72 サイド セブナナン王国 11
――話は前日夜に遡る。
マグレトのテントの中で、マニカとマグレトが、裏切りがあることを前提で今後のことを話し合い、中々光明を見つけられない中、スロースが口を開く。
「試してみたいことがあるんだけど、試してみていい? 成功したら、多分どうとでもなると思うんだけど」
その提案を受けることにしたマニカとマグレト。光明を見つけるために、何かしらのきっかけが欲しかったのだ。
スロースに駄目になってもいい剣を求められ、マニカは腰から提げている剣を抜いて渡す。それは宝剣の類ではなく、騎士団員なら誰しもに渡される、騎士が使うということで上等なこと以外はなんてことはない剣。代わりはいくらでもあった。
「マニカさんは魔法を使える?」
「多少は」
「得意属性は?」
「水属性です」
「オッケー」
聞きたいことは聞けた、とスロースは人差し指に魔力を集める。すると、人差し指の爪先が輝きを放つ。端から見れば大きな魔力がその輝きから感じられるが、スロースからすれば少しは使ったかな? という程度である。
その輝く人差し指の爪先で、スロースは「魔力を流して『貫氷槍』と唱えれば、大きな氷の槍が生成されて射出される」と魔導文字で削るように刻む。剣身に模様のような魔導文字が描かれている剣ができた。
「道具がないから少し歪だし、失敗しているかもしれないから、とりあえず試そうか」
そう言って、スロースはマニカ、マグレトと共に転移。遠い距離なら複数人は消費が激しいが、近い距離――イスト大平原に入ったところ辺りであれば問題ない。そこで、スロースはマニカに使い方を教えて試してみると、巨大な氷の槍が出現して飛んでいった。
「おー、できてた」
「「………………」」
他に人が居るために内心では飛び上がって喜んでいるスロースが自分で自分を褒めるように小さく拍手する中、マニカとマグレトは呆気に取られた。単純に威力がおかしかったからだ。
ただ、道具も使わない力技による影響からか、威力は非常に高いが、消費魔力が大き過ぎて、スロースのような膨大な魔力持ちでなければ発動すらできない、使用者が非常に限られる代物となっていた。それでもマニカが発動できたのは、魔導文字を書いた際に込められた魔力が大き過ぎて余剰魔力が魔導文字に残り、そこから消費されたからである。
言ってしまえば、これは使い切りタイプの魔道具の剣。それでも、余剰魔力だけで一戦くらいはどうにか使えるのをこのあとも試して確認して、マニカとマグレトは光明を抱いた。
そして、これを調査隊の全員分を用意したのである。
―――
マニカの放った大きな貫氷槍五本を受けて、エネミ伯爵軍の足は止まった。その射線上に居なかった者たちは射線上を見て、そのまま後方へと視線を向ける。綺麗に貫通しているのがわかった。
ただ、確認は大事だが、その姿は間抜けというか隙だらけである。既に戦端は開かれているのだ。
「『真空波』」
調査組の一人が振る剣の軌道に合わせた、巨大で鋭い風の刃が飛ぶ。
「『炎大蛇』」
調査組の一人の剣の先から炎の大蛇が飛び出して、襲いかかる。
「『土塊落』」
調査組の一人が剣を振ると、エネミ伯爵軍の頭上からいくつもの土塊が勢い良く落下する。
このような使い切り魔道具の剣による調査組の攻撃は次々と放たれ、エネミ伯爵軍の至るところに阿鼻叫喚が広がっていく。
「なんだ! 何が起きている! くそっ! 進め! 進軍しろ! 前に出れば自分たちも食わうことになるから、こんな馬鹿げた攻撃はできないはずだ!」
エネミ伯爵が動揺しながら前に出ろと命令を飛ばすが、周囲に広がる爆発音や衝撃音が大き過ぎて、エネミ伯爵の近くに居る者以外には届かない。命令が届かなかった者たちは右往左往するだけで、何もわからずにやられていく。
対して、命令が届いた者たちはエネミ伯爵と共に前に進み、まだ距離があるため、調査組に向けて魔法と矢を放つ。その数は意外に多く、ちょっとした魔法と矢の雨となった。しかし、調査組は問題ない。使い切り魔道具は何も剣だけではないからだ。
盾を持つ調査組の面々が前に出て、盾を前面に出す。
「「「『反射』」」」
前面に出された盾の前に魔法陣が展開して、さらにその魔法陣が巨大化。魔法と矢の雨は巨大魔法陣に衝突すると反射されて、エネミ伯爵軍に向けて飛んでいき、さらに阿鼻叫喚が広がる。
「『貫氷槍』」
前に進んだエネミ伯爵軍に対しても、まずはマニカが攻撃してから他の調査組も続き、もうどうしようもない。
エネミ伯爵軍は調査組に近付くことすらできずに蹂躙されていった。




