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97 サイド 王都攻め 1

 スロースが王都の壁を完全に地中へと沈めたことで、グレッサア王国の王都を外敵から守るための最大の手段がなくなった。どこからでも進み入ることができる丸裸状態となっている。ただ、要所にはグレッサア王国軍が居た。といっても、元からそこに居たのと、沈んでいく壁からどうにか逃げ切った者たちを合わせて数はそれなりだが、王都を囲えるほどではない。いや、たとえ囲えたとしても、その厚みは非常に薄く、王都からすれば紙切れ一枚程度だろう。


 それに何より、壁が沈むという事態に対して困惑と動揺が強く出ていて、グレッサア王国軍は現在まともに機能していない。今は絶好の攻め時ではあるが……困惑は他の四か国軍も同じだった。


 攻めるために前に出ていたら、いきなり壁が沈んでなくなったのだ。門もない。どこからで進み入ることができる。それはわかっている。だが、突然過ぎて、なんでこんなことになっているのか意味がわからなかった。これで事前にこういうことが起こるかも? 程度でもいいから簡単な説明の一つでもあって共有していたら違っていたかもしれない。本当に起こった、と。でも、スロースが失敗した時に受ける恥辱を考えて口を噤んだため、説明の一つもなかった。


 仕方ない。


 なので、四か国軍。グレッサア王国軍。どちらも動きがない、という状態に陥る。


     ―――


 ちなみに、その時スロースは、あっ、ヤバい。本当に底なし沼っぽくなっているかも? 壁がどこまでも沈んでいく。それはマズい。と自分で発動した魔法をどうにかして止めようとしていた。そのため、地上ではどこも動かないという状態になったことに気付いていない。


     ―――


 そんな中で、最初に動き出したのは、セブナナン王国軍だった。正確には、その中の一部、マニカたち調査組である。なんだかんだと、この中でスロースと過ごしてきた時間が一番長く、過剰な魔道具の武具も渡されたこともあって、ある意味スロースが行うことに対して耐性を得て高くなっていたからだ。


「止まっている場合ではない! 絶好の好機である! 門などない! 壁などない! どこからでも攻め入ることができるのだ! 前に進め! 進め! 進めえ!」


 そう声を上げながらマニカが飛び出し、次いでメリッサ、調査組が飛び出して、王都へと向かう。その動きを見て、マグレトが正気を取り戻した。


「――はっ! 呆けている場合ではない! 壁がなくなり、どこからも攻め入ることができるということは、全範囲から攻撃ができるということ。数を活かすことができる。こちらの方が数が多いのだから有利だ。だが、それは下手をすれば乱戦になりかねない。現状把握を密にしなければ……て、マニカたち飛び出し過ぎだ! くっ。遅れるな! いや、待て、このままの陣形で行くな! 門はないんだ! そこに集中する必要はない! だが、王都から敵を逃がさないように包囲陣形を走りながら組めるか? しかし、組んでからだと間に合わないかもしれないし、けれど……ああ、もう、マニカたちがあんなに前に。速過ぎる。迷いがなさ過ぎる。とりあえず追うぞ! 大丈夫! できる! できるできる! 走りながらでも陣形を組める! 行くぞ! セブナナン王国軍! 出陣だ!」


 いや、まだ完全には取り戻していない。未だ混乱中は混乱中である。だが、やるべきことはわかっているので、マグレトはマニカたちの後を追う。その動きに感化されて、セブナナン王国軍も動き出した。


「十五番隊! もっと前に! 三番隊は速度を落とせ! 壁がないとはいえ、騎馬は気を付けろ! 各部隊隊長は上手く調整! それと、重鎧、大盾持ちは焦るな! 仕方ない! この事態は仕方ないんだ! だから、疲れない……そう、王都に辿り着いてからが本番みたいなものだから! だから、自分のペースで! そう、疲れないペースでいいから! 大丈夫! 置いていかないから!」


 マグレトは頑張った。セブナナン王国軍も頑張った。その成果は如実に表れて、セブナナン王国軍は走りながら新たに陣形を組むことができた。


 そのまま王都へと向かい続ける。


 だが、いくら急いだとはいえ、時間がかかったのは事実。また、壁があろうがなかろうが、グレッサア王国軍からその動きは丸見えである。未だ混乱中ではあるが、敵が迫って来ていることは理解して、慌ただしく迎え撃つ準備を始めた。といっても、王都の壁がなくなったことで、要塞化はほぼほぼ意味をなさなくなり、魔法効果上昇の魔法陣は使えなくなり、運び出せた武具もそれほど多くはない。できることといったら人員配置くらいだが……それすら間に合わない。


「『貫氷槍(アイシクルランス)』」


 氷で形成された大きな槍が五本飛んで来て、グレッサア王国軍を貫通した後に上昇して弾けるように消えた。上昇して弾けて消えたのは、王都に残っている住民を考慮して、そちらへの被害を避けるためである。


 これが開戦の合図となった。

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