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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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願いの為に

「フィッテ、行くよ!」

「う、うん!」

「来なさい、負けないんだから!」


 三人が掛け合いをする中、三人一斉に創造魔法を放った。


「【セパレート・ダガーストーム】っ!」

「【アーススピアー】!」

「【ハイドトラップ】」


 創造魔法の性質上、会話しながらでも中断しない限りは創造魔法の詠唱は可能だ。

 だから延々と長話をし続け、頃合を見計らって強大な魔法をいきなりぶつけられる。

 フィッテは彼女達より創造魔法の扱いに長けている訳ではないので、魔法の種類にも限界がある。つまり話し合いをするなり、もしくは沈黙を守った後奥の手をいくらでも使える……なのだが、

 けれども、残りの二人は何故かあまり本気ではないようだ。

 セレナの前方をカバーするように小振りな剣が数え切れないほど生成され、プラリアへと全弾射出される。


「遅い遅い、こんなので私を倒せると思ってるのかしら?」

「ここで倒せるならここまでだと判断するまでだけどね! フィッテ! 言うまでもないけど……次、仕掛けるからね!」

「う、うん!」


 プラリアは魔法名を発声して以降、言葉を出すことなく自ら対戦ステージの端まで足を運ぶ。

 勿論だが、セレナの短剣を避けるように大きく動いてはいる。

 多数を相手にしている場合は逃げ道を塞いでるとしか思えない、と勘ぐるセレナはフィッテを後方に下がらせる。

 フィッテの魔法が発動し、彼女の前に設置した小さな土の塊が砕けて扇状の黄土色の槍が展開された。

 当然だが、対戦相手に当たるはずもなく不発に終わってしまう。


「へぇ……トラップ系、かしら。やるわね」

「ど、どうも……」

「こらこら、フィッテ。今はお礼言ってる場合じゃないって。【クロス・チャージブレイド】!」


 フィッテは二つの剣を所持した少女に駆け寄り一つ受け取った。

 そして、二人は金髪で翠の瞳をした強気な少女に剣の切っ先を向ける。


「ご、ごめんセレナちゃん……」

「どういたしまし……てっ!」

 

 言葉の最後まで言い終える前に、フィッテとセレナは引っ張られるように加速しプラリアへと斬りかかる。

 が、しかし。

 斬撃は成功することなく、空振りに終わってしまう。


「掛かったわね。【ライジングスフィア】」


 二人分の地面をまるまる包囲し、怪しげな文字が所狭しと書かれた円形の陣が金色に光った。


「せ、セレナちゃん……!」

「ちょ、これ……水の檻!?」


 光が収まったと思ったら彼女達は後少し、という所で群青色の壁に阻まれる。

 壁は後方を振り返り、上空、下方を見ても濃い青色が広がっていて初めて自分達が青い球体に閉じ込められたのだと認識した。

 呼吸は出来るが、中の動きは海そのもので地面に立っている時と同等の動きは出来ない。

 足さえ着けばどうにかなりそうな気がするが、彼女達は地面から多少の高さで浮かされている。

 なのでこの球体から逃げ出さない限り、流れに身を任せる他ない。


「こ、の……殴ってもダメみたい」

「な、ならなんとか下まで行けないかな?」

「ん、やってみますか」


 ようやく状況を理解して、セレナが足掻こうとすると球体の内側に異変が起こる。

 外側から巨大な水色の刃が球体を分断するかのように現れ、球体内の二人を凪いでいった。

 あまりに咄嗟の出来事でセレナとフィッテは対応出来ずに、一撃をもらってしまう。

 実戦とは違う緑地だからか痛みはほぼ感じられないが、これで一点と半端を取られてしまった。

 次も同様の攻撃が来ようものなら、合計三点がプラリアに入ることになる。

 

「あらあら? フィッテには魔法一発でも~とか言ってたのはどこの誰かしら?」

「くっ……この金髪嫌味少女め!」

「だ、ダメだよ、セレナちゃん……」


 プラリアのあからさまに分かりやすい挑発に引っ掛かり、無我夢中で彼女の方へと必死に手を動かし前へと進もうとする中、フィッテは冷静にセレナの両手を優しく握った。

 流石にセレナは手を振り払う、ということはせず、じっと顔を見つめた。


「え、と、ここは落ち着いてどうにか打開策を探し……ってセレナちゃん?」

「ありがとね、フィッテ。手を握ってもらったら落ち着いてきた」


 フィッテは自分でも少し恥ずかしい行動に出たのを改めて実感し、手こそは解かないものの顔だけは逸らした。

 

「っ、フィッテ危ない!」


 お互いの手を繋ぎながらでも、彼女は追撃の心配をしていたらしくフィッテを庇い下方へと押し込む。

 押し倒すような形だが、今はそれを気にする余裕はフィッテにはない。

 再び別の刃が通り過ぎ、セレナに攻撃を加えていった。

 彼女は痛がる素振りは見せずに次の攻撃を予想する。


「追撃、【アクアストライク】」


 セレナの考えの裏をかくように、プラリアは次の創造魔法を発動させた。

 急に球体が弾けたかと思うと、今度は薄青の地面に二人は足を着ける。

 対戦の場をカバーするほどの巨大な剣の腹だということに気付けたのは、プラリアが同等サイズの剣を構えてからだった。

 足場の剣、彼女が手に持っている剣と、二本の刃が同時攻撃を仕掛ける……とかを考えたフィッテは間に合うかに構わず、創造魔法を発動させる。


「【ストーンポール】っ!」


 プラリアの足元より生まれ出る石の棒は、彼女の手の甲へとすり抜けてフィッテの手元に渡った。

 どうやらこの緑地では全ての創造魔法の効果は薄れるようだ。

 プラリアの追撃である、水球はもっと高く浮き上がるかもしれない。

 痛みを感じさせない威力なのは勿論だが、体を透過するのはフィッテは知らなかった。

 石の棒を生み出し、セレナの創造魔法次第では共に挟撃出来たら理想だ、という彼女なりの連携が伝わっているかのように。


「つっ……フィッテ、やるじゃない!」

「い、いえ……それほどでも……」

「フィッテ、私に続いて。【ウォーターランス】」


 ラウシェの町から逃走する際フィッテを守る為に使用した、青くそれでいて透き通るような色の槍だった。

 セレナの掌からゆっくりと生み出された槍は、刃は矢じりのように鋭利となり、矢じりが二つ連なってるように見える。

 フィッテが前方の相手に駆け、セレナは槍の全身が出る前に薄青の地を走り続け、プラリア以外を視界に入れず二人は刃を同時に振り下ろした。


「大人しく喰らいなさい!」

「やあっ!」

「それはどうかしら?」


 ストーンポールの不意打ちで若干の遅れが出たが、プラリアはセレナ達の攻撃タイミングと同じぐらいで剣を横薙ぎにしている。

 横の水の刃は二人の体を高速で通り過ぎた。

 

「!? ちぃ……これ外だったら死んでたね……」

「な……!」


 実戦ではないので、二人の体は両断されないし痛みも感じないが、彼女達は戦場独特の死を僅かに感じる。

 二人の驚きも予定通りなのか、一度の斬撃で消える事はない薄青の大剣を再び横一直線に薙ぎ払った。

 フィッテはともかく、セレナは次は対応してみせる。

 戸惑っているフィッテの手を引きながら、迫り来る刃を斬り上げて防ぐ。

 創造魔法同士では衝突や防御が可能で、魔法武器での打ち合いが白熱しそうだ。

 まさか防がれるとは思っていないのか、プラリアは口を開いて驚きを表現した。


「あ、ありがとうセレナちゃん……」

「どういたしまし、てっ!」


 斬り上げからの、槍の投擲でプラリアの胸部を狙う。

 銀色の矢などとは比べ物にならない速度、それこそ駆け抜けるよりも速い槍に反応出来る訳もなくプラリアの胸を貫通した直後、槍は弾けて拡散して更に攻撃を加えた。


「ちょ、二回攻撃とはやるじゃない……!」

「そっちだって、何回も斬れそうな大剣持っておいて何言ってんだか!」


 誰とも話すことはない外野のソシエは、今までの攻撃から点数をカウントしている。

 プラリア側は三点、フィッテチームは四点だ。

 セレナの先程の水槍は貫通と拡散は別として数えている為、僅かに上回っていた。

 フィッテはセレナと目の会話をして背後に回りこみ、石棒を何回も突き出す。


「甘いわね、フィッテ」


 一発は見事に当たったが、二発目の突きを見切ったかのように金色の髪をくるりと翻しその場で一回転斬りを放つ。

 セレナの機敏な動きだと喰らう様子はなくしゃがまれたが、後方で挟み撃ちを狙う少女は刃が届くギリギリの所で防御反応を行う。


「くっ……」

「フィッテ、待ってて【アイシクルブランディッシュ】!」


 手に握られた、見た目は重そうな大剣を彼女は軽々と右斜めに斬り下ろす。

 すっと、通り過ぎた大剣を受けまずい、と判断したプラリアは一度跳ねるように左へと移動し距離を取る。


「流石に二人相手にするとキツイわね。でも!」


 所持した水の巨大剣で斬り付けるかと思いきや、易々と天へと放り投げた。


「最終追撃、【ウォータメテオラス】!」


 天高く舞い上がった剣の刃先からは、幾多もの水の槍が零れ落ちようとしている。

 それこそセレナのウォーターランスを真似て作ったみたいに。


「あ、あれは……?」

「っ!? ま、マズ__」


 彼女が最後まで言葉を発する前に。

 石床全体を覆いつくさんばかりの大量の雨が投下された。






 

「うぅぅ……フィッテ、ごめん」

「い、いいの! ……プラリアさんの大技、避けきれると思えないし……」

「ふふふ、私の勝ちね、セレナ」


 あの水の槍一つ一つが一点として加算されなかったら、まだ勝機はあったのかもしれない。

 ウォーターランスの着弾後の拡散は一発毎に一点という加点にしていなかったのも勝敗の分かれ目だっただろう。


「というか、アレどう対処すればいいか分からないんだけど」

「んー……頭上をカバーするような魔法を展開しておくとか?」

「瞬時に対応出来ない時点で私の負け、ね。んで? 私はプラリアに敬語で接すればいいんだよね?」


 対戦前はどちらも勝ちを譲らないばかりの口調だったが、いざ勝ちを取れると本当にそのお願いでいいか悩むプラリアであった。


「よくよく考えれば貴女に敬語使われても気持ち悪いだけね。別のにするとすれば……」


 ぐるり、と散り散りになったギャラリーを見回し見知った顔が居ないのを確認してから、耳元でささやいた。


「す、好きな人に告白するきっかけとかをお、教えて欲しいん、だけど……」

「……え? え?」


 思わず、セレナは二回とも同じ言葉を小さな声量で繰り返した。

 それほど、彼女の口から聴かされたのが以外だったからだ。

 フィッテやソシエは、お互いに顔を見合わせ首を傾げる。


「じょ、冗談じゃないのは分かってくれるかしら。ほ、本気よ」

「まさかだけど……それだけの為に戦いを?」

「勿論、と言いたいけど、実力を見たかったのは本当。まぁ、ついでみたいなものだけど。それで、教えてくれるの?」


 うーん、と少し唸ってから二人の何の話か気になってそうな、首を傾げてる姿を見てある事を思いついた。


「んー、私自身からは何も言えないけど……こういうのはどう?」


 少女同士のささやきはまだ続くなか、フィッテはソシエに近寄る。


「何を話しているんでしょうね……」

「分からない。でも、プラリアちゃんのことだから、企み事という可能性も……」


 やがて、内緒話に区切りがついたのかプラリア達はこちらを向く。



「フィッテ、私からお願いを聞いて欲しいんだけど。いいわね?」

「え、ええ。いいですよ。というか……勝ったらそういう約束じゃないですか」

「そうね。じゃあ……私と明日一日だけ付き合いなさい」 

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