【コミカライズ2巻発売記念SS】ガルシア公爵家はお残し厳禁
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「ねぇねぇ、アガシャ。ほんとうにキノコさんたべても、おへそからキノコさんニョキニョキしない?」
「はい、しませんよ。お嬢様」
「ほんと? おなかつきやぶってニョキニョキしてこない?」
「お嬢様、キノコを食べておへそからキノコがニョキニョキ生えてくるなら、すでにそういう人がたくさんいるはずですよ? 使用人の中にもいるかもしれません。でも、キノコがニョキニョキしている人はいないでしょう? だから、大丈夫です」
食事の席なので、お腹を突き破ったら死んじゃいますという表現は避ける。
「ううーん、でも、みんなふくでかくしてるから」
現在、ダリアお嬢様の前にはキノコのソテーがある。ソテーだけ残しておられるのだ。
お嬢様は、キノコが苦手でいらっしゃる。
「ダリア、お残しはいけませんよ」
公爵夫人である奥様の厳しい声が飛ぶ。
「晩餐会などに招かれて料理を残すのは、相手のおもてなしに対して失礼よ。同じく領地で視察に行って振舞われた料理を食べられないのもいけません。ダリアはキノコを体質的に食べられないのではないのだから」
奥様の言葉で、ダリアお嬢様は悲しそうに皿の上のキノコをじとっと眺める。
奥様の教育方針がお残し厳禁なので、私たちはお嬢様がキノコを食べられるように協力するしかない。
それにしても、小さい頃の好き嫌いってどうやってなくなるんだろう?
大きくなったらいつの間にか食べられるようになっていると思うけど、ロキシーの弟たちの野菜嫌いは治っていないと聞くし……。でもこの年頃の子たちは野菜嫌いなのは一般的よね? お嬢様はキノコ以外はちゃんと食べておられるし……。
「お嬢様~! 頑張って~!」
ロキシーがテーブルから少し離れたところで、ウサギの大きなぬいぐるみをちまちま動かして裏声で応援している。
ちなみに、ウサギのぬいぐるみでダメなら次はクマだ。
ガルシア公爵家では、こうやってぬいぐるみたちの全力応援によりお嬢様は苦手なものを完食される。
「キノコニョキニョキしないよ。ほら、見て!」
ウサギのぬいぐるみが自身のお腹を示している。無論、ロキシーによって。ロキシーは家族が多いせいか、こういうぬいぐるみごっこがとても上手だ。
「でも、ウサギさんはキノコさんたべません」
「大丈夫ですよ、お嬢様! 私もキノコさん好きですが、お腹にニョキニョキしてません」
さすがにここでお仕着せをめくってロキシーのお腹を見せるわけにはいかない。
「お嬢様、たくさん噛んだらきっと大丈夫です! キノコさんはニョキニョキしないですよ」
「キノコさん、ぐにゃぐにゃしてて、いやぁ……」
「お嬢様、料理人がぐにゃぐにゃしないように頑張ってくれています。まずは一口頑張ってみましょう」
私がそう声をかけると、お嬢様は悲しそうな表情のままキノコを口に運び、嫌そうな顔で咀嚼する。
もっもっもっと咀嚼しながら、お嬢様はお腹に手を当てて気にされている。
生えてくるとしてもまだお口の中にあるのでそんなに早くは生えてこないと思いますよ、お嬢様。
「苦手なものを頑張って食べるお嬢様、素敵! その調子で頑張ってください~!」
「お嬢様、ほらあそこでウサギさんも応援してくれていますよ!」
お嬢様が黙々とキノコを食されている間、向こうではウサギのぬいぐるみが手足をじたばた動かしている。ホコリが立たぬように少し離れたところでぬいぐるみ劇場は行われているのだ。
「きょうのは、あんまりぐにゃぐにゃしてないかも」
「これはハンスがお嬢様のために愛をこめて頑張ったキノコ料理ですから!」
「お嬢様が食べてくれないと、ハンス泣いちゃう…」
私の言葉の後で、ロキシーがまたアシストする。
そうしてお嬢様がキノコを完食されるまで、侍女たちで応援しウサギとクマのぬいぐるみたちは踊る。
侍従に聞くところによると、クリス殿下はピーマンが苦手らしい。お嬢様はピーマンは好きでもないが嫌いでもない。
ピーマン様を愛せない殿下とキノコさんが苦手なお嬢様が夕食を一緒に摂るとどうなるかは──またどこかで分かることになる。




