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54 失敗することだってある

 少し開いている扉から、中に入って来たらどうだ? という声が聞こえてきた。ついでに、鼠共、とも。それって、俺たちのことを言っている? それなら失礼にもほどがある。どこからどう見ても、俺たちは人だ。鼠ではない。……待てよ。本当に鼠が居るのではないだろうか? ……周囲を見るが、鼠は居ない。やはり、俺たちのことを言っているのか。


「……もしかすると、この部屋の中に居るのは……」


 メリッサさんの呟きに、マニカさんが頷きを返す。思い当たる人物が居るようだ。……誰? 気配を探ってみるが……大したものではない。あっ、町長か? え? 町長が鼠共とか言うの? 大丈夫か? この町。


「……招くというのなら招かれます。メリッサ。念のため罠、それと人の警戒を」


「かしこまりました」


 マニカさんが前に出る。メリッサさんを引き連れて、扉を開けて中に入っていく。俺もそれに続いて中に入る。


 蛍光灯のようなものが天井にあって光っていたので、しっかりと確認することができた。この部屋は食堂のようだ。長テーブルがあって、その上にキャンドルスタンドが置かれているのが演出的にいい。


 そして、その奥。上座認識でいいのかな? そこで食事を取っていたと思われる男性が居た。二十代後半くらいの男性で、赤髪のツンツン頭に、目付きが悪く、細身。質の高そうなローブを纏っている。その赤髪の男性が布巾で口元を拭って、こちらを見てきた。他には誰も居ない。マニカさんとメリッサさんは、その赤髪の男性を見て警戒を強めた。


「……えっと、彼は町長ですか?」


「いいえ、違います」


「『炎爆のフレバーン』です」


 マニカさんが否定して、メリッサさんが誰かを教えてくれる。英語の定型文みたいな返しだな、と思ったが……なるほど。彼が「炎爆のフレバーン」か。


「どこの鼠が紛れ込んだかと思えば、まさかのセブナナン王国・第二王女である、マニカ・セブナナンさまではありませんか。このような辺鄙な町を守るためにその身を差し出しに来られるとは、セブナナン王国民は幸せ者ですな。まあ、そもそもこのような事態を招いている時点で愚かとも取れますがね」


「炎爆のフレバーン」とやらからは、こちらに対して侮辱している雰囲気が感じられる。自分以外はゴミだ! とか思っていそう。


 マニカさんが剣を抜き、続けてメリッサさんも剣を抜く。いつでも飛び出せるような姿勢を取って、マニカさんが否定を口にする。


「いいえ、違います。ここには、あなたを討ちに来ました。『炎爆のフレバーン』」


「まあ、そうなりますか。それも仕方ありません。『大罪持ち』の最後の一人が現れて、それを見つけるなど、眉唾物の空想話でしかないのですから。だからこそ、代わりに要求された我が身を救うために、この私を討とうとするのは当然の選択。ただ、その選択は愚かと言う他ありません。この私を――『四魔(しま)』の一人である私をどうにかできるとでも? その人数で?」


「やってみなければわかりません。案外、名が売れているだけで、私一人でどうにかなるかもしれませんよ」


「なりませんよ。わかっているのですか? この場でこの私と戦うということは、この町にどれだけの被害を出すことになるのか、理解していますか?」


「炎爆のフレバーン」がにたりと笑みを浮かべると、マニカさんは僅かながら動揺する。メリッサさんは厳しい目付きだ。


「ほら、たったこれだけ、言葉にしただけで動揺してしまった。実際に被害は出ていないというのに。平野の戦場ならまだしも、非戦闘員の被害を恐れて、この場であなたは本気で戦えない。無駄な抵抗は止めて、大人しく投稿することをお勧めします。そうすれば、私はこの町に被害を与えることなく、素直に国へと帰りましょう」


 マニカさんが持つ剣の剣先が少しブレるが、直ぐに止まり、剣を握る手に強い力が込められたように見えた。何かしらの覚悟をした感じではあるが……それでも……やはり、俺が相手をした方がいい気がする。いや、そうしよう。


「……信じられません。あなたの言葉は信じるに値しません」


「そうですか。残念です。では、死なない程度に痛め付けてからグレッサア王国へ運ぶことにしますか。ついでに、この町も燃やし尽くしてあげますよ。あなたの目の前でね」


「炎爆のフレバーン」が立ち上がり、マニカさんとメリッサさんが飛び出そうとした瞬間――「炎爆のフレバーン」の背後に転移。


 そのままステルスアクション。「炎爆のフレバーン」の首に腕を回そうとしたが、その首回りに火の輪が出現。大したことはなさそうだが、服が燃えるかもしれないので一旦退避。半裸はちょっと勘弁。服が燃える前に少し下がって距離を取る。


 すると、首回りの日の輪が消えた。自動防御的なものだろうか?


 答えを見つける前に「炎爆のフレバーン」が首を擦りながら俺を見る。


「……なんだ、お前は? 一体いつの間に」


「さあ、なんだろうな」


 そう答えると、「炎爆のフレバーン」は一度マニカさんとメリッサさんを見たあとに目を見開き、また俺を見て――。


「まさか、今のは転移! だから自動防御が発動した! 本当に居たのか! 『大罪持ち』が!」


 驚きを露わにした。

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