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私と師匠  作者: 水守 和
第2話 蔑みの水刃
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力を求めて

 あの日の告白から数日後。

 

「へぇ、フィッテから今度は言うのかい」

「は、はい……っ、少し時間が掛かるかもですが……」


 依頼所内、待合場所にて二人は話し合っていた。

 二人だけなのは、フィッテが朝方早起きをして周辺の散歩の際、偶然にも東門をくぐったレルヴェに遭遇したからだ。

 積もる話は多少あれども、何よりも久しぶりに会えて嬉しいフィッテであった。

 

「まあ、上手くいくだろうねぇ……何かあったら相談に乗ろうか」

「は、はい! ありがとうございます!」


 まだまだ話したいことはある、とばかりに素早く請負証を見せた。


「あ、後ですね! 請負二士になりました……!」

「ほぅ、やるじゃないか。このペースだと数週間したら三士いけるんじゃないかい?」

「う、まだまだと私は思っています。二士で難しいとされている依頼が残っていますし……」

「そこらへんはセレナ辺りに協力してもらうといいさ。……というよりも、だ。こっちの報告が先かと思ってたよ。それだけ彼女に関して想っているんだろうねぇ」

「す、すみません……レルヴェさん、最近お忙しいようなのでまずセレナちゃんの事を言っておきたくて……」


 俯きつつも、少しはにかんだ。

 対してレルヴェは、今までの経過を思い出しているのか口を僅かにへの字にする。


「私の方は、あちこち飛び回って傭兵みたいな事をしているのさ。例えば難度高の魔物の討伐補助。はたまた重要人の護衛、とかね。でも、しばらくはこっちに落ち着くことにしたから依頼とかだったら付き合える予定だ」


 話を聞いただけで、レルヴェが大変さが伝わってくる。

 ふら~っと居なくなり、気がついたら帰ってきている姿はまるで旅人のようだった。

 どこか住んでいる次元が違う気がするのに、目の前にその人物が座っていると自分という存在が霞んでいくようである。


「わ、私なんかでいいのでしょうか……? 頼む! 俺達と組んでくれ! と、泣いてお願いするような方が居るように見えます……」


 フィッテの微妙に膨らみつつある頬を優しく触れると、レルヴェは彼女の頭を撫で始めた。


「嫉妬かい? らしくないねぇ」

「だって……レルヴェさんがこんなにすごい人だとは思ってもいなかったんです……」

「ははは……。まあ、私の事はさておきだ。依頼、どうする? セレナが起きてから何かこなすかい?」

「……私は構いませんが、セレナちゃんはレルヴェさんとお話したいかもしれませんよ? 何せしばらく顔を見えてなかったんですから」


 まだフィッテはレルヴェが不在だった事を根に持っているのか、笑みは残しつつもセリフは嫌味を隠し切れない。

 素早く察知した赤髪の女性は、短い髪を掻きながら軽く笑った。


「すまないすまない。けれども思わぬ収獲が有ったのさ」

「収獲……ですか……?」


 考えが浮かばないフィッテは、聞き返す他無かった。

 

「ああ、私たち創造魔法を使う人にとって重宝とも言える物さ」


 スッとテーブルの上に置かれたのは一枚の板だ。

 手の平より大きい長方形は水色でやや形が欠け気味で、指で摘める程の薄さ。

 肌触りはどこか陶器のざらつきに似ている。

 フィッテは何となく答えを予想した。


「もしかして……魔物の素材、とかですか?」

「半分正解、だ。もう半分は魔物ではなく場所さ」

「……どこかに素材になるようなものがあるのですね。……レルヴェさんが重宝する、という事は素材値が高い物が採れたのですね」

「ああ、そうさ。コイツは水の70。今のフィッテの熟練具合じゃ創れないものはないんじゃないかねぇ」


 たったこれっぽっちの板で現段階で主力級の魔法を創れる。

 その事実がフィッテの口を開かせた。


「レルヴェさん、この素材はどこに行けばありますか? 私は自分の力でどうにかしてみたいんです。……レルヴェさんのお力を借りれば、苦労すら必要なく入手するのは容易いです。でも、それだけじゃダメなんです。だから……」


 最初とはもう明らかに違う彼女の表情、意志を感じレルヴェはフィッテの口元に指を当てた。

 まじまじと見つめ大人びたレルヴェの顔に驚きつつ、中断された以上黙るしかない、と言葉を待つ。


「この町より南のカイサジリア展望場、そこで見つけたのさ。だけども、出くわした魔物はいずれも今のフィッテでは厳しいかもしれないが、それでも行くのかい? 前も言ったかもしれないが、フィッテ達を亡くすには惜しい存在なのさ。私にとって、セレナやフィッテは『弟子』みたいなものだからかもしれないねぇ」

 

 カイサジリア展望場、その名前も気になったがレルヴェの言いたいことを理解したフィッテはまず頭を下げた。


「ごめんなさい、レルヴェさん……。私らしくないですよね……」

「全くだ。……私が居るのだからパーティーに組んで危ない時は手助けする、というやり方だってあるのさ」

「じゃあ……すみません、お願いします」

「よし、そうと決まればフィッテ、朝食はまだかい?」

「これから、ですね……セレナちゃんを起こしてからなので……」


 赤髪の女性は頷くと空腹であることをアピールするべく、腹部を擦った。


「腹ごしらえをしないとねぇ。流石の私も空腹だときついのさ」









 三人で積もり積もった話を交えつつ(主に話したのはセレナだった)、朝食を頂いたフィッテ達はいよいよカイサジリア展望場へと到着した。

 南部へと足を延ばし、屹立した建物の前に立った。

 両開きの大扉は来る者を拒まない変わりに、一度入れば抜け出せそうに感じる重圧を放つ。

 灰色の壁とは違い、鮮血にも似た色なのも拍車を掛けている。

 正面から見た限りだと広大な洋館の印象を受けるが、ただの洋館とは異なる点は屋根が四角錐でなく大型の半球体を取り付けてある所だ。

 門などの囲いはなく、ポツンと一軒だけ建っていると不気味な印象を受ける。


「ここがカイサジリア展望場、なのですね……」

「帰りはどこかに泊まるんですか? ここに入って、町に戻るとしたら日が沈んでると思いますけど」


 フィッテは建物に興味を注ぎながら、キョロキョロと見回しセレナは乗ってきたフロートボードを壁に立て掛けてからレルヴェに質問を投げる。

 まさか数時間使ってまで来るとは思っていないのだろう。

 

「そんなに時間は掛からないから、数分で終わるさ。まさか、ここに野宿はしたくないだろう?」

「そ、それはちょっと……」

「うーん、魔物が居ようと居なかろうと嫌ですね」

「そういうと思った。では行くとしようか」


 二人は初めての場所なので、レルヴェが先行して扉を開けた。

 軋んだ音を響かせた扉の先は、埃臭さと、薄暗さが拡がっていた。

 薄暗さは洞窟へ入れば味わえるが、埃臭さは人の住んでいた形跡の場所でしか体験出来ないだろう。

 二人は顔をしかめながら、後を付いていく。


「レルヴェさんの昔の部屋みたいですね……」

「せ、セレナちゃん! 失礼だよ……」

「……事実なのは否定しないが、やはり傷つくものだねぇ」


 言うほど心に傷を負っていなさそうなレルヴェは、少し進んだ所で足を止めた。


「カイサジリア展望場は、ここの大広間からいくつかに分岐している。一階の客室、従業員室、食堂ルート、浴場ルートか、二階へ上るかだ。私が取ってきた『ブルースクウェア』があったのは二階を上がって三階の展望広場だから、探索をしないのなら三階へ向かうのがいいだろうねぇ」

「私はさっさと目的の物を回収したら、撤収するのがいいと思いますけど。フィッテは?」

「わ、私もセレナちゃんに賛成、かな。何か出てきたら嫌だし……」


 二人の意見を聞いたレルヴェは階段を一段上る。

 埃が積もり靴に付着しようとも、手すりに触れないで構わず進んでいく。

 レルヴェの象徴になりつつある、全身黒装備はともかく、二人の少女は今後の事を踏まえて戦闘に適した身動きしやすい衣服を着用している。

 青を基調とした服で、上着とズボンの両脇に白い線が二本縦に入っている。

 元々弧道救会の団員専用の服だが、今回はかなり汚れるのと一回り違う敵と戦う可能性も考えて、物理攻撃にある程度耐えられる物を借りている。


「ここの魔物については軽く説明はしたはずだけど、頭に入ってるかい?」

「レルヴェさんの話によると、亡霊とか出るみたいですからね。倒せるかは置いといて」

「え、と……中身が入っていない甲冑が動き出すとも……なんか今までとは変わった魔物達が居るみたいだし……」


 説明をちゃんと聞いてくれてたのが嬉しかったのか、彼女は何度も首を縦に下ろす。

 階段を上ったレルヴェは、T字の通路で二人を待つべく一度静止した。

 手前の部屋はなんとか見えるが奥は真っ暗で、明かりがないととても進めたものではないだろう。

 彼女はそちらへ顔を向けながら、二人が来てから手をまっすぐ伸ばした。


「二人ともいいかい、二階は主に客の部屋ばかりだが一番奥の部屋から剣を持った鎧が出てくるから一気に階段まで行くよ」


 フィッテ達が頷いてから手で階段へと手を振り、先へ行かせた。

 無事に遭遇しない事を確認したレルヴェは自分も後に続く。

 

「レルヴェさんなら倒せそうなものですが」

「おいおい、セレナ……私なら倒せるが、無駄な戦闘は避けるべきと思うねぇ。一通り探索をして私が脅威と思える存在がないとはいえ、ここの魔物達は今のセレナ達だと厳しいのさ。被害を最小限に収めるのも戦闘の肝なのさ。それに戦いはいずれ……っと楽しみは後に取っておこうか」


 最後の言葉に一抹の不安を隠せないが、どことなく彼女の言わんとしていることが分かったフィッテであった。


(レルヴェさんの言い方から察するに、きっと必要な戦闘だと思う……でも)


 フィッテ一人で魔物の相手をする訳ではなく、二人の強力な味方が居るのだ。

 彼女の心の不安は、全てこの二人が消し去ってくれるといっても過言ではない。

 今回のような入るだけでも恐ろしそうな場所でも、ちっとも怖くはない。

 共に階段を上り三階へと歩を進めた。

 目的の素材を見つけるための探索が始まった。

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