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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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誘惑、打ち払い偵察へ

 彼女達がディーシーの町に来て三日目、模擬戦闘やデート等依頼から離れたりしたのでそろそろ依頼を受けてみては、というレルヴェの提案の元依頼所にたどり着く。



 構造はほぼ同じで、依頼カウンターとかの位置が違っているだけですぐに馴染めそうである。


「それで、だ。フィッテの制限上、受けられるのは2までだが」


 レルヴェは遠めから依頼板から距離を置いて、方針を決めようとする。


「んー、一日二回という制限だから二回ちゃっちゃと受けちゃって、難易度外の敵で経験を積むのはどうかな?」

「そう、しようかな。多分、難易度2ぐらいまでだったら私でもいけそう……」


 フィッテ主軸に話が進んでいるのは、最初この町を訪れた時に決まっていたことだ。

 模擬戦闘の時は夕方辺りまで余裕はあったが、プラリアによる四人集合のお茶会という(レルヴェは居なかったので、誘うに誘えなかった)和やかな談話で終了してしまった為だ。

 そして、その翌日の別行動後に告白という流れで彼女達が依頼を受けようという意志はなく、お互いの想い人との素敵な時間を過ごしていた。



 なので、今日が依頼を受けるのが初めてである。



「この中の。『ブレイドバードの討伐』にするね」


「よし、決まりね。提出しに行きましょ」

「う、うん。腕組んだままじゃ行き辛いよ……」


 レルヴェから見てもくっつき過ぎだ、と口に出さないが心で思えるぐらいだから第三者から見たら驚きを隠せないだろう。

 膨れっ面で反論したが、フィッテにしては珍しく首を振り続けたので渋々腕のホールドを解除したセレナであった。




(セレナちゃん、大分積極的になってる……。良い事、なんだろうけど)


 実際無人という訳ではなく少数の人の目に付いている。

 フィッテ的には人目に付かない場所でなら気にならないのだが、どうしても不特定多数の視線があると恥ずかしくなってしまう。

 二人は依頼所のカウンターに依頼書を出しに行った。


「さてさて、お邪魔の私はまた散歩でもしようかねぇ……」


 レルヴェは赤髪を掻きつつ、朝の町に姿を消した。









 難易度の中でも順位が存在する。

 1、2、3までが初心者のカテゴリに分類される。

 フィッテが挑む難易度2の中でも3に相当する依頼がある。

 2の中に収まっているのは、戦闘スタイル等で強弱が変化し大多数が簡単と結論付けている為だ。

 ソシエの様に、近接系物理武器を取り扱う者も居れば、フィッテ、セレナ側みたいに近接、遠距離系魔法武器を使用する者の中から総合して出した答えだから、変わった戦い方をする人が同じ難易度になるとは限らない。



 彼女が戦う『ブレイドバード』は2の中では中位ぐらいだ。

 戦う場所が悪ければ苦戦は免れないだろうし、魔法や武器の中で相性が良ければ容易く狩れるだろう。





 

 ディーシー西部の草原、彼女の位置はそこだが更に西へ進むと小規模の森が広がっている。

 そこにブレイドバードは生息する。


 フィッテは場所慣れしていないので、森へは攻め込まず一匹だけを見つけ水の狙撃で攻撃する。

 近くにもう一匹隠れていたが、今度は銀の矢で始末した。

 羽とくちばしが短剣のように鋭かったが、彼女の敵ではなかった。



 町から数分移動し敵を待ち受けたフィッテは、セレナの助けを借りることなく一人で倒すのに成功した。



「次はどうする? 私要らないぐらい強くなってる気がするけど」

「2上位とも言われている、『リザードの素材確保』かな。私はこの敵の鱗持ってないから、倒しに行かなきゃ」




 草原の次に足を運んだのは町の南西にある洞窟だ。


 仄暗い空間を進むのに彼女は必要な物を準備してなかったので、セレナの灯りを点す魔法で先に進む。

 標的に出会う前にいくつかの分かれ道、飛び回るコウモリの奇襲など、難関はあったが袋小路にてトカゲを発見した。


 見た所4~5匹は確認出来るが、フィッテは臆することなく土の槍を設置してまとめて迎撃する。

 負傷した所に、炎の弾丸を数発撃つとトカゲ達は大人しくなった。


 転げ落ちた鱗を回収し、フィッテは今日の依頼が無事終了したからか笑顔を見せる。


 灯りで照らし続けるセレナは強くなったフィッテの笑みにドキリ、とさせられ顔を赤くしながら洞窟を出るのであった。









「さて、今日の依頼終了を祝して、かんぱーい!」

「か、かんぱーいっ……」



 ディーシー依頼所の待合場所にて。

 隣同士に座った二人は、依頼所特製ジュースが入ったグラスを軽くぶつけ合いお互いをねぎらう。


 苦労するほどではなかったが、セレナがどうしても、というのでフィッテはそれに従った。


「ふふ、最初はガーダーで怯えてたフィッテとは思えませんなぁ?」

「な、なんか言い方がいやらしいよ……変態さんみたい」

「フィッテの口から変態さんって出るあたり、グラーノさん?」

「う、うん。(直接言ったら、頬とか伸ばされそうだから絶対言えないけど……)皆、元気かなって」


 フィッテ達がブレストから離れて日付が経っているのもあり、フィッテはどこか町の住人を懐かしむようになっている。

 セレナ的には、いつまでもこうしていたいのだがフィッテがいずれ駄々をこねそうなので、何かしら対策はしておきたいと脳内でメモすると一つの質問を思いついた。


「あっ、そうだ。そういえば、レルヴェさんの『借り』はどこまで進んでる?」

「『魔法石』、相場調べたら一万枚もの銀貨が必要……みたい。対して私の返済はまだゼロ。……私は魔法石を見つける方法で行こうと思ってる」

「うーん、だよね。というかあの時私がああしていれば~とか考えるとキリが無いよね……魔法石使わない道をあったかもしれないし。そもそも! 私が名乗っていれば良かったんだよぉ……」


 フォローの隙を与えない速さで自己嫌悪に陥り、テーブルに額を付けるセレナに手を触れる。

 隣同士なのは、こうして手を握ったりする為だ。


 ばっ、と顔を上げたセレナはフィッテにキスしようと迫るが、片手で制されてしまう。


「フィッテの意地悪」

「こ、ここじゃダメですっ……。手を握ったりだったらバレることないから大丈夫だろうけど……」


 周りでは男同士の爽やかな笑顔で打ち上げパーティ、男女ペアがフィッテ達のように座り手を握り合い喋っている場面も見られる。

 その中の一グループに混じってしまえば、余程の行動でなければ人目を引かないはずだ。

 それでも、フィッテ自身は周囲に気を遣って手を握る程度にとどめている。


「じゃあ、宿屋とか私の部屋ならいいんだ?」

「そ、それはそう、なんだろうけど……」


 想像したら、あまりの恥ずかしさにフィッテは俯いてしまう。

 あの時だけでも顔が沸騰しそうなほどだったというのに。


「レルヴェさんにはきちんと返さないといけない。……だけど、私はこうしてセレナちゃんと一緒に時間を共有出来て嬉しい。確かに危険な目にも遭うし、これからも辛いかもしれない。私だってセレナちゃんと強くなりたいし、もっともっと仲を深くしたいの」

「あ、ありがと! それで? 仲を深くってのはこういうこと?」


 握っている手とは別の空いた手でフィッテの股へと進入しようとする。

 が、フィッテにしては珍しく片方の手で優しく叩き落とす。


「セレナちゃんの変態」

「あぁ……フィッテのやわらか太股がぁ……」

「レルヴェさんに言わなきゃ」

「う、ごめんごめん。次はある程度気をつけるから! ね?」

「ある程度の時点で反省の色が見えないよ……」


 フィッテは呆れるように息を吐いてから、特製ジュースへと手を伸ばし半分飲むと、別の意味で息を吐く。


「う、フィッテごめんってば、許してよ」

「ち、違うの。そうじゃなくて、レルヴェさんの返済終わったらどうしようかなーって。セレナちゃんと強くなる目的もいいんだけど、もう一つ最終目的とかもあった方がいいかどうか悩んでて……」

「お、やる気満々だね。良い事、だけども魔法石獲得レベルは5からだからね? それまでヘトヘトにならないように私もサポートしつつ、鍛錬するけどね……」


 二人は手を繋ぎながら、方針を決めた。

 実は二人はある事を忘れていて、レルヴェ達に怒られたのは言うまでもない。








「全く、依頼二回終わる頃に一度宿屋集合って言ったのに。イチャイチャしてたのかしら?」

「「反論出来ない……」」


 二人は宿屋の一室にて、プラリアにこれでもかとグチグチと嫌味を正座の状態で聞かされた。


「あはは……プラリアちゃんも人の事言えな、むぐ」

「ソシエは黙ってて。レルヴェさん、それで今日集まってもらったのは?」


 慌てて口を塞いだプラリアは窓際で景色を眺めるレルヴェに先を促す。


「っと、その前に、フィッテ達。ベッドとかに腰掛けてくれるかい。流石に可哀想だ」


 レルヴェの許しを得て、彼女達はベッドの縁に着席する。

 一つ咳払いをしてから、話を続けた。


「四人はそれぞれ今日の依頼分は消化したと思うが……いよいよ難易度外の魔物に挑んでみようという提案だ。無論、私も全力でサポートに回りで犠牲は出させない」

「あ、ありがとうございます……っ! レルヴェさんと久々に手助け頂けるなんて……」

「それでどこに向かいますか?」

「では『テレネス神殿』、ここに行こうか。フィッテは知らないだろうけど、残りの三人なら小耳には挟んでいるんじゃないかねぇ」


 フィッテは首を傾げるばかりだが、セレナ達はあまり良くない表情に変化した。

 怯えや動揺、唸りと好意的には見えない。


「聞いた話だと難易度5の敵がウジャウジャ居て、その道中で光属性や闇属性の素材を拾えるけど場所に見合う物じゃないとかなんとか」

「奥深くには難易度10のボスが居座ってるらしいとの情報も……」

「ぼ、僕は悪霊が入り口で待ち構えてるって……」


 それぞれが根も葉もなさそうな情報を口走るが、レルヴェは茶化さずに否定した。


「それはほとんど間違いだねぇ。難易度4~5の敵は存在し、多少の素材は拾えるが、ね。早速向かうのだが、今回は偵察だ。少し様子を探ったら……明日の朝、奥底に眠るお宝を頂きに行く」

「レルヴェさん、そのお宝とは……?」


 フィッテがどんなのか気になる、とばかりに身を乗り出す。


「魔法石さ」

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