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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
21/78

報告

 ぼーっとしている内に自分の番がやってきた。

 何分ぐらい待っただろうか? 一時間とまではいかないが、それに近い時間の流れを感じる。


「あ、フィッテ!」

「ワローネちゃん……はい、書き終えました」


 カウンターに提出した請負証申請書の情報を見て、ふむふむと頷き彼女は判を押そうとするが寸止めをする。


「……フィッテ。この発行理由は後悔してないんだね?」

「……うん。私の考え付いた理由はこれだけ、かな」

「止めてもダメっぽいねー……後ろを詰まらせてるのも悪いし、はい確かに受け取りました! これであと数時間すれば請負証が完成するから、取りに来てね! 昼、ぐらいには出来てると思うから」

「……ありがとうワローネちゃん。じゃあ、お昼にまた」


 カウンター下に置いてある看板には、『右から出る!』という吹き出しと可愛らしい少女のキャラクターが一緒に書いてある。

 キャラクターはどこかワローネに似ていた。

 隣の列にも書いてあるのか、受付の用事が済んだ人達は右から列を抜けていった。

 ルールに従って、右手から抜けたフィッテはテーブル席に待たせてある二人へと向かった。




「よし、じゃあ行こうじゃないか」

「ですね」


 フィッテを視界に収めると二人は立ち上がり、椅子を奥に戻す。

 

「それでですが、報告はどこでするんですか?」

「『リーダー』は奥の部屋に居るみたいです……」

「そういう訳さ。受付側の奥に部屋がある。そこで話そうか」


 

 レルヴェが先頭に立って歩き、セレナ、フィッテと続いていく。

 フィッテはその時受付嬢をチラ、と一瞬見た。

 ワローネの方はもう一人の受付嬢の列に遮られて見れなかった。

 ワローネがあの時『ナーサ』と呼んでいた受付嬢に視線を送ると、彼女と視線があった。

 ナーサはすこし見た目がキツそうに見せるつり目の眼鏡を着用しており、フィッテを見ると一度会釈をしてから受付前の人の対応をした。

 フィッテも同じく軽く頭を下げ、腰を折ると二人に付いて行く。


(なんか可愛いというより、美人とかそっちのイメージが強いかな?)


 どちらにせよ、依頼を受ける時や請負証を受け取る際に顔はまた見る事が出来るだろう。







 

 突き当たりに位置する掲示板を左に曲がり、白い壁が両隣に挟んだ通路を通る時にいくつかの部屋を見つけた。

 通りがてらに部屋の内部を隅々まで見れるようになっており、無人部屋だったり、二人が椅子に座り向かい合う形で話し合っていたりしていた。

 

「あの……こちらの部屋達は……?」

「こっちは大人の話し合いや、すんなり収まってくれそうにない山分けのお話をする場所さ。セレナやフィッテはなるべくここらへんにある部屋は利用してほしくないねぇ」

「私は気をつけてますよ! パーティー組むときだって相手を選んでます!」


 どうやら、待合場所でする話ではないときにこちらは使うようだ。

 一瞬だけ通りすぎたが、通路側に顔を向けている男の顔は険しくなっていた。

 使用している全ての部屋で怒鳴り声が聞こえないだけマシだろう。


「パーティーを組むときはいいが、いざ依頼を達成した時に生まれ出る報酬は皆得る権利はあるからねぇ。揉める要素になるのは、物さ」


 歩きながら奥へと進むフィッテは、レルヴェの話を聞きながらも答えをだした。


「物……素材ですか?」

「そう、報酬金を得られるのは依頼を受けている以上最低条件さ。しかし、どこかのダンジョンだったり、魔物からのドロップだったり。これらが平等に行かない時はどうするか。その場で解決すればそれに越したことはないが、話が長引いたり揉めそうな雰囲気になった時は依頼所の部屋を使うようにしているという訳だ」


 それだけ素材が貴重、という訳ではないがパーティーを組んでいる以上分け前というものは必ずといっていいほど存在する。

 素材は価値の無いものに取ってはただの売り物でしかないが、素材を使用して魔法を創る者は違う。

 中にはコレクション、と呼んで素材を収集している者を居るそうだが。

 

「う……結構ドロドロしてるんですね、依頼って」

「まぁ、一例として考えてくれればいいさ。基本的には譲り合いという精神が強い人ばかりだからねぇ。特に私なんかがいい例だと思わないかい」

「思いませんね。それに自分でいい例だ~とか言っている人に限って、腹黒かったり対価を要求してきたりするんですよねぇ……」


 ぐさぐさと、言いたい放題のセレナの攻撃をはぐらかすように、前方を指差した。

 

「ほ、ほら。着いたよ」


 三人の前に待ち構えている部屋の中には一人の男が立っている。

 黒の長髪に、細い顔に凜とした目つきが備わっていた。

 どこか怒ったような目はフィッテ達の歩いてくる通路を睨みつけている。

 若さを捨てつつもまだまだ現役で活躍しそうな肌は、老いに近付く前とは思えないほどに若々しさを残す。

 赤を基調とした紺色のスーツを着こなす出で立ちをしていて、がっしりとした丸太のような腕は、服越しでもしっかりと表されている。

 彼の頼りになる腕は、壁に掛けてある剣を軽々と振り回せそうなほどだ。

 


「来たか、お前達」


 鋭い眼光に三人はお辞儀をした後、フィッテはレルヴェの影に隠れた。

 見た目が恐ろしいからだろう。

 それに見かねたレルヴェは溜息を付く。


「相変わらず初対面を怯えさせる事は超一級じゃないか、リーダー」

「ちっ、レルヴェ、今日会って一番の言葉とは思えねえな」

「まぁいいじゃないか。さ、フィッテ、挨拶をするんだ。この強面のおじちゃんは見た目が怖いが、中身はすごく優しい『はず』だから大丈夫さ」

「レルヴェさんは、何気なくフィッテを怯えさせてますよね」


 腕組みをしてフィッテが出てくるのを待っているリーダーは咳払いをして、レルヴェ達を黙らせた。

 フィッテは似たようなやりとりを感じつつも、レルヴェよりも前に出て自己紹介をする。


「フィッテ=イールディです……。そ、その、よろしく、お願いします……」

「うむ、見事な挨拶だ。俺の名は、ガンセ=ラールだ。一応ここの依頼所局長って役柄を任されている」


 局長は握手をしようと、手を彼女の前に出した。

 フィッテは慌てて手を握り男の手の肌触りを感じた。

 父親にも握手をした事があるが、父が敵わないほどに力強さを体感する。


「さて、リーダー。昨日は何事も無かったかい?」

「ああ、フィッテ嬢ちゃんの親を殺したっていうふざけた鎧なんて一体も見なかったし、怪しい奴も居ない」


 そうか、なら安心だ、と呟きレルヴェは腕を組んだ。


「じゃあ、派遣隊はどうだい。ラウシェの状況を聞きたいねぇ」

「向こうは何も無かったそうだ。……三つの死体以外はな」


 フィッテが顔をライン線が入った白い床に落とす。

 三つの内、二つは自分の愛すべき両親だからだ。

 残りの一つは創造魔法を使用する老人だが、決してそちらには悲しむようなことはしないだろう。

 

「というとこちらが報告した甘い匂いや、住民消失は全然分からない訳か……何かしら手がかりは得られると思ったんだけどねぇ……」

「すまねぇな。色々と手段は使ってはいるが、ヒントすら見つけられない現状だ」

「はいはい! 質問です!」


 ラウシェの件が手詰まり気味にレルヴェはがっくりしたように肩を落とし、次にセレナが挙手をしてガンセが不思議な顔をする。


「なんだセレナ。気になることでもあるのか」

「いえ、そちらとは別件気味なのですが……昨日の事件についてどこまで報告がいっているのかなーって。フィッテと私は町に着くなり報告はレルヴェさんに任せてしまったので、気になって質問させてもらいました」

「起こった事全部だ。昨日は二回に分けて報告だったな。最初は簡潔な事情説明、次に詳しく説明してきたな。派遣隊を送ったのは最初の説明時だ」


 セレナはふむふむ、と相槌を打ち事情を把握する。

 どうやら、レルヴェはこちらが報告する必要もない程に説明をしてくれたようだ。

 二回目の報告はいつしたのか気になる所だが、セレナの予想だとフィッテとセレナが寝静まった後に依頼所に行ったのだろう。


「れ、レルヴェさん、そのすみません……本来は私が説明しなければいけないのに……」

 

 申し訳ない顔をしてフィッテがレルヴェに頭を下げる。

 頭を下げられた彼女は手をフィッテの頭に乗せた。


「いいのさ。ラウシェにもう少し来るのが早かったら私だって関わってる。このくらいはさせてくれると嬉しいよ」


 フィッテは頭上の手に、思わず父親が慰める時に手を乗せてくれたのをふと思い出す。

 

『フィッテは一人じゃない、困ったら周りに居る人を頼りなさい。勿論、私達お父さんお母さんを頼ってもいいんだぞ』


 乗せ方から角度まで似ていたので、つい微笑む。

 レルヴェは手を離し、ガンセと確認をする。

 

「じゃあガンセ、また何かあったら私かこっちの少女二人組みの両方に知らせてくれるかい。今日は私達は一緒に行動する筈だから、見つければ報告は楽だろうね」

「ああ分かった。って、もう行っちまうのか?」

「ああ、今日はなるべくフィッテに用事を消化させたいんでね」


 この後に控えている彼女の創造魔法の作製と、初めての依頼請負の事だ。

 今は昼前なので、二つの用をこなしたって日が暮れる前には終わるだろうが、レルヴェはレルヴェで私用があるのかもしれない。

 ガンセは顎をさすると、フィッテに質問を投げかける。  


「フィッテ、もし鎧を見つけて捕まえる事が出来たらどうする」

「……なんであんな事をしたのか聞きたいです。私のお父さんとお母さんは何も悪い事していない筈ですから」

「そうか。捕まえられたら真っ先に聞いておこう」


 フィッテは二人の鎧には聞きたい事が沢山ある。

 今の実力では聞く前に殺されかねない。

 しかし、自分の周りに居る人達に頼ればきっとなんとかなるだろう。

 確信は無いが、可能性はゼロじゃないはずだ。


「さてさて、もういいかいガンセ。可愛らしいお嬢ちゃん達に言っておくことがあるならば今のうちだよ」


 ぶっ、とガンセは噴出し、怖そうな顔からは想像も出来ない程の頬の緩みを見せる。


「お、おいおい。それは言わない約束だろうがっ! な、何もねぇよ! くそっ、レルヴェめ酒の席では覚えてろよ……」

「っくく、自分の娘みたいに可愛がってるからねぇ。セレナがいい例さ」

「……私はなんとな~~くガンセさんがそういうお方なのは分かってましたが……まぁいいですけど」



 ガンセは照れ顔から赤面に変わりつつあった。

 セレナは対して気にしていないのか、特に困った素振りを見せない。

 それなりの実力を持つ人にも以外な弱点があるのを知ったフィッテだった。

 必死に咳払いをして、場の空気を変えるガンセはどこか見ていて心が安らかになる。

 普段厳しそうな人が見せない、意外なギャップ故だろうか。


「コホン。これは全員にも言ってるが……鎧が襲撃した際に備えて、外に出る時は必ず二人以上で行動する事。実力が有る奴はいいが、フィッテ嬢ちゃんみたいにまだ満足に戦えない人間が居る時に外を出る時は強力な護衛を必須とする」


 依頼を受ける者にも同じ事は言えるだろう。

 外に一人で出て、もし危険な目に遭っても自己責任では済まない。

 何より、命に関わる事態だからだ。

 恐らく、ラウシェの住民消失や、甘い匂い等のその町単体で起きてる事態ではなく、鎧が町を襲撃する可能性を考慮しての事である。


「鎧二人組みをなんとかしないとおちおち一人で行動できないって訳だ。外に出るときは最大限の注意を払おう」

「ですね。私だけでは絶対に勝てないですし」


 三人はガンセにお礼をして、彼が居た部屋を後にしようとする。


「フィッテ」

「は、はい……な、なんでしょうかガンセさん」

 

 一睨みしただけで、敵がすくみ上がりそうな目をしたガンセはフィッテを呼び止める。

 敵には入っていないのだが、時として少女までをも怯えさせてしまうガンセは申し訳ないと思った。


「その、だ。無理はしないでくれ。何かあったらセレナやレルヴェを迷わず頼る事だ。居なかったら他の誰でもいい、俺でもいい。ラウシェでの出来事を二度と起こさせないようにするが、何が起こるか分からん」

「わ、分かりました……ガンセさんにも頼らせてもらいます……でも、私は皆さんに頼りっぱなしで申し訳ないです……」

「嬢ちゃんが気にすることじゃねえさ。前に出れる奴、戦える奴が何とかしないでどうするって話だ。フィッテ嬢ちゃんが成長して、満足に戦えるようになってからでいいんじゃねえかな?」


 髭が一切生えていない顎に手を触れ、ガンセはフィッテに背伸びをしなくていいことを語る。

 フィッテは未だ、創造魔法の一つや、扱える武器を持っていない。

 そんな状態では頼りっぱなしなのは仕方ないことだが、彼女が近いうちに実力を付けたら、もしかしたらガンセ達の方が足を引っ張る日がくるかもしれない。

 いつかは定かではないが。


「で、ですね……。すみません、それではよろしくお願いします……!」

「俺からの助言は以上だ。用事、頑張るといい」


 フィッテは笑顔で頷くと、先に行ってしまっているセレナ達に追いつくべく走った。

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