表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/62

9 目に見えないからこそ、疑いは晴れない

 服とブーツ、あと念のための女性用下着を手に入れて、拠点まで戻ることができた。魔法、凄い。まさか転移までできるとは。でも、転移までできる魔法って希少なはずなのだが、俺は使える。これは、俺が特殊なのか、それとも実はこの世界では一般的なのか。答えは欲しいが、現状で答えを得るのは無理だろう。……まあ、いいか。使えるということがわかっただけで十分である。


 それに、まだ陽は出ている。早く服を着たいので、早速洗濯しておくことにした。大きな湖……だと洗濯後の汚水が残りそうなので、以前見つけた川で行う。頭の中で考えた通りに洗ってみるが……水球の中は直ぐに真っ黒になった。おお。黒くてわかりづらかったが、かなり汚れが付いていたようだ。となると、別にしておいたブーツと女性用下着も……さっき顔で受けて……いや、深く考えないでおくことにした。ともかく、何度も水球を替えて丁寧に洗う。


 ………………。

 ………………。

 水球の中が汚れなくなった。綺麗になった……でいいのだろうか? 色落ちはなく、黒いままなのでわからない。まあ、水球が汚れなくなったから大丈夫だと思うけれど……正直不安である。それと、失敗した。洗濯することしか頭になかったので、干すことを忘れていたことに気付く。当然、物干し竿はないし、長い木の枝で代用したとしても、そもそも干せる場所がない。


 待てよ。大きな岩の上に置いておけば日差しで乾……大きな岩はないが。どうしよう。詰んだ? いや、待てよ。洗濯は魔法でできたんだ。なら、乾燥も魔法でできるのではないだろうか? ……いける気がする。でも、やり過ぎるのは良くない。下手をすれば風化するかもしれない。大切なのはイメージ……洗った服を手にして……これくらい、という実際にある状態を脳裏に浮かべて………………。


「『乾燥』」


 念のため、口にする。成功した。手に持っていた服がコインランドリーの乾燥機で乾かしたあとみたいに乾いて、ほのかに温かくなる。冬とかに取り出す時、なんかほっとするんだよな、この温かさ。まあ、熱い時もあるが。


 でも、これで着られ……ちょっと不安だ。こう、鳥のふんを受けた服を洗って見た目は綺麗になったはいいが、本当に綺麗に落ちている? と疑ってしまうような……そんな気分を抱く。まあ、一度でも着ればその内気にならなくなるのだが。それに無理だと判断するのは簡単だが、今手元にはこれしかない。


 もう一回洗うか? それもありだが、次も服の生地が耐えられるかどうかは怪しいし……。


「こう、異世界的に『浄化』でもできればいいのに」


 と思わず口にしたところ、服が一度だけ輝いた。……えっと、もしかして浄化した感じ? いや、確かに口にした時に綺麗になればいいな、とは思ったけれど………………うん。まあ、綺麗になった。そういうことだろう。確かめる術はないけれど。気持ちの問題だし。あとは覚悟を固めるだけ。納得するだけ。それが今ってだけ。


 ……ふう。着るか。黒シャツと黒ズボンを着る。……うん。問題な……あった。どうやら、元の持ち主は俺より足が長かったようである。くそっ。ちょっとした敗北感を隠すように裾を折った。


 これでバッチリ。服を着たことで一気に文明度が上がった気がする。……まあ、気がするだけだが。未だ森の中であるし。でも、なんとなく人心地がついた気がしたから良し。


 それから、女性用下着も洗濯乾燥浄化の順に行った。きちんと洗えたか、臭わないか確認にしよう……として止めた。絵面がちょっと……ね。うん。大丈夫。洗えた洗えた。この話題についてはもう触れない。余計な誤解をされそうだから。ここには今俺しか居なくとも……。


 あとはブーツである。これは……見た目は大丈夫だが、本当に大丈夫なんだろうか? こう……ブーツの中が。いや、念入りには洗うよ、うん。それは間違いない。でも、それだけでいいのだろうか……もし、元の持ち主が水虫持ちだったら? いや、うん。仮にそうだとしても死滅している可能性は十分にある。寧ろ、高い。……でも、絶対ではないよね? それが怖い。


 しっかりと洗って……洗うだけでいいのだろうか? 他にも何か……待てよ。確か、熱による滅菌が可能だったような……瞬間的ではなく、数十分間熱し続けるのが効果的だったはず。問題は熱し続ける温度だが……それが何度だったか。記憶にあるのは40度前半だけど……確証が持てない。まあ、燃えなければいいか。


 水球による洗濯をしたのち、魔法で水球のような熱風の風球を作り出して、その中にブーツを入れて熱し続けてみる。数十分は暇だったが、体育座りして空を眺めたり、近くの木の葉の数を数えたりしている内に経った……と思う。そのあと、念入りに浄化を何度かかけて……これで大丈夫なはずだ。多分。鑑定とかできればいいのに……できないのだから仕方ない。


 意を決してブーツを履く。まあ、いざという時は回復魔法も使えそうだからそれで……回復するよな? ともかく、これで漸く、俺は真っ裸ではなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ