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89 実際に寝ると不安の方が勝る自分はきっと向いていない

 どうやったら快適に過ごせるかを考える。その際に重要なのは、ここが野外だということだ。つまり、室内ではない。求める快適が違うので、合わせたものでなければならない。


 ………………。

 ………………。

 本当にそうか?


 野外だろうが室内だろうが、魔法と魔道具があるのだから、それでどうとでもできるのではないだろうか? 頭を柔らかく。発想は柔軟に。失敗してもいいじゃないか。色々と試してみよう。


     ―――


 野外で快適に過ごす道具の一つとして、パッと思い付いたのはハンモック。丈夫な網や布の両端を、柱となるものの間に吊るして、寝たりくつろいだりできるもの。ハンモックでだらだら過ごすのは……きっと凄く気持ちいいだろう。


 ただ、どこに設置する? この付近に木々はない。柱となるものは……ない。野宿に使っているテントは……テントに使って欲しい。詰んだ。いや、まだだ。魔法がある。土の柱でも作ればいいのだ。ずっと使う訳ではない。ハンモックで寝てくつろいでいる間だけ保てればいいのである。


 じゃあ、早速――というところで気付いた。丈夫な網や布なんて持っていない。肩掛け鞄(アイテムボックス)の中を見ても入っていない。そもそも何も入っていない。悲しい気持ちになった。


 快適どうこうの前に、金を手にする必要がある。これまでにも度々思っていたが、やはり金だ。金なのだ。金さえあれば、欲しい時に欲しいものが手に入る。


 金策だ。


     ―――


「働かせてください。金が欲しいんです。ここで働かせてください」


 マグレトさんに直談判。


「……いや、こうしてセブナナン王国軍に協力してくれているのだから、それはもう働いているということでは?」


「そうだけど、あくまでこれはセブナナン王国の王都に行くまでの寄り道をしているという体なので、あんまり働いているという実感がないというか……」


「なる、ほど。よくわからないが、スロース殿は金が欲しい、ということはわかった。つまり、協力している報酬として金が欲しい、と」


「それはそうなんだけど、それだとがめついヤツというか下世話な話に感じるというか……いや、でも、うん。やっぱり金欲しい。待ち時間の間、色々とやってみたいんで。材料とか集めるのに金が必要だから」


「ああ、マニカたちの武具のように、色々と魔道具を作りたいということか」


「そう」


「そうか。まあ、グレッサア王国軍が動くか、本国と他国の軍が揃うまでは時間がある訳だし、何かあるまでは好きに過ごしてくれて構わない。正式な報酬は本国に戻ってからとして、今は私が持っている分から少しだけ出そう」


「ありがとう」


 マグレトさんから少しだけ金をもらう。


「あっ、無駄遣いはしないように」


 これだけは言っておかないと、という感じでマグレトさんから注意を受けた。


 そのあと、転移で公爵の居た町に行き、丈夫な布を買って戻り、ハンモックを作ってのんびりだらだと過ごす。


     ―――


 ハンモックがセブナナン王国軍内で少し流行る。丈夫な布と柱となるものがあればできるからか、訓練終わりとか空いた時間で寝ている人を見かけるようになった。ふっ。流行を作ってしまったか、なんて馬鹿なことを考えつつ、時間はまだあるようなので次を考える。


 ちなみに、風呂は魔法で石風呂が作られる形で用意されていた。残念。


 なので、別のものを考える。


 ピンときた。それは食事を取っている時のこと。今は軍隊の野営状態なので、食事事情は良くないというか、町中の料理店とかで食べるようなものは食べられない。仕方ないと言えば仕方ないのだ。いつでも補給できるとは限らないし、鮮度の問題もある。携帯食。あるいは保存食になってしまう。


 いや、記憶の中でそういったものを食したのはないが、それでも、携帯食や保存食の割には、美味しいと思うものが出てきていると思う。俺の舌がその味に慣れておらず、新鮮味が加味されているだけかな? でも、セブナナン王国軍の誰も文句は言っていない。……ただの慣れかな?


 ともかく、料理店の料理と比べると、どうしても、ね。


 まあ、その辺りは俺が転移と肩掛け鞄(アイテムボックス)を使って新鮮な食材なり、出来立ての料理を運ぶなりすれば解決する話ではあるが……やってもいいけど……肩掛け鞄(アイテムボックス)、表に出して大丈夫だろうか? 勢いで作ったけれど……う~む。表に出すかどうかはもう少し様子見というか、調べてからにしよう。


 それに、ピンときたのはそれではない。


 食事のお供である、飲み物の方だ。今はどれも基本は常温である。だから、ぬるい。そこに温冷という快適さを加えようと思ったのだ。


 ――という訳で作ってきた。


 木箱を用意して、それに魔法陣で「内部にあるものを思い浮かべる温度にする」と魔道具化する。簡易的なものでいいので、これで十分。


 実際に使ってみる。


 ………………。

 ………………。

 温かい飲みもの、ほっとする。

 冷たい飲みもの、スッキリする。


 どちらも上手くいった。ただ、実際に思い浮かべる温度にするには数分は必要のようだ。一瞬でなったりはしない。あと、必要な時間分だけ魔力を注ぎ続けないといけないが、消費魔力は少ない。でも、魔力の大小を問わず、魔力があれば誰も使える仕様となっている。


 だからだろう。


 大型化とか、増産を望む嘆願がたくさんの人から挙がっているので、どうだろうか? と苦笑を浮かべながらマグレトさんが確認しにきた。


 ………………。

 ………………。

 まあ、手間ではないし、材料費や報酬諸々がもらえるなら……。


 働き口を見つけた。

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