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還る場所

作者: シキカン
掲載日:2026/06/11


今日もまた23時退勤。

終電に揺られ、家に着く頃には日付が変わっている。

何かを食べる気力も、風呂に入る気力もないまま、俺はどかっと小さいテーブルの前の座椅子に身体を投げ出した。

そして机の上の空き瓶を見つめる。

あの頃と違うのは、そこに彼女はいないだけだ。


気まぐれに人魚を拾い、大した世話もせず、ただの愚痴の捌け口にしていた。

そんな自分が嫌になり、自分から手放したというのに、彼女がいた空き瓶はまだ残っている。

あの日から不燃ごみの日は2度ほどあった。

だけど、捨てられなかった。

寂しさを紛らわすためにテレビを付けてやり過ごしているが、好きな芸人が至極のネタをしてても、子供が必死で頑張る姿を見ても、俺は表情を変えることは出来なかった。


珍しく早く帰れるから、彼女と初めて出会った公園を横切って帰った。

相変わらず濁った池を眺めていたが、人魚はおろか、生物すら生息していないんじゃないかと思うほど、穏やかな水面だった。

見上げた夜空は美しい満月が輝き、何か強い引力に引っ張られるかのように、自宅ではない方向へ歩いて行った。


気がつくとそこは人魚を放したあの海。

夜空には大きな満月と満点の星空が広がり、水平線の向こうまで水面がキラキラと輝いていた。

『あそこに行けば彼女に逢える』

なぜかそう感じた。

波打つ海が俺を手招きする。

一歩、また一歩、誘われるままに歩いていく。

俺は彼女が居るであろうその海に還っていった。

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