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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
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報酬

 フィッテは【スイフトスラスト】のイメージを行なっているが、迫るガーダーのプレッシャーもあり上手く出来ていない。

 銀の矢は全体のイメージ像を描けずに消えていくばかりだ。

 冷静になろう、としてはいるがかえって逆効果を及ぼしている。

 既に彼女と盾豚との距離はそう遠くなかった。


「間に合って……! 【ウォール】!」


 フィッテがパニックになっている中、セレナは追いかけながら創造魔法を発動させた。

 このままではガーダーがフィッテに体当たりをする、という瞬間に緑豊かな草地から震動音と共に一枚の壁が生え出てきた。

 彼女の身長を十分カバーし、守るには申し分ない強力な盾。

 

「……え?」


 フィッテが驚くのも仕方がないだろう。

 盾豚に突き飛ばされているかと思いきや、いきなり肌色の壁が出現しているのだから。

 ガーダーはタイミング良く壁に体当たりし、重い衝突音を響かせる。

 もう一度体当たりを仕掛けようとする頃には壁が粉となり、風が吹くまでもなく消えていった。

 

「フィッテ、こっち!」

 

 フィッテの左方からセレナが助けに来て、手を引いてその場から脱出する。

 フィッテは先ほどの創造魔法が彼女だと知ると、涙を流しそうになった。


「ご、ごめんなさいセレナちゃん……私、慌てちゃって……」

「いいのいいの! 何とか無傷だし……それより、今度は大丈夫かな?」

「……うん、やってみる。ありがとうセレナちゃん」

「お礼は終わってから、だよ!」


 潤んだ視界をこすって回復させ、目に闘志を宿らせるとフィッテは行動を始める。

 走りながら後ろを振り向くと、未だに追跡を諦めない顔面盾が迫っている。

 今度は冷静に創りたい物をイメージする事が出来た。

 残す問題は、詠唱までの時間である。


「フィッテ、私が囮になるから……仕留めてね」

「……分かった」


 フィッテとセレナはそれぞれ違う方向に散らばった。

 フィッテは左に、セレナは地面の小石をすばやく拾ってガーダーの腹部に投げつけた後、右に進路変更をした。

 飛来してきた石を新たな攻撃と判断したのか、ガーダーは狙いを変える。

 彼女の目標逸らしによって、フィッテは銀の矢を生み出す事が出来た。

 

「今度こそ……【スイフトスラスト】!」

 

 セレナは逃げつつも【ウォール】を形成しているので、足が多少遅くても問題は無い。

 フィッテはがら空きな後方に、銀に塗られた矢を投げた。

 狙いを定めて放たれたスイフトスラストは、体を串刺しにするかのように貫通した。

 新たな箇所から血が垂れ、ガーダーは短く断末魔を上げながら地面に横たわった。

 重い物が倒れたような音を発した後、完全に息をしていないかセレナは確認する。


「フィッテ、やったね。依頼、完了だよ!」

「や、やったよ……倒せたよ……!」


 フィッテは感動と無事終わった事による安心感で、へたり込んだ。

 自分が選んだ初めての依頼で、彼女の助けをもらいながらもなんとか倒すことができた。

 この達成感は、彼女が人生で一度も味わったことのない感覚である。

 しばらく放心していると、セレナが隣に座ってきた。

 レルヴェはガーダーの死体の前に屈んでじっと見つめている。


「どうかなフィッテ、初めて終わった感想は」

「なんか実感が湧かない、かな?」

「次は私は見ているけど、自分だけの力でやってみる? 危なそうだったら手を出すってことで」

「……うん。やってみたい。戦って、少しでも経験を積みたい」


 レルヴェが彼女達の前に立って、手を差し出してくる。


「初依頼、お疲れ様。最初はひやひやしたが、討伐出来て何よりさ」

「そういえばレルヴェさん。ガーダーって倒した後どうなるんですか……?」


 三人の視線が倒れた盾豚に集まる。

 盾豚は、テンタクルポールのようにすぐ消える事は無かった。

 

「テンタクルポールはすぐ消えて戦利品を落とす場合があるが、こいつはちょっと違う。数時間経ったら霧のように消えてしまうのさ。フィッテ、見てごらん。戦利品があるはずさ」


 フィッテはレルヴェに誘われて、倒した盾豚の近くまで移動する。

 盾豚は血を広げ、草を赤黒く染めていた。

 魔物の顔付近、盾の部分が一部欠けて大地に落ちている。

 これがレルヴェが言っていた『戦利品』だろう。フィッテは盾の欠片を拾い上げ撫でるように触れた。


「わ……すごく硬いですね……」

「まあねぇ。難度4並らしいからね、威力が低いと怒りを買うだけだから無理して正面で相手をする必要が無いのが分かったと思うね」


 フィッテのセリフで鼻を押さえながら誰も居ない後方を振り向いたセレナを放っておいて、レルヴェは他に戦利品が無いか探した。

 盾豚の周りには何もなく彼女の経験上、体の下に戦利品は埋まってないので欠片一枚となった。

 剥ぎ取ったり、解剖や部位を破壊して強引に持って行くという手段もあるのだが、専門的なスキルが無い限り上手には出来ないだろう。

 どこか意識がよそへ向いていたセレナが彼女の行動にどこか哀れむ表情をする。 


「レルヴェさん……そんなことしなくてもレルヴェさんは上位難度で稼いでるじゃないですか」

「いや、私ではないさ。フィッテの為に一つでも戦利品をだね……」

「一つは例外除いて必ず落とすじゃないですか。二つ目は運と言っても過言ではないですよ?」


 例外は戦利品すら落とさないような攻撃をする事だ。

 レルヴェは落ち込んだ様子を見せて、南口を指差した。


「ま、いいかねぇ。特に用が無ければ帰って報告をしようか」


 二人の少女は頷くとレルヴェと同じ歩幅に並んで南口を目指した。









 「フィッテーっ! お帰りー!」


 依頼所の扉を開けて出迎えたのは少女の幼い声だった。

 カウンターに乗り出す勢いで手をぶんぶん、と左右に振る。

 隣で対応しているナーサがげんこつを加えると、涙目で受付をし始めた。

 フィッテは周りの人の視線を浴びながらも後列に並ぶ。

 恥かしいので手を軽く振って、俯きながら少しずつ空いてく順番を待つ。


「ほう、フィッテはすっかりモテモテじゃないか」

「わ、私はそんなんじゃ……」

「むむ……」


 セレナが何やら唸っているようだったが、レルヴェ達が待合所に移動したことで次第に聞こえなくなった。

 最初並んだ時と違って思ったより時間は取らずに自分の番がやってくる。

 目の前の少女はにこにこと、自分の誕生日が今日かのように笑顔を振りまく。

 訳は後で聞くとして、フィッテはとりあえず依頼書を提出することにした。


「ワローネちゃん、依頼、終わらせてきました……」

「ふふふ……フィッテお疲れ様! 何か討伐した証拠も出してね」

「え……? 証拠って……?」


 彼女の質問にワローネの眼が怪しく光った気がしたのは気のせいか。

 まるで鬼の首を取ってきたかのように、得意気な顔に変わったも見間違いだろう。


「ナーサさん、フィッテに伝えてなかったんですか?」

「な、なによ、どうかしたの?」

「フィッテに依頼終了時、証拠となる戦利品も提出する。というのは決まりになってますよ!」


 ナーサは自分の記憶を辿って説明ミスをしていることに気がつき、頬が紅潮していく。

 

「そ、そうね。言ってなかったみたい、ごめんなさい」

「いえいえ! いいんですよ。これは周りの人に言いふらしますので!」

「だ、だめよ! お願い!」

「あ、あのワローネちゃん……」


 フィッテが場の空気を壊すのは申し訳ない感じで割り込むと、二人の受付嬢はわざとらしく咳をして業務に戻った。


「ごめんごめん。という訳だからガーダーの戦利品はあったら出してね」


 フィッテは迷うことなく、一枚の欠片をカウンターに差し出す。

 ワローネは表裏の確認をすると、元の持ち主に返した。


「確かにガーダーだね。じゃあ~報酬を出します!」


 お決まりのカウンター下から報酬が入っている皮袋を取り出すとフィッテに手渡しする。

 あらかじめ成功することを予想してあるのか、一瞬で出てきたように見えた。

 

「ありがとうワローネちゃん……じゃあ、また」

「うん! また、ってフィッテ『救済』してもらったセレナは? セレナの請負証に救済数加算しないといけないんだけど……」


 謝ってセレナを呼びに行ったフィッテは、もちろん列を並び直したのは言うまでもない。








 三人は依頼所の待合所に集まった。

 一つ空席がある四つワンセットの椅子に座っている。


「改めて、依頼お疲れ様だフィッテ」

「もう一個受ける予定ではいるけど、初依頼は無事完了だね!」

「あ、ありがとうございます……セレナちゃんが居なかったら多分……」


 対ガーダー戦でのミスを思い出し、気持ちが沈んだフィッテをセレナが慰める。


「大丈夫だよ。むしろ良く戦ったと思うかな私は。初めて戦える力を持ってあそこまでやれたんだから、フィッテは強くなれるよ。……もっと自信持っていいよ!」

「う、うん……」

「それに、ほら! 依頼を折角終わらせたんだから、中身をチェックしようよ!」


 セレナが気になるだけなのでは……とレルヴェは言葉を飲み込み、フィッテが開封するのを待つ。

 彼女が茶色の袋を下ろすと、銀色の丸い硬貨が五、六枚広がった。


「これだけあったらハーベストで一食分ぐらいでしょうか」

「いや、なんとか節約すれば三日は……」


 彼女達の会話はともかく、フィッテは自分(&セレナの力)で受け取った銀貨を握る。

 今までは両親が世話してくれたが、これからは違う。

 彼女達の居る場所で一応はお世話になる身だ。

 フィッテ自身、貯えが無い訳ではないがそれとこれとは話が別である。

 初めては大事に取っておこうと思い、全て袋に潜らせた。 


「まー私は『初心者救済』で数が増えるからいいけどね。フィッテ、次は『リトルワーム三体討伐』に挑む?」

「うん……名前で鳥肌立ちそうだけど……頑張る」

「じゃあ、私は南口で待って居ようかね。鎧対策の為にさ」


 三人は頷くと、それぞれ向かうべき場所へ行く。

 フィッテの顔からは自然と笑みが零れていた。











 『リトルワーム三体討伐』は結論から言うと、『ガーダー』に比べると格段に楽だった。

 『テンタクルポール』が最弱トップクラスだとすると、最弱の何本かの指に入るほどである。

 フロートボードで南口から南下した場所にある大樹が生息区域で、そこまで行くのにフロートボードを使用したのでそちらの方がきつかったと言える。

 南口周辺で戦ったガーダーにぶつかりそうになり、危うく余計な戦闘をする所だったからだ。

 

 リトルワームは、とても小さい訳ではない。

 元の名の『ワーム』が人間よりも大きいから呼んでいるのであって、手の平で転がせそうな程小さくはない。

 そのサイズで攻撃的だったら、色々と面倒だろう。

 リトルワームは人間でいう、幼児ほどの大きさはあった。

 セレナは散々依頼1の頃に見たので慣れてしまったが、ラウシェから出たことがないフィッテにとっては衝撃だったろう。

 たかが虫がこんなに大きくなるなんて、と。


 フィッテの【スイフトスラスト】は近接も出来るが、とてもではないが近付くのは遠慮したかったので、遠距離でちまちま一体ずつ狩っていった。

 そうしているうちにまたブレストに帰還し、報告していたらオレンジの空が訪れてきた。

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