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私と師匠  作者: 水守 和
第1話 復炎
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出門

 後片付けを奥の厨房側で済ませたフィッテ達は表に出た。

 東通りの中央地点に近い小さな飲食店。東通りも中央地点もいずれも人が居なかった。敵の老人が横たわっているのは相変わらずだが。


「やっぱりその鎧ってのは逃走したんだろうねぇ」

「そうだといいのですが……」


 中央地点まで来たフィッテは、東西南北それぞれの門を見渡す。

 異常が無いのを確認して西門へ向きを変えた。

 レルヴェが嗅いだとする、甘い匂いの正体はフィッテは未だに創造魔法だと睨んでいるが、確定でもないしあくまで予想の話だ。

 甘い匂いが何かの現象を引き起こすならば、出来るならそちらも解決したいと思っているからだ。

 もちろんここから出て創造魔法を覚えてから、と最低限のラインは決めている。


「……そういえばレルヴェさん、今も甘い匂いの影響は無いですか?」

「ああ、このとおりピンピンさ」


 返事代わりとばかりに、レルヴェは透明な武器を持っているかのように片腕を振って見せる。

 その動作にピン、と来たセレナは外に出てから初めて口を開く。


「レルヴェさんの武器、もしかして創造魔法ですね?」


 彼女は特に驚くことなく、見破られても冷静に受け答える。

 まるで初めからここで見抜かれるかを予想していたように、すらすらと説明し出した。


「ご名答さ。【トランスペアレンシィ】、透明な武器を作る創造魔法。硬さはセレナの『スイフトアロー』を砕ける程、まあガラスと似たようなものさ強いけれど硬度は頼りないから、一撃限りの武器って感じかねぇ。続きは今度でいいかい? ……ここに死体が居るって事も忘れずに」


 ぶんぶん、と空を斬るように素振りをするが、二人は見えないのだから武器のリーチが分からない。

 最後のセリフで二人はハッとし、急ぎ足で西通りへ向かう。

 後を追いかけるレルヴェは足元の老人を一瞥した。


「こいつは仲間割れなのか、それとも別の……って戦ったことない私が言うのもねぇ」


 先に言ってるフィッテ達には聞こえない程の音量で呟き、二人に合流した。


 陣形はレルヴェが言葉通りに先行し、セレナが後列、というよりもフィッテと同列だったがフィッテは気にしなかった。

 彼女的には背後で後方にくるかもしれない敵を警戒するよりも、傍に居てくれた方が安心するからだ。

 レルヴェが通ってきた西通りは東通りに比べて住宅よりも、店が多かった。

 先ほど話し合いをした飲食店とは似てるような店や、剣や、槍、斧といった代表的な武器を販売している武器屋。

 子供から大人まで幅広い年代の服を扱う所などが並んでいた。

 問題なのが、飲食店数店舗ならまだしも同じジャンルの店がいくつか点在する事だった。

 一番酷いのが野菜を陳列し、販売している店だが左右向かい合うように配置されていた。


「ここの野菜店って潰しあいでもするんでしょうか……?」

「ん~、どうだろ。喧嘩するほど仲がいいのかも。って知らないって事は、私はまだしもフィッテはあまり外に出ないの?」

「そ、それは……私はあまり外に出ないから……」


 セレナは相変わらずだね、と微笑むとそれ以上は追究しようとはしなかった。


「どうやらお姫様はお外が嫌いのようだねぇ。さて、問題の所だ」


 フィッテはお姫様と言われ恥ずかしく地面に視線を移し、レルヴェは来る時に匂いを感じた場所で一度止まる。

 セレナは気付いたのか、匂いを嗅ぎ自分で確認する。


「特に匂いはしないですね。……西通りも変化は無さそうですし」

「まあねぇ。あれが錯覚なんじゃないのか、って思うほどさ。何も問題が無ければそれでいいっちゃいいんだけどねぇ。個人的には引っかかっているけどさ」

「……私も、気になります。原因と症状次第では、いつか解決したいと思っていますので」


 レルヴェとセレナは同意見なのか、頷くと西門へと再び向かった。




(本当に、何も無ければいいのですが……。レルヴェさんも心配ですが、やっぱりここの人たちの行方も……)


 考え事しながら早足で歩くフィッテの横顔をセレナは盗み見し、何かを言おうとしたが言葉が見つからないのでやめておいた。

 今は逃走優先だし、また準備が出来た時にでも来ればいい。下手に何か言えば行動を起こしかねないからだ。

 そうして三人は特に違和感を感じることもなく、西通りを越えて、西門を視界に捉えた。

 口を開いた門は、衛兵が居ない今は無法者や、魔物の進入するのを許してしまっている。

 現在は誰とも遭遇はしないが、この町には脅威の強さを誇る鎧が居た。

 恐らくセレナだけでは止めるのは不可能に近いほどの敵が。



「私が先陣を切るから、二人は注意しながらきてくれるかい?」


 レルヴェは先に門を出てフィッテとセレナは頷き、恐る恐る外へ出る。

 トラップといった類は無いようだ。

 外周が強固な壁を追い抜き、月の輝きが照らす外の世界がフィッテの瞳に映った。


「幻想的、とまではいきませんが綺麗ですね……」

「真っ暗って訳ではないけど、町の中みたいにそこまで明るくもないけど、景色はいいと思うな」


 ある意味何も無いから退屈なんだよね、と加えるセレナはさほど不満そうに見えない。

 レルヴェは軽く笑い、フィッテに視線を送る。


「私も今そう思いました。綺麗だけど……何も無いんだよね」

「全く、これじゃあ本当にお姫様を連れ出したみたいだねぇ」

「うう……お姫様じゃないですよ……」


 セレナが呆れる程に町の外は何も無かった。

 短い草が生え、大樹ほどではなく木がたまに点在する程度だ。

 場所によっては木々が固まった森地帯もあるだろうが、緑一面絨毯ともいえる大地をフィッテは綺麗、と言った。

 それは変えようがない事実だった。セレナはこんな形ではあったが、フィッテと一緒に来て良かったと思う。


「それで、質問なのですが……」


 夜の眺めを堪能したのか、フィッテが申し訳ないように挙手した。


「セレナちゃんに聞きそびれたかもしれないけど、ここからその町まで半日ほど掛かるって聞いてますが歩きですか……?」

「歩きなら確かに半日さ。しかしそれを何とかしてしまうのが、魔法だ」

「そ、それでその魔法って……?」


 期待を隠せないフィッテを横目にセレナが口を挟む。


「別にレルヴェさんの創造魔法ではないですけどね。フィッテちょっとそこで待ってて、すぐ済むから」


 セレナは二人の言葉も待たずに来た道を引き返し西門へと帰って行った。


「何だと思う?」

「えっと……、何かを持ってくる、でしょうか? も、もしくはその……セレナちゃん急いでいたとか」

「……後半は違うと思うねぇ。まあ、前者の何かを持ってくるというのは正解さ。西門入り口に配置されているはずだから、すぐに来るさ」


 レルヴェとフィッテは西門へ向かったセレナの帰りを待った。

 フィッテは持ってくる物が気になったが、レルヴェに聞いてもそれ以上は教えてくれそうになかった。

 じっと待機していたレルヴェは堪え切れなくなったのか、フィッテに話を振る。


「フィッテは、創造魔法が使えたら何がしたいんだい?」

「……秘密、じゃダメですか?」

「……いつか、話せる時があったら話してくれると嬉しいよ」

「すみません……」

「ふ、謝ることじゃない。私が聞いちゃいけないこと、それだけの話さ」



 彼女達の会話も、セレナが重そうに白い板を持って来たことで打ち切った。

 板はセレナ程の身長よりは小さかった。

 短剣では短くて、長剣が程よい長さで横幅を拡張したイメージだろうか。

 長方形の上部へ湾曲し伸びた部分を更にくっ付けて、一枚の板にしたのがセレナの持ってきた板だ。

 傍から見れば、海へその板で遊泳気分にしか見えなかった。

 しかし、そう思ったのはフィッテだけで後の二人はどこかホッとした表情を浮かべていた。

 万が一板が壊れていたら、帰宅手段は己の足のみとなっていたからだ。


「セレナちゃん、それは……?」

「『フロートボード』。言葉通り浮くことが出来る板で、地面から少し浮けるから多少の石ころなんかは避けて走行することが出来るよ。これは創造魔法ではなく、日常魔法を使用しているからフィッテにも使えるの。もちろん動力が魔力で出来てるから消費するのが魔力だけど……フィッテの魔力でも十分町まで着くと思う」

「ちなみに一人用で、二人乗ろうものならばすぐさま地面に着陸したまま動かないようになっている。重さのせいではなくて、フロートボードの制限みたいなもんさ。だから個別の魔力が必要というわけだ」


 彼女達の親切な説明にフィッテは相槌を打ち、何故セレナがフロートボードを持ってきたか理解した。


「って、セレナちゃん。コレのせいで魔力消費の条件を満たしてなかったんだね……」

「返す言葉がございません……」


 落ち込みながらフロートボードを手渡すセレナの手はどこかぎこちなかった。

 まさか飲食店で条件がどうのって言っていたのはこれだったとは……と把握するフィッテであったが、思いのほか軽かった板の重さでそんな気持ちはどこかへ消えていった。

 重さは分厚い本よりかは軽かった。

 読むのに二週間は要する本より、包丁を持っている気分だった。

 振り回して武器にも使えるのでは、という考えを見破るかのようにレルヴェが警告をする。


「フィッテ、最初はあまりの軽さに驚くかもしれないが、武器にして振り回して壊したら弁償要求されるからね。運転時に軽くぶつけるぐらいなら問題ないけどさ」

「わ、私はそんな事思ってなんか……いえ、少しだけ思ってました。それでこのフロートボードをどうやって使えばいいのですか?」

「まずは地面に置く。その時に半円を描いている部分を前に向けてくれるかい」


 フィッテは言われるがままに地面に置いた。湾曲した部分を自分の方向を示すかのように前方へ向ける。


「次に安全装置ともいえる半円二つのマークが裏にある。そこを日常魔法の火で当てる」


 同じくして指示に従い、板を裏返し、中央部分に黒色で半円が描かれているマークがあった。

 それは先ほどの湾曲した向きと同じ方向で、その半円はもう一つの半円に追従されていた。

 フィッテは日常魔法である火属性を念じ、数秒してから手の平に収まる小さな火を半円二つにおずおずと当てた。

 下に位置する半円の色が変化し、黒から熱を帯びたように赤く焼ける。

 続いて上の半円も一筆書きを行なうかのように、赤に変色した。


「こ、これでいいですか……?」

「ああ、上出来さ。最後に赤くなった半円に日常魔法の風を送る。これで前準備は完了さ」


 言われるがままに、フィッテは日常魔法の詠唱をする。

 手から爽やかさを感じさせる風が送り込まれるのはそう時間は掛からなかった。

 横をチラ、と見るとセレナも同様の動作をしていた。

 自分のようにぎこちなさは微塵も無く、慣れた手付きで幾度となく行なってきたのかが動作一つ一つで分かる。

 彼女の表情は少し怒り気味なのか、眉が上がり気味なのが感じ取れる。

 それを言葉に表すとしたならば、『私が説明して手取り足取りだったのに……!』と横取りされたことによる嫉妬が強かったが、フィッテがそれを感じ取れる事は無かった。 

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