51 サイド セブナナン王国 8
スロースと調査組、それと冒険者たちが協力して、行動を開始する。といっても、スロースとマニカ、メリッサの三人は「炎爆のフレバーン」の追加情報として町長の屋敷に居るということを冒険者から教えられたため、そこを押さえるために町長の屋敷へと向かう。フロンの町全体の方は、残る十八人の調査組と冒険者たちに任せて。
―――
「あちらに倉庫があります」
斥候を務める冒険者の案内で、調査組と冒険者たちは冒険者ギルドの裏手にある、冒険者ギルド所有の巨大倉庫へと向かう。普段は魔物の解体や資材置き場などに利用される巨大倉庫に向かうのには、当然理由がある。
当たり前の話だが、グレッサア王国兵によってフロンの町が占拠されたも同然となった際、冒険者たちの武器は取り上げられたのだ。その取り上げられた武器が収められているのが、巨大倉庫という訳である。
調査組と冒険者たちが巨大倉庫に辿り着くと、グレッサア王国兵の見張りの数は非常に少なかった。巨大倉庫の門の前に二人と、その周りを巡回しているのが二人。それだけ。実際のところはもう十人は居たのだが、今はもう竜の森の中でウサギたちと強制的に仲良くさせられている。メルヘンではない方向で。
ただ近場に集めただけなのは、グレッサア王国兵側の怠慢や慢心といったものの結果だ。
冒険者の人数だけ武器はあるので数が多く、運ぶのが面倒だったので近場にしたのと、仮に見張りが倒されて取り返されたとしても、人質を取っているので直ぐ鎮静化できると安易に考えたのである。また、それ以上の何かが起こったとしても、「炎爆のフレバーン」が居る以上、この状況が覆ることはないと思ってしまった。その結果である。
さらにいうのであれば、スロースが「大罪持ち」の可能性があると知っているにも関わらず、転移の可能性を考慮せずに、町の門さえ押さえておけば中に意識を向ける必要がなく、外からくるのだけに意識を集中しておけば大丈夫、と油断もしているのだ。
たとえ、グレッサア王国兵としてはスロースかマニカを手に入れたら去る予定で、フロンの町には長居するつもりがなかったとしても、面倒事を省いたのは愚策である。
町中のグレッサア王国兵はそんな感じで危機意識が足りなかったため――。
「ぐわっ!」「ぐえっ!」「ぐごっ!」「ぐがっ!」
巨大倉庫の見張りに立っていた残る四人のグレッサア王国兵は、武器を取り上げられていない調査組によって瞬く間に倒されて、冒険者たちは無傷で武器を取り返すことができた。
―――
そこからは何もかもが早かった。元々、冒険者たちには反抗計画があったのだ。つまり、誰が人質となってどこに居るのか、そこにどのくらいの冒険者や護衛が居るのか、さらにグレッサア王国兵がそこにどれくらい居るのかまで、下調べで必要となる部分は既に終わっているのである。あとは適材適所。フロンの町の中に居る人数だけで考えれば、グレッサア王国兵よりも冒険者たちの方が遥かに多いのだ。門に陣取っているグレッサア王国兵に気付かれなければ、その差が埋まることもない。
闇夜も味方して、門に陣取っているグレッサア王国兵には気付かれることなく、必要なところに必要な人数が向かい、時にその場の雇われ冒険者や護衛と協力して、人質となっている人を救出し、合わせてグレッサア王国兵を倒していった。グレッサア王国兵側の大半が気付かぬまま、フロンの町の中の状況は調査組と冒険者たちにとって好転していく。
そうして好転していく状況の中には、こんなこともあった。
とある家で、人質となっている人を救い、その場に居たグレッサア王国兵を倒したあと、冒険者が、その場の雇われ冒険者に軽い感じで話しかけた時のこと。
「上手くいったな」
「ああ、そうだな」
「グレッサア王国兵も、こうなれば大したことないな」
「まったくだ。折角情報を流してやったというのに……」
「………………」
「………………」
「お前か!」
この雇われ冒険者は直ぐに捕まった。軽い感じだったので気が緩み、思わずうっかり口を滑らしてしまったのである。
―――
――後日。情報を洩らした理由について、裏でグレッサア王国と通じていた……とかではなく、どうやら雇われ先に居る雇い主の娘に惚れており、緊張状態の中で励ましたり、守ったりと自分の頼もしい姿を見せ続ければ、雇い主の娘が自分に惚れてくれるのではないか? と考えた、と証言した。情状酌量の余地はどこにもない。
さらに後日。この雇い主の娘は、この時助けにきた冒険者の一人といい仲になった。
―――
そうして、フロンの町の中に居るグレッサア王国兵をほぼすべて無力化した頃、町長の屋敷の上空に、家を飲み込めるくらいの巨大な火球が出現して、闇夜に染まる町中を照らした。




