98 サイド 王都攻め 2
マニカたちやマグレト率いるセブナナン王国軍が動いてから、そう時間はかからずに、他の三か国の軍も動き出した。
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グレッサア王国の王都を北部から攻めるのは、ターキスーノ海洋国軍。
代表者であるシーミゥ提督は王都の壁が沈んだ光景を見て、しばらく呆気に取られたあと……大笑いし出した。
「あははははは! ははははは! 王都クラスの大壁をまるっと沈めるなんて、さすがは『大罪持ち』だね! 面白い男だよ!」
笑ってスッキリしたのか、シーミゥ提督はターキスーノ海洋国軍に檄が飛ばす。
「いいかい、野郎ども! これまでグレッサア王国は海を欲してウチの国に仕掛けてきて、被害を受けてきた! 厄介な『四魔』の連中は居ない! これで漸くやり返せるってもんだ! わかってるよなあ! 海の男は陸でも強いってところを見せてやんな! もちろん、女もね!」
「「「……うおおおおおっ!」」」
「行くよ! しっかり付いて来な!」
代表者であるシーミゥ提督の言葉で、ターキスーノ海洋国軍は正気を取り戻して前へ――グレッサア王国の王都に向けて進んでいく。
その先頭は檄を飛ばしたシーミゥ提督だ。不敵な笑みを浮かべ、一番手は譲らないと前へ前へと誰よりも速く進んでいく。
迫るシーミゥ提督に圧を感じ取り、グレッサア王国軍が動き出した。人の配置とか陣形とかを行う前に、気付いた者から矢や魔法がシーミゥ提督に向けて放たれる。同時に気付いた者が多かったのか、単発ではなくそれなりの数による範囲攻撃となった。
シーミゥ提督はそれを見ても速度は緩めず進み続け、同時に不敵な笑みを浮かべる。
「そんなビビったもんが当たるかい! ――蓄積されしものはそびえ立ち 万物を防ぐ防波堤となり 我を 我らを守る障壁へと至る 『水高壁』」
シーミゥ提督が魔法を発動。高さと幅がそれぞれ数メートル、厚みも数十センチはある水壁が出現して、シーミゥ提督を守る。そこにグレッサア王国軍からの矢と魔法の範囲攻撃が降り注ぐが、どれも水壁を貫くことはなく、矢は押し流されるように地面に落ち、魔法は消えていった。
シーミゥ提督は無傷のまま、矢と魔法の範囲攻撃をものともせずに進みつつ、後方のターキスーノ海洋国軍に向けて「放ちな!」と指示を飛ばす。それに応えて、後方のターキスーノ海洋国軍から「放水」という声が数多く発せられ、魔法による放水が行われた。
放水された水の向かう先は矢と魔法の範囲攻撃ではなく、シーミゥ提督の前にある水壁。水壁は放水を取り込んでぐんぐんと大きく、広がっていき、高さは倍近くまで高くなり、幅はターキスーノ海洋国軍の端から端まで広がり、厚みも数メートルまで厚くなる。
その光景は、ターキスーノ海洋国軍から見れば巨大な壁が自分たちを守ってくれていて、グレッサア王国軍からすれば巨大な津波が迫ってくるかのようであった。
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一人が水の壁を張り、それに向けて放たれた水を取り込んで水量を増やして大きくしていく。それが、シーミゥ提督が中心となって、ターキスーノ海洋国軍が使用した魔法である。
利点として、水壁も放水も魔力使用量が高くない、寧ろ低いために何度も放てる魔法であることと、大勢であればあるほど巨大で強固になっていくということだ。海上では海水も利用できるということもあって、船を守る際などに用いられる魔法である。
欠点として、中心となる魔法を放った者が魔法制御に長けていなければ、早々に瓦解して意味を成さないということだ。
大きな船はそれこそ一人では満足に動かすこともできず、海の上では個など大したことができない、ということを理解しているからこそ、ターキスーノ海洋国軍はこういう魔法の使い方が非常に上手く、個よりも集団戦を得意としていた。
だからこそ、ターキスーノ海洋国はこれまでその集団の力によって、グレッサア王国の侵攻を、「四魔」の脅威を、どうにか防ぐことができていたのである。
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巨大な津波となった水壁がグレッサア王国軍へと迫る。
「「「ひ、ひいいいいい!」」」
情けない叫び声を上げながら、多数の逃げ出す者が出た。それ以上に足がすくんで動けない者や、散発的に飛んでくる矢と魔法を押しながら、巨大な津波がグレッサア王国軍を飲み込もう――としたところで勢いが止まり、自壊するように地面へと染み込んで消えていった。巨大な津波が消えたのには、もちろん理由がある。今後のことを考えて、王都の方に被害を出さないためである。
だが、そんなことは知らないグレッサア王国軍は、とりあえずホッと安堵した。だが、それは甘い考えである。巨大な津波が消えた代わりに、シーミゥ提督とターキスーノ海洋国軍が直ぐそこまで迫っていたからだ。
王都の北部に陣取っていたグレッサア王国軍は、シーミゥ提督とターキスーノ海洋国軍という大波に飲み込まれた。