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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
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訓練

 レルヴェが言ったように、ブレストの町の外周辺に生息する魔物は火属性が効く種類が多い。

 フィッテがどういう理由で赤色宝石のネックレス、『復讐の涙』を選択したのかは彼女にしか分からない。

 眩しい光がフィッテから放たれ、目を開けられる頃にはフィッテが嬉しそうに外野であるセレナ達に微笑んだ。


「で、出来ました……」

「フィッテ……おめでとう!!」


 微笑みを見せたのも束の間、間髪を容れずにセレナが駆け寄り抱きついてきた。

 フィッテは彼女の温もりに照れながらも、お礼を忘れない。 


「あ、ありがとうセレナちゃん……」

「これでフィッテの魔法は二つ目だね。今回はどんなのにしたの?」

「えっと……火属性の攻撃、かな」


 火属性、と聞いてセレナはフィッテに抱きつくのをやめて、自分が創ったことのある魔法を指折って数える。

 指で数えるということは、それだけ彼女が作製してきたということだ。

 この時点でもフィッテは、彼女に敵わないなと感じた。


「私は攻撃だったら三つかな。防御や補助含めると六つ……」

「すごいなセレナちゃん……ちなみにレルヴェさんはどのくらいなのですか?」

「私は十数個だねぇ。全部見せる機会があるかはさておき、ね」

「セレナちゃんが六つに、レルヴェさんが十数個……」


 フィッテの作製した魔法の一つに対して、彼女達は数個所持している。

 経験を積んでいるということは、同時に成長もしているということだ。

 彼女達の成長は実戦経験や、創造魔法の所持数なのだろう。

 フィッテはいつか自分もそのぐらい創造魔法を創っていけたら、と強く拳を握る。


「俺は創造魔法を使ったことないから個数とかはいいんだが、訓練はどういう形式にするんだ?」


 グラーノは少し退屈そうに欠伸をしたあと、フィッテ達に質問した。

 フィッテは戸惑いながら、困った顔でレルヴェとセレナに視線を送る。


「レルヴェさん、私はフィッテに対人の動きを学んでくれればそれでいいのですが」

「そうだねぇ、まずグラーノの武器を木剣辺りに変更する。私達が審判となり一回の打撃を1ポイント、魔法は2ポイントとする。どちらかが5ポイント取られた方が負けというルール。後は緑地から足を外したら失格、とかでどうだい?」


 レルヴェが提示したルールを理解したグラーノは真っ先に口を挟んでくる。


「はっ、こんなんすぐ終わっちまうだろ? 俺がフィッテに5回攻撃して、はい終了ってなるぞ」

「確かにグラーノの腕とフィッテの回避技術では雲泥の差だろうねぇ。そこでハンデって訳だ」


 レルヴェの言いたい事が分かったセレナは、人差し指を立ててグラーノの足や、腕を指した。


「私やレルヴェさんの魔法で『拘束』させてもらいます。もちろん武器を振るう腕は残しますが、一部の動きに制限をつける、で合ってますか?」

「ご名答だセレナ。実際の重りとかでもいいが……私達の経験値上げにも付き合ってもらおうかね」

「なるほどな。足枷ならば探せばあるはずだから、戻ろうと思った所だが経験値の為とあれば仕方ないな」


 ガンセは腕組みのまま、首を縦に二回下ろした。

 レルヴェとセレナが他人の訓練においても、自分達の鍛錬を怠らないことから彼の行動は感心しているように見えた。

 フィッテが圧倒的に不利に見える訓練だが、グラーノに条件を加えることによって平等に近い状態にさせフィッテに戦いやすくしてもらう為だ。


「……私はその条件で問題ないです。グラーノさんはどうですか?」

「俺も問題ない。むしろ、いいハンデだな。楽しめそうだ」


 グラーノはグラーノで、足や腕が封じられても動じないのか口元に笑みを作った。

 彼はもし戦闘時に片足などが動かない事を想定して訓練するつもりだろう。

 相棒ともいえる鞘を地面に放り、魔法屋の表に誰かが置いたと思われる1メートル程の長さの木製剣を手に取る。

 当然といえば当然だが、鉄の剣を持つより遥かに軽いので彼が剣を振るたび風を切る音が響く。

 

「こっちは準備出来たぜ。さぁ、どこを縛るんだ?」

「……なんかグラーノさんが言うといやらしく聞こえるのは気のせいでしょうか?」

「ああ、セレナに同意だねぇ。自ら望んでいるかのような感じだ」


 グラーノは彼女達の言葉に思わず脱力するが、木剣を握る力を強くした。


「ぐ、グラーノさんはそういった趣味が……?」

「ないない! いたって普通だから! 縛るっていうのは訓練でいうハンデだぞ!」

「ふふ、分かってますよ。ではグラーノさんの利き腕ではない腕と、足に重りを付加させてもらいますね」


 衛兵の男が一度頷いたのを確認して、セレナはレルヴェの隣に移り二人共詠唱を開始する。


「フィッテ、悪いが勝たせてもらうぜ? この戦いを終えて酒を飲むって決めてるんでね」

「……わ、私だって負けません! この訓練で成長してみせます!」


 セレナとレルヴェが含み笑いを浮かべ、数秒後に彼女達の魔法が発動した。


「【ボディバインド】!」

「【アイスロープ】」


 グラーノはぐぐ、と外部から押さえられているかのように、身体を動かしている。

 フィッテから見ればただひたすらに震えているようにしか見えないが、創造魔法によって動きが低下しているのだろう。

 次にレルヴェから放たれた水色の紐は彼女の身長分の長さがあった。

 氷の欠片を繋いで綱にしたようなアイスロープは、グラーノの腕に巻きつき胴部分をぐるりと一周した。


「つ、冷てぇっ! れ、レルヴェ! 氷で縛るのかよ!」

「我慢さ、これも訓練だろう?」


 どこか納得いかない顔をするグラーノだが、ひたすらに氷の冷たさと束縛を誤魔化そうと集中し目を細めた。

 フィッテは睨まれているような視線にゾクリ、と背筋を震わせながらも真っ直ぐに向き合う。

 レルヴェは張り詰めた空気を増加させるように付け加えた。


「セレナのボディバインドはどうか知らないが、私のアイスロープは数分すれば解除され腕と胴部分が自由になる。そうなったらグラーノが両手持ちにして攻撃をすることも可能だ。勿論掛け直すが……それまでの時間はフィッテに取って地獄ともいえるだろう、健闘を祈るよ」

「私のも数分ですね。任意解除出来ますけど今回は時間一杯まで放置します。フィッテ、頑張ってね!」

「では開始の合図は俺にさせてもらおう。……正直これぐらいしか役目がないような気がして、な。ルールは先ほど言ったポイント取得制で、打撃が1ポイントに魔法が2ポイント、5ポイント取得で勝利とする。……問題ないか?」


 ガンセはパーティ上、フィッテと共に行動しているが鎧が襲撃してこない限りは必要ないのではと内心で思っている。

 彼の思いは露知らず、四人は首を下に振った。


「これよりフィッテ対グラーノの訓練を行なう。両者構え」


 グラーノは距離を取って、当然の如く木剣をフィッテへと向ける。

 フィッテは構え、と言われて創造魔法時のイメージしやすくなる両手組みをしようとしたが、片手を前へ突き出しもう片方を添えるセレナの真似事をする。

 横目でセレナを見ると彼女は驚いた後に、笑顔を見せた。


「……訓練、開始ッ!!」


 ガンセの豪快に聞こえた手の乾いた音を合図に、フィッテは開いた距離を詰めるべくグラーノへと駆けた。

 けれども彼女は全速ではないのか、速度に鋭さは感じられない。


(……多分だけど、私のスイフトアローは遠くから放つと多少の早さじゃ動作で読まれちゃうかもしれない。でも、ある程度距離を詰めたら……!)


 フィッテは考えながら動き、魔法のイメージを構築する。

 先ほど作製した魔法は奥の手として考え、最初は様子見という訳だ。

 初手で一撃を奪えれば御の字だ、と彼女は考えている。

 

「【スイフトスラスト】!」


 駆けながらグラーノへ向かうが、目立った動きはなくただ突っ立っているようにしかみえない。

 それを好機と判断し、フィッテは攻撃を当てられる間合いに入ったのを確認してからほうきで叩きつけるようにスイフトスラストを振り下ろした瞬間、グラーノの口元が綻んだ気がした。


「っ!?」


 フィッテは一つ勘違いをしていた。

 グラーノは軽い武器を持っていることから、切り払ったり連続で斬りつける事が出来ることを。


「フィッテよ、まずは1ポイント頂くぜ」


 グラーノは片手に持った剣で、一撃目でスイフトスラストを弾き二撃目はフィッテの胴目掛けて横に薙いだ。

 最後の三撃目で弾かれたスイフトスラストを斬り上げ、白の粒子へと変化させかき消した。

 フィッテのスイフトスラストよりも、木剣の方が連続攻撃回数が多い。

 銀の矢は2回までしか攻撃できないが、グラーノは腕の疲れや速度低下を気にしない限り何度でも振れる。

 セレナやレルヴェの妨害があってこの速さだ、もし自由の身を考えると恐ろしい。


「フィッテ、被弾によりグラーノ1ポイント加算」


 冷徹、とも聞こえるガンセの声が響いた。

 1ポイントの横一閃は、グラーノが手加減をしてくれているのか痛みは感じなかった。

 フィッテは相手の加点を胸に刻み、後退する。 

 接近戦は無謀に近いのを身を以って味わったので、もう近距離は行なえない。

 もう一度挑もうならば、1ポイント失うだけでは済まないだろう。


「や、やりますねグラーノさん……」

「武器が軽いからな。フィッテが二回振ってる間に俺は三回振るえるぜ。さて、次はどうする?」

「少しだけ……考えます。接近は無理そうですので」


 近づけないのならば、中距離を試そうとフィッテは魔法の詠唱を開始する。

 グラーノの方はボディバインドの効果か、動きを見せない。

 一歩でも前に踏み出さないことから、待ち伏せをしているのだろうか。

 いずれにせよ、束縛時間のことを考えたら悠長に待つなどは出来ない。

 

(これでダメだったら、もう奥の手しか……)

「……【スイフトスラスト】、いきます!」


 フィッテはグラーノが踏み込まない限り、彼の木剣では届かないリーチから銀色に輝く矢を生み出し投げつけた。

 この投擲に対しても、衛兵の男は不敵な笑みを浮かべる。


「くくく、フィッテ。俺に単発の矢は効かないぜ!」


 人が駆けるよりも速い銀の一線がグラーノの腹部に向かうが、彼は身を捻りながらかったるそうに矢を斬り落とした。


「嘘……ですよね……?」

「嘘だと言いたい所だが、これが実力という名の真実だ。動きが制限されていてもこれだけの事が出来る。もう数分したらフィッテにも分かるはずだ」


 短い会話をしている間に、撃ち落されたスイフトスラストが時間切れとなり消滅していく。

 フィッテはその場で崩れ落ちるように座ってしまいそうだった。

 自分が初めて創った魔法で、初めて対面する魔物を倒せて内心嬉しかった。

 この力は通用するんだ、と。

 レルヴェに対して寸止めした時は(レルヴェが向かってきて寸止めでは済まなかったが)模擬戦ではなかったので、特に落胆は無かったが今回は違う。

 ガーダーのような難度1クラスの魔物ではなく、きちんと戦術を組み立てないと勝つことが困難な対人をしているのだ。

 フィッテは意を決して、拳をぎゅっと握った。


(……使おう、私の奥の手を) 

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