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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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最強クラスの助っ人はどこの娘?

『テレネス神殿』。

 ディーシーから西にフロートボードで二時間程走行し、ようやく壊滅した柱や屋根が姿を見せる。

 近隣には村や、町が存在せず長期間潜り込もうならば野営準備を万全にして攻略しなければいけない場所だ。


 巨大な神殿は、人の手で造られたとは思えない大きさで天井は見上げないと視界には入らない。

 ぽっかりと侵入者を待ち受ける入り口の横にそれぞれが移動板を置くと、レルヴェは口を開いた。



「さぁて、ご到着のテレネス神殿だ。一番手は私が務めよう」


『……レルヴェさん、嬉しそうだね』

『うんうん、戦闘したかったのかな……?』

『きっとそうよ! もっと高難度の敵と刃を交えたいに決まってるわ』

『ぼ、僕はすぐ帰りたい気分だよ』


「……丸聞こえだが、まあいい」


 四人のヒソヒソ会話は見破られ、レルヴェは辺りを見渡してから先に進もうとする。


「れ、レルヴェさん、もう進むんですか……?」

「? 当然だ。偵察のつもりだからすぐに済むだろう」


 何かが彼女を急かしているのか、宣言通りに入り口に足を踏み入れた。












 フィッテ達も見失わないように内部へ入ると、暗闇の中に一つの人影が映る。


 天井付近の大窓から日光が射し込み、石畳の床と『巨大な石像』があるだけのようだ。

 強面で、石の鎧で外部からの攻撃を遮断するだろう。


「!? て、敵……?」


 フィッテの呟きに呼応したのか、背後の入り口からは左右に鎖が何重にも広がり逃げ道を塞ぐ。

 更に壁から青白い炎が浮かび上がり、燃える音を発しながら部屋全体を照らす。



 薄暗い中で視認した唯の大きいだけの石像かと思えた物は、全体が明るくなったことで左右に二本ずつ腕が生えそれぞれ所持する凶器が異なっているのが判明した。

 左手には剣、槍、右手には両刃剣、盾が握られている。

 炎が浮かんだのが条件か、石像は灰色の息を吐き出してから口を開けた。



「貴様ら、ここがテレネス神殿を知っての侵入か?」


 低く、やや聞き取り辛いが集中すれば聞き間違えは無さそうな流れる声にレルヴェ以外は驚きを隠せない。


「しゃべ、った……?」

「そ、それよりレルヴェさん、どうするんですか」


 レルヴェは顔にも声にも動揺を出さず、ずかずかと近付いていく。


「勿論だ。奥底に眠るとされる『魔法石』。こいつを頂戴するよ」

「そうか__。ならば、死ね」




 一息付いてから、目で追うのは不可能の速さで、石像は両刃剣を振るいレルヴェを壁に吹き飛ばした。

 衝撃で壁にひびが入り、レルヴェは言葉に出さないまま死んだように床へ伏す。


「……え?」


 あまりの突飛の攻撃に、全員状況を理解するのが精一杯だった。

 それだけ予想が付かない一撃である。

 両刃剣と理解出来たのは、動きを読めたのでなく攻撃動作を終えたからだ。


 まだ物足りないのか、止めを刺すべく今度は槍で突き殺そうと左腕をゆっくり振り上げた。

 

「ソシエっ!」

「う、うん!」


 プラリアの掛け声でソシエは体型に似合わない速度でレルヴェに駆け寄ろうとする。

 セレナも自分のやるべき詠唱に集中し、フィッテは皆が行動に出てから自分も詠唱を試みる。


「無駄だ」


 槍の動きはそのままで再び両刃剣が高速で振るわれる。

 レルヴェに対応出来ないのだから、ソシエは腹部に強く負荷が掛かった殴打を喰らい、彼女とは反対方向の壁に激突する。


「……ご、め……」


 絞り出すように声を発した後にソシエはレルヴェ同様崩れ落ちた。

 ソシエが倒れたのが引き金となったのか、プラリアは髪を揺らしながら低音で魔法名を呟く。


「よくも、ソシエを……死ね、【ペネトルアイス】」


 プラリアは手のひらを突き出し、狙いを石像の体に定めた青色の光線が撃ち出された。

 普通の人間ならば、反応されることなく氷に貫かれるはずだが石像は動じることなく盾を前方に構える。


「小娘にしてはなかなかの火力だ。しかし、効かん」


 盾に衝突するや否や、氷の光線は明後日の方向へくるりと跳ね跳ばされる。

 壁より更に上の、大窓を突き破りやがて光線は姿を消した。


「マズイかな、逃げるのも視野に入れたいところだけど」

「ソシエはどうするのよ、レルヴェさんも」

「まずは己の命が大事なんじゃないの? 脱出口だけは確保したいんだけど。【アイシクルブランディッシュ】」


 睨み付けて反論するプラリアとは反対に極めて冷静に判断をしたセレナは氷の大剣を創造し、背後の入り口の鎖を斬ろうとする。


「足掻きはやめて我に倒されるがよい」


 セレナの斬りかかりと同じタイミングで、人間の腕力では到底持てそうにない巨大な剣が三人に狙いを付け横に薙ごうとする。

 プラリアは丁度詠唱中なのか、避ける体勢を取りフィッテとセレナに視線を送っている。


(どうにかして防ぎなさい、っていう合図みたい。多分だけど。なら)


「私が行きます。【ストーン……】

 

 一歩、前方へ足を踏み出したのを把握しているように、左手の剣の攻撃を中断し右手の両刃剣が風を切りながらフィッテへと激突した。

 

「っ!?」


 ぐわん、と視界が急激に変化し壁に叩きつけられる。

 喋ることすら許されないまま、彼女の意識は遠のいていく。

 背中の痛みもあるが、まぶたは閉じつつあり体全体から力が抜ける。

 せめて、最後の抵抗にと創造魔法を発動させたかったが、叶わない願いだ。



「セレナ」

「なに? というか、この鎖……斬れないんだけど」

「フィッテが倒された」


 セレナはもう一度振り下ろして叩き斬ろうと試みたが、プラリアの一言で激しく髪を振り回して、氷の大剣を投げようとする。

 が、プラリアに取り押さえられてしまった。


「放してよ、プラリア。あいつ殺さないと気が済まない」

「お願いだから落ち着いて。勝てる勝てないじゃなくて、戦うレベルが違うわよ。いい、剣か槍の攻撃が来たら、武器だけを見て防いで」

「……へぇ、考えがあるんだ。今回は従うよ」


 プラリアはほっとしたようで、息を吐くと別の魔法を選ぶ。

 彼女達が一撃で倒されたのには理由があると踏んで。


「ほう……? 無能な奴とは違うようだ」


 石像は顔色一つ変えずに剣を縦に振り下ろす。が、一歩も動かないセレナによって受け止められる。

 この行動でプラリアは一つ確信をした。


「セレナ、度々で悪いんだけど遠距離系で吹き飛ばせる魔法、あるかしら?」

「これまた考えってやつね。あるけど、時間稼ぎは出来ないと無理かな」

「なら今度は私が引き受けるから、お願い」


 波長が合うように、お互いの役割を全うする二人。

 普段の口調こそは仲が悪そうだが、実力では認めているようにも見える。


「【ウォーターガーダー】」


 プラリアの前方に生まれたのは、構えたら体の大部分は覆い隠せそうな円形で半透明な水色の盾がふわふわと浮遊している。

 石像の槍と剣の同時突きを受けた瞬間、固体から液体に変化したようにどろりと溶け出す。

 槍と剣は勢いが落ち、床に着く前に石像による振り上げが襲い掛かる。

 瞬時に元の円形に戻った水色の盾は、防御したときに再び溶け原型を失う。


「いけるよプラリア、しゃがんで。【ショックウエーブ】」


 次はプラリアが従う番だった。

 セレナの掲げた腕からは何重にも輪で覆われており、彼女が力を込めると外側の輪が一つ砕けて体を中心とし、周囲に円となり拡大した。

 プラリアは屈んで体勢を低くしているため、魔法が当たることはない。

 反対に言えば、何も言わなければプラリアは展開された円で負傷したかもしれない。


「さてさて、どこまでその位置で立っていられるかな?」


 拳を強く握る度に、輪が割れて円が石像に、部屋に襲い掛かる。

 一発受ける毎に、石像は盾を構えてセレナとは違う方向に弾いていく。

 微動だにしていないようだが、逃げられない円を喰らう時に僅かだが後退させているのが足の動きで分かる。

 それだけ重い一撃なのだろうと、プラリアは推測した。


「効いてる……? これならいけるかも!」

「まぁね。プラリアの盾も使えると思うけど?」


 残りの輪を円としてぶつけながらも、セレナは状況が変化したことに喜びを感じている。

 プラリアも同様で、自分が描く作戦に向けて魔法を準備する。


「あれは、ある程度の攻撃しか防げないけどね。それよりも、ここからは私一人で十分だから、大人しく待っててくれるかしら?」

「なっ、そんな言い方! 私も最後まで……」



「ん~、あれ誰かが戦ってる。この石像前に倒したと思ったんだけどな?」


 不意に頭上から声が聞こえた。

 声の主は、プラリアの冷凍光線の反射で割られた大窓からだった。


「だ、誰?」

「お姉ちゃん達……その石像に苦戦してるなら、手助けしてあげよっかー?」


 姿こそは見えないものの、幼さを前に押し出した声色であることから成人した女性……ではないはずだ。


「貴方が実力を持っているなら、是非とも!」


 助け舟に乗る気満々なプラリアはこれでもか、と聞こえる声で叫ぶ。

 セレナは以外だ、と思ったが、この際状況が変わるならば彼女も必死なのだろうと感じた。


「ちょっと待ってねー」


 のんびりとした、今のセレナ達では出せそうに無い返事で彼女は大窓から飛び降りる。

 すとん、とちょっとした段差を着地したかのように軽い動作で彼女はスカートの裾を払う。


「んじゃ、ちょちょいっとお片づけしちゃいますか~」


 上下共に紺色で彩られた制服が印象的だった。

 ブラウスの胸元の可愛らしいリボンは血で染まったかのように赤く、長すぎず短すぎずのスカートには血が付着してそうな点が所々に映る。

 可愛らしい顔は誰がどう見ても幼く、フィッテ達とは同じぐらいの年齢には見えない。

 額が見える黒髪は彼女が歩くたびに舞い踊る。

 コツコツと音を立てて歩く紺の靴に、紺のタイツとどの街でも見かけるのが稀な格好にもセレナ達は目を奪われた。


「おぬし、また来たのか」


 石像はセレナ達なぞ眼中にない、という風に両刃剣を少女へと薙ぎ払う。


「ううん、ちょっと青い光が見えたからついでに寄ってみたんだけどねー、っと」


 彼女もレルヴェ達みたいに、壁に衝突するかと思いきや見切っておりしゃがんで回避した。

 

「んー、やっぱ遅いよね、この攻撃。おいで、【青の槌】」


 創造魔法を発動させると、手に全身青色の槌状の武器を石像の体へ狙う。

 一振りが全くセレナ達には見えず、右手の盾でしっかりと防御される瞬間だけが目に見えるだけだ。

 彼女はそのことを予想済みだったようで、次の創造魔法を放つ。


「やっぱり、実力の何割かを出さないとダメみたいだねー。しょーがない、【破砕する無数の祈り】」


 少女が体を一回転させると、体の動きに合わせて幾多の光の粒が螺旋状に舞い上がり石像に絡みついた。

 石像は四本の腕を全力で振るうが、攻撃は少女にかわされ一向に消える気配はなく石像に纏わりつくとスッと体内に侵入し石の体を崩し始める。


「おのれ、少女よ。次こそは葬る」

「はいはいー、言い訳はあの世でも聞きませんよーだ」


 巨大な石像は音を立てずに、粉々になって塵すら残さず存在自体が消えた。

 ようやく発言の機会が得られたみたいに、セレナの口が自然に動く。


「助かった。名前、良かったら聞きたいな」


 少女は指を二つ斜めに立てながら心までもが純白のような、真っ白い歯を見せながら笑う。


「わたしは、カナメだよー。よろしく~」


 こっちまで和んでしまう口調の少女だ、と二人は思った。

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