85 時には振り返ることも大事 4
侯爵を捕らえた。
………………。
………………。
いや、別に間違えた訳ではない。なら、伯爵はどうしたかというと、そっちは一連の流れが子爵と一緒だったので省いただけだ。
侯爵も似たようなものだったが……まあ、若干の違いはある。
まず、侯爵はより悪事を働いていた。特に人身売買や薬物にまで手を出していたのである。許されることではない。マニカさん、マグレトさんを含めて、セブナナン王国軍の誰もが、許してはならないと怒りに燃えた。
また、侯爵の時は相手が私兵集団だけではなく、そこまで多くはなかったが、グレッサア王国軍も加わっていたのだ。侯爵ともなると、軍を引っ張ってこられるようである。
子爵の居た町と伯爵の居た町に、治安維持のためにそれぞれ約千人セブナナン王国軍を置いて、約三千人のセブナナン王国軍で侯爵の居る町を攻めることになったのだが、そこはまあ、俺や威力過剰な魔道具持ちとなったマニカさんたちが居るので、どうとでもなった。
あと、占領した町の人たちの反応は変わっていない。歓喜している。重税やら悪事やら、人気のない貴族ばかりだ。まあ、繋がりがあるってことは同じグループみたいなもので、似た者同士でもあるということか。
ともかく、侯爵の件は片付いた。
でも、終わらなかった。
どうやら、調べたところによると、侯爵の上にはまだ公爵が居て、その公爵が人身売買や薬物、裏の組織といったところの元締めのようだった。
だからか、侯爵は意気揚々と口を開く。
「既に公爵閣下に連絡は出した。私に手を出し、大きな資金源を潰したのだ。無事に済むと思うなよ。貴様たちはおう終わりだ。軍も裏の組織も貴様らを殺すために動くぞ。ハハハハハッ! ん? そこの女は面がいいな。股を開けば奴隷として」
侯爵は捨て台詞を最後まで言えなかった。そこの女とはもちろんマニカさんのことであり、子爵と同じ轍を踏み、マグレトさんによって侯爵の侯し……男爵を再起不可にされたからだ。ちなみに、伯爵も同じ轍を踏んでいる。本当に似た者同士のようだ。
しかし、男爵、子爵、伯爵、侯爵と、人員がマニカさんを欲する辺り、マニカさんは男を惑わす魔性の女に思えてしまう。
「いや、そんな、惑わすだなんて……」
照れる理由はわからないが、照れるマニカさんの姿は可愛く見えた。俺も惑わされている?
ともかく、マニカさんが呟いた通りの結果になった。まさか本当に公爵までいくことになるとは……。
「放っておいても手を出される訳だし、とことんまでやるつもりだが……一息吐きたい」
マグレトさんに少しだけ疲れが見える。まあ、どの貴族も同じ反応だし、ゲームで最後の決戦の前に与えられる最後の自由行動時間を欲してもおかしくないか。……最後の決戦、だよな?
もうひと踏ん張り、と頑張ろう。
―――
まずは侯爵の居た町を占領したので、そこの安定に努める。その間に公爵から差し向けられる何かはなかった。ただ、公爵の居る町に偵察を向かわせたところ、軍備増強を図っているそうだ。俺たちが来るのを待ち構えるらしい。
偵察報告から推察して、公爵が居る町は敵兵が最終的に約六千人になりそうな見込みだそうだ。対してこちらは、伯爵の居た町に治安維持で約千人残し、侯爵の居た町に攻め込んだ時は約三千人で、ここにも約千人を治安維持で残すため、約二千人のセブナナン王国軍で攻めに行くことになりそうである。単純計算で約三倍の差。……人数は、ね。
個人的には初撃で俺が魔法連発で数を減らせば、いけると思う。
そうすることになった。
侯爵の居た町を安定させるのに十数日を要してから、公爵が待ち構えている町に向けて、セブナナン王国軍、約二千人が進軍を開始する。
―――
進軍開始して数日後。公爵が待ち構えている町が見えた。町の外で私兵集団とグレッサア王国軍の連合――公爵軍でいいか。その公爵軍が既に布陣を敷いて待ち構えている。
「こちらが悪逆無道なセブナナン王国を正そうと大軍を送った隙を突いて、攻め入ってくるなど、やはり卑劣なりセブナナン王国! それは愚かだと、正道足るグレッサア王国が教えてくれる!」
公爵軍の言い分。さすがにここまで来れば、こちらがセブナナン王国軍だと知り得ているようだ。強気な発言なのは、こちらの人数を把握しているからだろう。だが……僕たちは正義な夢の中に居るようなので、覚ましてあげようと思う。
開戦直後に、俺は遠距離広範囲魔法を連発。火の玉や氷塊の雨を降らし、岩をいくつも巻き込んだ竜巻を発生させる。それで大体半分くらい削ってから、マニカさんたちを先頭にセブナナン王国軍が進軍を開始。蹂躙していく。
あっという間……いや、多少は時間がかかったかな? でも、終始こちらが圧倒したまま終わった。勝利。
あとは公爵を捕らえて……逃げたことが判明した。魔法連発に恐怖して、町の裏から……らしい。ここまで来て逃がす訳にはいかないと、公爵の居た町の治安維持として約千人残し、残る約千人のセブナナン王国軍であとを追う。
公爵の逃げ足は中々速く、こちらが追い付いた時、公爵はグレッサア王国の王都に逃げ込んでいた。公爵の居た町で、この先にあるのは王都だと調べはついていたので間違いない。
そして、今、ここ。
グレッサア王国の端にある砦から、王都が見える場所まで来てしまったようだ。




