還る場所
今日もまた23時退勤。
終電に揺られ、家に着く頃には日付が変わっている。
何かを食べる気力も、風呂に入る気力もないまま、俺はどかっと小さいテーブルの前の座椅子に身体を投げ出した。
そして机の上の空き瓶を見つめる。
あの頃と違うのは、そこに彼女はいないだけだ。
気まぐれに人魚を拾い、大した世話もせず、ただの愚痴の捌け口にしていた。
そんな自分が嫌になり、自分から手放したというのに、彼女がいた空き瓶はまだ残っている。
あの日から不燃ごみの日は2度ほどあった。
だけど、捨てられなかった。
寂しさを紛らわすためにテレビを付けてやり過ごしているが、好きな芸人が至極のネタをしてても、子供が必死で頑張る姿を見ても、俺は表情を変えることは出来なかった。
珍しく早く帰れるから、彼女と初めて出会った公園を横切って帰った。
相変わらず濁った池を眺めていたが、人魚はおろか、生物すら生息していないんじゃないかと思うほど、穏やかな水面だった。
見上げた夜空は美しい満月が輝き、何か強い引力に引っ張られるかのように、自宅ではない方向へ歩いて行った。
気がつくとそこは人魚を放したあの海。
夜空には大きな満月と満点の星空が広がり、水平線の向こうまで水面がキラキラと輝いていた。
『あそこに行けば彼女に逢える』
なぜかそう感じた。
波打つ海が俺を手招きする。
一歩、また一歩、誘われるままに歩いていく。
俺は彼女が居るであろうその海に還っていった。




