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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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四人のこれからと、告白が気になる少女

「へぇフィッテ、カイサジリア展望場行ってきたんだ、いいわね……」

「プラリアさんは行かなかったんですか……?」


 カイサジリア展望場から東へと進んだ場所にある町。

 あの後の三人は甲冑の群れに襲撃されていたので、その対処にあたっていたのもあり魔力を消耗していた。

 帰りの分を含めると、フィッテだけ魔力が怪しいということで休憩及び、宿泊を提案したのはレルヴェだ。

 フィッテ自体もこれ以上借りを作る訳にはいかないのと、他の町が気になっていたので否定はしない。 

 そして、その町で彼女達は話をしていた。

 プラリアが居たのには三人は予想外だったが。


「ん、行ったわ。ソシエと二人で」

「ソシエさんと……」

「ええっ!? も、もしかして、プラリア……ソシエの事」

「な、ちょっ、何言ってるの!? そ、そんな訳ないじゃない! だーれがこの幼馴染と!」


 宿屋の一室を使用していて、隣室が空室とはいえ彼女達の驚きの声は周囲に響いただろう。

 多少の域は超えているが、宿主が乗り込んで来ないことから今の時間は問題ではないのだろうか。


「ぼ、僕はプラリアちゃんが行きたいって言うから付き添っただけで……」

「ふぅ~ん……そういう事言っておきながら素材入手したときは私に感謝してたよね?」

「う、それは……」


 レルヴェは騒いでいる彼女達を音楽代わりにし、窓から景色を眺めつつ頬杖をついている。

 フィッテはうろたえるプラリアと楽しそうにはしゃぐセレナ、赤面しつつ指同士をくっつけたり離したりしているソシエの脇を抜けつつ、赤髪の女性に近づいた。


「レルヴェさん」

「なんだいフィッテ、小声で話したりして。何か秘密話かい?」

「い、いえ、考え事していたようなので、私達のことなのかな……と思いまして」


 彼女は視線を窓から見える町並みから変え、フィッテの掛けている黒眼鏡や服装、はたまた後方のセレナ達にも目を送る。

 

「まぁフィッテ達もあるが……わた……いや、フィッテ達でねぇ。順調に難易度二を突破しつつあるから、どこまで行けるかと気になってね」

「わ、私はどこまで行けるか分かりませんが、努力だけはしたいと思います!」


 黒髪の少女が声を出すものだから、後方の三人が気づかない訳がない。

 

「レルヴェさん? 私達の話をしていたような気が……ソシエはどう思う?」

「僕も同じかな……一体どんな内容なのか興味はあるけどね」


 プラリアは金の長髪をくるり、と一周回した後に解き、ソシエは緑色の眼鏡に触れる。

 二人の行動とは違うが、セレナも同じの様で不思議そうに首を傾げた。


「それで本当の所、何を話してたんですか?」

「ああ、フィッテの請負二士に関してだ。実際、彼女は予想通りに力を付けつつある。そこで、だ。ソシエやプラリアとも組んでみたらどうだい? 今後何かの役に立つかもしれない。セレナの為に念押しする訳じゃないが、セレナと組ませたくない訳じゃないのは分かってくれるかい」


 レルヴェの付け加えた補足に、セレナは不快な顔を示さず首を頷かせた。


「んー……です、ね。私とばかりでもいいかもですが、プラリアやソシエ共組んでみて違う流れを把握するのも勉強になるかもだし」

「せ、セレナちゃんはそれでいいの? てっきり私としばらく依頼を一緒にやるとばかり……」

「? 勿論私も一緒だけど? そもそもフィッテ、今までは二人だけだったけどこれからは四人組み以上のパーティーとかを組む事だって十分あり得る。その為の練習でもあるんだよ」


 請負二士になった時に受けた、特別依頼時のメンバーの顔ぶれが揃っている。

 レルヴェからの提案ではあるが、いずれはセレナ側かプラリア側、どちらかがいつかは誘っていたのかもしれない。

 単純に分け前は四等分になるが、それ以外を除けばこれほど楽な依頼はない。

 ……とはいえ、一日に受けられる依頼が限られているのであまり人数が多すぎても揉める原因なのだが。


(私は嬉しい限りだし、皆の動きや多人数戦闘は特別依頼以降やってない……これはチャンスでもあるけど、プラリアさん達がどういう返事をするのか……)


 フィッテは組んでくれそうなソシエの顔をさりげなく見つつ、話題の一部でもあるプラリアへと視線を向けた。

 可愛らしくも、怒れば厳しさが伝わる翠色の釣り目とは正反対に、やや控えめなサイズの鼻と唇はセレナとは違う可憐さを溢れさせる。

 やがて、こちらが見ているのに気付いたか金髪の少女は髪を揺らして近づいて来る。


「な、何よ」

「ご、ごめんなさい! 私はプラリアさん達に組んで頂けるか考えていたらぼーっと見てしまって……」

「ま、まあいいわ。私達と組む以上はこの前のヘマだけはダメだから、それだけは理解しておいて」


 やや距離を置き照れくささをアピールするかのように、横顔で頬をなぞりながらどこか視線は泳ぐプラリアに微笑み、ソシエはこっそりとフィッテに耳打ちした。

 これだけは聞かれるとまずいのか、集中しないと聞き取れないほどだ。


「『ここだけの話だけど、プラリアちゃんはフィッテちゃんを何だかんだで評価してるんだよ。魔物討伐が出来ないと初めっから思ってたみたいだし。だから、あまりプラリアちゃんを悪く思わないで欲しいな』」

「『そ、そんな悪く思うだなんて……』」


 プラリアは何の話か気になるようで二人の顔を交互に半眼で見る。


「……内緒話?」

「な、なんでもないよ! ね、フィッテちゃん?」

「は、はい! それでですが、お二人は組んで頂けるのですか……?」

「私は特に不満は無いわ。取り分とかも気にならないし、私で良ければ嬉しい限りね」

「僕は元々構わないし、誰かの役に立てるなら嬉しいかな」


 話がまとまったのを聞いていたレルヴェは窓際からドアへと移動し、ノブに手を触れフィッテ達に顔を向けた。

 彼女の表情は最初何かを決意したかのように、真剣さがあったが一瞬だったので見た者は少ないだろう。

 にこやかな笑顔でフィッテ達にこれからの方針を伝える。


「話がまとまったようだねぇ。……私はブレストの町でゆっくりしようと思ってるが四人はどうするんだい?」

「……依頼はここでも受けられるんですか?」

「ああ、難度1でも多少の違いはあるが、ブレストの町と同じような感覚で構わないね」


 フィッテは彼女へ質問をしてから、少し考え込む。


(四人で依頼を組むのは決定として、受ける場所。……私はこの町も見てみたいけど……ワガママはダメだよね……)


「私も一度戻ろうかな……セレナちゃんは?」

「同じかな。あまりこっち来ないから、依頼何度か受けたい気持ちはあるけど……」


 残る二人も意見を主張する。


「ぼ、僕はプラリアちゃんの意見に賛成だから」

「な、何よそれ。私はこの町『ディーシー』で依頼を受けて腕慣らししたいわね。ブレストとは違う魔物も出るし」


 プラリアは頬を軽く触れ、髪をかき上げる。

 ともあれ、意見は三対二と分かれてしまった。

 ここで残る派であるプラリアがレルヴェに問いかけた。


「レルヴェさん、こちらではゆっくりしていかないんですか?」

「ああ、それもありだがやはり弧道救会に居ると落ち着くのもあるねぇ。無論、こっちで宿なり取って体を休めるとかでもいいんだが……まあ雰囲気の問題だろう、別にディーシーが嫌いとかじゃくて普段住んでる所が良いってだけさ」

「なるほど……では私たち四人はこの町に残りたいのですが……」

「構わない。が、フィッテやセレナは戻るって……」


 赤髪の女性が視線をブレスト組へと移したところで、彼女達が気圧されてるのに気付く。

 再びプラリアへと戻すと、彼女は表情は笑顔そのものなのだが、どこか威圧している気がした。

 ソシエが申し訳なさそうに困った顔をしているのもそのせいか。


「何か用事とかあるなら、私もここに居よう。……少しの間だけだがね。ブレストの時みたく街丸ごと襲撃されはしないと思うが、念の為さ」

「……ありがとうございます! フィッテ達もい・い・わ・ね?」

「う、あ、は、はい……」

「あー、うん。分かったから。今日はディーシーに泊まるって事で」

「プラリアちゃんは本当に強引だなぁ……うう」


 自分のパーティー編成と、次の行動について一先ず決定したので安堵の息を吐くフィッテであった。










 夕方、彼女達は全員一緒に夕食を取った。

 海から近いというのもあり、肉類は少量、海鮮物がメインとなっている。

 焼き魚から魚介スープ、切った身の部分を炒めたりとブレストではあまり味わえない料理だ。

 夕食時の会話で知ったのが、プラリアとソシエはブレスト出身で昔っからの付き合いで、友達以上の関係であることなどの情報はフィッテにとって初耳である。

 セレナは元から知っていたようだが、フィッテにとってはどうしてプラリアとソシエの仲が良いのか気になっていた部分もあり細かな疑問が解消されたようである。

 そして、フィッテが今日入手した『ブルースクウェア』の価値についても。

 水の属性値は70と固定なのだが、店売り……魔法屋で販売が出来ないのと売っても大したお金にはならないのが今までの素材と違う所だ。

 あの板一枚に意味があるらしく、道中に潜む敵や真実の鏡を越える事で始めて入手の資格が与えられるらしい。

 とはいえフィッテ自身は困ったら換金や、素材材料にしよう、という考えなので素材は弧道救会内に持ち帰っている。(今は帰宅していないので所持しているが)

 今はセレナの部屋で衣食住を共にしているが、部屋申請が終了すれば自分の部屋が持てるのを待つばかりだ。

 フィッテとしては、いつまでも友人の部屋にお邪魔するのはマズイとの事だがセレナ本人は全く気にしていないどころか、いつまでも一緒で構わないらしい。


(んー……色々と問題が解消されつつあるけど、今気になるのは……)





「何よフィッテ、私の紅茶が飲めないの?」

「い、いえ! そうではなくてですね……わ、私だけ何故お茶会のようなものに誘って頂いたのか気になりまして……」


 夕食から一時間後。

 フィッテは金の長髪少女に呼ばれて来た場所は宿の二階にある、バルコニーの椅子に座っている。

 三人が座れる椅子と丸テーブルが一つだけ置かれ、他にはもう一つ椅子が入れるか入れないかの広さだ。

 プラリアが先程言ったように、カップには七割の量が入っている。

 淹れたてで、熱々で洋菓子のクッキーが皿に盛られ会話するだけでは余るぐらいだ。

 ソシエやセレナはレルヴェが気を利かせてどこかへ散歩に行っているのか、姿は見えなかった。

 彼女は意地でも放さないのか、窓から背を向けた位置に座っている。


「気になるから」

「……私が、ですか?」

「そうよ」


 全く冗談に聞こえず、真顔のまま返すからフィッテは思わず鼓動が高鳴った。


「え、と……この前の魔法屋でのやりとり、あれは本当に私の事が……?」

「ええ、そうよ……って顔赤いじゃない! まさかそういう意味で?」

「っ、ち、違うんですか? 私はてっきりそうだとばかり……」

「……ぷぷ、面白いわね、フィッテは。確かに興味はあるけど、こうなんていうかあなたが成長するのが気になるの。……それに私は好きな人が居るの」


 顔に手を当てて僅かに赤面していた自分が恥ずかしく、少しの間手をそのままにしておく。

 やがて、彼女の想いがどこに向いているかフィッテはすぐに察知した。


「ソシエさん、ですよね……?」

「む、正解。意外と鋭いのね」


 そこまで区切ってから、紅茶が冷めない内に数口含む。

 フィッテもそれに続いてから、再び彼女が口を開いた。


「それで、本題だけども。……告白とかってしたの?」

「んぅっ!? げほっ……げほっ……ど、どうしてその話が……?」


 まだ飲み終わっていなかった為、フィッテは残りの液体を噴き出しそうになったので慌てて飲み込んだ。

 熱くて思わずむせた所に、プラリアが駆け寄り背中を撫でながら心配する。


「ちょ、ちょっと! ごめん。…………落ち着いた?」

「は、はい……告白なのですが、ブレストの町に帰ってから言おうとは思ってます……」

「ここではしていかないの? ほら、海の町って雰囲気良いと思わない?」

「ん……ここでもいいのですが、ちょっと渡したい物があるからブレストの町がいいな、ってだけですよ。その渡したい物なのですが……」

 

 丁度背中を撫で終えた彼女に近寄ると、よく聞こえるように片手で覆ってから何かを伝えた。

 プラリアは一瞬驚いた後、目を輝かせた。

 まだ子供なのだが、それよりも更に幼くなった少女のように。


「うんうん、良いと思う! 私はこの町を多少は知ってるから聞いてみる!」


 言うや否や、プラリアは髪を振ると窓へと走る。

 が、突然ピタっと止まり、眼鏡少女を見つめた。


「後フィッテ、なぜさん付けか気になるんだけど? セレナに呼び捨てだとちょっと腑に落ちないけど、フィッテにならいいな、って思えるんだけど」

「プラリアさんの方が年上に見えるから、ですね……」

「私はフィッテの一つ上、なだけどね。まあいいや、呼び方はどっちでもいいの、それじゃあまた!」


 何か嬉しい出来事が自分に起きた訳ではないのに、彼女の去り方はいつもより浮かれているようだった。

 彼女のご好意でもあるお茶会は一方的に閉められてしまったが、勿体無いので残りのお茶と洋菓子を頂くのであった。


(呼び方はいつも通りだとして、この量……セレナちゃんやソシエさんも呼べば大丈夫かな……)

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