【重版御礼SS】5歳児による「おまえをあいすることはない」
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これはとある日の給仕が見てしまったお話である。
王族の朝食風景だ。
そう、笑ってはいけない。笑ってはいけない選手権開始。
「うっ……うっ……やだぁ」
「クリス。さぁ、今日こそ頑張るんだ」
「やだやだぁ」
「母上におしりぺんぺんされるぞ」
「かわりにたべてよぉ」
「それはできない。このピーマン様はクリスの可愛いお口に入ることをご所望だ」
「まずいからやだ~」
「ピーマン様に向かって何て失礼な……ほら、ピーマン様が泣いていらっしゃる。シクシクシク」
五歳であるクリスティアン殿下(クリス殿下)の苦手なものはピーマン。
嫌がるクリス殿下にピーマンを食べさせようと奮闘しているのは、年の離れた兄である王太子殿下だ。
大変爽やかな朝である。
「ピーマンまずい! きらい!」
「そんな! こんなに頑張って料理してくれたのに! ダリア嬢だってピーマン様を頑張って食べているぞ?」
「ダリアもピーマン、きらいっていってた」
婚約者であるダリア嬢を引き合いに出されても、クリス殿下はピーマンを食べようとしない。ピーマンが好きな五歳児というのはあまり聞いたことがない。
ピーマンに様がついている理由は、様を付けたら一度クリス殿下がピーマンをぱくりといったからだ。様がついていると一瞬だけ騙されてくれたのだが、すぐに「うえ~!」と嫌そうにしていた。吐き出さなかったのは王族だからか。普通の五歳児なら吐き出しているだろう。
「お願いです、クリス殿下! ワタシを食べて! お願い! ワタシ、皆が心を込めて作ってくれて、心を込めてお料理されたの! クリス殿下のためよ!」
王太子殿下の今日の作戦は寸劇のようだ。
スプーンに載せたピーマンを落とさないよう、少し動かしながら悲痛な声をつけている。クリス殿下は嫌がってのけぞる。
王太子殿下がピーマンで寸劇。ここで笑ってはいけない。何食わぬ顔で我々給仕はお食事が終わるのを待たなければいけない。
笑ったらクリス殿下がもっとピーマン、いやピーマン様を食べなくなるではないか。笑われているなんていう恥を感じさせるわけにもいかない。
国王夫妻は忙しいため不在だ。
「やだ! ぜったいやだ! しんじゃう!」
「そんな! ワタシ、こんなにクリス殿下のことが好きなのに! 酷いわ酷いわ!」
王太子殿下が体をくねくねさせてわざと高めの声で寸劇を続けている。一体、どこの令嬢の真似なのか。
そして、この内容は五歳児向けで大丈夫なのか。
というか、どうしてこの高貴な王太子殿下はノリノリでこんなことをしているのか。やはり年の離れた末っ子は可愛いのか。
一切表情を乱すことはないが、給仕は皆内心では忙しいはずだ。
「ぼくにはダリアだけだもん!」
五歳にして素晴らしい婚約者愛で一途なのだが、ピーマンと同列で比べられるのはダリア嬢としてはどうなのだろう。ほら、女心って五歳でも複雑だから。
高貴な殿下方のお食事はまだ終わらない。
もうそのピーマン、いやピーマン様でかれこれ二十分は遊んでいる。そろそろピーマン様はしなしなで美味しくないのではないか。
王太子殿下がクリス殿下の一途さに根負けして、寸劇は終わりかに思われた。
クリス殿下は涙目になりながら、ビシッとピーマン様を指差す。
クライマックスが残っていたらしい。
「ピーマン! おまえをあいすることはない!」
やけにはっきりした発音だった。
……誰だ、そんな言葉をクリス殿下に教えたのは。
王太子殿下は「ブブッそう来たか!」と噴き出したが、我々給仕は噴き出すことなんてできない。
さっと後ろを向いて何かする振りをしながら、腹筋や背筋や上腕二頭筋を総動員する。上腕二頭筋は関係ない気もするがとりあえず動員する。
他の給仕も私と似たようなものだ。唇の端や手がぷるぷるしているが、決して王太子殿下のように噴き出してはいけない。
結局この日、王太子殿下を笑わせたクリス殿下がピーマン様をお口に入れることはなかった。
クリス殿下の粘り勝ちであった。
「ピーマン! おまえをあいすることはない!」
クリス殿下はこれで味を占めたらしく、以降はこのセリフを言いながらピーマン様を王太子殿下の皿に移していた。王太子殿下はそのたびに「酷いわ酷いわ!」と大笑いしながら許していた。末っ子は何をしても可愛いようだ。
王妃が同席した朝食でもそれが行われ、後でおしりぺんぺんが行われたとかいないとか。




