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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
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紫光

「が、ガンセさん……それでは私はセレナちゃんの方に行ってきます……」

「ああ、そうしてくれると助かる。後、レルヴェがこの先で戦闘中なのだが少々厄介でな。横道を使った方が無難だ」


 ガンセはレルヴェやセレナがアルマレストと戦っている間や、フィッテが守ってきた子供を保護しにきたアイディスが去ってからも赤色の鎧、ヴェヌと睨み合いをしていた。

 横道は中央通りの道を狭くした感じで、大人三人が横並びで歩いても多少のスペースはある。

 このまま横道を真っ直ぐ進み、戦闘が無ければセレナの所まで安全に着きそうだ。


「それは構いませんが……レルヴェさんが厄介、ということでしょうか?」

「ああ。対人戦闘となると気合が入るようでな。少し、周りが見えなくなる。まあレルヴェならばあの鎧は難なく倒せるはずだ。最初にも言ったが、フィッテはセレナの方に向かった方がいい」


 ガンセの言っている横道に視線を移したフィッテは、安全そうなのを確認するとスーツ姿の男に一例してから走り去った。


「……さて、フィッテ嬢ちゃんを送った。子供は保護してもらった。これで遠慮なくてめえを殺せるよ、ヴェヌ」

「おいおい、俺はこっちの味方を殺しただけだぜ? 大体恨むならヴェレの方だろ? お前の言う、お嬢ちゃんの両親を殺したのはあいつのほうだからなぁ」


 銀色の鎧とは正反対とも言うべきか、寡黙な彼女とは違ってヴェヌの方はよく喋る方だ。

 とはいえ、聞こえる声は地の声をすり潰したか感じで聞き心地は良くないが。

 兜で素顔は見る事は出来ないが、恐らく不快なまでに唇を吊り上げ嫌らしい目で見ているだろう。


「そうだとしても、お前はヴェレと一緒に居る。『アルマレスト』という集団に属しているだけで裁く理由になるさ。無論、あのルガラって子供も同様だ。子供だからって容赦はしない」

「ふん、てめえら如きがあのルガラを倒せるかよ。ヴェレはともかく、俺もそう易々と殺せるだなんて思ってねえよなぁ?」


 ガンセは背負った大剣の柄を掴み、臨戦態勢に移る。

 これ以上の会話する気はない、と行動で察したヴェヌも大剣を構える。

 

「ヴェヌよ、最後に一つ聞いておくが」

「なんだ」

「ルガラって奴は強いんだよな?」

「てめえの数倍はつええよ、ザコが」


 先制は赤色に染まった鎧からだった。

 切っ先を向け、鋭さならば刺突剣に敵うほどの高速の突きを放つ。

 彼の攻撃を同じ剣の先端で受けたガンセは、一息吐いてから創造魔法を発動させた。


「【スナイパーボルトエリア】」


 ガンセは片手で大剣を持ち、空いた片方の手で空を左前へと払う。

 創造魔法ということもあり、ヴェヌは警戒をしていたが一向に攻撃が放たれないのでガンセの縦斬撃に対して半身に動き回避する。


「ハッ! はったりかよ! それっぽいこと言いやがってクソ親父が!」

「良く言われるのが、弱い奴ほど吠えるって言うがお前はどうかな、ヴェヌ」

「戯言をほざくんじゃねえ! おら!」


 威勢はいい掛け声を刃に乗せて、軽々と水平に切り払うヴェヌの腕を一筋の紫の光が上空から貫いた。

 ヴェレは痛みよりも、何が起きたのか? という事で頭が一杯だった。

 垂れる血など眼中に無く、いつ? どこで? どうやって? と、脳内が疑問で埋まっている所に、ガンセの容赦ない一撃が振り下ろされる。

 辛うじて防いだヴェヌの兜越しに響く声は、焦りと怒りを混ぜ咆哮と化す。


「てめぇ…………何をしやがったぁ!!」

「何って、俺に攻撃する奴に迎撃する矢を設置しただけだが」


 素っ気無くヴェヌの質問に答えたガンセは、次の言葉を言わせないかのようにギラリと光る刃を素早く横に振るった。

 片腕を負傷したヴェヌは完全には受けきれず、最初のように攻めることが出来そうにない。

 その為、重たい刃が更に重たく感じ僅かに石畳の床を後ずさりした。


「くそっ、くそっ……こんな、はずじゃねえのによ……!」

「ほう。こんなはずじゃないとしたならば、どんな風に俺を追い詰めるつもりだったんだろうな? まあ、片腕の負傷がこれからどう響くか楽しみだがな」


 話しながらガンセは大剣を振り上げ、石畳を斬り付けた。

 ヴェヌではなく彼の前方にだ。その行動の意味が分からないままヴェヌは再び柄を握り直し、ガンセの様子を逐一逃さないように目を凝らす。

 すぐに攻撃を、と思っていたが前腕に穿った傷穴がありその所為で満足に大剣を振るえないのと、先ほど喰らってしまった天から降ったかのような光の警戒も兼ねていた。

 灰色の石を甲冑の腕から落ちる赤色の血で濡らしているのを見て、ガンセは不快そうな声を上げる。


「おいおい、てめえ如きの血でブレストの町を汚してんじゃねえよ。とりあえず、跪けクソが。【ライトニングビット・シューティング】ッ!」


 ガンセの後半の創造魔法名発声には怒りが入り混じっていた。

 自分の住んでいる町で訳の分からない連中がいきなり奇襲をしておいて、挙句の果てには町の地を敵の血で汚されたのだ。

 フィッテはまだブレストの町に居て日も浅いが、ガンセは思い入れがあるのだろう。

 特別、何か思い当たるような過去が。

 ヴェヌにとってはそんな事などはどうでも良く、次の創造魔法が発動された事により冷や汗が背中を伝った。

 ちら、と視線を空に仰ぎ紫の光の原因である、小型の弓を見つけたが破壊するのは厳しいほどに届かない位置にある。

 周囲に立ち並ぶ店の屋根を登ったとしても、遥か彼方にありそうな程に遠い。

 創造魔法の一つである、スイフトアローを詠唱し破壊するぐらいしか現時点での方法は他にないだろう。

 要するにあの弓を落しさえすれば反撃が可能だ。

 だが、即座に詠唱を開始したヴェヌに今度は正面から紫の光線が襲い掛かってきた。


「なん……!?」

「言ったはずだぞ、跪けクソが。ってな」


 ガンセが大剣を横薙ぎしたのに合わせて、紫の石のような物体が後方に待機し、そこから紫色の直線が放たれたのだ。

 ヴェヌは回避が、間に合わず咄嗟に構えた大剣の腹で防御をする。

 ガンセの横攻撃は空振りではあるが、紫石が結果として攻撃の役目を果たす。

 もしも、両方の攻撃が重なっていたら、とヴェヌは心の内部に恐怖を隠せずにいた。

 片手で受けたのと紫の光の威力が高いのか、思いのほか重く剣が弾かれそうになる。


「ふ、ざけんじゃねえっ!! 【スイフトアロー】ッ!」


 ヴェヌの怒号が響き渡ると同時に、彼の手には銀色で塗られた矢が現れた。

 すぐさま上空目掛けて投擲し、小型弓を貫き破壊に成功する。


「やるじゃねえか。だがこっちはどうかな?」


 ガンセは大剣を連続であらゆる方向、角度で斬り付けた。

 彼の行動に合わせて後方にある石が紫の光線を吐き出す。

 ヴェヌは最初は避けたり攻撃を防いだりしていたが、次第に速度を増していくガンセの攻撃についていけなくなりとうとう紫の光にもう片方の腕も貫かれた。


「くそ……ったれがぁ…………! しくじった……」

「お前はよく戦ったほうだよ、ヴェヌ。だがこれで終わりだ」


 ヴェヌは握ることすら困難になった大剣を放棄し、両手をぶらりとだらしなく下げ俯く。

 敵意が失ったように見えたガンセは念の為隙を見せないように、大剣を向けながら鎧へと届かないように突きを放った。

 追撃するように放たれた紫石の細い光が、胸元に向かった瞬間。


「まだだ……てめぇを、殺すまでは……!」


 沈んだ声と共に憎悪の塊と言っても何らおかしくはないほどに、ヴェヌはガンセを睨み付けながら横向きになりぶらさげた腕を犠牲にして胸への被弾を回避した。

 光が腕に着弾し、小さな穴を開けて血が滴ろうともガンセの感情の起伏に乏しい顔は変わらない。

 それどころか、もう一本の腕を持って行くとばかりに再び直線突きを放つ。

 先ほどとは違い、今度は本当に殺すつもりで狙っているのはヴェヌ自身も分かっている。

 上空の迎撃矢を壊しただけでは進展にはならなかったが、防戦一方には出来た。

 次に打破しないといけないのはガンセの後方にある紫色の石だ。

 どこから石が生まれたかは分からないが、これがあるせいで攻撃もままならない状態である。

 

「くそ、間に合え……」


 彼が唱えるのは悪あがきの魔法。


「死ね」

「【スモークレスト・ハイドキリング】ッ!」


 フィッテが聞いたら腰を抜かしそうなガンセの暴言に対して、ヴェヌは間一髪創造魔法を発動させた。

 

「幻影かよ、ちっ」


 ガンセはこのまま貫くかと思いきや、空振りに終わり鎧の姿形は無く舌打ちをする。

 舌打ちの原因はそれだけではなく、恐らく創造魔法による周囲に立ち込める灰煙も含んでいた。

 ガンセ自身だけを包むかにして広がる煙は、空をも覆いつくし方向感覚を狂わせ視界を狭くする。

 声を出すのは愚かだと判断したガンセは、瞳を閉じ全神経を集中させた。

 彼は煙を吹き飛ばすような風属性魔法などは所持していない。

 自分自身の補助系統のみに創造魔法の取得を費やしたので、セレナやレルヴェ達でいう遠距離攻撃魔法は創っていなかった。

 今更後悔をしていても仕方がない、と心の中で呟こうとした矢先に背後から風を斬るかのような音が聞こえる。

 

「ちぃっ! 後ろか!」


 鎧は一言も発することなく、刃を放ってきたようで長剣が一本ガンセへと飛来させた。

 反応することが出来たガンセは武器で弾くと、創造魔法名を刃に向けて発声する。


「【ガードリアクト・ブレイド】」


 魔法名が言われてから、ガンセの身体には変化が起こらなかったが身の丈程の大剣に透明な膜が貼られた。

 武器全体を包み隠すように卵の白身のような膜が行き渡ると、染み込むみたいに徐々に消えていく。

 ガンセは効力を確認するべく大剣を一度斜めに振るうと、同時に後方で援護をしていた紫色の石は役目を終えたかのように砕け散り欠片を残した。


「よし、これでてめえの攻撃は通用しねえぞ、ヴェヌ」

「どうだかなぁ、試してみろよ!」


 どこから聞こえたか分からない声を聞いた後に、ガンセのあらゆる方向から刃が飛んできた。

 最初は一本だけの刃が、角度、方向を変えて様々な所から命を奪おうと喰らい付いてくる。

 それをガンセはいとも容易く、全て弾く。

 速度が多少早くなろうともお構いなしである。


「どうした? こんな一本ずつ来るようじゃお遊びか何かか?」


 鎧からの反論は無く、ガンセは退屈そうにくるくる回りながら足の軸こそは動かすが大剣の腹で器用に裁いていく。

 弾くたびに一部の人にとって心地よい金属音が響き、刃が周囲に落下する。

 周囲に死体のように散らばった長剣は、それぞれがガンセの方へと切っ先を突きつけるような形で起き上がり一斉に飛びかかる用意をする。

 それの異変に気付かないガンセはただひたすらに晴れない煙の中、刃を落とし続けていく。


「っち、この煙はまだ消えねえのかよ……まずいな……いくらこっちにはコレがあるとはいえ過信は出来ないな」

「くく……てめえの創造魔法が何の効果があろうと、この視界の悪さじゃあ何も出来ないだろうよ! 今度はこっちが言う番だよ、ガンセ。死ね」


 指同士を弾いたような音がしたかと思うと、ガンセの周囲一帯の地面に柄を触れていた剣が自ら意思があるかのように直線に跳ねて襲い掛かった。

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