80 サイド セブナナン王国 12
イスト大平原での戦い。兵数、兵力の差。防御に徹して援軍を待つ。
当初、それらのことを聞かされたマグレトは死を覚悟した。もちろん、父母であるセブナナン王と王妃、それと兄からは、いざという時は徹底抗戦ではなく撤退を選択して生き延びて欲しい、と伝えられている。沈痛な表情で。
わかっているのだ。それがどれだけ難しいことか。たとえ撤退を選択しても生き延びられる確率がどれだけ低いのか。伝えたこの時が、顔を合わせる最後の時かもしれないということを。
マグレトも死ぬつもりはないが、まず無理だろうな、と思っていた。
それが蓋を開けてみれば、どうだ?
初日は散々だった。被害は少なかったが遊ばれている――グレッサア王国軍が本気でなかったのは明白。真綿で首を締められるような、少しずつ追い詰められていく嫌な感覚を抱いた。
だが、その夜。マニカと共に現れたスロースによって、死の覚悟とか、追い詰められていく感覚とか、そういったものは消え去った。
裏切り者たちは潰され、捕らえられ、「四魔」であっても手も足も出ず、グレッサア王国軍は蹂躙される。
スロースの力によって。
だからこそ、グレッサア王国軍がスロースを倒すしか道がない、と攻めに出た時に、マグレトはスロースを助ける選択を直ぐに取る。
「セブナナン王国軍よ! 彼だけにやらせていいのか! 私はいいとは思わない! これは私たちの戦いでもあるはずだ! 進め! 進め! 進め! 勝利を手に掴むのだ!」
セブナナン王国軍を進軍させた。マグレト自身も前に出る。再び、セブナナン王国軍はグレッサア王国軍との戦闘を始める。
その結果は――セブナナン王国軍の圧倒であった。
兵力、兵数の差はあったが、もう関係なかった。
まず、兵力において、個々の兵士にそれほどまでの差はない。それでもグレッサア王国軍の方に傾いていたのは「四魔」の存在があったからだ。だが、もう居ない。スロースによって無力化され、逆にセブナナン王国軍にはスロースが居る。兵力はセブナナン王国軍の方に大きく傾いた。
次に兵数において、グレッサア王国軍の後方では雷が落ち続け、その雷を落としているスロースをやろうにも、セブナナン王国軍だけではなくリアルゴーレムが立ち塞がっている。放たれるウォーターライフルの威力で複数のグレッサア王国兵が空へと舞い、振るわれるヒートソードは鎧や盾など無意味で、空へと飛び上がってからの急降下体当たり、頭部の左右にできた穴から土弾連続発射に、チェーン付き棘付き球体による爆撃のような衝撃などなど、もう無茶苦茶だった。
これが「大罪持ち」の力か、とマグレトは驚愕して、でたらめ過ぎて苦笑いしか出てこない。
もちろん、セブナナン王国軍を巻き込まないように注意しての攻撃であったため、被害はグレッサア王国軍だけが受け、兵数はあっという間に同数……いや、それ以下となり、兵数も直ぐにセブナナン王国軍の方に傾く。
ここで、セブナナン王国軍の後方でエネミ伯爵軍を蹂躙していたマニカたちが合流。スロースに魔道具の武器の魔力を補充してもらい、ここでも蹂躙を始めた。
その結果。グレッサア王国軍の士気は壊滅的。また、このあとで知ることになるのだが、この時には既にグレッサア王国軍を率いている将軍や命令系統の上の方に居る者たちは、後続と合流して立て直す、と告げて逃走していたのだ。つまり、撤退も降伏も、敗北の命令を出す者が居なくなっていた。
それでグレッサア王国軍は降伏の意思表示が遅れて、相当な被害を出すことになる。
セブナナン王国軍の勝利となった。
―――
勝利が確定して、セブナナン王国軍が大歓声を上げる中、マグレトは空を見上げ、生き延びたことに安堵した。心配してくれた家族の下に生きて帰れる、と。合わせて、この結果をもたらしたスロースに感謝を抱く。そこに、マニカが来る。
「マグレトお兄さま」
「マニカか。マニカと第三騎士団にも助けられた。マニカたちが来なければ、負けていたと思う。この勝利はマニカたちのおかげだ。ありがとう」
「いえ、それに誰かのおかげと言うのであれば、それはスロース殿のおかげです」
「それはそうだけど、そのスロース殿を見つけたのはマニカたちだ。それがあるからこそ、今のこの勝利に繋がっている。だから、ありがとう、だよ」
笑みを浮かべ合うマグレトとマニカ。
そこにスロースが来る。腕を組み、何やら考えている仕草を見せていた。
「どうしました? スロース殿」
マニカの問いかけにスロースは「……うん」と呟いたあと、マグレトを見る。
「マグレトさん」
「なんですか?」
「一応、この場は勝ったけど、セブナナン王国軍の増援って来るんだよね? もう大丈夫だと引き返したりしない?」
「増援は来ます。引き返したりもしません。グレッサア王国の第二陣が来るかもしれないので」
「そうだよね。なら、ここで迎え撃つんじゃなくて、寧ろ攻めちゃう?」
スロースの問いかけに、マグレトとマニカは「「……え?」」と揃って首を傾げた。




