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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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何もかもが正反対の彼女達

 自分がどれだけ強ければ、自分や大切な人を守れただろうか。

 フィッテは落ちた意識の中で、いくつもの夢を見た。

 家でセレナが持ってきたファンタジー物の本を可愛らしく抱える夢、その家が襲撃されて大事な人が殺されて二人で逃げ出した夢、創造魔法が初めて創れた夢、敵を初めて自分の手で倒した夢など、今まで経験したきた夢が浮かび、体を映像が包囲して流れている。


 そして、神殿内部で巨人に全員倒されて殺される夢。


 レルヴェでも勝ち目が無かったのだから、恐らく自分も吹き飛ばれた後こうなってるんだろうとフィッテは悲しく涙を流した。

 圧倒的な実力差の前ではちっぽけな力は無意味なのと、まだ付き合いが浅いがセレナと一緒に行動していたプラリアとソシエまでもが犠牲になってしまったことで涙が出ないほうがおかしい。


 彼女はそこから先の映像をぐるりと見回したが一切無い事に気付く。

 

「ごめん、ね……皆……セレナちゃん……」


 ぎゅっと拳を握ろうが、反則級の力が手に入るわけでも一瞬で石像が倒せるわけでもない。


  

 と、突然目の前どころか、映していた場面までもが消える。








「お~い、大丈夫? もしもしー?」


 暢気な声でフィッテは目が覚めた。

 セレナやプラリア、ましてやレルヴェが発するとはありえないと断定出来た彼女はすばやく上体を起こす。


「あ、いきなり起きると痛いかも」

「っつ……わ、私、石像に飛ばされて……って、敵は!?」


 背中の痛みに顔を歪ませながら、広い室内を一周視線送りする。

 ぼろぼろと大量の粒を飛ばし後方から抱きついてきたセレナと、見知らぬ少女が一人見つめていた。

 セレナはフィッテを見下ろしていたので、彼女に膝枕してもらっていたのだろう。 

 

「フィッテフィッテフィッテフィッテ~~~! 良かったよ~……ぐす、っく、ごめんなさい生きてて良かった~……」

「セレナちゃん……っ! ……ちょ、抱きつく力強すぎだよ……」


 わんわん幼子のように泣き続ける彼女に言葉は届かないだろうけど、締め付ける腕は一向に緩む気配がないので、少女が解きに掛かる。


「フィッテって子が苦しんでるよ~。セレセレ~?」

「だってだってぇ……無事だったんだよ……嬉しくって……!」

「それは分かるけど~、また気を失うかもよ~?」


 ハッと我に返ったセレナは愛しの恋人の表情を確認すると、すぐさま腕を放した。


「ご、ごめんフィッテ! つい……」

「う、ううん、私はともかく……こちらの人は?」

「その人は私が説明するわよ」


 離れた所に居るプラリアからの申し出と共に三人は近付いて来る。

 レルヴェとソシエはプラリアの肩を借りながらゆっくりと歩き、表情はいつもの彼女達だ。


「彼女はカナメ、という名前で私たちの窮地を助けてくれた命の恩人なのよ。もしかしたら、だけど私があの大窓を割ってなかったらこの人は来なかったんじゃないかって……」

「んー、プラプラの魔法? だったんだ~すっごい光だったからなのもあるけど、消した石像がまた復活してるんじゃないかって様子見も兼ねたんだよね~。結果的に正解だったようだね~」

「そ、そうだったんですか……!? あの、カナメさん、私たちを助けて頂いてありがとうございます!」


 フィッテはすかさずカナメへ何度も頭を下げるが、カナメ自身はむず痒いのか頬を掻く。


「や、やめてよー。私はただ助けただけだって。フィーフィーもあんま気にしないでよ~」

「そ、そうですが……え、と、フィーフィーってもしかして、私の呼び名でしょうか……?」

「そうだけどー?」

「な、なるほど……」


 カナメは何かがおかしいのか、と言わんばかりに首を傾げた。

 プラリアは元々フィッテ達が気を失ってる間に自己紹介を済ませたのか、特有の呼び名に不満げらしく腕組みをして眉を少しだけ鋭くする。


「フィーフィーはまだ可愛げがあるわよ? でもね! 私がプラプラって何なのよ、他に呼び方ないのかしら?」

「ごめんごめん~。じゃー、プラリンで~」

「……百歩譲ってその名前でいいわよ。どうせ普通に呼んでくれないんでしょうけど」


 プラリアはフン、とそっぽを向くが、意外と気に入ったのか密かに反復していたのをレルヴェとソシエは忘れなかった。


「それでお姉ちゃん達はテレネス神殿にどんな用なの~? あの石像は今まで無かったから難度10級だろうけど、見たところ難度5~7ぐらいの人達かな~?」


 純粋な興味からかカナメは全員に視線を送るとざっと個人的な予想評価を出した。


「まあ、殆どがそれぐらいの実力だねぇ。そして私たちはこの内部のどこかに存在するとされる、魔法石を取りに来た訳さ」

「ふむむ、あれは私がこの前取っちゃった上にごく稀にしか生成されない代物なんだよー。だからだけどディーシーからくる人が多いんだよね~。試しに行くんだったら私も付いてくよー?」

「有りがたい。もともとその予定だしねぇ。多少の怪我でも、だ」


 レルヴェは自分が負けたことを悔やむことなく、カナメへと一歩踏み出す。

 

「レルヴェさん、明朝に~とか言ってましたけど?」

「計算が狂った挙句に、今は私以上に強力な助っ人が居る。むしろ好機と言っても過言ではないのさ。……もし、そうだとしてもカナメに頼る形になるが石像とかが復活していても問題ないだろう」

「んー、私が行くのはいいんだけどー……やっぱり明日になって皆が回復してからでいいんじゃないかなって~。奥には多分だけどすっごい強い人とかが居るかもよー?」

 

 彼女の言い分にも一理ある部分はある。

 カナメですら万全のカバーが出来るとは限らない相手が潜んでいる、とも取れる。

 軽傷ではあるが負傷者がメンバーの中に半数いるのもあるかもしれない。

 彼女なりに気を遣っているかもしれないが、プラリアは疑問をぶつけてみる。


「その案には賛成だけども、明日の朝には貴方がいない可能性だってあるんじゃないかしら? だって、翌日とか深夜にでも姿をくらますこととか出来ると思うけれど?」

「むむ、美味しい場所だから私もどの道行くんだけどなー。どうすれば信じてもらえるんだろ、私を縛るとか~?」

「な、っ……い、いくらなんでもそこまでは……」

「だって、こうでもしないとすぐに信じてもらえないんじゃないかなーって。半分冗談だけどね~」


 笑いながらカナメは来た道を引き返していく。

 どうやら本当にディーシーの町に戻るようだ。

 周囲への溶け込みが早いのかこちら側を信用しているのか、分からないことだけども少なくとも彼女を頼らないと奥へは進めそうにないのは確かなようだ。


「……フィッテ達、帰ったら休むといい。私が見ていよう」


 レルヴェはこのまま神殿内に居ても仕方ないのか、カナメの後を追った。

 他の四人も頷いてこの場は引き返すことにした。


 フィッテは最後にちらりと奥へ進める扉に視線を送る。


(本当に石像が復活する、なんてことが……? だとしたら、相手はかなりの強敵に……もしかしたらアルマレストよりも……?)


「フィッテ、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ、セレナちゃん」










 皆がディーシーの町に帰ったのは夜になる。

 そこで夕食終了後にカナメから部屋で作戦会議をしたいと申し出があり、現在に至る。

 そもそも、自分だけで行って問題解決すればいいのでは……と思っても口にしないセレナであった。

 彼女もプラリア同様、何かしらの疑惑の眼差しが消える事はなかった。

 とても考えたくないが、もし石像を再度生成する魔法があってその人物とカナメが繋がっているとしたら……などど、フィッテが知ったら怒りそうだ。


「セレセレ、夕ご飯食べたら眠くなっちゃった~? 大丈夫ー?」


 気がつくとカナメだけではなく、隣のベッドで座っていたフィッテですら不思議そうな顔をしていた。

 どうやら深く思考していたようで、カナメの話が全く頭に入っていなかった。


「ご、ごめん。申し訳ないんだけど、もう一回……」

「ん、わかった~。ええと、内部構造が石像と戦った広間、次が恐らく魔物が生息している部屋、そこを越えると祭壇に続く部屋に祭壇と大まかに四つの場所で戦闘が起きると思うな~」

「じゃあ一番奥の祭壇ってのが魔法石のある所?」

「ん、そこも説明したけどー……ま、いっか。魔法石もあるのはそこだけど、祭壇内に居座るボスが待ってる可能性が高いよ~。そいつが持ってたりする、かもね~」


 自分達がまだ足を踏み入れたことないエリアが3つあるだけで、居るか分からないボスをどうにかすれば魔法石があるかもしれない。

 どれぐらいの期間で生成されるか分からないが、魔法石は祭壇で生まれるのは追加で聞いた。

 

「さてさて、ざっと説明したかな~。レルレル、夜の散歩なんていかがですか~?」

「ふ、いいだろう。いつかお手合わせしたいねぇ」

「あらら、お手柔らかにお願いしたいな~」


 レルヴェは得意げに笑うと自信満々といった様子で表に出る。

 二人は帰り道に何かを連絡してたのはこの為だったのか。

 多分だが完全に復帰したらフィッテとセレナ、プラリアが戦った大型円形で戦うだろう。

 プラリアは何故かソシエの手を引いて、この部屋を去ろうとする。


「ね、ねえソシエ、魔法屋にちょっと付き合ってくれる、かしら?」

「う、うん。丁度僕も行こうと思ってたところだよ」


 そそくさと立ち上がると、二人もまた夜の街に消えてしまった。

 おかしい、出来上がりすぎているとセレナは勘ぐってしまう。

 けれでも、テレネス神殿で戦闘になったらフィッテとの二人っきりの時間なんて皆無だろう。

 だったらいつフィッテと恋人として過ごせるか。


「今、かも?」

「せ、セレナちゃん……?」

「な、なんでもない! ……あのねフィッテ、テレネス神殿の探索が終わったらお願いがあるの」

「わ、私に出来ることなら、今でもいいよ……?」


 今でも、と言われたらつい口を滑らせてしまいそうで、セレナは慌てて自分の口を塞いだ。

 

「そっちは本当に後でいいかな……。じゃ、じゃあ抱きしめていい?」

「どうぞどうぞ」


 許可が得られたので、迷うことなく抱きしめた。

 近付いたことにより彼女のうなじが丸見えになったので、試しにと指でゆっくりと這わせてみる。


「ひゃっ!? ……だ、だめだよ、そこ弱いの……」

「ふぅ~~ん? 良い事聞きましたなぁ?」


 思わぬ弱点にセレナは見えない位置なのをいいことに、妖しい笑みを浮かべると更に撫で指を下ろしていく。


「ぁぅ……くすぐったいってば……」

「ほれほれ~もっとやっちゃうぞ~?」


 ぞくぞく、と体を震わせたかと思えば、身をよじったり可愛らしく、もっと、もっと彼女をいじめたくなる。

 

(せ、セレナちゃん、どうして私の弱い所知ってる、んだろ……っ)


 ふいにぴた、と中断して表情を楽しむセレナは、フィッテの恍惚とも取れる頬の紅潮を見てドキリと心に打たれると同時に自分の中でスイッチが入ってしまいそうで、誰かが来ても構わないから彼女を乱したい衝動に駆られる。


「今は……いいか、いずれチャンスが来るんだし」

「セレナちゃん……?」

「あはは、ごめんごめん。そろそろ寝る支度するね」


 フィッテは急に止めたので、腑に落ちなかったが翌日のことを思ったらあまりはしゃぐのは良くないな、と宿屋の窓から見える外の景色に目を移す。


 夕日がすっかり落ち込んでいるにも関わらず、夜道を出歩く人は少なくない。

 むしろ夕方まであまり活動してない分を取り直すかのように、人々は動いている。

 彼女達が出発する頃には、彼等は床に就いているだろう。


(死にに行くんじゃない、カナメさんだって居る。ちょっと行ってすぐに帰ってくる……大丈夫大丈夫……)


 それから数分後、顔を真っ赤にしたプラリアとソシエ、誇らしげなレルヴェと悔しそうに頬を膨らますカナメが帰ってきたのを合図に、各々は就寝した。

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