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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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姉と師弟関係?

 カナメの姉のイコイは ディーシー南部のとある遺跡の調査員を護衛する依頼の為、ここの所カナメから離れていたという。

 一週間近くは帰ってきていないということから、事件に巻き込まれていなければずっと籠りっ放しのはずである。

 彼女の後を追うべく、フィッテとカナメはリクリア遺跡に足を踏み入れた。


 いつもであればセレナやプラリア達と同行するのだが、今日までは二人でも問題ないので特に断りもなく町を出発していた。



「リクリア遺跡、地下迷宮のようなイメージでした……」

「だね~、廃墟と化した町の方が近いかなー」


 お互いが魔物の存在を警戒しつつも、イコイ達が行きそうな場所をひたすら探索している。

 リクリア遺跡は元が町だったようで、家を連想させる建造物が通路を空けるようにいくつも建っていた。

 繁栄はしていたのかまたどうして人の住める状況で無くなってしまったかなど気になる所は多々あるが、今の問題はカナメの姉を捜すことが大事である。


「そういえばカナメさんってとても強いと思うのですが……依頼所の難度ってどれぐらい出来たりしますか?」

「うーん、一回やろうとしたんだけど反則だ! とか誰かに言われちゃって辞めたんだよね~……。本当は難度10を難なくこなせるらしいんだけど……誰かに悪く言われてまで依頼はやりたくないかな、って思ってるから実質の難度は0だよ~」

「……その人の言いがかりじゃないですか。カナメさんは何も悪くないのに、どうして……」

「私が創造魔法を生み出さなくても最初から持ってたのも原因かなー? 普通の人は何か素材を使って魔法を創るらしいんだけどね……私はそうしなくても強い魔法色々所持してたから叩かれたのもあるだろうし……」

「えっ……最初から……?」


 歩くこと数分、同じ風景ばかりが続き変化がないかと思いきや開けた場所に出る。

 ぐるりと見渡すと、円状に広がっているのが分かる。

 まるで、そこだけ建っていた物が無くなったかのように草一つとして生えていない。

 警戒はすべきだ、とフィッテは中心には踏み込まずに周囲を観察する。

 入ってきた所が北だとしたら、方向は四つに分かれている。

 東西南北全てにおいて道が確保されていて、この広場が何かしらの役割をしているようにも見えた。


「フィーフィー、話はまた今度にするとしてー……何か来るよ」


 急に真剣な顔つきになるから、フィッテはカナメの視線の先を追う。

 フィッテの中で嫌な予感がして入らなかった中央の地面から、ゆっくりと突き上げるように茶色の柱が噴出した。

 震動を起こして地を割って飛び出た柱は、人工の物ではなく生きた物と判明するのは柱が体であるからだ。

 人間の身長を超える太く長い胴体の先には首などはなく、先端に人を丸呑み出来そうな大きな口が付いている。

 また、手にあたる部分はいくつも細い腕が生成され、魔物だということが分かる。

 


「見つけた、対象の魔物」

「破壊部位は歯、腹だっけ?」

「うん」

「よーし、お姉さんに任せなさいっ」


 魔物ばかりに気を取られていたのか、西の方向から声が聞こえたかと思うと二人の人影が姿を現した。

 一人は魔物と同じ色の全身を覆うローブ、もう一人は動きやすい格好で魔物へと飛び出す。

 フード付きの茶色のローブの人物は同行者の行動を見守っているのか、その場から動かない。

 魔物に突撃する女性はフィッテが着ている『弧道救会(こどうきゅうかい)』の服に似ており、青を基調とした服を着ていて、上着とズボンの両脇に白い線が二本縦に入っているのに対して、その女性は緑色で彩られ上着の背面に黒色の剣が二つ交差しているデザインだ。


「お姉ちゃん……?」

「今、魔物に向かってる人の方ですか……?」

「そうだよ~。良かった、無事で」


 フィッテ達は魔物の標的にならないように、広場から少し遠ざかる。

 魔物と対峙したカナメの姉、イコイは創造魔法を発動させた。


「【一閃】」


 イコイの両手で持つ全身緑色の武器は剣とは少し違う印象に映る。

 剣のように切っ先が無く、ただの棒を横薙ぎの動作に見えたからだ。

 棒にしては威力は高く、茶色の胴体に太い切り傷を刻み、そこから同色の液体が溢れ出す。


「お見事」

「腹終わりっと、次は歯!」


 自分に言い聞かし、長い棒をくるくると回しながら跳躍して魔物の歯目掛けて振り上げる。

 が、口より下の部分にしか届かず、体を裂き液体を零れさせるだけに終わった。


「失敗だね」

「わ、分かってるってば。【二突】」


 彼女は皮肉を言われつつも、次の創造魔法を繰り出す。

 イコイの持つ武器が縦へと伸び剣から身長より高い槍に変化した瞬間、口内の歯に突きを放つ。

 二回だけ突いただけで十本以上生えている歯が全て粉々に砕け散る。

 すると魔物特有のうめき声を上げ、体をくの字に曲げて地に伏せた。


「終わったよ、リサ」

「ありがとう。でもこいつ親玉じゃないかも」

「ええー!? じゃあ無駄骨?」

「ううん、こいつ倒したことでボスが来る、かも」

「むむ、一旦ベースに引き返すかそれとも……ってあれ、あそこに居るのってカナメ?」


 倒れた魔物には目もくれずに自分達の会話を広げる女性達は、フィッテ達の存在に気付く。

 

「お姉ちゃん~!」


 カナメは久しぶりの姉との再会に我慢出来ずイコイへと勢い良く抱きついた。

 イコイは倒れそうによろけるが、どうにか踏ん張って妹の頭を撫でる。


「っとっと、カナメ、危ないってばー」

「お姉ちゃん、寂しかったんだよー……?」

「よしよし、私もだよ。にしても、あっちのお姉さんは……カナメの友達とかかな?」

「ん~? あ、フィーフィーは友達だよー。お姉ちゃんを捜すのを手伝ってもらったんだ~」


 フィッテは自分が話題に出たのを機に、イコイ達へと歩き自己紹介をした。


「初めまして。フィッテと言います。イコイお姉さんを捜しにリクリア遺跡まで来たので……良かったです、お二人が再開出来て」

「リサの護衛があって、長いこと町から居なかったから捜させちゃってごめんね。名乗るまでもないけど、一応……カナメの姉、イコイです。フィッテさん、同じ眼鏡仲間としてもよろしくね!」

「はい、こちらこそ!」


 ぎゅ、っとイコイから手を握られ更に年上っぽく浮かべる笑顔に思わず顔を直視出来ずに、やや伏せてしまった。

 可愛さもあるが、美しさへと近付いている整った輪郭が大人の女性を感じさせる。

 緑色のスクエア型の眼鏡がフィッテとは違う印象を与え、より大人っぽく見える。

 ……戦闘そのものは、幼さが含まれているが。

 リサと呼ばれている女性は、顔を隠しながら僅かにイコイへと近付く。


「自己紹介は終わった?」

「ごめんごめん。可愛い女の子だったからつい、ね。それでカナメは私達と行動するの?」

「お姉ちゃんがちゃんと帰ってくるなら町に戻るよ~」

「こらこら、まるで私が放浪癖持ちで中々帰らない人みたいじゃないの」


 やや頬を膨らませて反論する姉と、目を細めながら疑いの眼差しを送る妹を見ていて微笑ましくも可愛い姉妹の言い合いは、和みと同時に羨ましさがこみ上げてくる。

 

「別に一緒でも構わないけど。創造魔法使えるなら尚良し」


 リサが親指を立てて同行の許可をアピールすると、カナメは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 何だかんだで姉が好きなんだなと思う反面、イコイの方は複雑そうに顔を沈ませる。


「お姉ちゃん、嬉しくないの~?」

「だって、カナメの創造魔法が強すぎて私の出番が全くないんだよ、私だって戦闘がしたいー!」


 発言自体が幼い子供そのものだが、誰かに似ている部分でもあるのをフィッテは思い出した。


(確か……レルヴェさんも戦いが好きだったかな……? そういえばそろそろレルヴェさん、手が空いてるかもしれないから魔法石渡しに戻りたいな)


 そんなことを思案していたら、イコイの顔が近くに迫っていたことに気付かなくて思わず後ずさりをしてしまう。


「ひどいなーフィッテさんはー。まさか出会って間もない私のテンションに付いていけないとかかな?」

「い、いえ、イコイさんの顔は綺麗ですよ。ただ、いきなり近くにあったら誰でも驚くと思います……」

「お世辞でも嬉しいよフィッテさん。それでなんだけど、フィッテさんは私達と一緒に来る? さっき倒した虫の親が侵入してくるかもだから、待ち伏せして討伐しようと思うんだけど」


 カナメへと目を向けると、付いて行く気満々といった様子で目を輝かせている。

 リサ、という女性は相変わらずフードで顔を隠したままで、表情が窺えないがどちらでも良さそうに感じる。

 共に行動したら面白そうではあるし、イコイという人物を知る良い機会でもあるのだが、フィッテは用事があるので残念そうに断った。


「申し訳ないのですが、私は用事がありますので……イコイさん、良かったら今度別の用事で誘ってくれませんか?」

「うんうん、分かったよ。絶対誘うね! ふふ、フィッテさんの色々な所、知りたいなー?」

「あはは……是非、お願いします」

「面白そうな依頼とかあったら紹介する」


 リサはリサで親指を立てて歓迎しているようだ。

 

「そうだ、フィーフィー一人だと危ないから私が町まで送るよー」

「いいんですか……? イコイさんと折角会えたのに……」

「すぐ戻れば大丈夫だし、本命の魔物がまだだろうし心配ないかな~?」

「下手したらもう一日かかるだろうから、カナメはフィッテさんを送ってあげて。帰ってきたら目的果たして撤収準備してるかもね~?」


 むむ、と唸ったカナメはフィッテの手を引いて北へと向かった。






 帰り道で何一つとしてトラブルが無くディーシーに到着して安心したが、フィッテの中で気になっていることがあった。

 

「そういえばカナメさん」

「んー?」

「私とイコイさんで似てる所って……?」

「私に対して優しいのと、眼鏡かな~。後は女の子が好きな部分も追加でー」


 共通点がないようで意外とあったので、なるほど、と納得したフィッテである。









 カナメとの別れも惜しかったが、彼女自身は姉との関係もあるので笑顔で見送った後、レルヴェを捜す為に宿屋へと一時帰宅すると。


「おや、フィッテだけかい?」


 今の状況で言うならば、一番会いたい人物が部屋の中に椅子に腰掛けていた。


「ええ、レルヴェさんの方はネフェさんの件は終わったのですか?」

「ああ、独占したことと、反省している……らしい点を踏まえて当分は牢に居るとの事だ。これでセレナ達が帰ってきたらブレストの町に帰るのかい?」

「その前にですね、レルヴェさんにお渡ししたいものがあります」


 なんだい、と問いかけた彼女に魔法石を手渡しして答えた。


「フィッテ……念の為聞きたいが、これはどうやって手に入れたんだい?」

「実は……カナメさんのお手伝いをして貰ったものなんです。私自信の実力では、ないです……」

「カナメねぇ……経緯はどうあれ、フィッテが考えて動いて入手したんだから私は口は挟まないさ」


 レルヴェは黒服の内側にしまい込むと、良からぬ企みをしていそうな笑みを浮かべた。


「さて、フィッテは請負三士になりたいのかい?」

「ですね……私なりに依頼は受けて準備は進めてる最中ではあります」

「ではフィッテが請負五士、つまり現段階のセレナの請負四士を越えたらこの魔法石をプレゼントしよう。これは私から送る依頼さ」

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