87 ただ待つだけってのもね
グレッサア王国の王都が見える場所で、セブナナン王国からの援軍が到着するまで待機することになった。つまり、セブナナン王国としては今回の機にグレッサア王国の王都を落とすつもりのようだ。それはいい。別にいいのだが……え? この場で待機? 何もないこの場所で? 王都が見える他には少し離れたところに小さな森……だと思うが、それがあるくらいの、見晴らしだけはいい、この場で……野宿ってこと?
……野宿ってことのようだ。
まあ、ここに至るまで何度も野宿してきているから問題はない。それに、俺は気付けば森に裸で居た男。しばらくはそのまま真っ裸の生まれたままの姿の解放感で過ごしてきた男。問題はない。でも、食料とかはどうするの? まさか、俺が転移で?
「手配は済んでいるようだ。援軍の数は予定で五千人連隊予定。ただ、その前に百人中隊規模で支援物資を持った補給部隊を随時出してくれるようだ。補給部隊はそのまま合流予定とのこと」
マグレトさんがそう教えてくれる。大丈夫なようだ。
でも、援軍を待つだけなら公爵の居た町でもいいのでは? と思うのだが、マグレトさんとしては、ここで待機しておきたい理由があるようだ。
「それと、これはまだここだけの話にして欲しい。確定はまだしていないから」
「わかった。言わない」
両手を口に当てて言わないことをアピール。
「セブナナン王国は他の国にも王都進攻を打診している最中なんだ。これを機に、一緒にグレッサア王国を潰して、領土は分割しませんか? と」
「他の国と一緒に?」
「そう。グレッサア王国と国境を接している、いくつかの国と」
「へえ~、手広くやるんだ……え? でもそれって、下手をすればグレッサア王国の危機だと知って、助けに来る国が出てくるんじゃ?」
「そういう国はないと思うけれど、その辺りは調べているだろうから、元々打診はしないと思うから大丈夫。それに、セブナナン王国以外の国境を接している国にも、グレッサア王国は『四魔』の力を前面に出しての武力侵攻を行って領土を広げていたから、周囲には敵対国しか居ないと思う。だからこそ、その『四魔』の脅威がなくなった今は、どこの国も好機と捉えると思う」
「なるほど」
それなら協力国は出てくるだろうな。そこと一緒に潰して、今後は隣国になるから仲良くしていきましょう、ということかな。もしくは、国を潰すなんて大事だ。その大事には面倒も付きまとうから、それを少しでも少なくするためかもしれない。
でも、それは色良い返事が来ればの話だが……来るだろうな。絶好の機会だし。
それで、要はここが――王都近郊が他国との待ち合わせ場所で、他国が来るまでグレッサア王国が下手な動きをしないように、ここで睨みを利かせておきたい、もしくはその下手な動きがあれば直ぐ対処できるようにしておきたい、ということのようだ。
そういうことなら、ここで待機も納得である。でも、懸念が一つ。
「目障りだ、とグレッサア王国軍が王都から出て来たら?」
「その時は、それこそ非戦闘員を気にせずに戦えるのですから、返り討ちにすればいいだけでは?」
「確かに」
でも、問題はグレッサア王国が外道で、非戦闘員を盾にして襲いかかってきた時だ。
「そんな時が来たらさすがに退くしかないから、来ないことを祈っているよ」
マグレトさんと一緒に祈っておいた。
―――
セブナナン王国からの援軍。それと、返事はまだだが、来るであろう各国からの軍を待ち始めて数日が経った。その間、睨みを利かせること以外にやることがない。
マニカさんたちに、マグレトさんやセブナナン王国軍はこの時間に鍛錬や、王都攻略が始まればどう攻略していくのかの戦略的なことを練るとか、やることがない訳ではない。
やることがないのは、俺だ。
つまり、暇だ。
転移巡回をし終えたら、他にやることはない。マニカさんたちやマグレトさん、セブナナン王国軍に交じって鍛錬でも、思わなくもないが……それはやる気が出ない。意欲が湧かない。いや、健康のために体を動かすくらいはするが、それ以上の本格的なのはちょっと……。
う~ん……これでグレッサア王国の王都に動きでもあればいいのだが、未だ沈黙を保っている。いや、偵察の報告によれば、王都から住民が逃げ出していたり、グレッサア王国軍が王都を要塞化しようとしているとか、そういった動きはある。それくらい。
だから、俺の出番はない。
つまり、暇だ。
気力を溜めるという意味でだらだらしたいが……この場にだらだら過ごせるような快適なものはない。……待てよ。そうか。そうだ。ないなら作ればいいのか。時間はある。試みる価値は十分にある。
そう過ごすことにした。




