74 こんなところにまで、とどこまでも入ってくる
マグレトさんの近くに下りる。
檻に入れたちょび髭の男性たちのテンションが高い。出せと叫んだり、持っている武器で檻を壊そうと奮闘したりと煩い。檻は頑丈に作っているんだから、そんなガンガン叩くと……ほら、叩いている武器の方が駄目になった。そんなことに夢中だから、俺が空から下りてきたことに気付いていないようだ。まあ、誰だと問われても答える気はないので、別にいいが。
その代わり、マグレトさんの周囲に居る味方の人たちが、誰だ? と敵意の視線を向けてくる。俺の存在は秘密にしていたから仕方ない。そっちも気にせず、俺は檻を指差しながら、マグレトさんに声をかける。
「こんな感じで良かった? 殺った方がいいなら、檻を縮小して圧殺するけど?」
「いや、それは止めてくれ。リギラウ公爵が裏切っていることの証人として使えるかもしれないし、こういうヤツは今回だけではなく、これまでにも色々とやっているだろうから、その辺りも聞き出しておきたいからな」
「ああ、それは確かにやっていそうだ。なら、あとのことは任せる。あっ、そうだ」
中に捕らえている者たちを押し退けるようにして強制的に檻の一部を動かし、通り道を作っておく。これで良し。
「それじゃあ、俺は話し合った通りに、あっちの方もどうにかしてくるから」
「ああ。手間をかけて申し訳ない。このご恩には必ず報いる」
「このくらい手間でもなんでもないから、そこまで気にしなくてもいいよ。じゃ、またあとで」
魔法を発動。少し浮き上がって、そのまま飛んでいく。
「マグレトさま。あの、飛んでいきましたけけど……あの者は一体?」
「これから、この国の大恩人になる方だ」
そんな会話が聞こえた気がした。
―――
俺が飛んで向かった先は、最前線。セブナナン王国軍とグレッサア王国軍が戦っている場だ。まずは、グレッサア王国軍を後ろに飛ばす。
しっかりとイメージして……戦場の真っ只中に降り立ち、よりハッキリとした効果を与えるために敢えて口にする。
「『砂突風』」
攻めて来ているグレッサア王国軍に向けて、押し返すための強烈な突風を放つ。強い風圧に耐えられずに、グレッサア王国軍が「うわあああ!」と叫び声を上げながら、後方にゴロゴロと転がっていく。セブナナン王国軍を巻き込んでは意味がないので、突風の発生は少しグレッサア王国軍寄り。セブナナン王国軍と戦っている近場のグレッサア王国軍は、そのままセブナナン王国軍に任せる。
広範囲に放ったので大部分を押し返すことができた。もちろん、それだけではない。これはただの突風ではなく、砂も巻き込ませている。押し返すついでの嫌がらせだ。砂を巻き込ませたことで目潰し……だけではなく、鎧の隙間に入り、中には下着の中にまで入ってくるのもあるだろう。不快感を抱くに違いない。口の中ならイガイガだ。それだけではなく、手袋や靴の中、さらに耳や鼻の中に入れば、気になって気になって戦いに集中することができなくなるのは間違いない。また、砂であることから、洗い流しても、ちゃんと流し切ったかな? と気が散って仕方なくなるはず。
ふははははっ! 砂による不快感に苦しみ給え! グレッサア王国軍!
そう言いたくなったけど、俺は悪役ではなから内心で思うだけで、グッと我慢する。
「なんだお前は!」
場が騒然としている。具体的には、俺が降り立った場所の近くで押し飛ばされずに残っていたグレッサア王国軍だけではなく、セブナナン王国軍も俺から少し離れて、警戒するように武器の切っ先を向けてきた。まあ、こんな鎧姿ばかりの中に、急に普通の衣服の人物が現れたのだ。警戒して当然である。それともアレか。自分たちは鎧姿なのに、俺が衣服を見事に着こなしているのを見て嫉妬して……中々ファッション感覚に優れているのかもしれない。つまり、俺は「怠惰」ではなく「嫉妬」の方?
「何物か知らんが、お前があれをやったというのなら……死ねえ!」
グレッサア王国兵が斬りかかってきた。こういうところは、やはりグレッサア王国兵。即座に身体強化魔法を使い、殺意高めで迫る剣をかわして、そのまま剣を振るってきたグレッサア王国兵を「あ~らよっと」と投げ飛ばす。飛ばした先は、押し飛ばされたグレッサア王国軍が居るところ。そこまで飛んでいったな、と指先確認。
グレッサア王国兵はまだまだ襲いかかってくる。セブナナン王国兵は……様子見してくれるだけでもありがたい。襲いかかってくるグレッサア王国兵を次々と投げ飛ばし、蹴り飛ばし、殴り飛ばす。
それを続けていると、いつの間にか周囲からグレッサア王国兵が居なくなった。周囲に居るセブナナン王国兵は手持ち無沙汰で、互いにどうする? と顔を見合わせている。
そこで、グレッサア王国軍の方が騒がしくなった。
なんだ? と視線を向ければ、グレッサア王国軍の中から三人の男女がこちらに向けて出てきた。




