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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
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到着

 三人はいくつかの木々を通り過ぎ、わずかな浮遊力で引っかかりそうな小石を飛び越え、後部から紅の軌跡を散らしながら進む。

 フィッテも大分慣れてきたのか、ブーストしながらの操作は最初に比べればマシになったといえる。

 

「レルヴェさん、もうちょっとで着きそうじゃないですか?」

「ああ、そのようだ」

 

 三人の遥か先の前方には、町があるのかオレンジの灯りが見えた。

 このまま何事も無ければ数分を消費すれば町中に入れるだろう。

 

「……レルヴェさん、セレナちゃん。何か、居るように見えるんですが……」


 若干震えた声のフィッテは町を塞ぐような何かの存在を感知したのか、前方を指差す。

 レルヴェは奇襲があっても対処出来るように彼女達の前に出る。

 どれ、とレルヴェは不可視の武器を振って前を注意深く観察する。


「レルヴェさん、あれって『テンタクルポール』なのでは……?」

「間違いない。あのうねうね棒の見た目、好きじゃないんだけどねぇ……」


 三人の視界に収まる姿は棒、だ。

 彼女達の身長を少し超え、見下ろす形で立ち尽くしている。

 棒は細く、その細さは人間の腕をそのまま伸ばして高身長にした印象を与える。

 また人でいう肩ぐらいに位置している部分から、左右にうねうねとうごめく何かが生えていた。

 いわゆる手のパーツなのだろうか。

 

「レルヴェさん、こいつは攻撃的な奴とそうでないのが居ます。どうしますか?」

「強くないんだけれども攻撃する奴が混じっていたら厄介だ。私は先に行って斬り進んでくるとしよう。お姫様の進路を確保するのは騎士の役目だろうからね」


 レルヴェはめんどくさそうに頭を掻いてから、前方の棒に加速をした。

 

「フィッテ。ここはレルヴェさんの強さを見ておくといいかも。……といってもあんな雑魚相手じゃレルヴェさんは役不足だーとか言いそうだけど」

「レルヴェさん、強いんだね」

「私よりかは強いよ」



 セレナは彼女の実力を知っている為自嘲じみた顔を浮かべながら肯定した。

 レルヴェを追従する二人は彼女の戦いを走りながら見ている。

 レルヴェは、遠くにいるテンタクルポールに対して物を投げつける動作をする。

 今日の出来事で言うならば、セレナの創造魔法【スイフトアロー】を投げるのに酷似している。

 透明の武器は棒の中心に刺さり風穴を開け、棒が横たわるのを確認すると次の目標に移った。


「まさか、当たるとはねぇ」


 どこか嬉しそうな声で周囲のポールを斬りに掛かる。

 左斜めのポールは一度斜めに斬りつけ、右手に並んだ二体を槍で突くような姿勢を取り腕を伸ばす。

 三体の棒は時間差で崩れ落ち、手のうねうねとした奇妙な動きをやめる。

 残ったのは数メートル先に居る三体だけだ。

 ブーストで加速をしているレルヴェならばすぐに縮められる距離だ。

 

「さぁ、こいつで終わりだ」


 武器を両手持ちしたレルヴェは動くには満足ではない足場の中、体の捻りを使い自身には見えている透明な剣を形作った大剣を横に薙いだ。

 中央の一体だけはうごく手をレルヴェへと伸ばして抵抗するが、体ごと横一文字に裂かれた為無駄に終わった。

 だが、もう一体中央の奥に隠れていた。

 そのうねうね棒は、手を伸ばしレルヴェ目掛けて攻撃を仕掛ける。


「ほう、犠牲を出しながらの囮かい」


 満足に避けられる程フロートボードの上は広くないので、すぐさま別の形態に新しく作り変わった武器で防御をするかしゃがむなどして体勢の変化を行なうか、フロートボードで回避行動を取るか。

 レルヴェは向かってくる手に構わずに、次の武器を構える。

 近距離まで近付いた手を体をそらして避けた彼女は両手を交差させ、左手を縦に、右手を横に高速で動かしテンタクルポールに致命傷を負わせた。

 断末魔や、切断箇所から体液などが無いことから人形でも斬っているのではと見間違うほどだった。

 すれ違いに十文字に斬りつけたので最後のようだ。周囲にはうごめく棒は居なくなった。

 

「一丁上がりさ」


 対して苦戦をしなかったレルヴェは退屈そうに両手をぶらぶらさせた。

 減速していたレルヴェは二人と合流し、そのまま走り続ける。


「先ほどが『魔物』、なんですね……」

「今のは最下級クラスだ。攻撃してきても、何か当たったか? で済ませられるほどの打撃さ。痛くも痒くもないねぇ」

「でも不気味ですよね。こんな夜に出会ったら特に」


 レルヴェは頷くと後ろを振り向き、殺めたテンタクルポールに視線を送る。

 魔物の最下級に属していたうねうね棒は、動きを止めて大地に溶けるように消えていった。

 生命活動を終えたらその場で力尽き、消える魔物なのだろう。

 

「ドロップは回収するの面倒だねぇ。まぁ最下級クラスだから売っても微々たるものだけどねぇ」

 

 魔物は死んだ人間と同様に手持ちの物を落とす。

 それが殺した人間から奪ったり、町の外に落ちている硬貨や紙幣を拾ったものだったり、魔物特有の皮や牙を残す場合も。

 勿論、跡形も無く消滅や焼失させた場合は余程の事が無い限り戦利品は入手出来ないだろう。

 倒すにしろ、工夫をしないといけない訳だ。 


「レルヴェさん、あんなのじゃ満足しないじゃないですか。『丸石獣(まるいしじゅう)』でも足りないかもしれないねぇ。とか言ってたのはどこのどなたでしたっけ?」


 レルヴェは不満そうに頬を膨らませて抗議するセレナをなだめる。

 

「ふ、いつのセリフだったか忘れたね。まあ、それよりもだ」

「?」

「そろそろ着くんじゃないかい? 私達の町、『ブレスト』に」


 フィッテはお互い話が合う二人を見て微笑んだ。

 だって二人は敵意丸出しではなくて、ちょっとした仲の良い姉妹のじゃれあいのように見えたから。





 それからして数分後、何事も無く誰かに遭遇する事もなく二人が住む町へ着いた。

 外観はフィッテの育った町が円形ならば、こちらは扇形である。

 外壁は灰色で見上げる程の高さではなく、頑張ってよじ登れば乗り越えられるほどの高さの塀だ。

 ここまで走行してきた三つのフロートボードは町内部の壁に立てかけてある。壁には白いテープのような物が貼られていて、そのテープの上部分には『ラウシェ往復用フロートボード置き場』と表示されていた。

 ちなみに、フィッテの町に行くときはまた同じフロートボードを使う必要がある。

 彼女の町、『ラウシェ』の物だからだ。フロートボードの数の増減ではなく、あの町で所有しているかららしい。

 それではラウシェからここのブレスト、そして次の町へ渡り歩きたい時には不便だ。

 元々ブレストの町に来たのは町と町を移動する為の物なので、他の場所へ行くのは禁止されている。

 別の場所へ行きたかったり、ブレストを経由せずに他のダンジョンや町へ行くときには貸し出し物の方を借りる必要がある。

 今回は町と町を移動する往復用のフロートボードだ。

 外出用を借りるには許可証と、係員の承認が必要である。


「さて私達の町、『ブレスト』に着いた。来る形は違っただろうがようこそフィッテ、あんたの住んでる町とはちょっと違いはあるが馴染んでくれると嬉しいよ」

「は、はい……」


 無事に町に着けて安堵したのか、二人の少女は手を取り合った。


「着いたよ、もう安全だから。皆居るし、ここでは事件なんて起こさせないよ」

「あ、ありがとうセレナちゃん、レルヴェさん……」


 町の入り口から少し離れたスペースで三人は佇んでいる為、邪魔にはならないが夜の町とはいえ人の出入りは少なからずあった。

 自分の背を遥かに超す大剣を肩に担ぎながら、出口へ向かう体つきが良く力仕事ならばお任せあれとばかりに自然と筋肉を露出させる戦士を感じさせる人物も不思議そうな顔をして通り過ぎていく。

 夜の町のブレストはセレナが知っているラウシェの町と同様に賑やかさは変わらない。

 ラウシェの人達が移住してこの町の住民と混じっているのではないかと錯覚するほどだ。

 その証拠に、入り口近くの露店はいくつかあるイスが満員だからだである。

 酒の匂いが漂ってくる屋外店からは、喧騒が聞こえてきてフィッテに生きている実感を与えさせ密かに涙が出そうになった。


「まあ、鎧から無事逃げ切れた安心とかもあるんだろうけどさ。ここは私が状況説明しに行った方がいいと思うがいいかい? 二人共、疲れただろう」

「で、では私はフィッテを部屋に連れていきます!!!」

「こらこら、途端に目が冴えたように動くんじゃないよ。全く、セレナも付いてきてもらおうか」


 若干じとーっと粘りつくような視線を送るレルヴェは不満そうだった。


「すみません……とはいえ、フィッテに弧道救会(こどうきゅうかい)の場所の案内がですね」

「ったく、しょうがない……とりあえず説明はしてくるけども。朝には二人の話も聞いてもらうからね?」


 は~い! と、元気溢れる返事をしたセレナはレルヴェとは別方向の道へと体を向ける。

 フィッテ達はブレストの町の東側にいる。

 扇形の町、ブレストはそれぞれの方角で町の内部が異なる。

 西方は家庭を持っていたり、一人なり恋人と二人で両親などと共に住んでいたりと、住宅が主だ。

 大体の人は西方面の我が家に帰り、朝まで寝るという生活をしている。

 中央が東西南北と年中無休で門を開けている町だからこそ、どの方角からでも流通が素早く行なえるように商業区が設定されている。

 門番も居るには居るのだが、顔を赤くして眠りこけているあたり使い物にならないだろう。

 フィッテは心配になったが、セレナが事件は起こさせないといっているので信用することにした。


「賑やかですね……活気があるのが伝わってきます」

「ふ、まだ序の口だと思うが、商業区なんて特にうるさいと思うよ」


 フィッテの町でもあったが、職種は様々で武器から野菜、服と至れり尽くせりだ。


 広くそこそこ深く、を目指しているのか品揃えはランク別にもなっている為、最高級品は無いが少し値は張るがその分の価値は保障する高級品まで扱っている。

 そして、今フィッテ達が居る東側が管轄区だ。

 以上の三つの区域で、大まかにこの町は分けられている。


「この管轄区は静かな方ですよね。少し距離を歩けば酒と騒音の町に……」

「夜、寝れなさそうだね……」

「ふ、ここの住民にとっては慣れっこだねぇ」


 この町を治める町長を初めとし、組織的名前を持つ団体がここ管轄区に存在する。

 それはレルヴェが所属する『弧道救会』もそうだ。

 セレナの言う依頼の請負場所も管轄区にある。

 セレナ、レルヴェ達のように依頼等をして生計を賄っている者達は、右方の管轄区に依頼を受けるため集まることになる。

 朝型の人も居れば夜に行動する、先ほどの出入り口でちらりとすれ違った戦士風の男なんかがそうだろう。

 そして町長のように、町の安全や治安維持などに関わっている人達も住んでいる。

 このような感じで、ブレストの町は朝、昼、夜と忙しそうである。


「さて、フィッテはここは初めてだったよね。私が住んでる所に案内するから着いて来てね。といってもすぐに着くけど」

「わかった」


 一度頷き、フィッテはセレナの進む道を追従する。


「それじゃあ、レルヴェさん今日はお疲れ様でした」

「ああ、また明日」

「……お疲れ様でした!」


 フィッテとセレナはお辞儀を、レルヴェは片手を振って解散となった。

 別れる際、レルヴェは東出入り口から少し歩いた建物に入って行く。

 出入り口の上部には看板が取り付けられており、円型の盾が手前に、二本の剣が斜めに盾と交差するように奥へと位置していた。

 おそらくは事情説明をする場所だろう。今日の所は申し訳ない、と思いつつ意識は前方へ向ける。

 東の大きな通りから少し離れて北の路地に入る。

 さほど広くない直進を少し歩き、右に曲がった所に目的の場所が見えてきたのか、セレナは足を止めて振り返る。


「ここが私とレルヴェさんの住んでる場所、『弧道救会』だよ」

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