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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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問題とチーム名

 フィッテはセレナと毎回といってもいいほどパーティーは組んでいるが、どこのチームにも入ったことがない。

 今まで考えたこともなかったのもあるかもしれないが、現状彼女と一緒に居れて満足という面もある。

 だからこそ、イコイからチームを作るという発言を耳にした時は驚きを隠せなかった。

 そもそもどうして私が? カナメさんではなくて? と頭を一瞬でもよぎったに違いない。

 イコイは手を放し、フィッテの回答を待っている。


「イコイさん……どうして私を誘ってくれたのですか?」

「カナメも勿論入れるつもりですよ? その上でフィッテさん、あなたを誘ったんです。もしセレナさんが所属しているチームに行ってしまってる間パーティーを探したりするよりも、私達のチームに居れば何かしらお手伝い出来るんじゃないかなと思っています。無理に、とは言いませんし返事もいくらでも待ちます! だから、選択肢の一つとして考えて欲しいだけです」

「私はフィッテが安心出来る場所ならどこでもいいかな……? 今は居ないけど、プラリアとソシエもチーム持ってるかもしれないし」

「セレナお姉さまが『フォーガード』に居てくれるなら構いません。それに、もうフィッテの事は恨んでいませんし」


 もう恨んでいない、というと今までは本気で恨んでいたという意味に取れる。

 伝えるのが遅れていたら、もしかしたら鋭利な刃が腹部にでも刺さっていたかもしれないと思うと冷や汗が浮かんだ。

 

「セレナちゃん、私のパーティーは具体的にどのぐらいまでなの? その、嫌とかじゃなくて! そこからは誰か信頼出来る人と組んだりしたいから……。セレナちゃんともまた組んで欲しいし、ね」

「ふふ、ありがと。フィッテとは元々請負四士になるまでは絶対に面倒見る、のが個人的な思いだからね。……後は私のチームやフィッテの成長度合いで判断したい、かな」


 となると今のフィッテは請負三士なので、あと少しでセレナとはパーティーは継続出来る。

 反対にそれ以降はセレナとは一緒に居る機会は半減する可能性がある。

 イコイのチームに入れば、誰かしら組めて一人で行動する日は少なくなりそうだし一人で動きたい時は自由に動けばいい。

 何より、カナメ、イコイの二人が居るだけで全然知らないチームに入るのとは安心さが違ってくる。

 話が進む中カナメはやや不安げに俯いたまま赤色の液体を飲んでいるが、彼女にとっての不安とはその能力故だろう。

 

『私が創造魔法を最初から持っているから、強い魔法を持っているから叩かれる』


 彼女が依頼を受けない理由でもあり、強さの源でもあるからかカナメは遠慮しているはずだ。

 もし、これ以上カナメが悪く言われれば姉であるイコイも何かしらの悪評がでっち上げられて、活動し辛くなるに違いないと思っているのだろうか。


「カナメさん……、やはり依頼の事を……?」

「あはは……お見通しだね~……お姉ちゃんやフィーフィーとかと一緒に居れるのはいいんだけど、依頼は受けられないからねー……。そこらへんの魔物相手にしたりとか、テレネス神殿の虫狩ったりとかなら出来るんだけどね~……私がこの力さえ無ければお姉ちゃん達と当たり前に依頼出来たんだろうな……」


 彼女は彼女で悩みとする部分だが、フィッテにとっては何と引き換えにしても欲しい力ではある。

 あの時力があれば……と思い当たる場面があり過ぎて、考えても仕方ない位カナメの能力は魅力的なのだ。


「カナメの創造魔法をどこかで役立てれば、あるいは遠くの町でなら……? いえ、それだとフィッテさんとのチームが……」

「イコイさん、今思ったのですが……イコイさんとカナメさんは主な活動がディーシーの町周辺になりますか?」

「? そう、ですけど……って、あ……! すみません、フィッテさん! フィッテさんとセレナさんはブレストの町で依頼を受けていますよね……そうなりますと、私達とフィッテさんとでは活動区域が違ってくるから……」

「別にいいじゃないですか」


 口を挟んだのは、野菜と果物を混ぜた物をパンで挟んだサンドイッチを黙々と食べていたノアハだった。


「え? ……違ってても大丈夫なんですか……?」

「当然ですよ。チーム主体で動くということは、リーダーの指示に従うということなんですから。リーダーがここ行こうと言えば付いて行きますし、リーダーがこの依頼を受けようと提案すれば私達はそれに従います。……余程実力に合わない以外は反論とかはしないのが私達のチームなんですから。どこに住んでるからとか気にしたら同じ町同士の人としか組めないじゃないですか」


 彼女の言い方からすると、違う町に住んでいるからだとかは関係ないようだ。

 問題が一つ解決したのが余程嬉しいのか、イコイはフィッテの手をぎゅ、と優しく握った。


「フィッテさん、私でしたらブレストの町でもお供しますので! ……問題はカナメの件なのですけど」

「むー」


 どこか納得がいかないのか、セレナは頬を膨らませていた。


「セレナさん……?」

「いえ、私よりもカナメの件って……? チームに入るのなら請負証さえあれば問題ないんじゃ……? ん、無いとするなら作れば……」

「セレセレー……、実は私の持ってる魔法のせいで難癖付ける人が居て、依頼をその力で突破したら不公正だとか声が挙がったら嫌だし、お姉ちゃんにもとばっちりが来たら嫌だから作ってないんだよ~……」


 フィッテは彼女と二人の時に聞いてはいるが、セレナ達には伝えていなかった。

 カナメに関して聞かれたら答えていたかもしれない。

 依頼を受ける為に必須な請負証がチームに所属する条件として必要なので、カナメからすれば強大な壁に感じられる。

 セレナが考え込もうと腕組みをした所で、イコイはフィッテの手を離して二つ指を立てた。 


 一つ目は、遠く離れた町を拠点にしてカナメとイコイがチームを作り活動していく案。

 これにはフィッテがイコイ達に付いて行くのと、フィッテがブレスト、ディーシーの町に中々立ち寄れない可能性もあるのが問題点である。

 そもそもセレナの居ない間のパーティー補充なので、多少の危険が伴うがフィッテが別のパーティーを組むという手もある。

 彼女がブレストの町を拠点にするのであれば、この案は却下になってしまう。

 当然だが、カナメの持っている魔法を使わないという条件付きになる。


 二つ目に、カナメの初期創造魔法を封印して、監視役を付けるという案。

 封印とはいっても彼女が使わないようにするだけで、これだけでは文句を言いそうな人に隠れても使えるだろ? と追及されても証人出来る人物が居なければ意味がない。

 そこで、依頼所にて証人となる人を募集してある一定基準の難易度まではこの方法でカナメの昇段を行うやり方である。

 二つ目の案の悪い所は、まだ提案段階なので依頼所側で拒否されたら他の方法を探さないといけない、という事だ。


「現在、私が実行に移したい案は以上です」

「イコイさん。二つ目が気になったのですけど、証人ってやっぱり私やフィッテだとダメなんでしょうか?」

「私の予想だとダメだと思います。カナメの知ってる人とかになると口裏合わせるんじゃ、とか言われたら嫌ですし……」


 それもそうか、と頷いたセレナは再び腕組みを始める。

 フィッテのパーティーをどうするか、という話題からカナメの創造魔法に関する話になってしまっているのはイコイがチームを作ろう、という流れになったからだ。


「とりあえずですよ? イコイさんはフィッテさんとチームを組みたいのではないですか? ……カナメさんの件は後回しにするにしても、チームだけは作っておいたほうが良いんじゃないでしょうか。試したい案もあるのですから、そちらも試しつつチームメンバーの選定してもいいわけですし」


 このままでは話が逸れる、と懸念したノアハは第三者としての意見を述べた。

 でないと、いつまでも悩んでしまいそうだと思ったのだろうか。


「……今これ以上の案が浮かばなくても、いずれは浮かびますよねきっと……カナメが当然のように依頼を出来る為にも、私がどうにかすれば……」

「待って待って、私はチームに入ってるからいいんだけど。フィッテの気持ちを考えてよ。今は考え中かもしれないんだよ? 放っておいて話を進めるのは良くないと思うな」

「セレナちゃん……。ありがとう。イコイさん、私は問題ありませんのでイコイさんの作るチームに入れてもらえませんか?」


 イコイが質問しようとした時、フィッテから答えが返ってきたのだから嬉しくない訳がなかった。

 今にも抱き付きそうだったが、セレナから妬ましい視線が刺さったので衝動を抑えてその場でお辞儀をした。


「あ、ありがとうございます、フィッテさん! じゃあ……チーム名はフィッテさんが決めて下さい!」

「え……こういうのってイコイさんが決めるものじゃないんですか……?」


 正式にイコイのチームへ加入が決まったけど、肝心の名前が出来ていない事に驚くフィッテだがセレナやノアハからすれば別におかしくないという。

 数時間話をして決める所もあれば、すぐに決定したり予めリーダーが考えていたりと様々である。

 なのでフィッテは名前を色々思い浮かべてみた。


(うーん……どうしよう。まさか私が考えるだなんて思ってなかったから……『フォーガード』とかかっこいい名前だし、それに負けないぐらい立派な名前の方がいいのかな……? 何もアイデアが出てこないよ……)


「や、やっぱり思いつかないですよ……。イコイさんの方でいくつか候補無いのですか?」

「ありますけど、変なのしかないですよ? 『フラワーガールズ』とか『銀の魔法少女』、『ハッピープレース』とか!」


 ……チームメンバーに女性しか居ない名前だ、とイコイ以外が思ったのは言うまでもなかった。


「こう考えると、名前って大事ですね、セレナお姉様。ザヅさんがまともで助かります」

「だね~。でも、フラワーガールズって名前は私は良いと思うけどなー」

「フィッテさんはこの三つでしたら、直感でどれがいいですか?」


 質問を振られる可能性を感じたフィッテは、案が出てる時点でもしこの中だったら……と予想していた。

 

「ええと、『ハッピープレース』ですね……。入ってくれる人がここは幸せだな、と思ってくれるようなチームになるように頑張りたいです!」

「フィッテさん……。分かりました! よろしくお願いしますね!」


 特に揉めることがなく、順調に決まったチーム名『ハッピープレース』。

 メンバーは現在イコイがリーダー、フィッテがメンバーの一人だが、これから更に増えるかもしれない。

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