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93/154

93 一人でやれば誰にだって限界はある

 ………………。

 ………………。


 大変だった。本当に大変だった。難解と難儀を読み解くのに頭を使い過ぎた。時間がかかった。どれくらい? 一週間くらいまで記憶にあるが、それ以上はわからないのでもっとかかっていると思う。地獄のような仕事量とは、こういうことだろうか? 本気でそう思った。それでも、終わった。どうにか、必要とする人たちに、模造品の魔道具を渡すことができた。マグレトさんに「もう終わったよ。大丈夫だ」と言われた覚えがあるし、セブナナン王国軍の至るところから技名と効果音、それと楽しく笑う声が至るところから響いているので間違いない。


 ただ、そこから先の記憶は少し飛んでいる。寝まくったんだと思う。だから、実際は思っているよりも日数が過ぎているかもしれない。


 それを象徴するかのように、セブナナン王国からの援軍が遂に到着した。


 その数、約五千人。え~と……元の数が約千人になっていたから……これで合計約六千人である。そして、当然の要求が告げられた。


「他国はまだ来ていません? なら、王都攻めまでまだ時間があるということ? なら、自分たちにもあの音が鳴るやつが欲しいのですが……」


 地獄が手を振りながら戻って来た。呼んでないのに戻って来た。帰れ、と言っても帰らない。申し訳なさそうな表情で頼みにくるマグレトさんを思い出すと断れない。


 頑張った。


 もう、それしか言えない。


     ―――


 俺が新たに模造品の魔道具を作っていっている中、事態は少しばかり進んでいた。耳に情報は入ってきていたので、なんとなく様子はわかる。


 グレッサア王国の王都近くで陣取っていたセブナナン王国軍の数は約千人。対して、グレッサア王国の王都は要塞化が進められ、さらには各所からグレッサア王国軍や貴族の私兵集団が集まってきていた。こちらの援軍が来る前にグレッサア王国側から打って出てくる可能性は大いにあっただろう。


 まあ、たとえそうなったとしても、その時は俺の魔法が火を噴くことになるだけだ。実際には火を噴くだけではなく、水で流したり、風で切ったり、土で押し潰したりもするが。だが、そうなる前にセブナナン王国からの援軍が到着した。


 残念。暴れてスッキリしたかったのに……というのは冗談だが、実際のところは約千人で王都を落とした、というのは、なんかいいな、と思ったからだ。でも、それと同じくらい、ここで各国が協力して王都を落とす、というのも悪くないと思った。今後の関係を思えば尚更だ。だから、これでいい。


 でも、グレッサア王国からすればたまったものではないだろう。約六千人になったセブナナン王国軍はさぞかし恐れる脅威に見えたはずだ。その証拠に、グレッサア王国の王都が騒がしくなった。要塞化がより進められていったらしい。また、そこで漸く気付いたそうだ。グレッサア王国の王都に入るグレッサア王国軍や貴族の私兵たちが途中から一切居なくなっていたことに。


 もちろん、セブナナン王国軍はその理由を知っている。こちらの動きに呼応したグレッサア王国の周辺各国が、グレッサア王国の王都に向けて軍を動かしたからだ。その対応のため、各地のグレッサア王国軍や貴族の私兵たちは王都に向かえなかったのである。


 つまり、グレッサア王国の王都周辺のグレッサア王国軍や貴族の私兵たちは王都に集まったが、もう数が増えることはない。一応、数千人は集まったそうだが、それで打ち止めである。そこで漸く危機感を持ったらしく、王族や貴族の上の方が逃げ出そうとしているそうだが、それももう遅かった。


 王族や貴族の上の方が逃げ出した、という報告を聞く前に、周辺各国の軍が到着した。


 あと、その頃には地獄もバイバイしながら帰っていっていた。本当に帰ったのか何度も確認したので間違いない。


     ―――


 セブナナン王国を含めた周辺各国が、グレッサア王国の王都を取り囲んだ。でも、まだ手は出さない。先に周辺各国の代表者一行が挨拶に来た。


 一番大きなテントに場を整える。中央にでかい丸テーブルが置かれ、四方に周辺各国の代表者たちが座っているのだが、何故か俺もその場に居る。まあ、何故かは思いたくなっただけで、実際はマニカさんとマグレトさんにお願いされたからだ。


 丸テーブルを囲んで座っているのは、一行の中でも代表者だけ。他の武官か文官は代表者の少し後ろで控えている。なので、セブナナン王国側で座っているのはマニカさんとマグレトさんだけ……と思っていたのだが、俺もだった。「大罪持ち」だからだろう。「大罪持ち」ってそういう立場らしいから……でも、だからといって、マニカさんとマグレトさんの間で、挟まれるように座るのは違うと思う。これだとまるで俺が代表者の中心のようではないか。


 まだ挨拶は始まっていないから、今からでも遅くない。はず。


 席、替わって、とマグレトさんを見る。


 ニッコリと笑みだけ返された。動く気配はない。


 席、替わって欲しいな、とマニカさんんを見る。


 ニッコリと笑みを浮かべてきた。動きそうな気配はない。


 似たような返され方に、ああ、兄妹だな、と思った。


 伝わってはいると思う。でも、その気はないようだ。


 諦めて、一人深めに座り直した。

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