83 時には振り返ることも大事 2
イスト大平原にセブナナン王国軍の援軍が現れても慌てることはない。いつ出会ってもいいように、マグレトさんから援軍への報告書というか命令書を預かっているからだ。もちろん直持ちではなく、肩掛け鞄を用意してもらい、それに入れてだ。他には何も入っていないが、それでもアイテムボックスがあればな、と思わなくもない。いや、待てよ。ポケットはないが、今は肩掛け鞄がある。これをアイテムボックス化すればいいのでは? ……俺の物になった訳ではないから止めておいた。言えばくれるかもしれないけれど。
ともかく、これをどうぞ、と援軍を率いてきた将軍の地位に居る男性に渡す。「ありがとうございます」と恭しく受け取られた。何故に?
「ここに付きまして、最初に「大罪持ち」であるあなたさまのこと、それとグレッサア王国軍との戦いにおいて何を成したのか、その辺りの説明を受けましたので。また、来られる際に煩わせてはいけないので部下にも厳命しておきました」
なるほど。だから、止められずにスムーズに会えた訳か。でも、別にそこまでのことをやった訳ではないと思っているので、少々気恥ずかしい。命令書を渡したあとは、檻については俺しか対応できないので、一部を崩してグレッサア王国軍の一部を引き渡す。捕らえた数はそれなりなので、移送は何回かに分けるのだ。毎日少しずつ。
それが終わってから、マグレトさんにイスト大平原にセブナナン王国軍の援軍が来たことを伝えるために、砦へと転移した。
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翌日。セブナナン王国軍の援軍がどう動くのかを確認。
援軍の数は、マグレトさんが率いた数である約六千より少なく、約四千。大半はここを出発して、砦の方に来てくれるそうだ。残る一部はこのまま駐在と、捕らえたグレッサア王国軍の移送を行う、と。
あと、ここが終わってからでもいいので、フロンの町の方にも移送のための人を送って欲しいとお願いしておいた。
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さらに数日が経ち、そろそろ援軍が砦に到着するかな? と思っていると、砦に向かってくる数千人規模の軍を発見。援軍が合流した。合流した援軍の数は、約三千。これで、砦に居るセブナナン王国軍の数は約七千となった。さらに嬉しいことに、援軍はセブナナン王国から続く補給線も確保してくれていて、まだ砦に居ることができる。
なので、マニカさんやマグレトさん、援軍を率いてきた将軍など、偉い人たちで話し合い。これからどうするか。何故か俺も参加になった。セブナナン王国軍の最大戦力だから、らしい。まあ、ね。
話し合いの結果。砦周辺の開発を進める、ということになった。目的としては、グレッサア王国がセブナナン王国に迂闊に攻められないように、一種の防波堤的なものを構築したいそうだ。
まずはそのために砦を中心とした周囲一帯を探索することになった。
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周囲一帯の探索を始めてから十数日。町を見つけたという報告を受けた。砦から一番近いグレッサア王国の町。フォートサイドというそうだ。見つめた者は中に入り、様子を窺ったところ、グレッサア王国軍の敗北、砦が占拠されたことについては通達されていないようだった。
俺は壁の補修は終わったので、毎日転移して各地の様子を見たり、檻を一部崩したりといったこと以外はもうすることがない。また、自由行動も許されている。よって、その町に行ってみることにした。気分転換である。
マニカさんが同行してくれることになった。嬉しい。
「こほん」
メリッサさんが咳払いを一つ。失礼。マニカさんたちが同行してくれることになった。
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絡まれた。チンピラたちに。
「ひゅ~! いい女じゃねえか! ここいらじゃ見ない顔だな! 痛い目に遭いたくなければ、その女と金を置いていきな!」
謳い文句としてはそんな感じ。わかりやすい。丁度、メリッサさんと部下の女性たちが町中に散って情報収集を行い、俺とマニカさんが二人で行動していた時だった。
相手は五人。俺、そんなに弱そうだろうか? マニカさんがシャツにロングスカートに腰から剣を提げているだけのラフな恰好?なのも影響しているかもしれない。
ちなみに、白昼堂々にも関わらず、周囲の人たちは助けに入ろうともしていない。寧ろ、チンピラたちを恐れているように見える。もしかしたら、この町で幅を利かせているチンピラたちなのかもしれない。
さて、どうしようかな? と考えるまでもなく、チンピラたちから「ああ、もう返事とかいいか」と襲いかかってきたので普通にボコした。
すると、「おいおい、俺の部下たちに何してくれてんの?」と十人くらいを引き連れた上司っぽいのが現れて、いきなり襲いかかってきたので普通に返り討ちにする。上司っぽいのが「ウチの組織に手を出して無事に居られると……」なんて脅してきた。セブナナン王国軍に迷惑はかけられない、と話をつけるために、その組織の本拠地まで上司に案内させる。
上司がボコされた姿だったからだろうか、着くと同時に襲いかかられた。こちらの言い分を聞く気はないようである。なので……組織の本拠地を潰した。物理的に。ただ、組織のボスという人から「ここまでやって、ここの領主である男爵さまが黙っていないぞ」と言われる。
領兵らしき存在たちに囲まれ、襲われた。どうやら、組織とやらはこの町の貴族と繋がっているようだ。だから、町の人たちもあんな態度だったのかもしれない。領兵らしき存在たちはこちらの言い分を聞く気はないようなので、物理的話し合いを行う。
領兵隊長と名乗る人が出て来て……物理的話し合いの結果。「男爵さまが黙っていないぞ」とまた言われたので、もう面倒になってきたが、今後のためにも憂いは断とうと、その男爵に話をつけに行く。
………………。
………………。
男爵屋敷がほぼ半壊。途中で面倒になったからね、魔法でちょちょっと。男爵と名乗る人は、土を鋼並みの強度にしてから囲んで捕らえた。
どうしよう、とマニカさんを見れば、同じくどうしよう、という表情を浮かべていた。




