかないのだが、ただ人数を増やすのはイコイは考えていないはずだ。


「イコイさん、良い人、入るといいですね」

「そうですね~。ノアハさんとかの知り合いで居たら是非とも!」

「居たら教えますね。……ピエレアやザヅさんにも聞いてみます。そちらはあまり良い返事は期待しないほうがいいですけど」

「お姉ちゃん~、ソエソエとプラプラにも一応聞いてみる~?」

「そうだね。……依頼所覗いてみよっか」


 持つべきものは仲間だ、とイコイは実感する。

 過度な期待は禁物だが、思いがけない出会いが待っている場合もあるだろう。


「フィッテさん、ひとまず解散しますか? ……ブレストでの依頼報告もありますし」

「そう、ですね……そしたらまたディーシーの町に行きますね」

「! い、いえ! 今度は私たちがそちらに行きますよ! ね、カナメ?」

「ん~? お姉ちゃんがそう言うなら私はそれで~」

「決まりね、ではフィッテさん、また!」


 返事を待たずに姉妹は依頼所内へ入ってしまった。

 それほどなまでに、チーム作成が嬉しかったのだろうか。


(依頼報告はするとして、他に誘えそうな人……プラリアさんやソシエさん、……レルヴェさんはどう答えるかな。やっぱりどこか強い人達ばかりのチームに入ってるか、一人で行動したいからとかの理由で断られちゃうかな?)


 無理をして誘う必要はないが知り合いは多い方が安心するのか、無意識に自分と関わった人達を思い浮かべていた。

 何かしらの繋がりは持っていたいのとまた会いたい思いもあり、フィッテは胸の中で決意をするのである。


「さて、セレナお姉様? これからブレストへと向かうのでしたら私も同行します。ザヅさんやピエレアも居るかもですし」

「居るといいなあ……あ、ちなみにフィッテ。ザヅさんは男の人で私達フォーガードのリーダーだよ。近、中、遠と万能に役割が出来る人でもあるの。そしてピエレアは……一言で言うなら『ドジ』っぽいかな?」

「セレナお姉様、ぽいではなくて実際ドジだと思いますが……。一緒に受けた時も、魔物の剥き出しの弱点を逸らして攻撃してましたし。私はザヅさんのフォロー無かったら彼女も危なかったんですよ?」

「だね……で、でも! 二人とも良い人だから、会ったらきっと仲良くなれるよ!」


 ザヅという人物はともかく、ピエレアの話を聞く限り自分と似た要素があると感じたフィッテである。

 雑談を切り上げて、三人はブレストの町へと帰った。









 時刻は夕方、フィッテは依頼を無事終了させ今日の依頼回数は消化した。

 セレナとノアハはフォーガードのメンバーの二人を探すべく、ブレストの町の宿屋を回っていた。

 フィッテは依頼所で待機している間だったが、彼女達は見つけることなく待ち合わせ場所の依頼所へ集合する。

 夕方という時間もあり、夜に追加の依頼が補充される前なのか、待合テーブルの空きはほぼ無かった。


「んー、居なかったね。二人だけで依頼ってしたことあったっけ?」

「無いかと。……ピエレアがリーダーの迷惑を掛けてないといいのですが」

「セレナちゃん、ノアハさん、二人は依頼は受けないのですか……?」

「今日はいいかなー。別に毎日受ける必要もないし、魔力の残りとか受けたい依頼が無かったらやる気しないし」

「セレナお姉様はたまにサボる癖があるようですね。これは矯正する必要がありますね」


 いいっていいって、と立ち上がるノアハを必死に止めて座らせるセレナの視界の横に映ったのは、フォーガードのメンバーだ。


 慌しく揺れる緑の長髪、黒色の垂れ目は悲しそうに誰かを探している様子である。

 自分の焦りを誤魔化す為か、体を覆う灰色のコートをぎゅっと掴んでいた。


「あれ、ピエレア……?」

「ですね、お姉様。どうしたの、ピエレア?」

「! セレナさんに、ノアハ様~! 聞いて下さい!」


 知ってる人を見つけた安堵感がこみ上げてきたようで、やや涙目になりながら座っているノアハに抱きつこうとするが、手のひらで止められてしまう。


「様はいらないし、呼ばれる覚えもないの。それで用件は? 無いなら……」


 にっこりと顔だけ笑うノアハは、彼女の頬を摘もうとする。

 が、失敗したのはピエレアが空いてる一席に座ったからだ。


「ザヅさんが、居ないんです! その、朝から……」

「落ち着いて、ピエレア。あの人はいきなり居なくならない筈だよ。私も手伝うから、一緒に探そう?」

「セレナお姉様、私もやらせて下さい」

「初めまして、フィッテと言います。初対面ですけど、私も力になれたらいいのですけど……」


 挨拶を忘れてまで用件を伝えたピエレアは、深々と頭を下げる。


「こ、こちらこそ! 自己紹介が遅れました! 私はチーム『フォーガード』メンバーの一人、ピエレアです! 主に突撃したり、たまーに防御役になったりで攻撃が多いですけどよろしくお願いします!」


 二人は握手を行い、笑顔を見せる。

 改めて三人にお辞儀をした彼女は詳しい事情を話す。


「まず、私とザヅさんは部屋は違うけど同じ宿屋に泊まってました。昨日の夜までは普通にお話をして、そこからは会ってません。……それ以降朝食にも現れてないです。宿屋の人も知らないって言うし、私、どうすれば……」

「リーダーが行きそうな場所を片っ端から探しましょ」

「そうしようよ。……もしくは二手に分かれるのもいいかもね」


 最近は人を探すのを手伝う事が多い、と思ったフィッテであった。

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